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6-18(5階層その12).

 アルベルトさんたちが去ったあと「さて、私たちはどうする?」とレティシアさんが言った。


 クレアが僕の袖を引っ張る。


「何?」


 僕はクレアのそばに行くと小声で尋ねた。クレアは目でユイのことも呼ぶ。僕たちは3人で内緒話でもするかのような体制になった。


「おいおい、また仲間はずれか。お姉さん悲しいよ」


 レティシアさんが拗ねたような顔で言った。


「そんなことありませんよ。レティシアさんもこっちへ」

「え、いいのか」


 レティシアさんはうれしそうだ。


 クレアは「サイクロプス3体のときと同じでハル様の必殺技を使うしかないと思います」と言った。


 クレアの言っているのは二段階限界突破した限界突破した黒炎爆発ヘルフレイムバーストのことだろう。あれが僕の攻撃の中で最も威力がある。なんせ神話級の火龍にさえ大きなダメージを与えたのだから。


「そうね。3体まとめてダメージを与えるとすればあれしかないよね」

「サイクロプスのときのあれかー。それしかないか」


 ユイとレティシアさんもクレアに同意する。


「サイクロプスはフェンリルほど素早くなかった。それでも3体全部に直撃はしなかったからレティシアさんの魔法で追撃してもらった」

「うん、そうだったよね」

「ハル様、魔法の二重発動を使ってあの必殺技を2回続けて使ったらどうでしょうか?」

「え、ハルくんは、あの魔法も二重発動できるのか?」

「ええ」


 でも・・・。


「サイクロプスのときは魔法の二重発動で片方は黒炎盾ヘルフレイムシールドに魔力を溜めていた。そうしないと僕が黒炎爆発ヘルフレイムバーストに魔力を溜める時間を稼いでくれているパーティーメンバーを守れない」

「なるほどな」


 レティシアさんに僕のできることがバレてしまっているが、この際仕方がない。エラス大迷宮はそんなに甘くない。


 そう二段階限界突破した黒炎爆発ヘルフレイムバーストは最上級の攻撃魔法を凌ぐ威力がある。でも、最上級の魔法以上に魔力を溜めるのに時間がかかるという欠点がある。もともと魔力を溜めるのが速い僕でもそうだ。その間、誰かに魔物を引き付けたり牽制してもらったりする必要がある。そしてその人たちを守るため二重発動でもう片方は防御魔法を用意しておくというのが、これまでの僕の戦い方だった。


「ハル様、今はユイ様やレティシア様もいますから、なんとかなるのでは?」


 僕はクレアの言ったことを考えてみる。


「やっぱりだめだよ。イデラ大樹海のときも最初はフェンリルに黒炎爆発ヘルフレイムバーストを使おうとした。でも当たらないんだよ。確か何回か試したけどダメだった。だから黒炎弾ヘルフレイムバレットのほうが当たりやすいと思いついたんだよ。あのとき初めて黒炎弾ヘルフレイムバレットを限界突破したんだ」

「そうでした」

「でも、ここでフェンリルと戦ってみたらその黒炎弾ヘルフレイムバレットでさえ簡単には当たらないくらいフェンリルが速いってことが分かった」

「はい」


 比較的発動の速い黒炎弾ヘルフレイムバレットでさえ当てるのは容易ではない。まして相手は3体だ。


「ユイ、風属性中級魔法の稲妻ライトニングはどうかな? 最上級の天雷ミリアッドライトニングと同じで相手を麻痺させる効果があるよね」

「うん」

「しかも直撃しなくても近くの敵を麻痺させる」

「そうなんだけど。稲妻ライトニング天雷ミリアッドライトニングと違って一本だけ稲妻を発生させる魔法だから、その一本を確実に当てるのは無理だと思う」


 ユイは天雷ミリアッドライトニングは使えない。


「でも、風属性の魔法って速いよね」

「そうなんだけど。やっぱり魔法って発動までにちょっとは時間がかかるでしょう。あのフェンリルの動きを見たら当たりそうな気がしないよ」


 やっぱり、先にフェンリルの動きを封じないとだめか・・・。


「3体も相手にする以上、ハル様の黒炎爆発ヘルフレイムバーストを有効に使うしかないと思うのですが・・・」


 僕はレティシアさんを見た。レティシアさんは首を横に振った。レティシアさんにもいいアイデアはないみたいだ。


 うーん、二段階限界突破した黒炎爆発ヘルフレイムバースト、あれが僕の最大火力の攻撃であることは確かだ。でも、どうやって凄い速さで動き回る3体のフェンリルに・・・。


 そうだ! 


