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6-33(6階層その9~レティシアの好判断).

 私は、聖龍のブレスを避けるため、ハルとクレアと一緒にレティシアさんの後方に避難していた。そしてレティシアさんが三重に防御魔法を発動するのに続いて私も岩盾ロックシールドを発動した。


 ゴゴゴゴオーーーー!!!


 聖龍はもの凄い音を立てて光のブレスを吐いている。だけど、これで受け切れるはずだ。


黒炎爆発ヘルフレイムバースト!」

黒炎爆発ヘルフレイムバースト!」


 突然、ハルがハルの必殺技である黒炎爆発ヘルフレイムバーストを発動した。それも二つだ! おそらく限界突破もしている。


 巨大な黒い炎の塊が二重に広がり聖龍を包み込もうとしている。聖龍は黒い炎の塊から逃げようとしているけど移動速度は遅い。一方、黒い炎の塊は聖龍を逃がすまいと広がっている。


 ハルがコントロールしているんだ!


 聖龍は光のブレスを吐き続けている。バリン、バリンと防御魔法が破壊される音がする。一方で巨大な黒い炎の塊がすっぽりと聖龍を包んだままだ。


 そうか! 


 ブレスを吐いている間、聖龍はあんまり速く動けないんだ。ハルはこのことに気がついたんだ。やっぱりハルは頭がいい。 


 聖龍の光のブレスが終わった。盾を掲げたレティシアさんが聖龍の前に立っている。今回も受け切れた!


 ドドゴゴォォォォーーーン!!!!

 

「グゲオウゥゥゥーーー!!!!」


 もの凄い爆発音と聖龍の叫び声が部屋中に響いた。耳が痛い! ハル必殺の二つの黒炎爆発ヘルフレイムバーストが大爆発を起こしたのだ!


 でも、これじゃあ・・・。


 突然、ハルが走り出してレティシアさんの前に立った。


黒炎盾ヘルフレイムシールド!」

黒炎盾ヘルフレイムシールド!」


 ハルが防御魔法を二つ発動した。私も続こうとしたけどさっき使ったばっかりで無理だ。やっぱりハルは魔法の発動までの間隔が凄く短い。でも・・・。


「ユイさん!」


 突然目の前が真っ暗になった。レティシアさんが私に覆い被さってきたのだ。レティシアさんはそのまま私を抱きしめる。


「ぐわああーー」


 私はレティシアさんに抱えられたまま爆風に吹き飛ばされた。ゴロゴロと転がって目が回る。


 バーン!


「うう・・・」


 何度も何かにぶつかったような音がしてレティシアさんの呻き声がした後、辺りは静かになった。私はレティシアさんに抱きしめられたままだ。


 私はそっとレティシアさんの体をどけて半身を起こした。レティシアさんは動かない。聖龍の巨大な体があちこちが黒くなって焼き爛れている。体中から黒い煙が立ち昇り床に伏せている。ぴくぴくと体を震わせているので死んではいないようだ。


 少し離れたところにハルとクレアが倒れているのが見える。落ち着くんだ! レティシアさんが命がけで私を守ってくれた。その思いに応えなければ・・・。


 一刻も早く超範囲回復エクストラエリアヒールで全員を回復したいとこだけど、目の前のレティシアさんを見るとそれじゃあ回復力が足りない。ここまで大ダメージを受けたら個別に回復するしかない。私は無理やり心を落ち着かせる。とにかく冷静にならなければ・・・。魔力は有限だ。判断を間違ったら全滅だ。


