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6-16(第5層その10~北へ).

いよいよ、5階層最後の北方面です。

 アルベルトさんたちから話を聞いた後、数日間の休息をとった僕たちは、5階層最難関といわれている北へ向かった。


「グリフォンって空を飛べるんですよね」

「そうらしいな。さすがに私は見たことがない。ただ、私の故郷の近くに昔現れたって話は聞いたことがある」

「もしかしてイネスさんが討伐隊で活躍したのはそのときのことなのでは?」


 そう何度もグリフォンが現れると思えない。


「そうかもな。私の一家はそのときはすでに故郷のドロテア共和国を出てガルディア帝国へ移っていた。だから詳しいことは知らない。噂で聞いただけだ。父は貧しい行商人でな。勢いのある帝国へ移ったんだが、状況は大して変わらなかったな」


 いつになく 真面目な口調でレティシアさんが言った。いつも何を考えているのか分からないレティシアさんだけど結構苦労しているのかもしれない。


「とにかくグリフォンは四つ足の獣系魔物だが空を飛べる。上半身が鳥型なんだ。だから前足には鋭い爪を持っている」


 僕がアニメやラノベで知っているのと同じだ。


「ハル、空を飛ぶって厄介だね」

「うん」

「やはり、ハル様やユイ様の魔法でまず撃ち落とすのがいいのでしょうか?」

「頑張るね」


 ユイはクレアの言葉に力こぶを作るポーズをしてニコッとした。


 北方面に出るもう一種類の魔物はフェンリルだ。フェンリルはイデラ大樹海で倒したことがある。しかも特殊個体だ。


 僕は、あのときのことを思い出した。


 僕の一番の必殺技である限界突破した黒炎爆発ヘルフレイムバーストを当てようとしたけど、素早いフェンリルには当たらず、結局、限界突破した黒炎弾ヘルフレイムバレットで仕留めた。あのとき、初めて黒炎弾ヘルフレイムバレットを限界突破したんだった。


 同じことが通用するだろうか?


 圧倒的に押されていて僕はもうボロボロだった。だから相手にも油断があったかもしれない。それにこめかみに当たったのはまぐれのようなものだ。しかもこめかみを貫いたのにすぐには死ななかった。あれは特殊個体だったからだろうか? 分からない。どっちにしてもイデラ大樹海であいつを倒せたのは今考えても運がよかった。


「ハル、どうかしたの?」


 クレアも首を傾げてこっちを見てる。


「いや、イデラ大樹海で倒したフェンリルのことを考えてた」

「私のローブの材料になってくれたやつだね」

「うん」


 やはり、イデラ大樹海を生きて脱出できたのは奇跡だ。最初のハクタクは、それまで戦闘に参加していなかった僕が突然魔法を使ったことで不意をつけた。ヨルムンガルドはバジリスクと間違えて戦ったんだけど、僕がすぐに硬直したことが逆に功を奏して魔法で両目を潰した。ヒュドラのときは絶体絶命のときにエリルが現れた。火龍のときもエリルがいた。特殊個体のフェンリルのときは・・・。そして戦いの中で限界突破や魔法の二重発動を会得し、エリルから加護と黒龍剣を授かった。


 うん、やっぱり奇跡だ。


「ハルくんたちはフェンリルを倒したことがあるんだったな」

「はい。今そのことを考えてました。かなり運がよかったですね。危うく死ぬとこでした」

「そうか。だが、今回は私がいるから余裕だな」


 確かにレティシアさんが僕たち3人に欠けている盾役を引き受けてくれるのは大きい。レティシアさんがユイを守ることでユイが安心して聖属性魔法を使える。これまでの5階層の戦いでも、ユイが聖属性魔法で何度も戦況を立て直した。はっきり言って、それが無ければこんなに早くここまで来ることはできなかった。


 僕と同じようなことを考えていたのか、クレアが「やっぱりユイ様がいることが大きいですね」と言った。

「そうだな。私もそれは認めざる得ない。アルベルトさんもイネスさんのパーティーに上級の聖属性魔法を使える魔術師、確かロザリーさんだったか、がいるのが大きいようなことを言っていたな」


 聖属性の上級魔法は範囲回復エリアヒールだ。その効果は中級回復薬と上級回復薬の間くらいだが一度にパーティー全員を回復できる。ユイはそれより上の超範囲回復エクストラエリアヒールを使える。超範囲回復エクストラエリアヒールは上級回復薬を凌ぐ高い効果で全員を回復する。回復速度だって速い。はっきり言ってチートだ。


 その日は、フェンリルにもグリフォンにも遭遇しなかった。北で最初の魔物グリフォンに遭遇したのは僕たちが『始まりの村』を出て5日目のことだった。


黒炎弾ヘルフレイムバレット!」

黒炎弾ヘルフレイムバレット!」


 僕は、空を飛ぶグリフォンに魔法の二重発動を使って黒炎弾ヘルフレイムバレットを連発した。できるだけ小さく凝縮して発動している。限界突破はせず手数優先だ。


 それを見たユイが「まるで銃を使っているみたいだね」と言いいながら「氷弾アイスバレット!」と僕に続いてグリフォンに魔法で攻撃した。


氷槍アイスジャベリン!」

氷槍アイスジャベリン!」

氷槍アイスジャベリン!」


 僕たちに対抗したわけでもないだろうがレティシアさんが氷槍アイスジャベリンを3発同時に放った。全然当たらない。それでもレティシアさんは以前よりも身体能力強化をしながら魔法を三重発動することに慣れてきている


