6-23(カナ).
ガルディア帝国へ派遣されていたコウキくんとマツリさんが帰ってきた。無事帰ってきてくれてよかった。
コウキくんが武闘祭で優勝したってことは事前に聞いている。やっぱりコウキくんは凄い。クラネス王女やセイシェルさんから市井でも勇者コウキの名声が凄く高まっているって聞いた。なんでもここ2回の武闘祭はガルディア帝国の騎士の人が優勝してたんだけど、今回久しぶりにルヴェリウス王国の代表が、それも勇者が優勝したことでルヴェリウス王国だけでなく世界中に勇者コウキの名が知られることになったらしい。
私たち4人はコウキくんの部屋に集まってガルディア帝国での出来事を聞いていた。
「ハルくんとユイさんが生きていた・・・」
最初にコウキくんからそれを聞いたとき、私は、すぐにはそれ以上言葉が続かなかった。
それに・・・。
そう、ユウトくんも元気で冒険者をしているらしい。ちょっと気になるのは美人の騎士と可愛らしい剣士を仲間にしてるらしいってことだ。ユウトくんの仲間の二人のことをもっと聞こうとしたらコウキくんはなんだか言葉を濁していた。それにユウトくんはなんと使役魔法が使えたらしく大きなホーンウルフという魔物を従えていたんだって。なんかちょっと憧れる。
「カナっち、よかったね」
「うん」
本当に久しぶりにいい知らせだ。心が少し温かくなった。
「それで、武闘祭で準優勝したのはハルくんなんだよね」
「ああ、変な仮面を着けて参加してたんだ。謎の仮面男って名乗っていた」
サヤちゃんの質問にコウキくんが答えた。
それにしても謎の仮面男・・・。もともとハルくんの考えていることはちょっと分からないとこもあったけど。
「そうそう、ユウトはユウジロウと名乗っている」
ユウジロウ!
「ユウトがここを出るとき、俺がルヴェリウス王国に注意するように警告したから偽名を使っているんだろう」
「あ、そうだ。俺から詳しいことを説明する前にこれを読んでくれ」
コウキくんが私とサヤちゃんに渡してくれたのは手紙だ。結構分厚い。日本語で書かれている。
「これはハルとユイに再会する前にハルからもらった手紙だ。ハルとユイに起こったことが詳しく書いてある」
私とサヤちゃんは頭を突き合わせるようにして手紙を読み始めた。そこに書かれていたのはハルくんとクレアさんが経験した驚くべき出来事だった。それにユイさんが経験したことも書かれている。こちらも凄い出来事ばかりだ。
サヤちゃんは私の隣で「ええー」とか「ドラゴン?」、「隷属の首輪なんて魔道具が・・・」なんて呟きながら手紙を読んでいる。きっと百面相のように表情を変化させているんだろう。でも私にとっても驚くことばかりでサヤちゃんをそれ以上気にしている余裕はなかった。私とサヤちゃんは手紙を一度読んだ後、もう一度読んだ。
やっと少し落ち着いたサヤちゃんが「驚いたよ。こんなことが本当に起こったなんて、みんなよく生きていてくれたよね」と言った。
サヤちゃんの言う通りだ。ハルくんやユイさん、それに・・・ユウトくんが生きていてくれて良かった!
「だけど」
「ああ、ヤスヒコは魔族の眷属になっている」
私たちの前からアドニア大森林の奥に消えたヤスヒコくんは一度死んでしまって、今は四天王だという魔族の魔法で蘇生されてその四天王の眷属になっているらしい。私はハルくんの手紙のヤスヒコくんのことが書いてあるところをもう一度読んでみた。ハルくんとヤスヒコくんは剣を交えたらしい。
それでも・・・。
「魔族の眷属になっているとしても、ヤスヒコくんが生きているのならうれしい」
本当は生きているとは言えないのかもしれないけど・・・。
「カナの言う通りだ。俺もそう思う。そう考えればヤスヒコも入れて俺たちはまだ8人いる」
そうだ、これはいい報せだ。アカネちゃんを除けば、まだみんな生きているのだ。ただ、そう考えるとアカネちゃんに二度と会えないのが、やっぱりとても悲しくて胸がぎゅっとなる。
「コウキ、私はヤスヒコくんのこともだけど魔王のことにも驚いたわ」
「そうだな。ハルが魔王と繋がりを持ったのは俺たちの計画にとってもプラスだ。さすがハルだな」
そうだ、魔王のこともあった。一度に多くの情報を詰め込み過ぎて考えが纏まらない。
「まさか、魔王が人族と和解したがっているなんてね」とマツリさんが言った。
「だが、ハルの話では魔族側も一枚岩ではない。というかむしろ魔王に反対の者のほうが多いらしい」
「何千年も争っているのだからそうでしょうね。それでもコウキの言う通りで悪い話じゃないわね」
腕を組んだマツリさんが冷静に言った。
確かに魔王討伐に行かなくてもいいのならありがたい。
「みんな、今はまだ、ハルたちから得た情報はルヴェリウス王国には秘密だ。もちろん魔王のこともだ。ガルディア帝国で起こったことを考えても、帝国よりゴアギールと因縁のあるルヴェリウス王国にも魔族が入り込んでいてもおかしくない」
「魔族が入り込んでいる?」とサヤちゃんが訊く。
「そうだ。これから説明する」
そう言うとコウキくんは、今度はガルディア帝国でハルくんたちやユウトくんたちが経験したことを話してくれた。
「そんなことが・・・」
サヤちゃんが呟く。
「俺とマツリもガルディア帝国にいたわけだが、その帝国の内乱というか内乱未遂なのかな、には関わっていない。冒険者ギルドを通じてハルから手紙が届いてたんだ」
「私も手紙を読んだんだけど、想像以上に魔族は帝国に入り込んでいるみたい。ハルくんなんて皇帝自体が魔族じゃないかって疑っているみたいなのよ」
皇帝が魔族!