超回復エクストラヒール!」


 私はレティシアさんに最上級聖属性魔法を使った。レティシアさんの手足はあらぬ方向へ曲がっている。でも死んではいない。私は超回復エクストラヒールを使い続ける。


「うーん」


 しばらくするとレティシアさんが目を覚ました。レティシアさんの体は元に戻っていると思う。


「ユイさん、無事だったのか」

「レティシアさんのおかげです」

「ハルくんとクレアさんは?」

「あそこに・・・」


 二人とも床に倒れていて動かない。


 ハル・・・。

 クレア・・・。


「行こう!」


 レティシアさんが立ちあがる。いくら治療されたといっても、本当ならレティシアさんはすぐに動ける状態ではないはずだ。私もレティシアさんに続く。


「ユイさん、自分にも回復魔法を使ったほうがいい」


 そういえば歩いていても体中が痛い。言われるまで気がつかなかった。


「私はこれで」


 私はアイテムボックスから上級回復薬を取り出して飲んだ。魔力はできるだけ節約したい。


「急ごう。上位の魔物は回復力が高い」


 私とレティシアさんはクレアに近づいた。クレアの倒れている場所のほうがハルより近い。クレアはレティシアさんと同じように手足が酷い状態だ。それでも赤龍剣を両手で抱きしめるように握っている。胸も上下している。


 生きてる!


「たぶん大剣を盾のように使って凌いだんだろう。もしかしたら風属性魔法で衝撃を和らげたのかも」


 クレア・・・。


超回復エクストラヒール!」


 私はクレアに超回復エクストラヒールを使った。最上級魔法を続けて使うのは負担が大きい。額に汗が滲む。


 私は超回復エクストラヒールを使い続ける


「ううーー」


 クレアが目を開けて私を見た。


「ユイ様」

「クレアよかった!」

「また、ユイ様に助けられました」

「うん、うん」


 私はクレアを抱きしめた。


「ハル様とレティシア様は?」

「あそこに」


 レティシアさんは、私がクレアに回復魔法を使っている間にハルの下へ駆けつけている。レティシアさんはハルに上級回復薬を飲ませようとしている。でも上手く行かずに口から零れている。


 私も早くハルのところへ行かなくては・・・。


 突然、レティシアさんが回復薬を口に含むとハルにキスした。


「レティシアさん」

「レティシア様・・・」


 クレアがふらふらと立ち上がり、ハルとレティシアさんのほうへ歩く。私もクレアの後を追う。


「レティシアさん、ハルは・・・」

「なんとか生きてはいるんだが・・・」


 見るとハルはレティシアさんやクレアより酷い状態だ。みんなの前に立ちはだかって爆風を防ごうとしたんだから当たり前だ。呼吸はしているが微かだ。間違いなくハルは死にかけている。


 ハルに回復魔法をかけなくては。焦ってはだめだ。私は集中する・・・。まだ、魔力が足りない。でも・・・。体中の魔力を無理に集めるように意識する。


 ハル・・・。


超回復エクストラヒール!」


 三度目の最上級聖属性魔法が発動した。頭がぐわんぐわんと痛む。でも、そんな場合じゃない。


 神様、私のハルを助けて!


 私は超回復エクストラヒールを使い続ける。魔力が、魔力が足りない。いったん中断して、レティシアさんの真似をしてハルに上級回復薬を飲ませる。


 そして、また超回復エクストラヒールを使おうと意識を集中した。


「クレアさん、ハルくんのことはユイさんに任せて、聖龍に止めを刺そう。高位の魔物は再生力が高い。今のうちだ」


 クレアは私とハルを見てちょっと迷ったような素振りをしたが「ユイ様、ハル様をお願いします」と言って、レティシアさんと一緒に聖龍の方に向かった。


 私はクレアに頷くと再び超回復エクストラヒールを使った。




★★★




 僕が目を覚ますと何か柔らかいものの上に寝かされていた。この感触は覚えがある。ユイの、いやユイのより少しみっちりした感触だ。クレアだ。僕はイデラ大樹海でのことを思い出した。


 クレアが僕を覗き込んでいるのが見える。クレアの胸でちょっと視界が狭い。


「クレア・・・」

「ハル様・・・」


 クレアが僕を抱きしめた。ちょっと力が強い。こんなときなのにいい匂いがする。


「私のことは心配じゃなのかな」


 レティシアさんの声だ。まだ、頭がぼんやりする。


「レティシアさん、無事だったんですね」

「おかげ様でな」

「そうだ! ユイはユイは?」


 僕はガバっと半身を起こすとユイを探す。


「私は大丈夫だよ」


 ユイも無事だった! よかった!


