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1-23(初めての実践訓練その2).

前話に続いて2話を一つにして改稿しました。そのため少し長いです。



 僕たちの魔物との実戦が始まった。


 クレアさんは基本見ているだけで、僕が先頭に立って魔物を引き付け、ユイが魔法で止めを刺すのを基本として戦っている。それでもクレアさんがいなかったらこんなに落ち着いてはいられなかっただろう。

 魔物の中には僕たちよりはるかに大きなものも多い。そんなものと対峙して戦うなんて日本ではありえないことだ。それが成り立っているのは魔法や身体能力強化のおかげだが、だからといってラノベやアニメのようにすんなりできるわけではない。


 ちなみに相当な乱戦にでもならない限り本来戦闘というものは数の多い方が勝つのが普通だ。かなりの実力差があっても1対2で戦えば普通は2のほうが勝つ。アニメやドラマのようにバッタバッタと複数の敵を倒すなどありえない。しかしこの世界では、魔力のおかげで、そのありえないことが現実になる。文字通り一騎当千の強者というのが存在するのだ。僕たちはそういった存在、いやそういった存在の中でも最高峰の存在になることを期待されている。


 最初に戦った魔物は、いきなり土の中から出てきた巨大なミミズみたいなやつだ。キラーワームとか呼ばれている下級の魔物だ。下級とはいえ、かなり大きい。

 僕はユイを庇うように前に出た。はっきり言って怖い。キラーワームが飛び掛ってきた瞬間、炎盾フレイムシールドを発動させる。必要最小限の大きさと強度で素早くだ。


 ユイは怖がって何か叫んでいる。 


「あれ?」


 キラーワームは炎盾フレイムシールドに触れただけで苦しんでいる。

 こいつ弱いんじゃ・・・。

 しかし、巨大なミミズが苦しんで暴れているのは不気味だ。


「う、うー。き、気持ちわるいよー。 炎竜巻フレイムトルネード!」


 ゴゴゴゴォォォォーーー!!!


「え?」


 跡形も無くキラーワームは燃え尽きた。いや、辺り一面燃え尽きた・・・。


「えっと、今のは、火柱フレイムタワー竜巻トルネードを合成した魔法なの」


 魔法なのって・・・2つの上級魔法を合成って、いつの間にそんなすごい技を・・・。


「驚いた?」

「うん。びっくりだよ」

「じゃあ、良かった。大成功」 


 ユイはうれしそうだ。僕を驚かそうとしてたらしい。いつ練習してたんだろう? セイシェル師匠との個人訓練のときかな。火柱フレイムタワーは火属性の上級魔法で、竜巻トルネードは風属性の上級魔法だ。僕は中級までしか使えないのに、2つの上級魔法の合成とは・・・ユイは天才だな。


 でも・・・。

 周りの木や草が燃え尽きてる。それにクレアさんが水魔法で消化している・・・。

 僕が気を使って小さく炎盾フレイムシールドを発動した意味はなかったか。

 ユイは天才だが天然でもある。

 

「ユイ様、今の攻撃はキラーワームには威力過多ですね」


 クレアさんが表情を変えずに、今の戦いを評価した。

 クレアさんの言う通りで下級の魔物であるキラーワームには、オーバーキルってやつだ。


「す、すいません。できるだけ小さく発動したつもりだったんですけど、やっぱり魔法コントロールはハルのようにはいかないね」


 このあとも、蛇のような魔物や蜘蛛のような魔物など、なぜか気持ち悪い系の魔物が多く出た。僕が剣と炎盾フレイムシールドで相手をしている間に、僕のうしろにいるユイが、キャーキャー言いながら、強力な魔法攻撃で跡形もなく葬ると言う戦いが続いた。


 そのたびに「今のも威力過多ですね」とクレアさんが冷静に評価している。


 確かに、ユイの魔法って強力過ぎだ。それに容赦ない。

 僕もユイを怒らせないように注意しよう。


「ユイの魔法が強すぎで、僕って、あんまり攻撃する必要ないね」

「へへ、でも、もっと強い魔物が出たら、守ってね」

「頑張るよ」


 そう言ってお互いに顔を見詰め合っていたら、クレアさんの冷たい視線を感じた。

 

