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6-34(6階層その10~クリア!).

「さて、残念ながら聖龍を倒してクリアとはいかなかったようだ」


 聖龍を倒すと奥の扉が開いた。僕たちがいるのはその扉の先の通路だ。そしてその通路の先にはまた扉があった。聖龍の部屋の扉と同じような巨大な扉だ。


「それでは、さっきの失敗を繰り返さないように十分に作戦を練っていこう」


 レティシアさんの言葉に全員が頷いた。


「何か意見がある者はいるか?」


 僕は「はい」と手を上げた。


「ハルくん、何か考えが?」

「この先にいるのはたぶん闇龍じゃないかと思うんです」


 僕はユイの方を見た。


「ユイは、最近黒い龍の夢を見るって言ってたよね」

「うん」

「たぶん、闇龍がユイを呼んでいる。賢者としての、自分を倒すものとしてのユイを呼んでいるんだと思う」


 僕は白い龍の夢を見た。僕はエリルの加護のおかげなのか、魔王の仲間、レリーフに大きく描かれている魔王や四天王と同様の存在だと看做されて、聖龍に呼ばれたのだ。そして勇者と賢者もレリーフの中で一際大きく描かれていた。


「ふむ。それでこの扉の奥には闇龍がいると・・・」

「はい」

「それじゃあ、まず確かめてみよう」

「確かめる?」

「そうだ。我々はハルくんだけではなく慎重さに欠けていた。この迷宮はすぐに撤退すればやり直しができる。なのにさっきも一回目からクリアしようとしていた。ハルくんだけでなく全員が慎重さに欠けていたんだ」


 ユイがレティシアさんの言葉に「その通りね」と言った。ユイに続いてクレアも「はい。イネスさんたちは少しずつ情報を集めて攻略しようとしていたんでしょう。だから、全員無事で3年近くも攻略を続けられた。なのに私たちは・・・」

「そうだ。さっきはイネスさんたちが3年かけて諦めた聖龍を1回で討伐した。聖龍にダメージを与える手段を持っていたハルが暴走したことが功を奏したとはいえ、パーティー全体が慎重さを欠いていた」


 そうか、撤退は可能なんだからもっと慎重に進めるべきだったんだ。レティシアさんはさすがだ。年の功と言ったら怒られるだろうけど・・・。


 僕たちはレティシアさんの提案に従って、巨大な扉に近づいた。聖龍のときと同じで近づくと扉は自動的に開いた。僕たち全員が扉の中に入る。


「やっぱり・・・」とユイが呟く。

「黒い龍・・・黒い以外は聖龍に似てますね」とクレアが感想を述べる。

「闇龍だな」とレティシアさん。

「ですね」と僕はレティシアさんに同意した。

「撤退だ!」


 僕たちはレティシアさんの指示に従って次の相手が闇龍だと確かめると、すぐに撤退した。


 そして作戦会議再開だ。


「次の相手が闇龍だということは確かめることができた。次にすべきことはなんだろうか?」

「はい」

「うむ。ハルくん、どうぞ」

「はい。闇龍が聖龍と対になる存在であるとすると、今度は勇者や賢者にしかダメージを与えられない、もしくは与えられてもそれは僅かで闇龍の回復能力のほうが上回っている可能性が高いと思います」

「なるほど。確かにその可能性はありそうだ。とすると私たちのパーティーではユイさんのみがまともなダメージを与えられるということになるな。勇者はいないんだから」


 レティシアさんはユイが賢者で勇者の仲間だとの前提で喋っている。まあ、これまでの僕たちの会話を聞いていれば分かるだろう。それなのにあえて詳しく訊いてこないのはレティシアさんなりに気を遣ってくれているんだろうか。


「ねえ、ハルの黒炎魔法とか黒龍剣での攻撃って通じないのかな?」

「どうだろう?」

「ハル様、さすがに二段階限界突破すれば少しは通用するのではないでしょうか?」


 僕は首を傾げる。もしかすると僕の黒龍剣は本当は闇龍剣と呼んだほうがいいのかもしれない。そうだとして闇龍自身に通用するのか? 黒炎属性の魔法はどうなのか?

 それに・・・確かにレリーフに大きく描かれているのは勇者と賢者だ。だけど他の仲間らしい存在も描かれてはいる。勇者の仲間、異世界人ならある程度攻撃が通用するかもしれない。これが魔王との戦いなら当然勇者の仲間の攻撃だって通用するだろう。ただ、迷宮の仕様がそうだとは限らない。


「よし! 確かめてみよう。まずはハルくんの魔法で攻撃してすぐ撤退。次にクレアさん、私、ユイさん、そんな感じで攻撃しては撤退を繰り返そう。攻撃する順番でない者は皆防御に徹するんだ。使える者は防御魔法を準備だ」


 レティシアさんの指示に全員が「分かりました」と頷いた。


 こうして僕たちは4人は順番に攻撃してすぐに防御しながら撤退することを繰り返した。一度闇龍が黒いブレスをいきなり吐いてきたが聖龍の光のブレスを受け切った方法で耐えられた。ちょっと確認したいことが増えたため予定よりも回数を重ね黒いブレスをもう一度受けてみた。


