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6-5(4階層その2).

 レティシアと名乗る冒険者にいきなりパーティーに入れてくれと頼まれた僕たちは、正直戸惑っていた。


「いやー、5階層を目指してここまで来たんだが、さすがに一人ではきつい。今もここで休んでいたとこなんだ」


 レティシアさんは、もしかして一人であのキングオーガ5体が出る部屋を抜けたのだろうか? いや、いくら何でも、おそらく迂回してここまで来たのだろう。かなりの時間がかかったはずだ。


「5階層にいるパーティーはすべて5人パーティーだと聞いている。見たところ、えっと」

「ハルと言います」

「ハルくんのパーティーは3人のようだし。どうだ、私は強いぞ。結構有名なんだけど聞いたことないか?」


 ここまで一人で来ている時点で強いことは間違いないんだろうけど・・・。


 いや、迂回したとしても5階層手前まで一人で来たとすれば、それってもの凄い強者なのでは・・・。僕はユイとクレアを見る。二人とも戸惑ったような顔をしている。


 レティシアさんが本当にもの凄い強者だとすれば確かに僕たちにもメリットがある。僕たちに一番欠けているのは盾役だ。


 5階層に行くには最後の部屋をクリアする必要がある。地図の注意書きによれば、そこはさっきの部屋よりもさらに多くの魔物が出ることが分かっている。さっきの部屋でも3人ではかなり苦戦して3回目でやっと攻略できた。

 最後の部屋は湧き部屋のような罠ではないので撤退はできる。だが撤退し損ねたら当然命の危険だってある。一人でも人数が多いほうが安心だ。レティシアさんの言った通りで、現状5階層を攻略中のパーティー5組はすべて5人パーティーだと聞いている。


「とりあえず安全地帯まで行きましょう。そこで詳しい話を聞くと言うのはどうでしょう?」

「了解だ」


 4階層は1階層に比べれば10分の1くらいの広しかない。でも、それでも十分広い。しかも、魔物を倒しながら進むのだ。僕たちは地図を見て最短ルートを通っているけど、すでに安全地帯にある村で一泊、野営を10回している。最後の部屋までにあと1回の野営が必要だ。


「待て、ハルくん、その部屋は」

「え?」


 僕が安全地帯に通じるはずの部屋に入ろとしたときレティシアさん腕を掴まれて止められた。かなり強く腕を掴まれていて痛い。


「そこは魔物の湧き部屋だ。罠だよ」

「え? でも地図には・・・」

「その地図を見せてみろ」


 レティシアさんは僕から地図を受け取ると自分が持っている地図と比較している。


「ハルくん、この地図はどこで?」

「え、サルマルの町で露天商から。最新版だって言われて・・・」

「そうか。私の地図はサルマルの冒険者ギルドで買ったものだ。信用できる」

「ということは・・・」


 レティシアさんは大きく頷くと「ハルくんの持っている地図が間違ってる。しかも見ると一番危険な湧き部屋を通って安全地帯に行くようになっている。単純なミスとは思えない。どうやらハルくんたちにも事情があるようだな」と言った。


 一体これは・・・。


 僕たちが恨みを買っているとすれば帝国か? こんなとこにまで帝国の手の者が・・・。ルヴェリウス王国に僕たちが生きていることはバレてないと思う。それにルヴェリウス王国には僕たちを殺す理由がない。あとはエリルに反対している魔族、例えばメイヴィスやヤスヒコだが、これはヤスヒコのやり方じゃない。それは確信がある。


「レティシアさんのおかげで助かりました」


 でも、さっきハルくんたちにもって言ってなかったか?


 とにかく、レティシアさんのおかげで罠を避けて安全地帯になっている部屋に到着することができた。


「さて、ハルくん、あの魔物の湧き部屋は4階層で最も危険な場所だ。ブラックハウンドが100匹出る。ブラックハウンドは中級だが素早く危険な魔物だ。3人ではまず生きては出られない」


 それはよく知っている。


「でも、100匹出るって調べた人たちはどうやって生きて出てきたんでしょうか?」


 クレアの疑問はもっともだ。とにかく多くの先人の犠牲があったことは間違いない。


「それはさすがに私にも分からない。それはさておいてだ、まさか命の恩人である私の頼みを断ったりしないだろうな?」


 レティシアさんは僕の顔を覗き込んでいる。僕は顔が赤くなるのを自覚した。30才前後くらいに見えるレティシアさんは美人のお姉さんだ。ユイやクレアも10年後にはこんな感じになるのだろうか?