「え、えっと、すごく順調だけど、油断しないようにしないとね」


 ユイがちょっと動揺している。


 結局その日一番強かったのは、少し大森林の中に入ったときに遭遇したアシッドウルフの群れだった。

 5匹で現れたその魔物は、これまでの魔物と同じく下級の魔物ではあったが、やっぱり数は力だ。名前の由来は、その唾液に含まれる酸だ。噛まれると大変なことになるらしいけど、このパーティーにはユイがいるから安心だ。


炎盾フレイムシールド!」


 僕は、炎盾フレイムシールドを大きめにまるで壁のように発動させる。同じ魔法でも効果範囲を広く発動させると威力や強度などは弱まる。なのでできるだけ多くの魔力を使って発動させた。

 ただし魔法によって注ぎ込める魔力の量には限界があるし、多くの魔力を注ぎ込むほど発動までに時間がかかる。このように魔法はいろんなものがトレードオフになっている。そこをその場に応じて最も適切な形で発動させるのが魔法のコントロール技術であり、僕はそれが割と得意だ。


「ユイ、下がって!」


 大きめに発動させたが、5匹もいるので完全には防げない。一匹が炎盾フレイムシールドを迂回して、僕に襲い掛かってきたので、剣で受ける。見るとほとんど同時にユイにももう1匹が襲い掛かっている。


 僕は1匹を剣で相手したあと、すぐにバックステップして距離を取る。


炎盾フレイムシールド!」


 炎盾フレイムシールドをユイの前に発動させる。今度の炎盾フレイムシールドは最小限の大きさでスピード重視で発動させた。クレアさんが、ちょっと驚いたような顔をしている。


「ハル、ありがとう。岩石錐ロックニードル!」


 ユイは僕にお礼を言うと、すぐに僕が炎盾フレイムシールドで足止めしたアシッドウルフの腹を、地面から岩石のドリルようなものを出現させて貫いた。土属性の中級魔法だ。僕の方も剣で1匹仕留めた。

 最初の炎盾フレイムシールドに防がれていた残り3匹のうち2匹は僕が剣で牽制している間にユイがさっきと同じ岩石ドリルの魔法で止めを刺した。最後の一匹はなんとか僕が剣で仕留めることができた。


「ふー」


 僕が安堵のため息をついたそのとき、死んだと思った1匹がユイに飛び掛ってきた。


「ユイ! 危ない!」

「え?」


 ズサッ!


 気がついたらユイに飛び掛ったアシッドウルフは、ユイに近づくことはできず、真っ二つにされて横たわっていた。

 クレアさんだ。あんな大きな剣なのに、まったく僕にはその動きが見えなかった。すごいとしか言いようがない。


「クレアさん、ありがとうございます」

「ありがとう。クレアさん」


 僕たちがお礼を言うと、クレアさんは「あっ・・」と呟くとしばらく黙っていた。そのあと、すぐにいつものクレアさんに戻って「最後まで油断は禁物です」と冷静に注意された。


 森林に深く入ることは禁止されているので、そこで僕たちは引き返した。引き返す途中で僕は何か光っている石みたいなのを見つけた。


「あの、光っているのって何ですか?」

「魔鉱石ですね」


 あれが魔鉱石なのか。確か魔鉱石っていうのは魔素を多く含んだ鉱石のことでミスリルとオリハルコンとアダマンタイトの3種類のことをいう。魔鉱石は魔素の濃い場所・・・通常は魔物が多くて危険な場所だ・・・にある鉱石が、ものすごく長い年月をかけて魔素を吸収して生み出されるものらしい。

 

「これはミスリルですね。それほど純度の高くなさそうですが、多少のお金にはなるでしょう」


 僕はその拳二つ分くらいの大きさのミスリルを拾ってアイテムボックスに収納した。


 魔鉱石のほかにアシッドウルフの牙をアイテムボックに収納した。アシッドウルフは唾液に酸が含まれているのでクレアさんに教わりながら注意深く解体した。少し気持ちが悪かった。僕たちに配られたアイテムボックスにはアシッドウルフ数体の死体ならば収納可能だが、練習の意味もあり解体した。毛皮も売れるらしいが今回の目的は実践経験を積むことなので牙だけにした。

