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6-9(5階層その3).

「やっぱり3体はきついです!」


  レティシアさんに連れられて最西を目指した僕たちは3体のサイクロプスに囲まれている。


「いや、ちゃんと3体出るって言っただろ、ハルくん」

「それはそうですけど・・・」


 ガキッ!


「ク、クレアありがとう」


 すでにクレアの姿はそこにはなくユイを守りに行っている。


超範囲回復エクストラエリアヒール!」


 ユイの最上級回復魔法でパーティー全体が立て直された。やっぱりユイの魔法は凄い。だが、すでにそんなに間を置かずに2回目の発動だ。そんなに連発できる魔法じゃない。これは僕も出し惜しみしている場合じゃない。


「それにしてもユイさんの回復魔法は凄いな」


 レティシアさんも驚いている。


「レティシアさん、剣で戦いながら同時に3発の氷槍アイスジャベリンを放つってできますか?」

「できなくないが、準備するのに凄く時間がかかる。あのときみたいにあらかじめ準備しておければいいんだが」


 やはり身体能力強化しながら属性魔法を使うのはかなり難しいみたいだ。でもレティシアさんはできないことはないと言った。


「それじゃあ、レティシアさん、申し訳ないんですけど、剣と盾でユイを守りながら、3発の氷槍アイスジャベリンを準備してください」

「うーん、時間がかかるぞ」

「それでもお願いします」

「分かったよ。どうもハルくんは美人のお姉さん使いが荒いな」

「クレアは引き続きサイクロプスたちを牽制して、倒す必要はない防御主体で牽制して」

「ハル様、了解です」

「ハルくん、無視するのはよくないよ」

「え? レティシアさん、何か言いましたか?」

「なんでもないよ」

「ユイはとにかく強力な魔法でクレアを補助して。しばらく回復はいい」

「分かった」


 クレアは僕の指示通り素早く動き回りながらサイクロプス3体を牽制する。


氷竜巻アイストルネード!」


 ユイの出した氷の竜巻がサイクロプスたちの間を動き回る。ユイ得意の上級同士の混合魔法で最上級に近い威力がある。サイクロプスたちも氷の竜巻を避けようとしてバランスを崩している。

 バランスを崩した1体のサイクロプスの角を斬ろうとクレアがジャンプするが、その後ろから別のサイクロプスの太い腕がクレアに襲い掛かる。クレアは空中で体を捻ってサイクロプスの太い腕をぎりぎりのタイミングで避けたが、地面にきれいに着地することはできずにゴロンと転がった。そこを3体目のサイクロプスが踏みつぶそうとする。


黒炎盾ヘルフレイムシールド!」


 バキッ!


 黒炎盾ヘルフレイムシールドごとクレアを踏みつぶそうとしたサイクロプスだが黒炎盾ヘルフレイムシールドに跳ね返されて仰け反っている。


「ハル様ありがとうございます」


 僕は黒炎盾ヘルフレイムシールドを限界突破していた。防御魔法も限界突破できるのだ。一方で、僕は魔法の二重発動を使って必殺技である黒炎爆発ヘルフレイムバーストに魔力を溜め続けている。

 

 レティシアさんも剣と盾を使ってサイクロプスたちを牽制している。でも、いつもより動きが鈍い気がする。たぶん氷槍アイスジャベリンを三重発動しようとしているからだろう。

 もちろん僕も黒龍剣を使ってサイクロプスを攻撃する。黒龍剣は凄い切れ味で当たれば必ず傷をつけるが、いかんせん僕の剣技では単発の攻撃に留まってしまう。


炎竜巻フレイムトルネード!」


 ユイが今度は火属性と風属性の上級同士の混合魔法を放つ。炎の竜巻は動き回ってサイクロプスたちを牽制する。

 

 同じような攻防が繰り返される。


 ユイが回復魔法じゃなくて攻撃魔法を使っているので全員の傷が増える。クレアも肩で息をしている。ユイはレティシアさんが守っているがレティシアさんも魔法の準備をしながらのためかいつもより動きが鈍くダメージが蓄積している。


 限界が近い・・・。


 僕はチラっとレティシアさんを見る。レティシアさんが首を横に振る。


 まだか・・・。


 クレアが2体のサイクロプスの間を縫うように移動して牽制する。ユイの出した炎の竜巻もサイクロプスの間を動き回っている。その前の氷の竜巻はすでに消えている。


 あ!


