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6-20(5階層その14~絶体絶命!).

 アルベルトさんとは別の方向から斜面を滑り落ちるように僕たちに近づいたスレイドさんは「早く、早く逃げるんだ。時間がない」と叫んだ。


「ハル様、アルベルトさんがいません」


 アルベルトさんは、いつの間にか姿を消している。僕たちを囮にして逃げたのか・・・。


 バリン!


 とうとう僕の黒炎盾ヘルフレイムシールドを突破したフェンリルたちが狙いを僕たちに変えて近づいてくる。


「ああ、もうダメだ。遅かった」


 スレイドさんはその場に崩れ落ちそうだ。


「は、ハル、あ、あれは・・・」


 ユイの声に絶望間が漂っている。無理もない。3体のフェンリルの後ろから空を飛んで近づいてくる3体のグリフォンが見えた。


「お、俺たちはいつもの逃げ腰作戦で3体のフェンリルと戦っていた。大した時間が経つこともなくいつものように逃げることになった。だが、いつでも逃げられる位置取りで戦っていたはずなのに、アルベルトが逃げ遅れた」


 スレイドさんは、神様に最後の告白でもするかのように、そうでなければ自分自身に語るように喋っている。


「あいつは、俺に構わず逃げろと言って、俺たちとは別の方向に走り出した。前にも似たようなことがあった。だから俺はアルベルトを追いかけたんだ」


 スレイドさんは逃げながらもまだ語る。


 そういうことか。


黒炎盾ヘルフレイムシールド!」


 僕は魔法の二重発動で用意していたもう一つの黒炎盾ヘルフレイムシールド発生させて逃げる時間を稼ぐ。


 僕はセラフィムさんが教えてくれたことを思い出した。4階層以上は迷宮のルールが厳格だ。苦戦しているパーティーがあっても安易に助けてはいけない。そう言っていた。


 僕の判断ミスだ!


 僕のミスでみんなを危機に陥れてしまった。レティシアさんの件といい、いつまで経っても失敗ばかりだ。でも、命に代えてもユイとクレアだけは助けないと・・・。


「俺たち『月下の誓い』の5人がすでにフェンリルたちと戦っていた。そこにハルが防御魔法を使った。5人までという迷宮の破ったから追加で魔物が現れたんだ。アルベルトのやつは前のときも同じ方法でクラウドたちを・・・。さすがに伝説級5体とか6体とかじゃあ、クラウドたちといえども全滅してもおかしくない。やっと腑に落ちた」


 有望な若手パーティーが全滅したことがあったと注意してくれたのはスレイドさんだ。ここは危険な場所だが、それでも有望なパーティーの誰一人生き残らなかったことにスレイドさんは以前から疑問を持っていたようだ。


 なぜアルベルトさんはこんなことをしたのか? 


 僕には分かる。分かってしまった・・・。


 アルベルトさんはイネスさんの最初からの仲間だった。なのに2回目の5階層チャレンジのときイネスさんに誘われなかった。イネスさんのパーティーには盾役がいないのに。アルベルトさんよリ弱くて年も取っているダグラスさんが誘われたのに。


 そして今度はあっさりとイネスさんたちは5階層を突破した。


 アルベルトさんは許せなかった。ダグラスなんかより俺のほうが優秀だ。それをイネスさんに示さなくてはならなかった。そのためにはイネスさんの次に5階層を突破するのは自分でなくてはならない。他のパーティーなんかに先を越されてはならないのだ。


 迷宮に取り憑かれているのはイネスさんだけではない。アルベルトさんもだ!


 そのとき、2体のグリフォンが空から少し離れたとこを逃げていたレティシアさんに向かって急降下してきた。


 レティシアさんは逃げるの諦めて空に向かって盾を構えた。


 ドゴォーーン!!


 一体のグリフォンがレティシアさんの盾に激突した。レティシアさんは大きく弾き飛ばされ地面を転がった。地面に倒れたレティシアさんはうめき声を上げて立ち上がろうとしているが体がいうことを聞かないみたいで、地面に這いつくばったままだ。それでも手から盾を離していないのはさすがだ。


「レティシア様・・・」


 クレアがレティシアさんの名を呼んだのが聞こえた。


 もう一体のグリフォンの鋭い爪が空中から動けないレティシアさんに迫る。僕はレティシアさんの方に走る。ユイとクレアも付いてきている。


黒炎盾ヘルフレイムシールド!」


 僕はレティシアさんを守ろうと黒炎盾ヘルフレイムシールドを使った。でも限界突破する時間はなかった。


 バリンと音がして一撃で黒炎盾ヘルフレイムシールドが破壊された。


 その瞬間「レティシア様!」と声がした。飛び出した黒い影はレティシアさんを抱えて間一髪グリフォン攻撃を避けた。


「クレア!、岩盾ロックシールド!」


 ユイが防御魔法を発動する。


岩盾ロックシールド!」


 ユイに続いて防御魔法を使ったのはスレイドさんだ。


「スレイドさんもこっちへ」

「わ、分かった」


 全員で必死に逃げる。


黒炎盾ヘルフレイムシールド!」


 僕はまた黒炎盾ヘルフレイムシールドを使った。当然限界突破なんかできてない。発動までの時間が速いなとかスレイドさんが呟いている。


大回復メガヒール!」


 その隙にユイがレティシアさんを回復する。「な、なぜ」と呟いて自分の足で立ったレティシアさんにクレアが上級回復薬を渡した。


「私は『レティシアと愉快な仲間たち』のリーダーに回復魔法を使っただけだよ」

「ユイ様の言う通りでリーダーを助けるのは当然のことです。それに例え自分を殺そうとした人でも助けるのがハル様です」


 空中から2体のグリフォンが迫る。さらにもう1体も近づいている。見ると後ろには回り込んだフェンリルが3体だ・・・。

 

 絶対絶命だ!