 今日討伐したアシッドウルフ以外の魔物は素材としてはあまりお金にならないか、もしくはユイが跡形もなく殲滅したので、回収したのはこれだけだ。


 その後はアシッドウルフ以上の強敵に出会うことはなく、初日の討伐は終了した。





★★★





 僕たちは拠点としている宿の1階で夕食を取りながら、今日の討伐について話をしている。


「私が魔法を使う前にコウキが全部倒してしまうんですもの」

「まあ。今日程度の魔物なら当然だな」


 コウキの組はコウキが強すぎて、マツリさんがあまり活躍できなかったらしい。でも「そうですね。コウキなら、当然です」とか言ってコウキの強さを自慢しているマツリさんはうれしそうだ。本当にコウキが好きなんだろう。コウキの活躍をアカネちゃんも満足そうに聞いているのに僕は気がついていた。


「ゴブリンやオークみたいな人型の魔物って、ちょっと殺すのがいやだったよね」


 ヤスヒコとアカネちゃんは、ある意味定番のゴブリンとかオークに遭遇したらしい。僕たちはなぜか気持ち悪い系とか虫系が多かった。キャーキャー言ってるユイは可愛かったけど・・・。神様からのご褒美だったのかな?


「ああー、特にゴブリンは群れで出てきて、それなりに統率っていうか、少し知性がありそうだったもんな」

「まあ、すぐに慣れたけどね」


 ヤスヒコとアカネちゃんの組だけ、二人とも剣士タイプで後衛がいないので、あまり作戦とかはなく、次々倒していったみたいだ。二人とも魔法が使えないわけではないけど剣の方が得意だ。


「ヤスヒコのほうが素早くて、たくさん倒すからちょっと悔しいのよね」

「まあ、今は相手が弱いけど強い魔物相手ならアカネのパワーが生きるさ」


 ヤスヒコは、自分の方が活躍できたからだろうか、口調にも余裕がある。


 アカネちゃんのほうを見ると、慰められてますます悔しそうだ。アカネちゃんは、コウキのことも気になってるみたいだしヤスヒコ大丈夫だろうか。ヤスヒコは、僕が人が良すぎるとか、優柔不断だとか言っていつも心配してくれるけど、僕に言わせると、ヤスヒコのほうが心配だ。

 ヤスヒコは、コウキほどでないにしても、スポーツマンで顔もいい。しかもコウキより庶民的な感じだから、コウキよりヤスヒコのほうがいいって女の子もいるだろう。実際、中学時代からもてた。その分一人の彼女とかに固執することが無くて、いつも自然体って感じだった。

 今は、同じ陸上部の美男美女で自然とアカネちゃんとカップルになって、周りからも公認になっているけど、自然すぎて返って心配だ。僕の杞憂だといいんだけど・・・。


「いやー、カナっちの魔法で焼き殺されそうになったよ」

「ご、ごめんなさい。すごく大きな熊みたいな魔物でびっくりしてしまって」


 サヤさんが本当に危なかったと言わんばかりに大きな身振りを交えてみんなに説明している。


「最初はさ、私が前で魔物を防いでいてもカナっちがビビってなかなか魔法を撃たないんだよ。そうかと思ったらいきなり最上級魔法だよ」

「あれは、さすがに回りに見ているものがいないかと心配になった。次からは中級まででいいぞ。最上級はもちろん上級も禁止だ。このあたりの魔物なら中級でも強すぎるくらいだ。なんにせよ森がかなりの範囲焼け焦げてしまったな。それほど乾燥してない季節で幸いだった」


 そうカナさんに注意したのはサヤさんとカナさんの組についていったギルバートさんだ。身に覚えがあるユイも黙って下を向いている。


「サヤちゃん、ごめんね。私あんまり役に立たなくて」

「いやいや、カナっちの魔法があるって思うから、ガンガンいけちゃうんだよ ギルバートさんがいなかったらちょっと危なかったどね。ハハハ・・・」

「でもサヤちゃんは本当に頼りになるよ」

「いやいや、頼りになるのはカナっちの方だよ。でも魔法の威力には気をつけようね」


 頭を掻いてテレているサヤさんは微笑ましい。二人はほんとに仲がよさそうだ。カナさんは攻撃魔法では最強だしサヤさんは僕たちの中で唯一の盾役適性者だ。それにサヤさんは頭が良くていろいろ考えている。慣れれば二人はすごいコンビになるだろう。


