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6-4(4階層その1~新たな出会い).

氷盾アイスジャベリン!」


 ユイの杖の動きに合わせて巨大な氷の槍がキングオーガに向かう。ユイの後ろからもう一匹のキングオーガが巨大な斧で襲い掛かるが、クレアが赤龍剣で受け止める。


「クレア、ありがとう!」


 ユイの氷盾アイスジャベリンとキングオーガの斧が激突した。


「ぐおー!!」


 氷盾アイスジャベリンを斧では完全には防げずキングオーガは叫び声をあげて仰け反った。そこをクレアがと言いたいとこだがクレアは別のキングオーガを相手にしている。


 僕は黒炎弾ヘルフレイムバレットを頻繁に撃ちながら二匹のキングオーガを引き付けている。4階層のこの広間には、なんと上級のキングオーガが5体も出現する。しかも、これまで地上で会ったキングオーガは素手かせいぜい棍棒のようなものを振り回していただけだったのに、ここのキングオーガはなぜか立派な斧を手にしている。


 とても手ごわい!


 実は2度失敗して撤退した。今回が3度目のチャレンジだ。この広間を避けるともの凄く遠回りしないと5階層入り口にいけない。でも、これでダメだったら迂回することも考える必要がある。


 今回はすでに一匹は倒したので残り4体だ。


 広間に入る前に魔法の二重発動と限界突破の両方を使って二段階限界突破した黒炎弾ヘルフレイムバレットを2発用意していた。ユイが炎竜巻フレイムトルネードでクレアが剣で牽制している間に2発の二段階限界突破の黒炎弾ヘルフレイムバレットでいきなり一匹を葬った。2回失敗した後考えた作戦だ。


「ユイ、そろそろもう1回炎竜巻フレイムトルネードを使える?」

「使えるよ。炎竜巻フレイムトルネード!」


 炎の竜巻が僕が牽制していた2匹のキングオーガを襲う。


 助かった。一息ついた僕は肩で息をする。炎竜巻フレイムトルネードはしばらくその場に留まるので、その間に魔力を溜める。二重発動を使って二種類の魔法を準備する。


 一匹のキングオーガとやり合っているクレアの背後から先ほどユイの氷盾アイスジャベリンで仰け反ったキングオーガが態勢を立て直して襲い掛かろうとしている。


黒炎盾ヘルフレイムシールド!」


 ガキッ!


「ハル様、ありがとうございます」


 クレアの背後のキングオーガの攻撃は僕の黒炎盾ヘルフレイムシールドに防がれた。クレアは僕を信用しているのか後ろ全く振り返らずに正面のキングオーガの左足を斬り切り上げると、態勢を崩したキングオーガの後ろに回って背中を斬る。キングオーガが後ろを振り返ったときにはクレアはすでにジャンプしていた。


「ぐぎゃぁぁー!!」


 ジャンプしたクレアは振り返ったキングオーガの首を空中から横に斬った。まるで噴水のように血が吹きがってクレアの顔を赤く染めた。


 これであと3匹だ!


 これならいける。3匹まで減らしさえすれば・・・。


 ユイの炎竜巻フレイムトルネードを耐えながらジリジリとユイに迫ってくる二匹のキングオーガからユイを守ろうと黒龍剣を構えてユイの前に立つ。


 ガン!、カン!、黒龍剣とキングオーガの斧が交わる。


岩石弾ロックバレット!」


 相手は2匹だが炎竜巻フレイムトルネードがまだその場に残っている上、ユイが魔法で援護してくれるのでなんとかなっている。炎竜巻フレイムトルネードは最上級魔法にも迫る強力な魔法で直撃すれば上級魔物でも一撃で葬れるほど威力がある。ただ性質上、スピードは速くなく、どちらかと言えば複数の魔物を巻き込んだり牽制したりするのに向いている魔法だ。


 僕は、一匹のキングオーガとやり合っているクレアを横目で見る。すでにクレアが優勢でキングオーガの動きは鈍い。


「クレア!」


 クレアは僕の声に反応してキングオーガから素早く距離を取った。


黒炎弾ヘルフレイムバレット!」


 魔法の二重発動で用意していたもう一つの魔法である黒炎弾ヘルフレイムバレットを使った。しかも限界突破もしてある。


「グガァー!!」


 黒炎弾ヘルフレイムバレットは狙い通りクレアが一人で相手をしていたキングオーガの額を貫いた。すでにクレアがダメージを与えていたので動きは鈍く、しかもクレアに気を取られていたキングオーガに避けるすべはなかった。


 これであと2匹だ!


