6-30(魔族との最前線の街).
間違って一時間早く投稿してしまいました。朝からボケてます。
ここローダリアはルヴェリウス王国北東部最大の街である。それもそのはずで、ローダリアは200年前の魔族との30年戦争で滅びたロタリア帝国の帝都であった街なのだ。ローダリアから東に2日ほど行くとトビアという名の北東部2番目の街があるが、こちらは30年戦争で滅びたトビアス王国の元王都である。
魔族との戦いは主にシデイア大陸中央部を東西に横切るギディア山脈の途切れる北西部と北東部で行われている。ルヴェリウス王国にとって北西部はもともと魔族との戦いの最前線だった。それに対して北東部が最前線となったのは、直接魔族領ゴアギールと接していたロタリア帝国とトビアス王国が30年戦争で滅びルヴェリウス王国の領土となった結果だ。今ではゴアギールと直接領土を接している人族国家はルヴェリウス王国のみである。
30年戦争は異世界から召喚された勇者ヨシネとその仲間、それにルヴェリウス王国の剣神ハディーンがゴアギールに深く攻め込み当時の魔王ドラコを打ち取ったことにより終息した。終息したが人族側も領土を広げたわけではなく、ロタリア帝国とトビアス王国は滅びたのだから勝利ではなく終息としか呼びようのないものだった。魔族側にも多くの死傷者が出た。四天王と呼ばれた幹部にも死亡した者や深手を負ったものがいたと伝えられている。もちろん魔族側の最大の損失は魔王ドラコが勇者たちに打ち取られたことである。
30年戦争以降も常時魔族との戦いは起こっている。それは今でも続いている。だが、そのどれもがルヴェリウス王国と魔族領との境界線を大きく変更するには至っていない。
「近々勇者様がこの地を訪れるようだ」
ルヴェリウス王国騎士団の第二師団を預かるアイゼルは太い眉と大きな鼻をもつ壮年の男だ。歴戦の戦士であり王国から剣聖の称号を授かっているが、どことなく愛嬌のある男で部下からの信頼も厚い。
「師団長、いよいよカギラン砦を奪回するのですか?」
「どうかな。今回は視察のようなものだろう」
アイゼルは第二師団の第一大隊長でありアイゼルの副官でもあるマルセルの問いに曖昧な返事をした。マルセルは魔導士だ。魔導士は貴重である。いわゆる剣士タイプの騎士の10分の1もいない。先頭に立って騎士団を率いるのには不向きだが、第一大隊は基本アイゼルと行動を共にするので問題はない。
ここローダリアは単に北東部最大の街というだけではなく、北東部で最も魔族領に近い街でもありアイゼル率いる第二師団が常駐している。ローダリアの更に北にはいくつか砦と呼ぶほうがふさわしい町や村があるが、魔族との戦いにおける北東部最大の拠点はローダリアだ。もちろんマルセルが言ったカギラン砦を奪回できればカギランが最前線になる。カギランは砦といっても街といってもいいくらいの規模があり少し小高くなった場所にある戦いの要衝だ。
「最近ではカギランを中心とした魔族側の攻勢が強まっています」
「そうだな」
「もしや、四天王の誰かが出張ってきたのでしょうか?」
昔から魔族には魔王を補佐する四天王と呼ばれる幹部がいることが知られている。ルヴェリウス王国の情報では現在の四天王は女魔族二人と大男、それに筆頭とされている男の魔族だ。メイヴィス、サリアナ、デイダロス、ジーヴァス、という名前も分かっている。ルヴェリウス王国も魔族領内に多くのスパイを潜入させておりこれくらいの情報は持っている。そもそも、人族と魔族の混血は以外と多いのだ。
だが、その能力についてはデイダロスが見かけ通り巨大なハルバートを操る戦士であり、サリアナが使役魔法を得意としているくらいしか分かっていない。ただ、メイヴィスという名前の四天王が過去にもいたことは知られている。それに再生の魔女という二つ名から回復魔法を得意にしているのだろうと推測されている。勇者の仲間の賢者のような位置づけなのだろうか。四天王筆頭であるジーヴァスについては古くから四天王としてその名をして知られているにもかかわらず、破壊の王という二つ名を持つこと以外に情報がなくその能力は不明だ。
「もしかして巨人の王デイダロスが」
最近サツド砦付近で巨人の部隊が目撃されている。
「そうかもしれん。わしは過去に一度デイダロスを見たことがある」
「魔族には巨人と呼ぶしかないような体格を誇る一族がいるんですよね」
「そうだ。デイダロスはおそらくその一族の長なんだろう。奴の率いていた魔族兵すべてが巨人といっていい体格だった。中でもデイダロスは伝説の巨人のようだったな。今回は奴が出張ってきたのかもしれん」