「なかなかやるな!」とレティシアさんが3本の氷槍アイスジャベリンをすべて避けたグリフォンを褒めた。避けたというより最初から狙いが外れているように見えたけど・・・。


黒炎弾ヘルフレイムバレット!」

黒炎弾ヘルフレイムバレット!」


 レティシアさんのコントロールが今一の氷槍アイスジャベリンに油断したのか僕の黒炎弾ヘルフレイムバレットがグリフォンの羽を捉えて小さな穴を開けた。


「ギャーー!!」とグリフォンが叫ぶ。


 限界突破していない黒炎弾ヘルフレイムバレットは大したダメージを与えてはいない。怒ったグリフォンが高度を下げて僕に襲い掛かってきた。


「ハル様!」


 クレアが僕を守ろうと前に出た。グリフォンの前足の鉤爪がクレアに迫る。


 速い!


炎竜巻フレイムトルネード!」

「ユイ、ナイス!」


 ユイの最強の合成魔法がグリフォンを襲う。炎の竜巻に巻き込まれたグリフォンはいったん吹き上げられた後、コントロールを失って地面に落ちた。グリフォンはヨロヨロと立ち上がったが、そこにクレアが風属性魔法の補助も使って高くジャンプして斬り掛かった。


 ズサッ!


「ギャウウ!」


 グリフォンは素早く動いて頭に致命傷を受けるのを避けたが、それを予想していたクレアは羽の付け根辺りを斬った。さらに返す刀で羽付近を再び斬った。


「クレアもナイスだ!」


 これで飛行能力を奪った。


 僕も黒龍剣を持って斬り掛かる。ときどき黒炎弾ヘルフレイムバレットも使って攻撃する。今度は限界突破をしている。

 レティシアさんはユイを守りながら慎重に剣で攻撃している。クレアはレティシアさんがユイを守る役目を引き受けてくれているので自由にグリフォンを攻撃する。


 これは勝ったと思ったが、グリフォンは地上でも思った以上に素早く、そして強い。長い戦いが続く。


範囲回復エリアヒール!」


 ユイが上級魔法で全員を回復してくれた。ありがたい。ユイの回復魔法で全員が元気を取り戻しグリフォンへの攻撃を一層強めた。

 その後も戦いは続いたが、ユイが再び範囲回復エリアヒールを使った後、まもなくして・・・。


 ズジュ!


 ついにクレアの赤龍剣がグリフォンの頭部を捉えた。


「ギャオォォォーーン!!!」


 ドン!!


「うわあぁー!」


 グリフォンが狂ったように暴れてグリフォンの羽が僕を直撃した。僕は地面を5メートルくらい転がった。


「ハル!」


 ユイが叫びながら走ってきて「大回復メガヒール!」と僕に回復魔法をかけてくれた。


「あ、ありがとう」

「大丈夫」

「うん」


 僕は頭を振りながらユイに応える。レティシアさんもそばに来て盾を構えて僕とユイを守ってくれている。


「ハルくん、そろそろ止めを刺すぞ」

「はい」


 グリフォンはクレアの一撃で相当なダメージを受けている。レティシアさんの言う通りだ。ここで決めなければ。


黒炎弾ヘルフレイムバレット!」


 僕たちはクレアが引き付けてくれているグリフォンに攻撃を再開した。その後、僕たちはなんとかグリフォンを討伐することに成功した。


「思った以上に時間がかかったな」


 それにユイの聖属性魔法にかなりお世話になった。


「やっぱり北が難関ですね」

「ああ、とにかく素早いのは厄介だ。とりあえず、これで次はフェンリルだな」

「フェンリルは空を飛べない代わりに地上ではグリフォンよりさらに速いです。それに地上での戦闘力はグリフォンより上だと思います」

「それは厄介だな」


 本当にあのとき特殊個体のフェンリルを倒せたのが今考えても不思議なくらいだ。


「とにかく今日は疲れた。安全地帯が近くにある。一泊して体を休めよう」


 レティシアさんの提案に全員異論はなかった。


 その日の夜、僕はまた夢を見た。はっとして目を覚ますと、ユイが体を起こすのが見えた。


 ユイは僕に気がつくと「ハルも目が覚めたの?」と訊いてきた。僕が「うん」と返事をすると、ユイは「なんか夢を見たの」と言った。


 ユイも夢を見たのか。


「なんか黒いものが私を呼んでいる気がした」


 その言葉に僕も思い出した。そうだ何かが僕を呼んでいた。でもそれは黒いものではなく白いものだったような気がした。聖女だと言われたユイが黒いものに呼ばれて、僕が白いものに呼ばれるなんてちょっと不思議な気がした。


 あれ、レティシアさんがいない。トイレだろうか?


 その後、夢のことを考えていたら知らない間に眠っていた。

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