「それにしてもユイさんの回復魔法は凄いな。ハルくんなんて完全に死んだと思ったぞ。私たちのパーティーにユイさんがいてよかった」

「そうだったんですね」

「ああ」

「ユイ、ありがとう」

「別に」


 ユイは照れているようだ。


「クレア、もうそんなにハルに胸を押しつけないくてもいいんじゃないかな」

「す、すみません」


 クレアが僕を抱きしめている手を緩めた。


「さっきまで大変だったんだぞ」

「レティシアさんそれはどういう?」

「いや、ハルくんがユイさんの魔法で大体完治した後、それでもなかなか目を覚まさないから、ユイさんとクレアさんのどっちが膝枕して見守っているかでちょっと揉めてな。私の提案で交代制になったんだ」

「もう大丈夫そうだったし、私はどっちでもよかったんだけど・・・」


 ユイ、クレア、心配かけてゴメン。


「それで、聖龍は?」

「倒した。ハルくんの魔法でボロボロになって鱗も剥がれ落ちていた。そうしたら私たちの攻撃も通るようになっていた。それでも、ずいぶん時間がかかったぞ。やっぱり聖龍の耐久力は凄いな」


 そうか、倒せたのか・・・。よかった。でも、二段階限界突破した黒炎爆発ヘルフレイムバーストでも死んでなかったとすれば、レティシアさんの言う通り凄い耐久力だ。勇者と魔王の戦いもそんな感じなのだろうか? お互いの攻撃は通用するもののお互い耐久力は高い・・・とか。だとしたら大変そうだ。


 そうだ! みんなに謝らないと。


「みんなゴメン。僕が暴走したばっかりに」

「そうだよ。みんなに相談してくれないと」


 ユイの言う通りだ。聖龍がブレスを吐いている間はあまり動けないんじゃないかと思いついて、みんなに何も相談することなく黒炎爆発ヘルフレイムバーストを使った。爆風を防がないといけないことをすっかり忘れていた。氷龍を倒したときは爆風のこともちゃんと計算に入れていたのに・・・。


「ハルくんは、とても頭がいい。でも、もっと仲間に頼らないとダメだ」

「はい」


 本当にその通りだ。僕は少し己惚れていたのだろう。思い付きに夢中になりすぎて爆風のことを考慮するのを忘れてしまった。みんなに相談していれば誰かが気がついただろう。本当に恥ずかしい。自分の魔法の余波でパーティーを全滅させるところだったのだ。うっかりしたで済ませられることじゃない。クレアが地龍にやられたとき、あれほど慎重にと誓ったばかりなのに、すぐにまた失敗してしまった。


「本当にすみません。取り返しのつかないことになるところでした」


 僕はみんなに頭を下げた。


「ハル・・・」

「ハル様・・・」

「まあ、分かればいいさ。みんな生き延びたんだから。でも結局は聖属性魔法を使えるユイさんをとっさに庇った私の判断力の勝利だな」


 そうだったのか。さすがレティシアさんだ。 


「まあ、しかし、ユイさんは泣きながら回復魔法を使っているし、クレアさんも大泣きしながら聖龍を斬りつけていてせっかくの美人が台無しだったなー。ハルくんにも見せたかったよ。そうそう私としては回復薬を飲ませるどさくさに紛れて若いハルくんにキスできたのもなかなかおいしかったな」


 レティシアさんは僕に気を遣ってわざと陽気に喋っている。


「レティシアさん!」

「レティシア様!」


 その後はそこまで大泣きはしていないとユイとクレアがレティシアさんに抗議していた。


 生きていてよかった!


 今度こそこの経験を次に生かさないと・・・。

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