伝説の巨人、1000年以上前の魔族には、それこそ魔物としか思えないような5メートル以上の体高を誇った巨人の一族がいたらしい。さすがに他の魔族や人族との血が混じってきたせいなのか、今ではそこまでの巨人はいない。だが、デイダロスは少なくとも3メートルを超える巨体で一際戦場でも目立っていたのをアイゼルは記憶している。
「今前線にいるのは第二と第五だったな」
「はい」
ルヴェリウス王国騎士団の師団は約2500人の騎士で構成されている。そして一つの師団は5つの大隊に別れている。今魔族との最前線カギラン砦に近い人族側の拠点はサツドとエンデの二つの砦であり、それぞれ第二大隊と第五大隊が詰めている。
ちなみにルヴェリウス王国と並ぶ大国であるガルディア帝国には師団はなく1000人規模の大隊が黒騎士団、白騎士団にそれぞれ5つある。とはいっても獣騎士団と呼ばれることもある黒騎士団第三大隊に所属するのは十数人と聞いているので、黒騎士団、白騎士団合わせて9000人規模である。ルヴェリウス王国は2500規模の師団が5つあるので計12500だから、騎士の数ではルヴェリウス王国のほうが多い。しかし第二師団が北東、第五師団が北西の魔族領との境界に派遣されている。第一師団は王都周辺、第四師団は王都凌ぐ大都市アレク周辺およびエニマ王国やドロテア共和国との国境付近などに配置されている。ガルディア帝国との国境付近には第三師団しかいない。従って、対ガルディア帝国という点ではかなりの劣勢だ。
最近になってサツドとエンデの両砦の近くで3度魔族軍との戦闘になった。200人規模の魔族軍と使役された魔物たちを第二大隊と第五大隊が迎え撃った。こちらが1000で魔族は200である。だが魔族たちは自分たちの倍くらいの数の魔物を従えていた。それでも数ではこちらが圧倒しているはずだが、戦いは五分だ。個としては魔族のほうが強いし使役されている魔物には中級もいる。しかもサツド近辺では巨人兵の部隊が目撃されている。
ゴアギールはルヴェリウス王国とガルディア帝国を合わせたよりも広い。そこにおそらくは人族の10分の1にも満たない数の魔族が住んでいる。
「マルセル、第三大隊を二つに分けてそれぞれサツドとエンデに送れ。本当はわしが行きたいのだが勇者たちを出迎えねばならん」
「わかりました。第四大隊はトビアに置いたままでいいのですか?」とマルセルは確認した。
「トビアを空にするわけにはいかないだろう」
「分かりました。久しぶりに戦闘が激しくなるんでしょうか?」
「それは魔族の出方次第だ」
「師団長はカギラン砦を奪うつもりはないのですか?」
カギラン砦は要衝である。守りも固く規模も大きい。カギラン砦を奪えばゴアギールへ攻め込むことだってできるかもしれない。
「奪ったところでまた魔族が奪いに来る」
「それはそうですが・・・」
「マルセル、お前はカギラン砦を奪ったとしてその後どうするつもりなんだ。カギランを起点にゴアギールに攻め込むのか?」
「いえ、それは」
「もし、そんなことをすれば、背後から帝国が攻めて来るかもしれんな」
「仰る通りです」
「うむ。そいうことだ」
マルセルは頭もいいし魔法の腕も確かだ。だがまだ純粋すぎるところがある。アイゼルは師団長の中でもこの国に3人いる剣聖の中でも最年長だ。長くこの地で魔族と対峙する歴戦の猛者である。そのアイゼルから見ればマルセルはまだ学ぶことがある。
アイゼルは、ふと自分の教え子でもあり騎士団の副団長にまで昇り詰めたギルバートのことを思い出した。ギルバートは王都ルヴェンに常駐する第一師団の長でもある。今では階級もアイゼルより上だ。最近は勇者たちの育成の責任者としての仕事が忙しく第一師団のほうはもっぱら副官に任せていると手紙をよこした。ギルバートらしく淡々と最近の出来事だけが書かれている手紙だったが、行間から勇者たちの育成より自身が前線に出てもっと強くなりたいとの気持ちが感じられて、アイゼルはおかしかった。
まあ、ギルバートやギルバートが育てた勇者たちに会うのも楽しみだとアイゼンは思った。なんでも勇者は武闘祭で優勝したらしい。久しぶりに優勝の栄誉をルヴェリウス王国に取り戻したことで王国全土で勇者人気は大いに高まっている。勇者が凱旋したときの王都ルヴェンの盛り上がりはここローダリアまで聞こえてきた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
一方、ルヴェリウス王国では、的な話でしたが、どうだったでしょうか? 次話はまた迷宮攻略に戻りますが、後にコウキたちの話も出てきます。
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