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6-31(6階層その7).

 僕たちは氷龍を討伐し龍の部屋をクリアした。


 次は・・・。


「次はいよいよイネスさんたちが諦めた部屋だな。だがその前にこれなんだが」


 氷龍を倒した後、大きな魔石を回収した僕たちだが、部屋の奥の祭壇のような場所に2つの宝箱があるのに気がついた。そして中から出てきたのは目の前にある二本の杖だ。


「攻略情報には龍の部屋で宝箱が出るとは書いてなかったよね」

「うん。だけど宝箱ってランダムに出現するみたいだから」

「そっか」


 僕は二本の杖を観察する。


「ハル様、この黒い杖なんですが、素材と刻まれている模様が黒龍剣に似ている気がします」

「そうだね」


 僕も同じことを考えていた。


「ちょっと持ってみてもいいですか?」

「もちろんだ」


 僕は黒い杖を持つ。ちょっと魔力を流してみる。凄く魔力の通りがいい。増幅される感じもある。試しに杖を持ったまま頭の中で黒炎弾ヘルフレイムバレットの魔法陣を構築して魔力を流してみる。


「凄くいい感じです。魔法陣に魔力を流すのも杖が無いより速いし魔法陣の輝きも強いというか魔法が強化されているような感覚があります」

「ハル、杖ってそういう効果があるんだよ。ハルはいつも杖無しで魔法を使っているけど杖を使うとそんな感じだよ」


 そう言ってユイは自分の杖を見せる。タイラ村製の杖だ。


「あれ、そういえば白いほうの杖はコウキの光の聖剣と似ているような・・・」

「マツリさんが使っている光の聖杖じゃなくて?」

「うん」


 僕はコウキの剣が羨ましくてよく見ていた。間違いない。この杖には光の聖剣の柄に刻まれていたのと似た模様が浮かんでいる。


「シズカディアで借りてたやつとも違うなー」とユイが言った。

「シズカディアで借りてた?」

「うん、大賢者シズカイ様が持ってた杖だって言ってた」


 なるほど。


「もしかするとルヴェリウス王国のも神聖シズカイ教国のも偽物かもしれないね」

「え、どっちも偽物なの?」

「偽物っていうか、少なくともエラス大迷宮産じゃないって意味だよ。古の大賢者とか賢者が使ってた由緒あるものっていうのは本当かもしれないけどね」

「ハル様、それではハル様の黒龍剣とコウキ様の光の聖剣の二つはエラス大迷宮産ということでしょうか?」

「僕はそうじゃないかと思う。過去に勇者パーティーと魔王パーティーがここまで来たことがあるんじゃないかな」

「そっか、そのときは杖じゃなくて、剣が出たってことだよね」

「そうそう」

「でも、今回はなんで2本なんだろう」


 それはたぶん・・・。


 僕は改めて黒龍剣と黒い杖を見比べてみた。やっぱり黒龍剣の柄に描かれている模様と杖に描かれている模様は似ている。


「ちょっといい」


 ユイが黒い杖を手に取る。


「あれ?」


 どうしたの?


「この杖、私には使えないみたいだよ。全然魔力が通らないもん」


 どういうことだろう・・・。


 5階層の石碑のレリーフ、勇者と賢者が大きく描かれていた。そして魔王と四天王も、他の仲間たちも描かれてはいたが特に大きく描かれていたのはその7人だ。


 そして・・・。


 僕は目の前の巨大な扉を見た。今僕たちがいるのは龍の部屋を出たところにある安全地帯だ。従って僕が見ているのは次の部屋に繋がる扉だ。攻略情報では近づくと自然に扉が開くと書かれている。それよりも・・・。


「あの扉には、5階層の石碑と同じレリーフがあるな」


 僕が扉を見ているのに気がついたレティシアさんが言った。巨大な扉には5階層の石碑と同じく勇者たちや魔王たちが描かれている。中でも勇者と賢者、魔王と四天王がひときわ大きく描かれているのも同じだ。


「ユイ、白いほうの杖を試してみて」

「分かった」


 ユイは白いほうを手に取る。


 しばらくしてユイは「これはいいね。凄くいいよ」と言った。


「今使っているのより?」

 

 ユイは少し申し訳なさそうに「うん」と返事をした。今使っているのは僕がユイに渡したものだからだ。


「気にしなくてもいいよ、ユイ」


 微妙な雰囲気を察したレティシアさんが黒い杖を手にした。


「うん、全然ダメだ。私には使えない。ユイさんちょっと」


 レティシアさんは今度はユイから白い杖を受け取る。


「これもダメだな。クレアさんも試してみてくれ」


 クレアが黒い杖と白い杖を順番に手に取った。クレアは風属性、水属性、聖属性の3種類の属性魔法が使える。風属性は身体能力強化の補助に使い、水属性は生活魔法だけ、聖属性は初級が使える。これは結構凄いことだ。


