6-40(最下層その3~大迷宮の秘密).
気がついたら僕は暗闇の中にいた。
「みんな大丈夫?」
僕は暗闇の中に声をかけた。
「私は大丈夫だよ」
ユイの返事があった。
でも・・・。
「クレア! レティシアさん!」とユイが叫んだ。
「うー、一体ここはどこなんだ」
レティシアさんの声だ。
「私はここです」
よかった。クレアとレティシアさんも大丈夫みたいだ。
すると突然声が聞こえてきた。
(とうとう我の眠りを妨げるの者が現れたのか?)
いや声というか直接頭の中に響いてくる。いったいこれは?
ユイが僕の腕を掴んだ。
「ユイにも聞こえるの?」
「うん」
「ハルくん、この声は?」
「ハル様・・・」
この低くて頭の中に響くような声は全員に聞こえているらしい。
(黒髪が二人・・・。お前たちは、アテラースから召喚された者だな。他の者たちは・・・。それに・・・)
「アテラースってなんだ?」
(お前たちが元居た世界のことを我々はそう呼んでいた)
「アテラースって地球のことなのか。じゃあ、お前は誰だ」
「ハルくん、地球とは・・・」
(いいだろう。もともとここまで来た者には教えることになっている。それが我らが定めたルールだからな。我らはお前たちが失われた文明と呼んでいるものを創造した者だ。我らに名などない。そうだな、悠久の昔には自分たちのことをアノウナキと呼んでいたな)
「アノウナキかアノウナキ人か知らないけど、お前たちの目的はなんだ?」
(目的?)
「そうだ。この迷宮はなんのためにある? 人を引き寄せるお宝なんか用意して。それに地球のことを知っている。僕たちが召喚された魔法陣を残したのもお前たちアノウナキ人だろ。何が目的なんだ」
(まあ、目的というほど大した理由はない。強いて言えば娯楽・・・かな。そうそうお前たちアテラース人がゲームと呼んでいるものに近い)
ゲーム? 娯楽?
「ふ、ふざけるな! 召喚でアカネちゃんやたくさんの日本人が死んでるんだ! それがゲームだって!」
「そうよ! アカネちゃんを返してよ!」
クレアがユイの反対側から僕の腕を掴んだ。
(怒れ、怒れ、久しぶりに目覚めたんだからもっと楽しませてくれ。我々は飽きたんだよ。生きることに。我々の文明は頂点に達した。もはや我々にできないことはない。何時でも何処でも好きな所へ行き好きなことができる。いや動く必要さえない。食欲、性欲、すべての快楽を自由にコントロールすることもできる。死ぬことすらない。我々は何もしなくても何不自由なく生きて行けるようになったのだ)
想像もできない世界だ。だがなんでもできて死ぬこともない世界・・・それって幸せなのか?
(ハルとやら、その通りだ。それでも我々は結局幸せではなかった。何もすることが無くなったが、退屈だったのだ。そこで我々はこの世界を創造した。観察して楽しむためだ。娯楽だよ)
「やっぱり、お前たちが魔王や勇者もプログラムしたんだな」
(なかなか察しが良いではないか。その通りだ。我々が創造した世界で魔族と人族を対立させて観察してみた。魔力が高く個としての能力が高いがその種族特性により数が少ない魔族、個としては魔族には劣るが数が多い人族、どちらが勝つか観察する娯楽だ。元はと言えば、どちらもかつての我々の姿に似せて創ったのだがな)
エリルが最初に会ったときに言っていた。魔族と人族は似ていると・・・。
(しばらく観察していたが、あまり面白い戦いではなかった。楽しめなかったのだ。やはり数の力は馬鹿にできず、すぐに人族が優勢になった。そこでもう少し変化つけてみた。魔族の中に定期的に特別強い個体が生まれるようにしてみた。お前たちの言葉で言えばそうプログラムしてみたのだ。その個体にはいくつかの特別な力を与えた。その個体は魔王と呼ばれるようになった。そうそう、魔王の配下として四天王なんてものも用意してみた。なかなかいいアイデアだろう)
「エリル様は人族との融和を望んでいます」
「そうだ。クレアの言うようにエリルは、魔王エリルは、お前たちの意図したように人族と対立したいとは思っていないぞ」
「そうだよ。そのプログラムとやらは失敗だったみいだね。あなたたちも万能じゃなかったってことでしょう?」
(フフッ、失敗などではないさ。毎回魔王が全く同じ性格、全く同じ能力で生まれてくるわけではない。それじゃあ、最初から結果が分かってつまらないじゃないか。わざとだよ。わざとこのプログラムには不確定要素を残してあるんだ。そうじゃないと楽しめないだろう?)
