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6-21(5階層その15~ハル5階層のクリア条件を説明す).

「みんな、とりあえずグリフォンだ。グリフォンを倒そう。一体でいい」

「ハル、なんか思いついたんだね。炎盾フレイムシールド!」


 ユイが防御魔法を使いながら言った。


黒炎盾ヘルフレイムシールド!」

「うん」


 僕は防御魔法を使いながら返事をした。


岩盾ロックシールド! とりあえずグリフォン一匹だな」


 スレイドさんも防御魔法を使いながら確認する。


「はい」

「分かった」


 ガズッツ!


 僕たちは急降下してきたグリフォンの鋭い爪を避ける。グリフォンは地面に大きな爪痕を残してまた空中に戻る。二体目のグリフォンが同じように急降下してきた。


氷盾アイスシールド!」とレティシアさんが叫ぶ。


 バリンと氷盾アイスシールドが一撃で破壊された音がする。


 レティシアさんは「この状態では三重発動は無理だ!」と言いながら僕たちの後を追う。


炎盾フレイムシールド!」


 ユイが僕の隣でまた防御魔法を使った。


 とりあえずグリフォン一体を倒す。これが僕が決めた目標だ。


「レティシアさんが、誘導してください。フェンリルもいます。囲まれない方向に固まって逃げましょう。グリフォン以外は攻撃する必要はありませんから防御に徹してください。その間に僕が空中のグリフォンを攻撃します。ですので僕の防御魔法は期待しないでください」

「了解した。ユイとスレイドさんは防御魔法で、クレアは剣で、私は防御魔法と盾でとにかく防御に集中だ。ハルくんの言う通りで固まって動かないと防御できない。私がなるべくフェンリルからは離れるように逃げるからみんなついて来い!」


 ユイが「分かりました。リーダー」と返事をしたのを合図にレティシアさんを先頭に全員で逃げる。逃げて、逃げて、逃げまくる。



岩盾ロックシールド!」

氷盾アイスシールド!」

炎盾フレイムシールド!」


 スレイドさん、レティシアさん、それにユイが発動可能になり次第防御魔法を使う。

 迷宮では一定の範囲から離れると魔物は追ってこないはずだが、魔物たちが引き返す気配はない。そもそも6体もの魔物が囲むように迫ってくるので、この場所から遠くに逃げるのも難しい状況だ。ここ5階層では絶対に5人を超える人数で攻撃してはならなかった。僕のミスだ。


 やはり誰かが囮にでもなるしかないのか。いや、僕の想像が当たっていれば・・・。


「ハアー!」


 クレアが剣を振ってグリフォンを追い払う。深追いをせずすぐにみんなと合流して逃げる。


岩盾ロックシールド!」

氷盾アイスシールド!」

炎盾フレイムシールド!」


 とにかく逃げる!

 

 グリフォンたちはユイ、レティシアさん、スレイドさんが生成した防御魔法をバリン、バリンと破壊しながら迫ってくる。


「みんなこっちだ。ハル、もうフェンリルたちにも追いつかれそうだぞ!」


 レティシアさんが方向を変える。レティシアさんの声に焦りと疲労が濃くなってきた。他のみんなも疲れている。


「うあー!」と叫んだレティシアさんが盾でグリフォンの爪を受けた。レティシアさんは態勢を崩している。そこをグリフォンが追撃しようとしている。


 今だ!


黒炎弾ヘルフレイムバレット!」

黒炎弾ヘルフレイムバレット!」


 二段階限界突破した黒炎弾ヘルフレイムバレット2発だ。僕はみんなに防御を任せてひたすら魔力を溜めていた。絶対に失敗できない。僕は祈るように黒炎弾ヘルフレイムバレットの行方を見守った。


「グギャアァァァーー!!」


 やった!


 レティシアさんが囮になったような形になったので、僕の2発の黒炎弾ヘルフレイムバレットは見事にグリフォンを捉えた! しかも一発はグリフォンの大きく開けた口の中に吸い込まれて後頭部を突き破った! もう一発も首を辺りに当たった。グリフォンは地面に落ちて苦しんでいる。


「みんな、今だ!」


 僕は全員に声を掛けた!