「ユイ、クレア、レティシアさん」

「うん」

「はい」

「なんだ?」



 僕は思いついた作戦を3人に説明した。





★★★





「クレアさん、大丈夫か?」

「はい。もう行けます」


 僕たちはフェンリル3体を倒すべく挑戦しているが、もう2回失敗している。やっぱりこの作戦には無理があるのでは・・・。それにクレアの負担が大きすぎる。さっきもギリギリで逃げ延びた。


「ハル様、そんなに心配そうな顔をしなくても大丈夫です」

「クレア・・・」


 ユイも心配そうだ。


「ユイ様も、ほらユイ様の魔法でもうこの通り何の問題もありません」


 クレアは体を動かすと、両手をぶんぶんと振って何も問題ないとアピールする。


 それでも僕とユイが心配していると「ハル様、ユイ様、えっと三度目の正直? ハル様とユイ様の国の諺です。ヨルムンガルドのときも三回目で成功しました」と言った。


「分かったよ。でもとにかく危なくなったらすぐに逃げるんだ。僕たちも援護する」

「はい」

「その代わり、今度だめだったら、今日は、一旦撤退しようよ」


 フェンリルは速いから逃げるのも命がけだ。3人の防御魔法とレティシアさんの盾のおかげで何とか逃げ切れている。どんなにフェンリルが速くても一定の距離逃げればそれ以上は追ってこない。それが迷宮の仕様だ。


「ユイさんの言う通りだ。それじゃあ、本日最後のアタックだ! クレアさん! それにハルくんにユイさんも準備はいいな?」


 レティシアさんの言葉に全員が気を引き締めて大きく頷いた。


 ここから北を見ると、ちょっと離れたところにフェンリル3体がゆっくりと辺りを巡回するように歩いている。


「行きます!」


 クレアが全力で走りだしてフェンリルたちの中心に突っ込んだ。クレアに気がついたフェンリルがクレアを囲むように近づいてくる。

 クレアは向きを変えて3体のフェンリルを連れて回るように動く。しかしフェンリルは速い。たちまち追いつかれる。


 クレア!


黒炎盾ヘルフレイムシールド!」


 僕は黒い炎の盾を生成した。盾と言うより壁のように発生させている。


 バン!


「ぎゃう!」


 1体のフェンリルが黒炎盾ヘルフレイムシールドぶつかり悲鳴を上げた。僕は黒炎盾ヘルフレイムシールドを二段階限界突破している。大きめに発生させているが、それでも簡単には破壊されない。


 成功だ!


 クレアは90度向きを変えて逃げる。


岩盾ロックシールド!」


 ユイがクレアがフェンリルに追いつかれる前に岩盾ロックシールドを発生させた。今度はちょっと距離があることと、さっき僕の黒炎盾ヘルフレイムシールドに激突して痛い目にあったのを覚えていたのかフェンリルたちは岩盾ロックシールドにぶつかる前に向きを変えた。


 よし! 上手く行った。1回目はここで岩盾ロックシールドが破壊され失敗した。ユイは、僕の黒炎盾ヘルフレイムシールドと同じで岩盾ロックシールドを壁のように大きめに発生させているので強度はそれほどでもない。


 クレアはすでに再度90度向きを変えて逃げている。


 レティシアさんが「氷盾アイスシールド!」と叫んで氷の盾を発生させた。


 上手い! 


 フェンリルたちは氷盾アイスシールドに激突する前に向きを変えてクレアを追いかける。2回目はここで失敗したが今回は上手く行った。クレアの言った通り3度目の正直だ。


 これで3体のフェンリルは3種類の防御魔法に囲まれ一定の範囲に閉じ込められた。ただし、僕の生成した二段階限界突破した黒炎盾ヘルフレイムシールド以外は伝説級のフェンリルに激突されたら一発で破壊されるだろう。だけど、破壊されてもフェンリルたちを一定時間閉じ込めることができればOKだ!


「よし、私も行く!」


 レティシアさんは走り出すとクレアのもとに駆けつけた。


 クレアとレティシアさんは、フェンリルたちが唯一防御魔法に囲まれていない方向に仁王立ちになってフェンリルたちに対峙する。レティシアさんは盾をフェンリルたちの方に向けて構えている。


黒炎爆発ヘルフレイムバースト!」


 僕は二重発動で準備していた二段階限界突破の黒炎爆発ヘルフレイムバーストを展開する。僕の最強の必殺技だ!


 3体のフェンリルの頭上に黒い炎の塊が現れる。その炎の塊はゆっくり降りてきて3つの防御魔法とクレアとレティシアさんに囲まれた3体のフェンリルを包むように広がった。威力を維持するため必要以上には広げない。


 グアン!!


「ぐぅーー!」


 レティシアさんの盾に一体のフェンリルが激突してレティシアさんが3メートルくらい後退した。レティシアさんはうめき声を上げながらも両足を踏ん張って耐えた。そこをクレアが攻撃して押し返す。狭いので3体同時に攻撃してこなかったことも幸いした。


 バリン!

