表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

232/327

6-32(6階層その8~大失敗).

 僕たちが5階層の石碑と同じく勇者や魔王たちが描かれている巨大な扉に近づくと、扉は自然に開いた。レティシアさんを先頭に慎重に扉の中に入る。


「あれは・・・」


 扉の中にいたのは巨大な龍だ。龍の部屋にいた神話級の龍よりさらに一回り大きい。そして、その龍は白く光っていた。


 白い・・・。


「ハル様、おとぎ話に出てくる聖龍のように見えます」


 聖龍・・・。


 その白い龍はゆっくりと近づいてくる。羽はあるが空を飛んではいない。僕たちを観察しているようだ。


 こ、これは・・・。


 間違いない! この白い龍、聖龍こそ夢の中で僕を呼んでいたモノだ・・・。でも、一体なぜ?


「レティシアさん、ブレスです!」


 氷龍のときと同じ首を波打たせるブレスの予備動作に気づいた僕はレティシアさんに声を掛けた。


黒炎盾ヘルフレイムシールド!」

黒炎盾ヘルフレイムシールド!」


 僕はあらかじめ準備していた二段階限界突破した黒炎盾ヘルフレイムシールドを2つ展開した。どんな相手が出てくるか分からないので防御寄りの準備をしていた。 


 ゴゴゴゴオーーー!!!


 バリン! バリン!


 なんだって!


 しばらくすると、僕の2つの黒炎盾ヘルフレイムシールドは突破された。氷龍のときはこれで受け切れたのに・・・。


「レティシアさん!」

「任せろ! 氷盾アイスシールド! 氷盾アイスシールド! 氷盾アイスシールド!」


 こちらも最初から準備していたレティシアさんの三重の防御魔法が展開された。


「なんとか防げたようだな」


 全員が無事だ。最初から防御寄りの態勢で行動していたのが良かった。僕たちはレティシアさんの盾の後ろでなんとか聖龍の光のブレスを耐えきった。だけど、僕の二段階限界突破した黒炎盾ヘルフレイムシールド2つで十分だと思っていたんだけど・・・。


「ハル、なんかコウキの魔法に似てるね」


 ユイの言う通りで聖龍のブレスは光属性魔法と同じ種類のものに見えた。


 ブレス攻撃が受け切られた聖龍は、今度は踏みつけや尻尾での物理攻撃をしてきた。 


岩盾ロックシールド!」


 ユイが防御魔法を使ったが、すぐにバリンと音を立てて破壊された。


 これで、一旦、防御魔法を使い切った僕たちは、レティシアさんの盾を頼りに移動しながら攻撃を避ける。幸い、聖龍の物理攻撃は地龍ほど速くない。地上におりた火龍や氷龍と同じくらいだろう。それでも神話級だから一般的な感覚では凄く速い。でも、こっちも全員S級の冒険者だ。これまでの戦いで神話級や伝説級の攻撃に慣れてきている。


「ハアーー!!」


 気合をいれてジャンプしたクレアが聖龍の背中辺りに一太刀入れた。


 無理をせず、すぐに聖龍から距離を取ったクレアが「攻撃が通りません」と言った。見るとほんの僅かに鱗に傷をつけた程度でほとんどダメージが入っていない。


「あのときと同じだ」

「はい」


 まだクレアが赤龍剣を使っていなかったとき、そう最初に火龍と出会ったとき硬い鱗に阻まれてクレアの剣は通じなかった。


岩石錐ロックニードル!」


 ユイが魔法で下から聖龍を攻撃した。聖龍は特に避けることもしない。ズゴッと音を立て巨大な岩のドリルが聖龍の左足に当たった。ぐうーっと聖龍が唸る。だけど、それだけだった。聖龍は大したダメージを受けていない。


 その後レティシアさんが盾を構えて慎重に剣で同じく聖龍の足を辺りを斬ったが、結果は同じだった。ほとんどダメージが入らない。見ると最初にクレアがつけた傷の跡がない。すでに回復している。高位の魔物ほど再生力が高い。


 イネスさんが攻略情報に書いていたのはこういうことか・・・。 


「レティシアさん、またです。ブレスがきます!」

「今度は、私からだ! みんな私の後ろに!」


 レティシアさんはもう魔法の準備ができているようだ。

 

氷盾アイスシールド!」

氷盾アイスシールド!」

氷盾アイスシールド!」

岩盾ロックシールド!」


 ユイもレティシアさんに続いて防御魔法を発動した。


 ゴゴゴゴオォォォーーー!!!


 バリンバリンと防御魔法が突破される音がする。


 だけど・・・。


「受け切れたな」


 最後はレティシアさんの盾で受け切れた。氷龍のときと同じだ。さっきは僕の2つ二段階限界突破した黒炎盾ヘルフレイムシールドで受け切れなかったのに・・・。


 聖龍を他の龍と比べてみると羽はあっても空は飛んでない。攻撃の速さは氷龍と同じくらいで地龍ほどではない。ブレスの威力も氷龍と同じくらにのようだ。ただし、僕の防御魔法は少し相性が悪い。こんなとこか・・・。


 そして、一番の問題はこれまでのところ攻撃が全く通らないことだ。


黒炎弾ヘルフレイムバレット!」


 僕は慎重に聖龍の飛び掛かりや尻尾攻撃を避けながら黒炎弾ヘルフレイムバレットを放った。


「ギャウゥゥーー!!」


 聖龍が叫ぶ!