「私もレティシア様と同じで、どちらも使えないようです」


 僕は試しに白い杖を持ってみたが、予想通り使えない。


「あの扉に大きく描かれている者たちにしか使えないのかもしれませんね。黒い杖は魔王の仲間、白い杖は勇者の仲間しかつかえないとか」

「なるほど。ということは白い杖を使えるユイさんは賢者ってことだな。大きく描かれているのは勇者と賢者だ。心配するな他言はしない。これまでのお前たちの会話、それに容姿からハルくんとユイさんが異世界人らしいとは気がついていた。それより、黒い杖を使えるハルはなんなんだ? 異世界人なのにハルくんは四天王だったのか?」

「いやいや、僕は四天王ではありませんよ」


 僕は慌てて否定する。実際僕は四天王ではない。だけど、魔王の配偶者しか使えない黒龍剣を使える。エリルの加護を得ているからだ。


「ハル様、おとぎ話では魔王が四天王を妻にしていることがよくあります」


 クレアが何かを思いついたみたいだ。


「そうなんだ」

「はい、初代の大魔王ベラゴスも確かそうだったと。それに、エリル様の前のドラコもそうです」

「じゃあ、黒龍剣が魔王の配偶者のための剣だっていう言い伝えも、もしかしたら」

「はい。ベラゴスの時代はあまりに昔なのではっきりしないとこがありますが、ドラコが四天王の一人を妻にしていたのは間違いないと思います。それ以外にも魔王が四天王を妻にしていたって話は多いはずです」

「それって」

「はい。黒龍剣やこの黒い杖は魔王の配偶者ではなくても四天王なら使える剣なのかもしれません。もっと言えば、魔王の仲間であれば使えるのかもしれません」


 なるほど。黒龍剣はずっと魔王に伝わってるって話だけど・・・。その仕様ははっきりしていないのかもしれない。大体エリルの前に魔王がいたのは200年前の話なのだ。200年前といえばかなりの昔だ。魔王の配偶者じゃなくても魔王や魔王に近い存在なら使える剣なのかもしれない。


「うーん、配偶者とかなんとかはイマイチ分からないが。やっぱりハルは四天王ってことか。あの魔法にも納得だな」

「だから、違いますって」


 はっきりとは分からないけど、たぶん、僕が黒龍剣の持ち主でエリルの加護があるからだろう。とにかく何らかの理由で僕が四天王に匹敵する魔王の仲間だと見做されたのだ。失われた文明の遺物の仕組みなんて深く考えても仕方がない。


「じゃあ、どうしてその剣や黒い杖が使えるんだ? そういえば、その剣、どこで手に入れたんだ?」


 レティシアさんが厳しく追及してくる。


「えっと、まあ、親切な人がくれたんですけど」

「くれた? エラス大迷宮6階層のお宝をか? 普通国宝だろう?」

「いやー、この剣がこの黒い杖と同じここのお宝だと決まったわけじゃないですし・・・」


 僕は必死で誤魔化す。


「ねえ、クレア、ハルってやっぱり四天王なのかな?」

「ユイ様、それは違うと思います」

「だよね」

「だったらどうして?」

「ユイ様、それだけ魔王であるエリル様とハル様の関係が深いってことじゃないでしょうか? 四天王以上に」

「クレアもそう思うよね」

「はい」

「関係が深いって、やっぱり・・・やっちゃ・・・とか・・・」

「はい。その可能性が高いかと・・・」


 ユイとクレアが何かコソコソ話している。気のせいか二人の顔が赤い。嫌な予感がする。


「とりあえず、今日は休息して明日、イネスさんたちが諦めた部屋に挑戦してみましょう」


 僕はなんとか話題を逸らそうと発言した。


「そうだな。攻略情報には無理だとか以外あまり詳しいことは書かれていないが、龍の部屋より危険ではないようなことも書いてある」


 レティシアさんの言う通りで龍の部屋より危険というわけでもないが絶対にクリアできないと書いてある。とにかく試してみるしか無い。まあ、龍の部屋より危険ではないのなら試してみてもいいだろう。


「黒い杖はハルくんが、白い杖はユイさんが持っていてくれ。他の者は使えないんだから」

「分かりました」

「はい」


 こうして、僕はなんとかその場を誤魔化して、明日次の部屋にチャレンジすることになった。

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