 バリン!


 別のフェンリルたちがユイの岩盾ロックシールドとレティシアさんの氷盾アイスシールドに激突し次々と破壊した。


 だけど、破壊しただけで外には出ていない。フェンリルたちは黒い炎の塊に包まれたままだ。防御魔法は十分役目は果たしてくれた!


「いけぇぇー!!」


 ドゴゴゴゴオオオォォォォーーーン!!!! 


 3体のフェンリルを包んだ黒い炎の塊が大音響を立てて爆発した。僕が最初に作った黒炎盾ヘルフレイムシールドが破壊される音も交じっている。


「ギヤオオオォォォ!!」

「ぐぎゃあーー!!」

「グルゥゥゥー!!」


 3体のフェンリルが咆哮する。


 爆発の後には、ぶすぶすと毛皮から煙を上げて地面に伏せている3体のフェンリルの巨体があった。まだ低く唸っているので死んではいない。なんとか立ち上がろうとしている個体もいる。さすがに伝説級だ。


炎竜巻フレイムトルネード!」


 ユイの合成魔法が3体のボロボロになったフェンリルを蹂躙する。普段は牽制するためによく使っているが、直撃すればその威力は最上級並みだ。そして今3体のフェンリルはほとんど動くことができない。


「ぐぅぅーー!」

「ガルゥー!」

「くぅ・・・」


 炎の竜巻の直撃を受けたフェンリルたちは苦しそうにうめき声を上げていたが、やがてそれも聞こえなくなり、3つの大きな魔石がその場に残された。


「なんか、最後はあっけなかったね」

「うん」

「はい」

「作戦勝ちだな」



 防御魔法が使えるメンバーが3人いたことが成功の鍵だった。例え一発で破壊されたとしても一瞬でも3体のフェンリルを狭い場所に閉じ込めることができればいい。神話級の火龍にさえ大ダメージを与えた二段階限界突破した黒炎爆発ヘルフレイムバーストを当てさえすれば勝利は約束されていた。


「でも、今回はお宝は無しみたいだね」


 ユイの言う通りで魔石以外にはお宝のようなものは見当たらない。5階層で一番の強敵だったはずなのに・・・。


「まあ、そんなに毎回落ちるものでもないさ。他の5パーティーが何年もかかっても倒せないフェンリル3体を倒したんだ。それで良しとしよう」


 その通りだ。


「最初にハルくんがあの頑丈な防御魔法を使ったのが正解だった」


 あの黒炎盾ヘルフレイムシールドは二段階限界突破していたので、さすがのフェンリルも簡単に破壊できなかった。あれでフェンリルが防御魔法を警戒したのも成功の要因だ。それでもユイとレティシアさんが防御魔法を発動するタイミングが難しかった。すぐに破壊されてしまっては役目を果たせない。


 三度目で上手く行ってよかった・・・。


「さて、探すか」


 そうだ。ここにも石碑はあるのか、探さなくては・・・。


 そして、石碑はあった。それほど時間をかけることなく見つけることができた。


「これまでと同じだな」


 石碑は前の二つと同じで3方向を遺跡の壁に囲まれている。


「ハル、今度のレリーフは勇者一行と魔王たちが両方とも描かれているよ」

「ほんとだ」


 観察すると勇者と賢者らしき人物が大きく描かれ周りに複数の人物がいる。日本人らしい顔つきだ。これは最初の石碑と同じだ。そして、その下には魔王と4人の魔族が描かれている。魔王と四天王だろうか。これは二つ目の石碑と同じだ。そう言えば、四天王ってどうやって選ばれるのだろう? エリルには聞かなかった。やっぱり混沌の神バラスが選ぶのだろうか?


「とにかく、これまでと同じで魔力を通してみるぞ」


 レティシアさんが石碑に触れる。前二つと同じで石碑が光だした。段々光が強くなるのも同じだ。よく見ると勇者と賢者、魔王と四天王が強く光りを放って浮かび上っている。


 これは何か意味があるのだろうか?


 強く光っている勇者や魔王を見ているとやがて光は収まった。


「特に何も起こらないな」


 最後の石碑に魔力を通したが、これまでと同じく光っただけで何も起こらない。


 その後、全員が同じことをしたが、石碑が光っただけで何も起こらなかった。今までと同じだ・・・。


 僕はなおも石碑を観察していた。何かヒントはないのか?


「きゃあーー!!!」


 突然悲鳴が聞こえた。ユイの声なのか? 一体何が?


「れ、レティシア様・・・」


 クレアの呆気にとられた声に反応して顔を上げると、レティシアさんがユイの首元に短剣を突きつけてこちらを見ていた。


「レティシアさん、いったい何を?」

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