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1-24(ターニングポイント).

 あけましておめでどうございます。

 まだ、読者が多いとはいえない現状ですが、今年も頑張って書いていこうと思います。

 よろしくお願いします。

 召喚されてから6ヶ月が過ぎた頃から実践訓練が始まり、さらに2ヶ月以上が経過した。


 カルネでの討伐訓練の後も、僕たちは一定の頻度で実践訓練を行っている。

 最初のときと同じで、冒険者ギルドの依頼を受ける形で行われる場合もある。僕たちの冒険者ランクはすでにC級となっている。C級といえばもう一人前の冒険者だ。冒険者はC級で冒険者生活を終える者が最も多い。

 でも僕はギルバートさんやセイシェル師匠と比べると全然強くなった気がしない。それでも異世界人である僕たちが、かなり恵まれた能力を有していることは間違いない。

 ちなみにC級までは冒険者ギルドに実力が認められればなれるのだが、そこから先の昇級は試験のようなものがあり、かなり難易度が高いそうだ。僕たちはこれ以上冒険者ランクを上げる予定はない。

 僕たちは日々確実に強くなっている。それは間違いない。この世界に慣れ一見最初の頃よりみんな落ち着いているように見える。だが、魔王討伐に行く日が確実に近づいてきているのに、今後のことを誰も口にしない。

 最近のコウキは相変わらず全体に目を配っているが、ちょっと何を考えているのか分からないようなところがある。コウキは見た目通りのリーダータイプではあるが、誰でもそうかも知れないが、それだけでの単純な人間ではない。なにか重要なことを隠しているような気がする。あまり一人で考えすぎていないといいんだけど。まあ、コウキのことだ必要になればみんなに話してくれるだろう。


 僕には今の状態が、以前より良くなっているのかどうか分からない。




 ★★★




 

 3日間の短期の遠征を終えた僕たちが王宮に帰ってきた頃には、かなり夜も更けていた。討伐の報告も兼ねて、夕食はルヴェンの冒険者ギルドで済ませていた。

 僕とユイはすぐに部屋に帰らず、初めてキスした広場で二人で話していた。まあ、ちょっといちゃいちゃしたかったのだ。

 少し離れた魔導技術研究所の入口の前に誰かが立っているのが見える。街灯のような魔道具でぼんやり照らされた人影はクレアさんだろうか? 今夜はクレアさんが魔導技術研究所の警備の担当なのかもしれない。この区画にある二つの建物は常に厳重に警備されている。

 

「やっぱり、もっと身体能力強化できないと、ユイの負担が大きいな」

「そうかなー。私はとってもやり易いよ。ハルとだと」

「そう言ってくれるのは、ありがたいんだけど、今後もっと強い相手と戦うことを考えるとなー。最終目的は魔王の討伐だしね」


 実際には魔王討伐に行くと決めているわけではない。今はなんとなくルヴェリウス王国の敷いたレールに乗り実力を高めている最中って感じだ。


「ハル、その魔王討伐の話だけど、どうなのかな?」


 ユイの言いたいことは分かる。

 このごろは討伐でいろんな町や村にも行く。もちろん首都ルヴェンの街中にも、冒険者ギルドに行く都合もあり良く出るようになった。

 確かに魔物は出るし魔物の討伐は必要だ。冒険者もいっぱいいる。しかし、魔王軍と切羽詰った戦いをしているような危機感は感じられない。だいたい魔物はいても魔族を見たことはない。

 確かに日本に比べれば危険な世界だ。騎士や冒険者は必要とされている。でも、戦争という言葉を街で良く耳にするのは、むしろ人間の国同士の小競り合いとか内乱とかの話でだ。魔族の支配地域ゴアギールと接しているルヴェリウス王国でさえそうなのだ。 


「うん、魔物の討伐は必要だけど、魔王軍と戦争って雰囲気はないよね」

「だよね。このままハルと二人で冒険者として、ここで暮らすのも良さそうだよね。一人前って言われるC級にもなれたし。もし日本に帰れないのなら・・・だけど・・・」


 問題はそこだ。僕たちは帰れるのか? 今のところ帰れない可能性の方が高いことは認めざる得ない。しかし、諦めるのは早い。まだまだ情報収集が必要だ。ルヴェリウス王国が何かを隠しているのは間違いないと思う。最近討伐が忙しくて書庫にもあまり行けてない。街中でも可能な限り情報収集したい。今の状況に慣れすぎて、その辺をつい忘れそうになる。


 ふー、そろそろ、ユイにキスでもしてから部屋に帰るか。

 あれ、魔導研究所の入り口の前にクレアさんらしい人影がない。

 いつの間に?

 トイレでも行ったのかなー。

 でも、普通は見張りの交代とかがあるんじゃあ・・・。

 そういえば、そもそも見張りは二人一組じゃなかったっけ?