 なんだって!? 


 ブレス攻撃に備えて2発の限界突破した黒炎盾ヘルフレイムシールドを用意してたんだけど、レティシアさんの魔法とユイの魔法で受け切れたので、それをキャンセルして黒炎弾ヘルフレイムバレットを使った。当然限界突破なんかできていない。ちょっと牽制しようと思っただけだ。


 なのに・・・。


 僕の黒炎弾ヘルフレイムバレットが当たった場所の鱗が少し破壊されているように見える。とても致命傷と言えるような傷ではないが、間違いなくダメージを与えた。


 そのとき僕は唐突に武闘祭でコウキと戦ったときのことを思い出した。


 僕の防御魔法がコウキの光属性魔法に対して効きが悪いような感じを受けた。だけど攻撃は通っていた。あのとき僕が最後に放った黒炎弾ヘルフレイムバレットは一段階限界突破していた。僕はそれにしてはダメージが意外と少なかったと感じて驚いた。あのときコウキもちょっと驚いたような表情を浮かべていた。コウキも僕と同じことを感じたのだと思っていた。でも、もしかしたら逆だったのでは? もともとコウキは創生の神イリスの加護のおかげで頑丈だ。それが思ったよりダメージを受けたから驚いていたとしたら・・・。


 聖龍のブレスはコウキの光属性魔法に似ている。聖龍が勇者に近い存在だとすると・・・。


 勇者と魔王は互いに相手を倒す存在だ。お互いにその攻撃は効果がある。そうでなくては一方が一方を倒すことができない。逆に防御魔法はお互いに少し効きずらい。もしかするとそんな感じなのか?


 僕は魔王であるエリルから加護を授かった。それで僕の魔法が黒炎属性に変化した。だから聖龍にダメージを与えた。反対に防御魔法の効果が今一つだった。理屈は合っている・・・のか?


「そうか! だからお前は僕を呼んでいたんだな。自分を倒すものとしての僕を!」


 あの夢はそう言う意味だったんだ。


「レティシアさん、僕が攻撃を引き受けます。みんなは防御に徹してください。逆に僕の防御魔法は当てにしないでください。そして、できれば僕を守ってもらえるとうれしいです」

「分かった! みんなハルくんの言う通りにしよう。理由は分からんが、攻撃が通るのはハルくんだけのようだ。いくぞ!」

 

 僕は左手にもった黒龍剣で聖龍を攻撃する。手応えがあった。やっぱり黒龍剣での攻撃も通用する。


黒炎弾ヘルフレイムバレット!」

「ぎゃあーー!!!」


 剣で攻撃しながら魔法でも攻撃する。こちらも確実にダメージを与えている。盾を構えたレティシアさんが全員を守るように立ち回る。


 あ!


「ハル様! 大丈夫ですか?」

「く、クレア、ありがとう」


 危なかった!


 クレアが大剣で僕を守るよう聖龍の攻撃を受け流してくれた。僕の目の前を聖龍の牙が覗いた口が掠めたのだ。大丈夫だ。漏らしてはないと思う。たぶん・・・。


黒炎弾ヘルフレイムバレット!」


 ズゴッ!!


「ぐぎゃあぁぁぁーーー!!!!」


 今のはかなり効いた! 今の黒炎弾ヘルフレイムバレットは二段階限界突破していた。


岩盾ロックシールド!」


 バシッ!

 バリン!


「ユイ、ありがとう」


 危うく尻尾攻撃の餌食になりそうだったが、ユイの防御魔法のおかげでギリギリ回避が間に合った。 


「レティシアさん、ブレスです」


 聖龍が首を波打たせた後、大きく口を開いて首を持ち上げた。3度目のブレスだ!


「任せろ! 氷盾アイスシールド!」

氷盾アイスシールド!」

氷盾アイスシールド!」


 レティシアさんが防御魔法を三重発動した。みんな盾を構えたレティシアさんの後方に集まる。


「身体能力強化をしながら魔法の三重発動を使うのもずいぶん上達しただろう」


 レティシアさんは得意そうだ。こんな状況で余裕がある。でも、確かにレティシアさんの防御魔法三重発動の準備にかかる時間はずいぶん短くなった。


岩盾ロックシールド!」


 ユイが追加で防御魔法を使う。いつものパターンだ。


 ゴゴゴゴオーーーー!!!