「ハル・・・」

「ハルくん・・・」

「ハル様・・・」

「ハル・・・」


 みんなどうしたんだ? 今がチャンスだ。


「ハル、もう魔石に変わってる。ハルの魔法は凄いな」


 スレイドさんの言う通りだ。グリフォンの姿はなく、そこには大きな魔石だけがあった。


「おい! フェンリルたちが、それにグリフォンも!」


 スレイドさんが叫ぶ。


 残ったグリフォンが空中から急降下して襲いかかってくる。フェンリルたちももう目の前に迫っている!


「レティシアさん! 石碑です。石碑の方へ」

「え、石碑? どっちだ?」

「レティシア様、こっちです」


 クレアが僕の言葉に反応して方向を示す。


「よし! クレア、頼む。みんなクレアの後を追え!」


 クレアはフェンリルたちから大きく迂回するように移動する。全員でクレアの後を追う。


岩盾ロックシールド!」

氷盾アイスシールド!」

炎盾フレイムシールド!」

黒炎盾ヘルフレイムシールド!」

黒炎盾ヘルフレイムシールド!」


 今度は僕も防御魔法を使う。もちろん限界突破する時間はない。でも二重発動は使って連発する。バリン、バリンと次々にフェンリルたちと残ったグリフォンに防御魔法が破壊される。でも逃げる時間が多少は稼げる。


 あれだ! 


 石碑のある場所は周りより少し低くなっている。僕はそれを見つけると坂を転がるようにして石碑に近づいた。


 みんなは何かを察したのか石碑に近づいた僕を守るような位置に立って魔物たちを迎え撃とうとしている。


 僕は震える手で石碑に触った。


 みんなが魔物たちに魔法を使ったり、盾や剣で魔物たちの攻撃を受けている音がする。悲鳴のような声も聞こえる。僕の想像が当たっていなければ全員ここで死ぬ。


 僕は石碑に魔力を流す。


 石碑が光る。前と同じだ。


 どんどん光が強くなる。勇者たちや魔王たちのレリーフが光って浮かび上っているように見える。これも前と同じだ。


 石碑の放つ光がさらに強くなり、石碑を直視できなくなった。これは・・・前と違う!


 すると、突然光がその場に大きく広がり辺り一面を包んだ。


 成功したのか? 


 魔物たちとみんなが戦う音も聞こえない。辺りは静寂に包まれている。僕はその場に崩れ落ちた。僕は生きている。助かったのか・・・。


 気がついたら、光は収まり僕の周りにはみんながいた。


「フェンリルやグリフォンは?」

「光が収まったら消えていた」とレティシアさんが答えてくれた。

「どうやら我々は助かったようだな」とスレイドさん。


 よかった。地面に座っている僕のそばにユイとクレアが体を寄せてきた。僕は二人を抱き寄せた。二人ともボロボロだ。


「またハルに助けられたよ」

「ハル様・・・よかったです」


 しばらくして「私たちは助かっただけじゃなく、5階層をクリアしたらしいな」とレティシアさんが言った。


「レティシアの言う通りだ。俺はフェンリル3体は倒してないのにいいんだろうか?」


 レティシアさんとスレイドさんが見ているのは石碑のあった遺跡のような場所の前に大きく開いた地下への通路だ。


「ハル様、どうして?」

「ハル、いつものように謎解きしてくれるんでしょう?」


 ユイとクレアが期待に満ちた顔で僕を見た。いつもの二人だ。でも顔には血が・・・。


「うん」と僕は笑顔で返事をした。生きていて本当によかった。


「でもその前にユイ、回復魔法をみんなに頼む。みんなボロボロだよ。急がないとレティシアさんなんて生きているのが不思議なくらいだよ」

「そうか?」と言ってレティシアさんは自身の体を確認する。

「ほんとだ。痛みも忘れてたよ」


 レティシアさんは自分の手についた血を見てびっくりしている。


超範囲回復エクストラエリアヒール!」


 清浄な光が皆を包む。僕も元気になってきたのを実感した。


「こ、これは!」

「どうだ凄いだろ。私も最初は驚いたぞ」とレティシアさんがなぜか自慢そうに言った。生きているのが不思議だと思ったレティシアさんの傷もみるみる治っていく。

「これは上級の範囲回復エリアヒール、ロザリーと同じなのか・・・。いや、違う。まさか、これは・・・」

「スレイドさん、できれば秘密でお願いします」

「わ、分かった。こんなこと言っても誰も信じないだろうけどな」


 全員が回復したので僕はユイとクレアに言われた通り説明を始めた。


「最初にフェンリル3体を倒してこの石碑に魔力を流したときと、西と東のときはとは光り方が違ってたんだ。さっきそれに気がついたんだ」

「そうだったけ? 私には同じにしか見えなかったよ」

「西と東のときは凄く眩しくて直視できないくらいに光った。それに対して北の石碑に最初に魔力を流したときは眩しかったけど直視できないほどじゃなかった。はっきりと勇者たちや魔王たちのレリーフが浮かび上がっているのが見えたんだよ」