「異世界召喚もそうなのか?」
(そうだ。最初の魔王とその幹部たちが強すぎたようで、今度はあっと言う間に魔族が優勢になった。そこで、人族にアテラースから異世界人を召喚する魔法陣を与えた。幸い人族は数が多い。魔族が優勢といってもあちこちに人族の勢力は残されていた。そんな勢力の一つが異世界召喚魔法陣を発見するよう仕向けたのだ。そして召喚されたアテラース人に特別な力を与えるようプログラムした。魔素の無い世界から召喚されたアテラース人には自由に能力を与えやすかった。もちろん不確定要素も残してある。毎回同じ能力を持った者が召喚されるんじゃあ面白くないからな。一人は魔王と対になる存在としてより特別な能力を与えるようにした。お前たちが勇者と呼んでいる者だ。そうそう特に魔法が得意なものが召喚されるようにもしたな)
やっぱり魔王と勇者は対立する存在。そうプログラムされていたんだ。そもそも人族と魔族の争いがそうなのだ。だから3000年も争っている。そしてそのプログラムはかなりの不確定要素を含んているってことか。
くだらない!
(ハルとやら、さっきからお前はずいぶんと察しがいいな)
くそー、馬鹿にしやがって。
その不確定要素のために今回のように勇者や賢者が二人づつ召喚されたりエリルのような人族と対立しない道を探すような魔王が現れるなんてことが起こったのか。もしかして、勇者が魔素不適合症で死んだりしたら他の者に引き継がれるなんてことも・・・。
(そんな設定をした気がするな。魔王に倒されるならともかく勇者がこの世界に適合できずにいきなり死んだりしたらつまらないからな)
それでヤスヒコがタツヤを引き継いで勇者になったのか・・・。
「迷宮や失われた文明の遺物も不確定要素の一つなのか?」
(それだけじゃない。魔物の存在もそうだ。いろんな要素により予想できない物語を楽しみたかったのだ。そして今、お前たちは我らを呼び出した。これは最初から意図されていたことではない。本来、ここへ来るのは勇者と魔王のはずだった。そして、おそらくそんなことは起こらないとも予想していた。起こるとしてもずっと先の話だとな。魔族と人族が和解し魔王と勇者が手を結んだとき初めてここへの扉は開かれるはずだったのだ。そのときは本当のことを教えてやる。それがこのゲームのルールだ。だが、魔族と人族が和解したわけでないようだ。まったくこんなことが起こるとはな・・・)
「分かるのか?」
(我に分からぬことなどない)
「だから聖龍と闇龍か。聖龍は魔王たちが闇龍は勇者たちが倒すことになっていた。僕がエリルの加護を受け黒龍剣を持っていたからなんとか聖龍を倒せた。ユイが、賢者がいたからなんとか闇龍を倒すことができた。本当は魔王や勇者がいたらもっと簡単だったんだな」
(そこは想像におまかせするよ)
「なんでも教えてくれるんじゃなかったの? 嘘つきだね」
ユイの言う通りでこいつは信用ならない。
「ハルくん、私には半分も理解できない。でも、人族と魔族の戦いが無意味だっていうのは分かったよ」
(まあ、そういうルールだったのだ。だから少しだけ驚いたよ。我らが驚いたなど何千年ぶりかな。ようやく面白くなってきたようだ。だが・・・残念ながら我々は待てなかった)
「待てなかった?」
(この星でプログラムしてみた魔族と人族の戦いも様々な工夫にも関わらず盛り上がりに欠けた。まあ、この星の他にもいろいろと試してはみたんだがな。我々はしばらくこの世界を観察していたが、それにも飽きてとうとう眠りについていたのだ。どういうわけか精神体になってから我々はすべてのことにすぐ飽きてしまうのだ。まあ生物としては終わってしまったのだろうな)
精神体・・・。すでに肉体を持たないのか・・・。いや今僕とユイが話しているのは本当にアノウナキ人なのか、ただのプログラムじゃないといい切れるのか?