 地鳴りのような音を立てて光のブレスが聖龍の口から吐き出された。バリン、バリン、と防御魔法が破壊される。レティシアさんの盾から白い湯気のような煙が上がる。


「受け切ったぞ!」


 イネスさんたちが3年かけてもクリアできなかったのは、聖龍の攻撃力が高かったからじゃない。攻撃が通らなかったからだ。もしくは与えられるダメージよりも聖龍の再生力のほうが高かったからだ。


 攻撃が通らないんじゃあ諦めるのも無理はない。


 そういえば、イネスさんたちはブレスにはどう対処していたのだろうか? イネスさんのパーティーは攻撃力という面ではともかく防御面では僕たちよりかなり劣っていると思う。3年間チャレンジしていたのだから、何か方法があるはずだ。もの凄く速いと言うイネスさんがブレスを中断させるような攻撃をしていたのかもしれない。


 いけない! また僕の悪い癖だ。今は自分たちの戦いに集中しなくては・・・。


 そして同じような攻防が繰り返される。聖龍のダメージは蓄積されている。僕が与えるダメージのほうが聖龍の再生力を僅かに上回っている。だけど、ほんの僅かだ。これでは時間がかかり過ぎる。集中力が持たずどこかで誰かが致命的なダメージを受けてしまいそうだ。


 それなら・・・。やってみるか。氷龍のときと同じで方法で。


「クレア!」

「だめです!」


 なんで僕の考えていることが分かったのだろう?


「氷龍のときと違って赤龍剣は聖龍には刺さりませんから。ハル様をお守りできません」

「でも、クレアがあのときの要領で僕を聖龍の背中まで連れていってくれれば、後は僕一人でやるよ」

「だめです。ハル様が危険です」

「クレアの言う通りだね。ハルはクレアほど身体能力強化が高くないし、風属性魔法も補助に使えないんだから危険過ぎるよ」

「でもシズカディアでは一人で火龍に」

「絶対にダメです」

「ダメ!」


 うーん。許可が下りない・・・。


 このままだとまたブレスが・・・。いや、待てよ、そうか。


 再び同じような攻防が続く。でも僕は魔法は使わない。攻撃は黒龍剣によるものだけにして、ひたすら魔力を溜める。


 僕の必殺技に魔力を溜める・・・。


 そして・・・。


「レティシアさん、ブレスです」


 これまでの3回と同じく聖龍が首を波打せてブレスを吐く動作をした。大きく口を開けて首を持ち上げている。


氷盾アイスシールド!」

氷盾アイスシールド!」

氷盾アイスシールド!」

岩盾ロックシールド!」


 これまでと同じくレティシアさんが防御魔法を三重発動してユイの防御魔法もそれに続いた。全員がレティシアさんの後方に集まっているのもこれまでと同じだ。


 ゴゴゴゴオーーーー!!!


 地鳴りのような音を立てて光のブレスが聖龍の口から吐き出された。


黒炎爆発ヘルフレイムバースト!」

黒炎爆発ヘルフレイムバースト!」


 僕は二段階限界突破した必殺の黒炎爆発ヘルフレイムバーストを2つ発動した。魔法の二重発動を使ってひたすらこれを準備していた。


 聖龍のブレスにバリン、バリンと防御魔法が破壊される。


 一方で巨大な黒い炎の塊が二重に広がり聖龍を包む。聖龍はブレスを吐きながら前進して黒い炎の塊の範囲から逃げようとするがその動きは鈍い。僕は聖龍を逃がさないように黒い炎の塊をコントロールする。


 やっぱり!


 僕はブレスを吐いているときあまり聖龍が動いていないことに気がついた。もしかしたらブレスを吐いている間は素早く動けないんじゃないか、僕はそう思ったのだ。そして、どうやらそれは当たっていたようだ。


 聖龍がブレスを吐き終わると同時に、黒い炎の塊が大爆発を起こした。


 ドドゴゴォォォォーーーン!!!!

 

「グゲオウゥゥゥーーー!!!!」


 二重になった黒い炎の塊が大爆発を起こした! 聖龍は聖龍という名らしかなぬ不気味な悲鳴を上げた。


 その寸前、僕は重大のことに気がついた。聖龍は黒い炎の塊から逃れようと移動していた。前にだ。そして今悲鳴を上げている聖龍は僕たちのすぐ目の前にいる! 


 爆風だ! 爆風がくる!


 氷龍のときと違って、聖龍のブレスに耐えるため全員防御魔法は使い切っている。


 ああーー!! 

 しまった!

 僕は馬鹿だ!

 僕のミスだ! 


 せめてみんなを守らないと。氷龍のときは爆風のことまで考えて作戦を用意していたのに、思い付きに夢中になってそんなことも忘れていた。


黒炎盾ヘルフレイムシールド!」

黒炎盾ヘルフレイムシールド!」


 僕はみんなの前に立って最低限の魔力で即席の防御魔法を発動した。


 その後すぐに、もの凄い爆風が僕たちを襲ってきた。バリンバリンと即席の黒炎盾ヘルフレイムシールドがあっという間に破壊された。僕は大きく吹き飛ばされて体のあちこちを激しく打ち付けた。


 目の前が真っ暗になって僕は気を失った・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