「言われてみれば、ハル様の言う通りだった気がします」

「そんなことによく気がついたね」


 無理もない。僕も気がついたのはさっきだ。


「それで、北がどうして西と東と違ったのか考えたんだ。倒した魔物数? 倒し方? 違う」

「じゃあ、何が?」

「僕とクレアは、まあ、いろいろあって多くの伝説級魔物を討伐した経験がある。この5階層で出現する魔物の中で言うと、サイクロプス、ヨルムンガルド、タラスク、それにフェンリルの討伐経験がある」

「私もサイクロプスは倒したことがあるよ」


 僕はユイに頷く。


「そしてレティシアさんは駆け出しの頃、ベヒモフの討伐隊に加わったことがあるって言ってた。一太刀は入れたんでしょう?」

「その通りだ」


 僕はスレイドさんを見る。


「スレイドさんはグリフォンを倒したことがありますよね」

「ああ、俺やイネスは故郷の近くに現れたグリフォンの討伐で中心的な役割を果たした。その後、ここエニマ王国では旧『月下の誓い』だけでサイクロプスを倒したことがある」

「はい。セラフィムさんからもそう聞きました。2体の伝説級魔物を倒したことでイネスさんはSS級になったんですよね」

「そうだ」

「というわけで、最初に『レティシアと愉快な仲間たち』が北の石碑に触ったときにはメンバーの中には本物のグリフォンを倒した経験があるメンバーがいなかった」

「そうか、ハルの言いたいことが分かったよ。西と東のときにはメンバーの誰かが出現する2種類の魔物の本物を倒した経験があった。でも」

「はい。レティシアさん、北のときは僕とクレアがフェンリルは倒した経験があったけど、グリフォンを倒した経験がある人がいなかったんです」

「ハル様、それで光り方が違ったんですね」


 僕はクレアに頷いた。


「だからに2度目はスレイドさんと一緒にグリフォンを倒してから石碑に触れてみた。すると成功した」

「俺が、本物のグリフォンを倒した経験があったからか」

「はい。グリフォンを相手にしたのはスレイドさんを入れて全員で5人ですから、成功するかもと思ったんです」


 スレイドさんは少し考えると「そうか・・・。それで、ダグラスだったんだな。ダグラスはベヒモフの討伐隊に加わった経験があった。だからイネスに選ばれた。そういうことなんだな」と言った。


「僕もそう思います。そして次の挑戦までの10年間イネスさんが何をしていたかというと倒したことのない伝説級を倒す、もしくは倒したことのある者を探してたんだと思います。要するにフェンリル、ヨルムンガルド、タラスク、この3種類の伝説級魔物を倒した経験のあるメンバーを見つけるか、自分で倒すのにかかった時間が10年なんだと・・・。イネスさんは西の石碑の光り方と東と北の違いに気がついたんだと思います」 

「最初のパーティーでも西のサイクロプスとベヒモフはメンバーの中に本物を倒した経験があるものがいたからな。それにあの石碑は、新たに魔物を倒す度に光るんだ」

「そうなんですね」

「ああ、俺たちは、倒し方や倒した数にヒントがあるんじゃないかと、何度もチャレンジした。だからイネスが光り方の違いに気がついてもおかしくなかった」


 イネスさんには僕たちよりも気がつくチャンスが多くあったということか。


「なるほど。そっか」

「それに1回で気がついたハル様は、やっぱり凄いです」

「俺たちが選ばれなかったのは実力が足りないからじゃなかったんだ。アルベルトもそうと知っていれば・・・」


 しばらくの沈黙の後、「ハルくんの解説も終わったようだし、とりあえず降りてみるか。また閉まったりしたら大変だ」とレティシアさんがいつもの飄々とした口調で言った。

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