 そこでまた作戦会議だ。


「いきなりブレスがきたときは驚きましたね」

「ああ、だが、おかげで聖龍のときと同じ方法でブレスに耐えられることが確認できた」

「今度は僕の黒炎盾ヘルフレイムシールドも普通に通用しました」


 これが追加で確認したことだ。


 二段階限界突破の黒炎盾ヘルフレイムシールドを二つ展開すれば、それだけでブレスは耐えられそうだ。レティシアさんの三重の氷盾アイスシールドと盾、それにユイの防御魔法でもいけた。ユイの防御魔法は予想通りやや効きが悪そうだったが全体としては同じ方法で受けきれた。やっぱりレティシアさんの防御力は規格外だ。迷宮攻略の中で進化している。僕の防御魔法が通用したのでブレスを防御するという面では聖龍のときより手段が増えた。


 ただ・・・。


「聖龍以上にダメージが通らないな」


 僕たちは順番に攻撃してみた。聖龍とのきと同じで闇龍の耐久力は極めて高い。ほとんどダメージが通らない。二段階限界突破した黒炎弾ヘルフレイムバレットでやっと普通程度のダメージを与えられるくらいだった。おそらく最も威力が高い二段階限界突破した黒炎爆発ヘルフレイムバーストならもう少しは効果があるだろうが2発使ってもとても仕留めるまではいきそうにない。僕の黒龍剣での攻撃も通用しなかった。


「確かにユイさんの魔法が一番効果があった。だが、それも思ったほどではなかったな」


 そうなのだ。ユイ得意の混合魔法なども使って見たが期待したほどではなかった。


「これまで分かったところでは、ハルくんの防御魔法は普通に通用する。ユイさんの防御魔法はやや効きずらい。そして攻撃面では、まあまあ効果があるのはユイさんの魔法とハルくんが限界突破とやらをした場合の魔法だけだ。ただいずれもハルくんの魔法が聖龍に与えたような大ダメージを与えるのにはほど遠い。こんなところか」


 うーん、攻撃面ではここに勇者がいないのが痛い。たぶん勇者の光属性魔法なら大ダメージが与えられると思う。


「レティシア様、もしかしたら」

「ん? クレアさん、何か思いついたのか?」

「はい。龍の部屋で白い杖と黒い杖を手に入れました。あれはそれぞれユイ様とハル様の魔法を強化するのではないでしょうか?」

「なるほど。あれを忘れていたな。あの部屋でお宝として二つの杖が現れたのだから、その可能性は大だな」


 クレアの言う通りだ。聖龍に対して僕の黒龍剣での攻撃がかなり効果があったのも黒龍剣があの黒い杖と同じような存在で昔の魔王パーティーが持ち帰ったものだったからかもしれない。聖龍のときも魔法攻撃に関しては黒い杖を使ったほうがより効果が高かったのかもしれない。


「よし確認してみよう。ユイさんは杖を聖龍の杖に、ハルくんは黒龍剣を持っているから、魔法を使うときはできるだけ闇龍の杖を使ってみてくれ。必要なことを確かめたらすぐに撤退だ」


 レティシアさんは黒い杖を闇龍の杖、白い杖を聖龍の杖と呼んだ。


 そして確認の結果、クレアの言う通りだということが分かった。


「よし、ある程度の攻撃手段も得た。今日はゆっくり寝よう。他に意見が無ければ、明日はクリアする方向で挑戦する。みんないいか?」


 全員が頷いた。明日はいよいよ本番だ。




★★★




「レティシアさん、ブレスがきます。今回は僕の魔法で防ぎますのでみんな僕の後ろへ」

「分かった! 全員ハルくんの後方で待機だ!」


 みんなすばやく僕の後ろに集合した。


黒炎盾ヘルフレイムシールド!」

黒炎盾ヘルフレイムシールド!」


 僕は二段階限界突破した黒炎盾ヘルフレイムシールドを二重に展開した。闇龍の杖を使っている。


 ゴゴゴゴオーーーー!!!


 闇龍は轟音を立てて黒いブレスを吐いた。僕の黒炎属性の魔法に似ている。黒い炎のブレスだ。


「よし! 受け切ったぞ。ユイさん、魔法攻撃だ!」

「はい。炎竜巻フレイムトルネード!」


 炎の竜巻が闇龍を襲う。ユイが使っているのは聖龍の杖だ。


「グギャーー!!!」


 闇龍が悲鳴を上げて炎の竜巻から逃れるように移動する。地龍ほどではないが、かなり素早い。だがユイがコントロールしている炎竜巻フレイムトルネードも闇龍を追って移動する。

 

 僕は闇龍の杖を持つ手に力を籠めると魔力を溜め始めた。


岩石雨ロックアローレイン!」


 炎の竜巻から逃げている闇龍の頭上から鋭く尖った岩石の槍が降ってきた。ユイの土属性上級魔法だ。


 聖龍や闇龍に対して攻撃も通じず防御魔法も使えないクレアは、風属性魔法の補助を使って動き回ると、闇龍に一太刀を浴びせては離れるを繰り返して、闇龍の注意をユイから逸らそうと奮闘している。