 ユイとクレアが僕を見ている。僕を信頼している目だ。この期に及んでも僕を信頼しているのだ。僕のミスが原因なのに・・・。二人の信頼に応えたい。


 何かないのか・・・。


 魔物たちが迫る。


 ああー!


氷盾アイスシールド!」

氷盾アイスシールド!」

氷盾アイスシールド!」


 レティシアさんだ! 


 レティシアさんが魔法の三重発動で防御魔法の氷盾アイスシールドを三方向へ発生させた。レティシアさんの魔法の三重発動は凄く上達している。最初に会ったときには氷槍アシスジャベリンを3つ戦闘前に準備する程度だったのに。戦闘中に魔法の三重発動をこんなに速く準備することはできなかったはずだ。しかも防御魔法を三重発動したのは初めてな気がする。


「ハルくん、諦めるな! 私に殺されそうなっても諦めなかったんだからな」


 いつものレティシアさんの口調に戻っている。そして、いつものようにユイを守る位置に立つと盾を構えた。クレアも隣に立っている。


 バリン!

 バリン!

 バリン!


 次々と氷盾アイスシールドが魔物たちに破壊されていく。


岩盾ロックシールド!」

岩盾ロックシールド!」


 ユイとスレイドさんも防御魔法を使う。


「これで『レティシアと愉快な仲間たち』も5人か」


 盾を構えたレティシアさんがニヤとした。こんな状況なのに、やっぱりレティシアさんは度胸がある。


 その後も僕たちは防御と逃げに徹した。だが、もう時間の問題だ。


「ハルたちだけでも逃がしたいんだが。すまない。アルベルトのせいで。俺があいつの気持ちにもっと早く気がついてさえいれば・・・。とりあえず俺が囮にでなってみるか」


 スレイドさん・・・。


 イネスさんは2回目の挑戦のとき、なぜかアルベルトさんやスレイドさんを誘わずダグラスさんだけを誘った。2回目の挑戦までに10年間もの時間を要した。バイラル大陸出身の二人をパーティーに加えた。そして2回目はあっさり5階層をクリアした・・・。


 パーティーに誘われなかったアルベルトさんは、そのことにより精神を病んでしまった・・・。


「よし! 俺が囮になって反対方向に走る。アルベルトのしたことには俺にも責任がある」


 スレイドさんが5人の中で一番息が上がっている。


「そうか。なら私も一緒に囮になろう。最後は『レティシアと愉快な仲間たち』のリーダーとして死ぬのも悪くない」


 スレイドさんとレティシアさんが囮になるという。


「クレアさんの言う通り、私は迷っていた。迷っていたということは、ネロアの指示に従って行動し、その結果命を落としたのは兄さん自身の判断の結果だと分かっていたからなんだろう。だが、だとしても兄さんが死んでいい理由にはならない。違うかハルくん?」


 レティシアさん・・・。


 僕は必死で逃げながら考える。


 ほんとはあのときどうすべきだったのか? ネイガロスは僕たちを殺そうとしていた。だからも僕も相手をした。ネイガロスに腹を立てていた僕は煽ることさえした。最終的にネイガロスを殺したのはイズマイル団長だが、確かに切っ掛けを作ったのは僕だ。


「ハル様・・・」


 クレアの言いたいことは分かる。


「ハル・・・」


 隣で走るユイが僕を励ますように見た。


 そうだ、僕が責任を感じること自体が傲慢な気がする。


「まあいい。あの世で兄さんの気持ちを尋ねてみるとするか」


 レティシアさんが僕の考えていることを知ってか知らずかそう言った。


「待ってください」と僕は今にも囮になって反対方向へ駆け出しそうなレティシアさんとスレイドさんを止める。

「レティシアさん、いつだったかダグラスさんを知っていると言ってませんでしたか?」

「ん? いや人違いかもしれない。ベヒモフの討伐隊で一緒だった冒険者に似ていると思ったんだ。私が駆け出しの頃だ」

「それならダグラスで間違いないぞ」とスレイドさんが言った。

 

 もしかすると・・・。


 僕はあの光る石碑を思い出した。最初の西の石碑、2つ目の東の石碑、そしてさっきの3つ目の石碑、どれも魔力を流すと眩しいほどに光った。だけど・・・。

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 もし少しでも面白い、今後の展開が気になると思っていただけたら、ブックマークへの追加と下記の「☆☆☆☆☆」から評価してもらえるとうれしいです。

 また、忌憚のないご意見、感想などをお待ちしています、読者の反応が一番の励みです。

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