 そしてS級冒険者とは単独で上級魔物を倒せる者だ! それから先はどうやってもキングオーガに勝ち目はなく、まもなく戦闘は終了した。


「ふー、三度目の正直か」

「ハル様、それは?」

「僕の国の諺だよ」


 それにしてもやっぱり数は力だ。上級が5体も一度に出れば伝説級にも劣らない。なんとかキングオーガが5体も出現するその広間を攻略した僕たちは先に進む。


「地図によると次を左だ」


 僕は地図を慎重に確認しながら進路を指示する。とにかく複雑なので間違えないように注意しないとだ。


「ねえ、この近辺に魔物が湧く部屋っていうのがあるんだよね」

「えっと、そうだね。割と近い」


 ユイが言ったのは一度入ると次々と魔物が湧いてきて、湧いてきた魔物をすべて倒さないと扉が開かなくなる部屋のことで、まあ、罠のようなものだ。説明によると出るのは、なんとブラックハウンドだ。


「ブラックハウンドが湧くって書いてある」

「ハル様・・・」


 ブラックハウンドといえば、イデラ大樹海を脱出する途中で遭遇して僕は危うく殺されかけた。タイラ村の人たちに助けられて命拾いしたのだ。中級とはいえ数は力なのだ。クレアの表情も硬い。ブラックハウンドはクレアの両親を殺した魔物でもある。


「ブラックハウンドが次々湧いてくるなんて恐ろしいですね」

「うん。さすがに4階層までくると簡単ではないよね」


 すでにここまでくる間にさっきのキングオーガ以外にも上級のケンタウロスやサラマンダーなどと遭遇した。あとは中級のブラッディベア、オーガなどだ。

 これだけ上級や中級の魔物が現れるとなると相当高位の冒険者パーティーでなければ4階層は無理だろう。実際、ここまで他の冒険者パーティーとは出会っていない。

 ただ、迷宮では場所により出現する魔物が決まっている上、出現する場所から一定以上離れると魔物はそれ以上追ってこない。まさにゲームのようだ。出現した場所から一定以上離れると、ゲームで言うところのタゲが切れたようになり引き返していく。この仕様があるからこそ、さっきのキングオーガ5体が出現する広間も3度目にして攻略できた。

 僕は迷宮が必ずクリアできるようにできているのではないかと感じている。罠のような部屋を除くと一定の距離まで離れれば魔物は引き返す。これはある意味攻略できるまで何度でも挑戦できることを意味している。そうでなければゲームと違って死んだら終わりの現実では死人の山となってしまうだろう。もちろん逃げ切れずに殺されることもあるわけで油断していいわけではない。


「やっぱりイデラ大樹海の危険性には遠く及びません」

「そうだね。大樹海では魔物は引き返してくれないし、いつどこでどんな魔物と遭遇するかも分からない。特殊個体も多かったしね」

「はい」

「二人はそんな場所から脱出したんだよね」

「うん。でも運も良かったしいろんな人に助けられた」


 僕はエリルやサカグチさんの顔を思い出す。


「でもハル様、攻略するまで出られない魔物の湧き部屋はイデラ大樹海以上に危険だと思います」

「うん。罠みたいなもんだよね。地図があるのは助かるよ。先人に感謝だよ。ここまで来るのにたくさんの犠牲を払っていると思うよ」


 そんな話をしながら僕たちは一直線に5階層を目指す。


「ハル様、あそこに人が」

「ほんとだ」


 迷宮の壁にもたれるかかるようにして座っている冒険者の姿がある。少し緑が混じった優し気な金髪を肩まで伸ばした女の人だ。その女の人は僕たちが近づくと顔を上げた。


「もしかして君たち5階層に行くつもりだったりするのか?」

「ええ、僕たちは5階層を目指しています」

「本当に5階層に行くつもりなんだな?」


 実はこの4階層で5階層を目指している冒険者はほとんどいない。5階層には伝説級の魔物しか出ない。しかも現実の伝説級を倒すのと異なり5人以内のパーティーでしか挑めない。とすればそれができる冒険者なんて限られている。そのため4階層にいる冒険者のほとんどが5階層に行くつもりはなく、4階層で得られる魔石やお宝を目当てに活動しているのだ。

 

「ええ、一応」

「3人でか?」

「そのつもりです」

「念のために聞くが、5階層に伝説級しか出ないのは知ってるんだよな」

「はい。えっと・・・」

「レティシアだ」

「レティシアさんも5階層を?」

「そうだ。だが、さすがに一人では無理だ。だから一緒に行ってくれる冒険者を探していた」


 レティシアと名乗った女性冒険者は背中に盾を背負っている。手には片手剣だ。ちょっとシルヴィアさんを思い出した。だが騎士ではない。冒険者だ。女性の年齢は分かりにくい。30才前後にも、もう少し上にも見える。

 レティシアさんも僕たちを観察していたようで「そちらの剣士はもしかしてドロテア共和国出身なのか?」と尋ねてきた。クレアが違いますと返事をすると「そうか」と言って立ち上がった。


「それで、突然だが私をパーティーに入れてくれないか。どうしても5階層に行きたいんだ」


 レティシアさんの言葉に僕たち3人は顔を見合わせた。

 新キャラの登場です。

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