「レティシアさん、ブレスです!」


 闇龍の首がクネクネと動いて口を開きながら首を鎌のように持ち上げた。


「今度は私とユイさんの番だ! みんな私の後ろへ!」


 全員が盾を構えたレティシアさんの後ろに集まった。今回はレティシアさんの魔法でブレスを受ける順番で僕のほうは攻撃魔法に魔力を溜めている。


氷盾アイスシールド!」

氷盾アイスシールド!」

氷盾アイスシールド!」


 レティシアさんが三重の氷の盾を発動した。それにしてもレティシアさんは魔法の三重発動に習熟してきた。


 ゴオオオーーーー! というブレスの音にバリン、バリンと防御魔法が破壊される音が混じる。


岩盾ロックシールド!」


 ユイが防御魔法を使った。さっきまでユイは攻撃魔法を使っていたので少し遅れて発動した。


 バリンとユイの防御魔法が突破された音がした。


「うおーーー!!!」


 盾を持ったレティシアさんが叫ぶ! 最後はレティシアさんの盾で受ける。


「受け切ったぞ!」


 よし!


黒炎弾ヘルフレイムバレット!」

黒炎弾ヘルフレイムバレット!」


 僕は準備していた二段階限界突破した黒炎弾ヘルフレイムバレットを2発放った。


 バシュ!

 バシュ!


「ギャーーーー!!」


 運よく一発が闇龍の左目の辺りを捉えた。


「レティシアさん、次のブレスは僕の魔法で防ぎます」

「了解だ!」


 ブレスに対してはレティシアさんとユイで対応するパターンと僕が対応するパターンを交互に使う。その分レティシアさんはなるべく防御魔法を温存しパーティーの危機に使えるようにしておく。ブレスへの対応をレティシアさんとユイに任せるときは僕が二段階限界突破の黒炎弾ヘルフレイムバレットで攻撃する。それ以外の攻撃は基本ユイに任せる。ユイから闇龍の注意をそらすようにクレアが動き回る。ただし、主にユイが攻撃を担うので、ユイがなるべく聖属性魔法を使わないで済むように全員慎重に立ち回る必要がある。もちろん、回復薬も使う。


 これが僕たちが話し合って決めた作戦だ。


 この後も僕たちは作戦通り立ち回った。聖龍のときと違って凄く時間がかかる。聖龍の杖や闇龍の杖を使っても、聖龍に対して僕が使った二段階限界突破した黒炎爆発ヘルフレイムバーストような、一気に瀕死にまでもっていくような攻撃手段を持たないからだ。勇者がいないのだからしょうがない。それでもユイの聖龍の杖での攻撃と僕の闇龍の杖プラス限界突破による攻撃でまともなダメージが入っている。後はこれを積み重ねるしかない。


 それからどのくらい時間が経っただろうか。


 みんなの集中力が限界に達して、レティシアさんが撤退を指示するかどうか迷っている素振りを見せ始めていた頃、ついに闇龍がその場に崩れるように蹲って動かなくなった。鈍い光を放っていた黒い鱗もかなりの部分がユイや僕の魔法攻撃で剥がれ落ちている。


「よし! 今だ! クレアさんは鱗が剥がれ落ちているところを狙え!」

「はい!」


 全員が闇龍に近づいた。


 ブーン!


 突然伏せたまま体を捻った闇龍が尻尾攻撃をしてきた。


 ガシッ!


 レティシアさんの盾が闇龍の尻尾を受け止めた。レティシアさんは数歩下がっただけで耐えている。


「闇龍に最初の頃の力はない。チャンスだ!」


 レティシアさんの指示で僕たちは一斉に攻撃に移った。僕も黒龍剣で鱗の剥がれ落ちたところを狙う。魔法は防御魔法のほうを準備している。聖龍のときとようなことは繰り返さない。最後まで慎重に戦うと決めている。


 そこから先も長かった。


 とにかく集中を切らさないように慎重に、それでも全力でみんなで攻撃した。


 そしてついに・・・。


 そのときがきた!


「ハル様! 」


 赤龍剣を持ったクレアがこっちを見た。


「ハル、黒龍が・・・」

「レティシアさん、やりました」


 浜辺に砂で作った城が波にさらわれて崩れるように黒龍の巨体が崩れていく。僕はアリウスが塵になって消えたときのことを思い出した。


「聖龍のときと同じだな」とレティシアさんが言った。


 僕は聖龍のときには気絶していて見れなかった・・・。


「今回は計画通りに倒せた。私たちは間違いなく成長している」


 聖龍のときに比べると時間はかかったけど、比較的安全に闇龍を討伐することができた。レティシアさんの言う通り少しでも成長できたとしたら、うれしい! 


「やったぞ!」


 レティシアさんが巨大な魔石を拾って両手で高く掲げた。


「うわぁ!」


 レティシアさんが叫ぶ!


「これは!」

「ハル!」

「ハル様!」


 突然、眩いばかりの光が僕たちを包んだ。見ると床に魔法陣が浮かび上り、それが光っている。


 光がどんどん強くなる!


 ああ、この感じは覚えがある・・・。

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