 寒気を感じて横を見るとユイの目が少し釣り上っていた。


「ハル様・・・また」


 クレアが何か呟いている。


「私も武闘祭の準優勝者と同行できるとは運がいい」


 一瞬ことばに詰まった僕だけど、すぐに「どうしてそれを?」と尋ねた。


「その左手の腕輪、準優勝の賞品だろ? それに左利きだ。左で剣を持ち右手で魔法を放つ。それに黒髪だ。当たっているだろう?」


 確かにその通りだ。利き手である左手には武闘祭準優勝の腕輪を着けている。これはなんの効果もないアクセサリーだ。でもデザインが気に入って着けている。右手の腕輪はアイテムボックスだ。


「実は、私も剣と魔法を組み合わせた戦い方をするんだ。だからハルくんの戦い方は興味深かった。決勝戦の勇者との戦いは最後がちょっと残念だったけどね。まあ、お互い黒髪だしなんか理由があったんだろうがな」


 そう言ってレティシアさんは片目を瞑った。ちょっとカッコよくて可愛い。


 また周りの温度が急速に下がったのを感じた。


 それを感じてか感じずにかレティシアさんは「そこの、お嬢さんも黒髪だね」と言った。


「ユイです」

「そうか、ユイさんと・・・」

「クレアといいます」

「クレアさんもよろしくだ」


 なんとなくレティシアさんが同行することが決まったような感じになってしまった。





★★★





「さて、この部屋を抜ければ5階層への通路だ」


 レティシアさんは非常に元気だ。


 レティシアさんは自分で言った通りで剣と魔法を組み合わせて戦っている。ただ、組み合わせるといっても事前に準備した魔法を使った後は、ほとんど魔法を使っていない。やっぱり身体能力強化をしながら属性魔法に魔力溜めるのは難しいようだ。

 ただ、魔法の威力自体は高い。レティシアさんはどうやら水属性魔法が得意なようだ。それに剣の腕は明らかに僕より上だ。


「どうだ。私って結構強いだろ?」


 レティシアさんはたった今倒したサラマンダーの魔石を手に得意そうに言った。


「レティシアさんは、もしかしてSS級だったりするんですか?」とユイが尋ねた。


 SS級は二人だと聞いているが、知られてないSS級がいるとか・・・。


「ユイさんがそう思うのも当然だ。だが残念ながらS級なんだ。冒険者ギルドも人を見る目がない。私がジークフリートやイネスに劣るなどありえないんだが」


 レティシアさんは冗談とも本気ともつかない口調でそう言った。


「ジークフリートがSS級なのはかって地龍を討伐したからだ。そしてイネスがSS級なのは伝説級の魔物を2体討伐したからだろう。いや、もしかしたらこの迷宮の6階層まで到達したからなのかな。過去に勇者パーティーが6階層まで到達したことはある。だが現状ではイネスだけだ。だとしたら、私が今回6階層まで到達すればSS級間違いないしだ」

「でもそれならイネスさんのパーティーメンバーはどうなんですか?」


 セラフィムさんの話ではイネスさんがSS級になったのはレティシアさんが最初に言ったように伝説級を2体討伐したからだ。でも、エラス大迷宮6階層到達も同じくらいの偉業のような気がする。


「残念ながら彼らはSS級ではない。一番貢献した者だけがSS級と認められるのかもしれないな。でもイネスたちのパーティーでもなかなか6階層は攻略できないようだ。噂では6階層攻略がエラス大迷宮自体の攻略になるんじゃないかと言われている」


 レティシアさんは迷宮のことに詳しい。実力も確かだし5階層、6階層と目指しているというのは本当らしい。


「さて、それでだ。この部屋にはキングオーガ5体とブラックハウンド30体が出る」


 前に苦戦したキングオーガの部屋と同じく5体のキングオーガが出現する。それに加えてブラックハウンドが30体だ。地上のように何人でかかってもいいのなら問題ないが、4人でどうするかだ。イデラ大樹海でブラックハウンド20匹相手に死にかかったこと思い出した。あのときは特殊個体もいたが数はこっちのほうが多い。おまけに上級のキングオーガ5体つきだ。


「上級はキングオーガ5体だけだ」

「でも中級とはいえブラックハウンド30匹も強敵です」


 レティシアさんは「ああ」と言って頷いた。


「そこで私に作戦がある」

「その作戦とは」

「作戦とは・・・」


 レティシアさんが僕に顔を寄せる。なんだか悪だくみしている代官と越後屋のようだ。レティシアさんは今にも「お前も悪よなー」とでも言い出しそうだ。顔が近い。


「ハル!」

「ハル様・・・」


 レティシアさんは慌てて僕から顔を離すと真面目そうな表情を作った。そしてその計画を話し始めた。

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 もし少しでも面白い、今後の展開が気になると思っていただけたら、ブックマークへの追加と下記の「☆☆☆☆☆」から評価してもらえるとうれしいです。

 また、忌憚のないご意見、感想などをお待ちしています、読者の反応が一番の励みです。

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