「ん?」


 人の気配を感じて、振り返ると、僕たちの後ろにクレアさんがいた! 

 クレアさんは剣を抜いていた。


「ク、クレア・・・さん?」

 

 いつものクレアさんとは違う雰囲気を感じた僕は、とっさにユイの手を引いて後ずさった。

 僕たちは、クレアさんと向かい合う。

 普段から無表情のクレアさんだが、何か今日は、さらに凄みのようなもの感じる。

 クレアさんは何も言わない。


 これは・・・殺気?


「ユイ!」


 僕は、ユイの手を引いて、全力でクレアさんから逃げた。ユイが転びそうになって、僕は慌ててユイの体を抱いて支える。

 クレアさんはすぐに僕たちを追いかけてきた。

 僕は剣を抜いて、ユイを庇うようにして、クレアさんと向かいあった。


「クレアさん、どうして?」


 クレアさんは、何も言わない。

 ジリジリと僕たちに近づいてくる。

 僕たちはジリジリと後ろに下がる。

 僕たちの後ろには、魔導技術研究所がある。いつの間にか両開きの鉄の扉がこちら側に開いている。

 そのまま、下がって行った僕たちは、自然と開いた扉から、魔導技術研究所の中に入っていた。

 僕は、ユイの手を引いて、魔導技術研究所の中を走って逃げる。

 一瞬真っ暗になった後、辺りが光る。

 クレアさんが扉を閉めて、そのあと建物の魔道具に魔力を通して灯りをつけたのだ。


「ユイ、閉じ込められたみたいだ」

「わざと、ここに誘導されたのね?」


 ユイの言う通りだ。クレアさんは、魔導技術研究所に僕たちを誘導するように動いていた。

 他のクラスメートたちに気付かれない場所に誘導したのだろう。


「うん、大声をあげて助けを呼ぶべきだった。ごめん、僕のミスだ」

「ハルのせいじゃないよ! でもなんでクレアさんが・・・?」


 扉の方向にクレアさんの姿が見える。

 僕たちを探しているようだ。

 クレアさんから隠れるように移動しようとしたが、廊下には隠れるような場所もなく、僕たちに気付いたクレアさんがあっという間に追いついてきて大剣で攻撃してきた。

 明らかに僕たちを殺そうとしている。本気の攻撃だ!

 さっきまでは、誘導していただけだったのだろう。


炎盾フレイムシールド!」


 ユイだけは守らないと。

 僕は炎盾フレイムシールドを連続して出してクレアさんの攻撃を防ぐ、ユイがその間に魔法で攻撃するけど、クレアさんの素早い動きになかなか当たらない。当たりそうになっても、クレアさんの剣で捌かれてしまう。建物の中では魔法の大技は使い難い。自分たちまで巻き込んでしまう。狭い場所での対人戦では魔法より剣の方が有利だ。しかもクレアさんは達人と呼んでもいいレベルの剣士だ。

 

 クレアさんの剣がユイを狙っている。

 間に合わない。


「ユイ!」


 クレアさんの剣がユイに振り下ろされるよりほんの少しだけ早く、僕はユイに向かって飛び込んだ。タイミング的には間に合わないと思ったのに、なぜかクレアさんがほんの一瞬だけ躊躇したような気がした。


「キャーー!」


 飛び込んだ勢いのままユイを抱えてクレアさんの剣を避けた先には床がなかった。

 そこは地下に続く階段で、僕とユイは二人でゴロゴロと階段を転がり落ちた。気がついたら僕たちは地下1階まで一気に転がり落ちていた。


 くそー 体が痛い。でもとにかくユイを守らないと・・・。


 僕はすぐにユイを助け起こして、地下を走った。走ると右足が痛いが気にしてはいられない。廊下を走るが、このままでは行き止まりだ。廊下伝いに片っ端から扉を調べるけど、どれも鍵がかかっている。

 そうこうしていると一つだけ扉が開いた部屋があったので二人で飛び込んで、すぐ扉を閉めようとしたが、追いついてきたクレアさんが、扉と壁の隙間に大剣を差し込んできた。


 すごい力だ・・・。

 徐々に扉が開いてくる。


「ハル・・・」


 ユイも僕と一緒に扉を閉めようとしている。

 ユイの体が僕に密着する。

 クレアさんは扉の開いた隙間から、短剣で僕を刺そうとする。

 大剣は片手に持ち替えているのに、なんて力だ・・・。

 短剣で傷つけられた僕の右腕から、血が滴り落ちる。


 クレアさんの身体能力強化はすごい!


