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6-39(最下層その2).

 その後も何度か戦闘を重ねながら龍神湖を目指す。かつてと同じく伝説級の魔物との戦闘は避けることを基本として移動する。ここは迷宮の中ではない。一度戦闘になれば基本逃げられない。戦闘が終わったら毎回安全地帯で休息するなんてこともできないのだ。


「いやー、4人でもここから脱出できる気がしないぞ」

「エラス大迷宮6階層からここへ飛ばされたんですから、同じように帰る方法があるはずです」

「そうだよ。きっとなんとかなるよ」

「はい。ユイ様の言う通りです。今回はユイ様の回復魔法とレティシア様の防御力があります。きっと大丈夫です」

「そうだよね。僕たちは誰も攻略できなかったエラス大迷宮6階層を抜けてここまで来たんだ。きっとなんとかなる」


 次に現れたのは因縁のブラックハウンドの群れだった。数は十数体とそうでもなかったが群れはなんと特殊個体に率いられていた。

 すぐにレティシアさんがユイを守る位置で盾を構える。僕は魔法を二重に準備する。クレアは赤龍剣で群に連携を取らせないように素早く動き回って攻撃する。


黒炎弾ヘルフレイムバレット!」

炎竜巻フレイムトルネード!」


 僕とユイが魔法で攻撃する。


「ぎゃう!」

「ぎゃん!!」

「グォォォーー!」


 攻撃を受けたブラックハウンドたちが悲鳴を上げる。


「させません」


 ズサッ!


 クレアが僕の方に飛び掛かってきた一体を斬り捨てた。


「ユイさん、こっちだ!」

「はい」


 レティシアさんの声にユイが移動する。


氷盾アイスシールド!」

氷盾アイスシールド!」

氷盾アイスシールド!」


 レティシアさんが次々と氷盾アイスシールドを発生させた。


「ぎゃうん!」

「きゃん!」


 ブラックハウンドたちが突然現れた氷盾アイスシールドに跳ね返されている。


「レティシアさん、ありがとうございます」


 なんと3つ目の氷盾アイスシールドは僕を守る位置に展開された。レティシアさんの魔法の熟練度が上がっている。


 しばらく似たような戦いが続く。徐々にブッラクハウンドは数を減らしていく。


「よし! 後はリーダーだけだ!」


 レティシアさんが気合を入れるように叫ぶ。ブラックハウンドは素早いけど、今回は4人いるおかげで安定して戦えている。


黒炎弾ヘルフレイムバレット!」


 僕は、一段階限界突破した黒炎弾ヘルフレイムバレットを特殊個体に放った。


「グォォォーー!!!」


 なんと僕の放った一段階限界突破した黒炎弾ヘルフレイムバレットが特殊個体の額の辺りを捉えた。


 グサッ!


「ぎゃうん!!」


 すかさず同じ場所にクレアが赤龍剣を突き刺した。えぐい!


 特殊個体は首を激しく振って辺りに血を撒き散らした後、ドッと地面に伏せた。まだ死んではいなかったが、そこから特殊固定を討伐するのにそれほど時間は必要なかった。 


範囲回復エリアヒール!」


 ユイの回復魔法で全員の傷が癒やされる。


「ふー、やっと終わりか。本当に息をつく暇もないな。これで、また伝説級と戦闘になったりしたら・・・」


 ブラックハウンドは素早いし連携も取れていたが僕たちのほうが上だった。今の『レティシアと愉快な仲間たち』はとてもバランスのいいパーティーだ。レティシアさんは防御魔法の三重発動と盾での防御で大活躍だった。これによりユイが安全に魔法攻撃できる。僕やクレアも魔導士のユイを守ることをレティシアさんに任せて攻撃に専念できる。加えて少々ダメージを受けてもユイの聖属性魔法は強力だ。


 ただ、それでも、こんなことを永遠に続けることはできない。それほどにここは危険な場所だ。


「それにしてもレティシアさん、魔法の三重発動が上達しましたよね。当たり前のように戦闘中に使ってますし、何より普通に魔法を発動するのと同じくらいの間隔で発動してますよね」