「ハルくんらしい、大胆な推理だね。でも実際に関わったハルくんがそう思っているならそうなのかも。それに黒騎士団だっけ、その団長は魔族に間違いないってハルくんは考えてるんだよね。武闘祭で準優勝するほど強くなってるハルくんが、その存在感に圧倒されるほどだったって、そう書いてあったんでしょう?」とサヤちゃんが確認した。
「ああ」
それなら、もしかしてルヴェリウス王国のグノイス王も魔族ってことも・・・。それはないか。そうだったら私たちを召喚なんてしないし魔王を倒せなんて言わないよね。
「ふふ」
サヤちゃんがちょっと笑ったような気がして「サヤちゃん、どうしたの?」と訊くと「あのね。クレアさんって私たちを殺そうとしてたんだよね。それでハルくんとユイさんに狙いを定めて、それが原因でハルくんとユイさんはヨルグルンド大陸の南端に飛ばされて信じられない経験をした。そうだよね」と言った。
手紙にはそう書いてあった。
「でね、それなのにハルくんはイデラ大樹海とかいう世界でも一番危険な場所でクレアさんと仲良くなって今でも一緒にいるんだよね。それに魔王やSS級冒険者とも知り合いになってるんだよ。それでガルディア帝国ではクレアさんのために動いたって感じだよね。その間に武闘祭にも出て準優勝してる。これってさ、凄くない?」
そう言われてみれば・・・。
「ハルくんらしいよね。でも」
「でも、なあに?」
「でもさ、クレアさんって確か凛々しい感じの美人だったじゃない。それこそタイプは違うけどユイさんにも負けないくらいのさ」
思い出してみるとそうかもしれない。ちょっと冷たい感じの美人だった。
「ハルくんがユイさんとクレアさんに挟まれて困ったりしてないかなって、そう思ったらちょっとおかしくなったの。それにさ、はっきりとは書いてないけど、どうも魔王も若い女の子で可愛いみたいだよ」
そういえばユウトくんも美人と可愛らしい仲間と冒険しているって・・・。もう男ってば・・・。私はちょっと腹が立ってきた。こんなに心配してたのに。
「カナっちどうしたの」
「なんでもないよ。それよりサヤちゃん、ライバルが増えちゃったね」
「もう、なに言ってるのよ」
久しぶりに温かい気持ちでみんなと話すことができた。
「とにかくだ。ヤスヒコも入れて俺たちはまだ8人いる」
コウキくんの言葉に全員が頷く。
「ハルたちやユウトたちとは、これからも冒険者ギルドを通じて連絡を取ることにしている。なんといってもハル、ユイ、クレアの三人はS級冒険者だ。冒険者ギルドも最大限の配意をするとハルたちに約束してくれたらしい。武闘祭のおかげで俺の名声も上がった。これからは俺だけじゃなくてみんなも勇者の仲間として公に出てもらおうと思っている。ギルバートさんの話では俺たちのことを公表してから、すでに多くの貴族や有力者が勇者に会いたいと言ってきているらしい。俺はその辺りも利用して誰が味方になりそうか見極めようと思っている。みんなも協力してくれ」
私たちはコウキくんの言葉に一層覚悟を強く持った。これからは武闘祭で優勝した勇者コウキの仲間として私たちも活動することになる。
ハルくん、ユイさん、ユウトくんが元気だと聞いて、それにヤスヒコくんだって・・・。
私たちは以前より元気を取り戻した。