 くそー、ここでも僕の身体能力強化の不足が足を引っ張るのか。

 徐々に力負けしてきた僕は、扉を閉めることは諦めて、部屋の中にユイを連れて逃げた。僕たちに続いてクレアさんも部屋の中に入った。


 もうどこにも逃げる場所はない・・・。


 クレアさんの剣の腕から考えて、僕たち二人で戦っても勝てる可能性がないことは分かっている。ユイが強力な魔法を放とうにも、その気配を見せればあっという間に剣で斬られそうだ。


 どうすればいいのか? 


 やっぱり僕が守っている間にユイが魔法を・・・。いや、クレアさんの技量からしてそれは難しい。だいたいそれじゃあ僕より先にユイが狙われてしまう。

 せめてユイだけでも逃がす方法はないのか?

 僕はユイだけは守ると誓ったはずだ。


 よく見ると部屋には、僕たちが召喚されたものよりはやや小さいものの、かなり大掛かりな魔法陣が設置されている。魔法陣はぼんやり光っており四方に濃い紺色の宝石のような石が装着されている。おそらく魔石だろう。


 魔法陣が薄く光っていて魔石が濃い色をしているのだから・・・。


 それにしても、なんに使う魔法陣なんだろう。

 これだけ大掛かりな魔法陣だからこれまで教えてもらったものの中でいうと・・・。

 結界?

 それとも転移魔法陣だろうか?

 大掛かりだが異世界召喚に使うやつではない・・・と思う。あれよりはだいぶ小さい。


 僕とユイはじりじりと後ろに下がり魔法陣の中に入る。クレアさんが近づいてくる。僕とユイはさらに後ろに下がり魔法陣を出た。魔法陣を挟んで僕とユイがクレアさんと対峙する格好となった。僕とユイの後ろにはもう壁しかない。


 完全に追い詰められた。もう逃げる場所はない。

 どうしたらユイを守れるのか?


 考えるんだ。


 どうしたら・・・。


「ハル・・・」


 ユイが僕にしがみついてくる。

 クレアさんがゆっくりと魔法陣の中に入って僕たちに近づいてきた。

 僕はしがみついているユイを庇うように、僕の後ろに避難させた。


 確か大掛かりな魔法陣には、起動させるための魔法陣が別に設置されているはずだ。


 ・・・あれか。


 クレアさんが立っている巨大な魔法陣は、ぼんやり白く光っている。なのに光ってない場所が一箇所だけある。そしてそこは小さな魔法陣のような形をしていた。

 別の魔法陣が設置されているっていうよりは組み込まれているって感じだ。そんな事を考えながら僕は魔法陣に飛び込むと素早くその場所に魔力流す。


「うわ!」


 魔法陣全体がさっきより段違いに明るさを増し白く光る。

 どうやらうまくいったみたいだ。

 魔法陣が起動している。

 クレアさんが一瞬驚いたような顔をして動きを止めたのを見て、僕はクレアさんに向かって姿勢を低くして突っ込んだ。


「がはっぁぁー」


 僕はクレアさんの腰のあたりにしがみ付いた。

 クレアさんは僕の背中を大剣の柄で攻撃してきたが、それを予想していた僕はそこに炎盾フレイムシールドを発動させて防御する。


 ガキッ!

 ドン!

 

 僕とクレアさんは魔法陣の中で、もつれ合って倒れこんだ。

 クレアさんは、唖然としたような顔して魔法陣を包む光が大きくなっているのを見ている。


 魔法陣の光がどんどん強くなる。


 クレアさんは魔法陣から出ようともがく。すごい力だ。クレアさんの身体能力強化はすごい。でも、僕はクレアさんの両足を抱えるようにして離さない。


 絶対離さない。あと少しだ。


 振り返ると、眩しい白い光の向こうにぼんやりユイが見えた。

 心配そうな、泣きそうな、そんな顔して僕を見ている。

 僕は安心させるように、ユイに微笑んだ。

 これで、ユイを助けられる。

 良かった・・・。


 とそのとき、ユイが僕に向かって飛び込んできた!


「ハルーーーーーーー!!!」

「ユイ! 来ちゃだめだ!」


 魔法陣に飛び込んできたユイの手が僕に届きそうなその瞬間、ユイが・・・消えた!!


 そして僕は意識を失った・・・。

 奇しくも、元旦に物語の転換点といえる重要な場面を迎えました。

 割と自信のある場面だったのですが、どうだったでしょうか?


 あと少しエピローグ的な話と、ユウトのその後の話を書いて第1章は終わりの予定です。


 読者の反応が励みになりますので、図々しいお願いですが、もし少しでも面白い、続きが読みたいと思っていただけたら、ブックマークへの追加と下記の「☆☆☆☆☆」から評価してもらえるとうれしいです。

 また、忌憚のないご意見なども待っています。

 よろしくお願いします。


 

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