(・・・)
「すべてのことに飽きた。それはお前たち全員がそうなのか?」
(今の我々は個でありながら一つの精神生命体でもある。他の個もたいてい同じようなものだ。面白いものもなく何もすることもないんだから、寝てるしかないだろう)
「お前たちの個の一つが、地球、お前たちがアテラースと呼んでいる世界に転移したんじゃないのか? そして地球にも影響を与えている。お前はゲームとかプログラムとかいう言葉を知っていた」
(ほう、面白いことを言うなハルとやら。アテラースから肉体を持ったお前たちを召喚できるのだ。精神体である我々の仲間がお前たちの世界に転移することはもちろん可能だ。そもそも我々にとって距離や時間、次元の違いはあまり意味はない)
意味がない?
(お前たちがいる3次元の世界をより上位の世界からみたらどう見えるかな?)
僕たちは3次元の世界の住人だ。3次元は空間だ。
(より上位の次元からみると空間は閉じている。だから距離などなんの意味もない)
空間が閉じている。それはどんどん離れると実は近づいているとかそういう意味なのか?
(違うな。空間の本質とは何かな?)
空間の本質?
(空間の本質とは広がりだ。その広がりが閉じているという意味は、広がっているということが縮んでいるのと同じということだ)
宇宙は膨張していると習った。上位の次元の住人から見れば、宇宙は膨張していると同時に縮んでいるのだろうか? 全く理解できない。
(まあ、そういうことだ。我々にとって離れているとか近いとかは意味がない。さらに言えば時間の違いも意味がない。だから我々の仲間の誰かがアテラースに影響を与えている可能性はある)
どうしてこの世界が元居た世界の小説、アニメ、ゲームなどに似ているのか? 剣と魔法、便利な魔道具、まるでゲームのダンジョンのような迷宮、失われた文明の遺物、これらは、こいつらが退屈しのぎの娯楽として生み出したものだ。
そして、これらを生み出したアノウナキ人が、その精神体の一つが地球や日本へ影響を与えていたとすれば・・・。
僕は、この世界に来てからずっと気になっていた。この世界がラノベやアニメ、ゲームの世界に似すぎていると。僕たちが経験したのが、あまりにもありふれたクラス転移であることが気にかかっていたのだ。
この世界がラノベやアニメ、ゲームに似てるんじゃない。逆だ。ラノベやアニメ、ゲームのほうが、こいつらが創ったこの世界に似てるんだ!
(お前は本当に察しがいいな)
地球にはなぜか共同幻想と呼ばれる不思議な現象がある。全く違った地域で同じような思想が同時流行ったりする。もしかすると、それは・・・。
「今でもお前たちは、この世界に影響を与えることができるのか?」
(時間さえあればな。そして我らには時間の経過など無意味だ)
それはなんでもできるってことじゃないか!
「じゃあ、人族と魔族の争いを止めろ! それに」
「アカネちゃんを返してよ!」
そうだ! 何よりアカネちゃんを返せ!
「ハル様、ユイ様・・・」
(そろそろ時間だ)
待て!
(思ったより短期間でここまで辿り着く者が現れた。これは想定外の出来事だ。久しぶりにちょっとだけ楽しませて貰ったよ。だが、ここまで辿り着いた褒美はこれで終わりだ)
もっと聞きたいことが・・・。
その後はいくら呼びかかけても二度と答えが返ってくることは無かった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。この世界の秘密、「ありふれたクラス転移」の秘密はいかがでしたでしょうか? 我ながら中二病的な設定かなとも思いますが、結構こういうのが好きなんです。
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