 サイクロプスが振り回した腕がクレアに掠った。クレアは自ら後方に飛ぶようにしてダメージを軽減しようとしたみたいだけど、立ち上がるスピードが遅い。肩で息をしている。僕は急いでクレアの方に走る。


「クレア、大丈夫?」

「大丈夫です」


 まずい! 今度はユイとレティシアさんのほうに2体のサイクロプスが向かっている。一体は目の前にいる。


「クレア、下だ!」


 目の前のサイクロプスの股の間を通って僕とクレアは急いでユイとレティシアさんの下に駆けつける。レティシアさんも入れて3人でユイを守るように3体のサイクロプスと対峙する。


「ハルくん!」とレティシアさんが叫んだ。


 どうやらやっと魔力が溜まったらしい。


「レティシアさん、僕が魔法を使った後でレティシアさんが魔法を使って下さい!」

「分かった!」

「クレア!」


 クレアが僕の意図を察して3体のサイクロプスをできるだけ同じ場所に集めるように動く。


「ユイ!」

「分かってるよ。炎竜巻フレイムトルネード!」


 ユイも炎の竜巻を操ってクレアを補助する。


黒炎爆発ヘルフレイムバースト!」


 クレアとユイのおかげで一か所に集まっている3体のサイクロプスの頭上に黒い炎の塊が出現した。そしてそれは徐々に大きくなり3体のサイクロプスを包む。3体のサイクロプスは黒い炎の塊から脱出しようとするが、クレアの剣とユイの魔法がそれを許さない。


「クレア! 離れて!」


 クレアは素早くサイクロプスたちから距離を取る。


「こっちだ!」


 僕の声で全員レティシアさんの後ろに集まった。今だ!


 ドゴォォォーーーン!!!


 辺りを震わすような轟音が響いて黒い炎の塊が爆発した。僕の最大火力を誇る二段階限界突破の黒炎爆発ヘルフレイムバーストだ!


 3体のサイクロプスは爆発の衝撃で吹き飛ばされた。僕たち4人もレティシアさんの盾の後ろで爆風に耐える。


 一体のサイクロプスには右手がない。

 もう一体は全身が爛れて膝をついている。

 最後の一体は仰向けに倒れている。


 最後の一体は倒したと思ったのだが上体を起こしてなんとか立ち上がろうとしている。胸に大きな傷を負っているのが見える。これでまだ死んでないとはさすがに伝説級だ。3体ともなんとか黒い炎の塊から脱出しようと動いていたので直撃とまではいかなかったようだ。もし直撃できていれば戦闘は終わっていたかもしれない。なんせ二段階限界突破の黒炎爆発ヘルフレイムバーストは、あの火龍にさえ大ダメージを与えた魔法だ。


 でも・・・。


「レティシアさん!」

「まかせろ!」


 レティシアさんが左手に持った盾を小さく3回振るような動作をした。


氷槍アイスジャベリン!」

氷槍アイスジャベリン!」

氷槍アイスジャベリン!」


 3つの巨大な氷の槍が3体のサイクロプスに向かう。

 

 一発目の氷槍アイスジャベリンは胸に大きなダメージを受け、上体を起こそうとしてたサイクロプスの胸を貫いた。僕がつけた傷を直撃したのだ。


 これはさすがに死んだ・・・。


 二発目の氷槍アイスジャベリンは右手を失ったサイクロプスの顔面を直撃し顔の4分の1を吹き飛ばした。それでもまだ立っている!


 ズサッ!


 だけど、ジャンプしたクレアの赤龍剣がサイクロプスの頭上から振り下ろされ半分欠けていた角ごと斬り裂いた。


 サイクロプス、お前はもう死んでいる・・・。


 三発目の氷槍アイスジャベリンは焼け爛れたサイクロプスの胸に当たった。サイクロプスは氷の槍に押されて仰向けに倒れた。


炎柱フレイムタワー!」


 倒れたサイクロプスの下から炎の柱が吹き上がった。ユイの上級火属性魔法だ!