「ユイも同じだからね。中級まででいいみたいだよ」

「分かったよ。合成魔法もダメだよね」

「だってあれ上級同士の合成で上級以上の威力でしょ」

「・・・うん」


 賢者であるユイは基本四属性に加えて聖属性魔法が使えるけど、最上級まで使えるのは聖属性だけで他は上級までだ。これは同じ賢者のマツリさんも同じだ。

 僕はユイが案外負けず嫌いだって知っている。同じ上級魔法でも光の聖杖のおかげもあるのかマツリさんのほうが攻撃魔法の威力が高い傾向にある。おそらくそれもあってユイは合成魔法を編み出したんじゃないだろうか。これはユイだけの技だ。

 

 それとギルバートさんは、僕からみると今だ超人的に強い。ほんとに、僕たちは、この人より強くなれるんだろうかってレベルだ。それに今日一緒だったクレアさんも僕たちとそんなに年も違わないのに、剣では未だにコウキも寄せ付けない強さだ。


 魔王討伐に本当に僕たちが必要なのだろうか?


 こんな感じで、予定通り一週間カルネに留まって、魔物討伐を行った。実戦経験を積んで僕たちは確実に強くなったと思う。これがラノベやアニメなら結構レベルが上がっただろう。


 今回の討伐で得た素材や魔鉱石は冒険者ギルドで買い取ってもらった。カルネではなくルヴェンの冒険者ギルドでだ。そのほうが値段が高いと聞いたので、どうせルヴェンに帰る予定だった僕たちはルヴェンの冒険者ギルドで買い取ってもらった。


 僕とユイが売った素材と魔鉱石で、金貨2枚、大銀貨2枚、銀貨5枚、銅貨5枚、鉄貨7枚になった。僕の感覚では、大金貨100万円、金貨10万円、大銀貨1万円、銀貨は1000円、銅貨は100円、鉄貨10円くらいだから、22万5570円ってことだ。一週間の報酬としてはどうなんだろう。僕たちは自分では払ってないけど、本当は交通費や宿代もかかっている。でも、逆に討伐依頼の報酬は貰っていない。今回の依頼は国で引き受けた格好になっているからだ。命がけの仕事であることを考えれば冒険者も楽な商売ではない気がする。




 ★★★




 アデレイドが実践訓練の同行者に選ばれた今回は、異世界人暗殺の絶好のチャンスだった。にもかかわらず、討伐訓練中に暗殺することはできなかった。


 可能であれば討伐に同行した2人を殺して逃げようと思っていたが、他のパーティーも近くにいてなかなかチャンスが訪れなかった。その上、ギルバートにも警戒しなければならなかった。ギルバートは掛け値なしの強者だ。

 いや、それは言い訳だ。自分でも分かっている。全くチャンスが無かったわけじゃない。それなのに、殺すどころか思わず魔物から異世界人を守ることすらしてしまった。


 あのときアシッドウルフを倒さなければ・・・。


 いや、そもそも二人を殺すのなら、魔物に頼らなくても自分でやればいい。異世界人たちは、いずれアデレイド以上の強者になるのかもしれないが、今はアデレイドの敵ではない。


 異世界人を殺した後は、ルヴェリウス王国へ留まろうとは考えていない。今回の実戦訓練程度で異世界人たちが死ねば一緒にいたアデレイドは間違いなく疑われる。疑われることが避けれられないのなら、殺した後は逃げる一手だ。だから異世界人とアデレイドだけになれる今回の実践訓練は最大のチャンスだった。


 なのに・・・。

 

 やはり、はじめての人殺しを自分は躊躇したのだろうか?

 自分にまだそんな感情が残っていたのだろうか?

 次からの実戦訓練で、また同行者としてアデレイドが選ばれるかどうかもわからない。別の方法を考えるべきだろうか?


 いずれにしても、次は躊躇なく実行しなくてはならない。任務を全うして彼に褒めてもらうのだ。

ここまで読んでいただきありがとうございます。 

次話は、図々しいんですけど、ちょっとだけ自信のある話なので楽しみにしてもらえると幸いです。



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