「ふふ、そうだろ。もっと褒めてくれてもいいんだぞ。ハルくん惚れ直したか」

「ハル様、そうなのですか?」


 いやいや、クレア、最初から惚れてないから・・・。まあ、ちょっと魅力的なお姉さんだとは思うけど。


「まあ、正直にいうと、ここまで来るのに無茶をさせられたのと、ハルくんが魔法の二重発動を自在に操っているのがよい手本になったというのはあるな」


 少し神妙にレティシアさんが付け加えた。でも、すぐにいつものレティシアさんに戻って「まあ、それも私がSS級冒険者をも凌ぐ天才だからだ」と言った。


「それにしても、激戦続きでお姉さん痣だらけだよ」

「いや、ユイの魔法で完治しているはずでは?」

「それが、この胸のとこのやつが消えないんだよ。ほら」


 レティシアさんはが僕に胸を見せようと近づいてくる。


「れ、レティシアさん・・・」

「ハル様、私にだって痣くらいあります。お、お尻にですけど・・・」


 今度はクレアがレティシアさんに対抗して近づいてきた。


「レティシアさん! クレアも止めなさい!」


 レティシアさんはユイに叱られて「いや、冗談だよー」と言って引き下がった。


「ユイ様、すみません」


 クレアはしゅんとしている。何にせよ場が明るくなったことは確かだ。レティシアさんはこれを狙ったのだろうか・・・。


 レティシアさんおかげで少し明るい雰囲気になった僕たちが再び歩みを進めること半日、辺りが見慣れた景色になってきた。まるで前を行く赤い髪の少女の姿が見えるようだ。しばらくすると、あまり木の生えていない草地のような場所に出た。あのときと同じだ。そしてあのときと同じく丘のような草地を下る。景色もそうだが、草の匂いが、湖のシンとした香りが僕の鼻腔を通じて記憶を刺激する。


 間違いない。ここはあのときと同じ場所だ・・・。 


「ハル様、龍神湖です」

「うん。間違いない」


 懐かしい。でも・・・。


「エリル様の拠点がありませんね」


 クレアの言う通りでエリルの拠点は無い。でも、その代わり以前の龍神湖には無かったものがある。 


 湖畔に小さな島がある!


 エリルの拠点があった場所の近くからその小さな島に細い道が伸びている。細いとはいえ道があるのだから正確には島ではないのか。島の先は霧がかかったようになって対岸は見えない。龍神湖は広大だ。


「ハル様、これは」

「ああ、前にあんなものはなかった」


 ユイとレティシアさんは僕とクレアの顔を見ている。


「行ってみましょう」


 僕の言葉に全員小さく頷くと僕の後に続いた。


 近づくとその島は思ったより大きく、そこに繋がる道も長かった。だけど、誰も使っていないはずなのにずいぶんきれいだ。湖畔の水は澄み切っている。湖全体に真っ白な霧がかかっている。そのせいもあって湖畔の反対側が見えないのは遠くから見たときと同じだ。


「なんか神秘的だね」

「うん」


 最初にエリルに連れられてここに来たとき、僕も同じような感想を持った。ここが龍神湖だと聞いて、エリルのことを龍神じゃないかと疑ったのが昨日のことのようだ。


「島に渡って見ようと思うんですか」

「いいだろう」


 以前無かった島がある。これが何かのヒントである可能性は高い。ここは、別の時代のイデラ大樹海深層なのか。それともイデラ大樹海深層に似せて作られた場所で、やっぱり僕たちはエラス大迷宮の中にいるのだろうか?


 僕たち4人は細長い道を歩き島に到着した。そして思ったより広いその島を探索する。


「ハル、ここに石碑のようなものがあるよ」


 ユイの言う通りそこには小さな石碑があった。石碑には勇者と魔王が握手している様子が刻まれている。


 これは・・・どういう意味だ・・・。


 その後も島を探索してみたが人工的なものは石碑以外には見当たらなかった。


 レティシアさんが「やってみるか」と言って石碑に手を伸ばす。こういうときのレティシアさんの決断は速い。


「レティシアさん、待ってください」

「なんだ?」

「全員で手を握りましょう」


 またバラバラに転移したりしたら大変だ。


「いいだろう。じゃあ、私はハルくんと」と言ってレティシアさんは素早く僕の右手を握った。あんなに大きな盾をいつも持っているのにレティシアさんの手は以外と柔らかい。


「ハル・・・」

「ハル様・・・」


 いや、僕は何も悪くない・・・。


 その後、どっちが僕の手を握るかでユイとクレアが譲り合っていた。結局、ユイが僕の左手をクレアがユイの左手を握って全員が数珠つなぎになった。


 レティシアさんが石碑に触れる。


「何も起こらないな」


 石碑になんの変化もない。


「じゃあ私がやってみるね」


 並び方を変えてユイが手を伸ばす。やっぱり何も起こらない。順番に全員試したが何も起こらなかった。


「どういうことなのかな?」


 僕は石碑に刻まれている絵を眺める。やっぱりどう見ても勇者と魔王が握手しているようにしか見えない。


 もしかして・・・。


「僕とユイで同時に魔力を流してみよう」

「なるほどな。賢者と四天王か」

「僕は四天王じゃありませんって」

「そうなのか? とにかくやってみろ」

「はい」 


 僕とユイが両端に位置取り同時に石碑に手を伸ばす。


「魔力を流すよ」

「うん」


 二人で石碑に魔力を流す。


 すぐに石碑が光始めた。


 正解だ! 


 光はどんどん強くなる。


「ハル様、足元に!」


 クレアの声に足元を見ると魔法陣が広がっている。


 またか!


「みんな手を離さず固まるんだ!」


 レティシアさんが叫ぶ!

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