 サイクロプスは炎に包まれ、悲鳴を上げていたがやがてそれも聞こえなくなった。 


 こうして気がついたら僕たちの前に大きな3つの魔石があった。


「ハル様あれは・・・」


 クレアの指さす方見ると何かがキラっと光っている。


「お宝だ!」


 レティシアさんが走って取りに行く。


「やったー!」


 レティシアさんがぴょんぴょん飛び回って掲げているのは武闘祭の優勝賞品でコウキが貰ったのによく似た腕輪だ。


 伝説級の魔物3体をなんとか4人で倒すことができた。イデラ大樹海では伝説級一体でも苦戦した。今は4人いるとはいっても、僕は自分が強くなったことを実感した。


 僕はふうーっと大きく息を吐いた。





★★★





「この辺りですでに5階層の最西ですよね」

「地図に寄ればそうだな」


 サイクロプス3体を倒した後も僕たちは辺りを探索していた。僕たちはサイクロプス3体との戦闘でかなりのダメージを負ったが、すでにユイの魔法で回復している。


 やっぱりユイがいることは大きなアドバンテージだ。これまで5階層以上に挑んだパーティーでも聖属性魔法が最上級まで使えるメンバーがいたのは勇者パーティーだけだろう。いや、魔王パーティーはどうだったんだろう?


「ハル、あそこに遺跡みたいなものが見えるよ」

「ほんとだ」

「よし、行ってみよう」


 それは遺跡というより壁だった。かなり大きい。迷宮の力なのか崩れたりもしていない。そしてコの字型になった壁に囲まれた中央には・・・。


「石碑だな・・・」


 巨大な石碑があった。大きな墓石のようにも見える。


「なんか剣を持った人と杖を持った人が描かれてる」


 ユイの言う通りで中央に二人の人が描かれている。レリーフだ。一人は剣、もう一人は杖を掲げている。


「ハル様、これは」

「うん、勇者と賢者に見えるね」


 他にも3人が描かれている。勇者たちの仲間・・・僕たちと同じ異世界人だろうか?


「これは魔道具かもしれないな」


 確かにレリーフが施されていると言えば・・・。


「私たちは早くも6階層への扉を見つけたのかもしれない。よし!」

「あ!」


 僕が止める間もなくレティシアさんはその石碑に触れた。どうやら魔力を流しているらしい。

 

 するとレティシアさんの魔力に呼応してなのか石碑が光り始めた。特に勇者と賢者そしてその仲間たちのレリーフが眩いばかりに光っている。光は強くなり石碑を直視できない。


「ユイ、クレア」


 僕はユイとクレアの手を取る。まさかまた転移でもさせられたら・・・。


「何も起こらないな・・・」


 レティシアさんの言う通り、しばらくすると石碑は光るの止めて元に戻った。その後はレティシアさんが魔力を流しても光らない。


 もしかすると・・・。


「僕もやってみるよ」

「ハル、大丈夫」

「たぶん。先にレティシアさんが試してくれたし」


 僕は石碑に手を伸ばして魔力を流す。


「あ、また」


 レティシアさんのときと同じように石碑は光りやがて収まった。


「さっきと同じだね」

「うん。一応ユイとクレアもやってみて」


 なんとなく全員同じことをしておいたほうがいい気がして僕はそう言った。僕の言葉に従って、ユイとクレアが順番に同じように魔力を流す。それぞれこれまでと同じことが起こった。


「ハル、これって」

「うん」


 この石碑は6階層に行く鍵のような気がする。だけど、今のところ光っただけで何も起こらない。まあ、そんなに簡単なはずはない。


 まだ、何かがあるはずだ。 

 迷宮攻略ということもあり、ジリジリとした展開が続いていますが、この後、物語は徐々に動きますので、見捨てないでお付き合いくださいね。どうも作者はこうしたジリジリとした展開が好きみたいです。困ったものです。

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