閑話3-8(ハルの推理).
僕たち3人はエイダンの街を立ち、馬上の人とスレイプニル上の人になっていた。いつものように僕が馬に乗り、ユイとクレアがプニプニに乗っている。
「結局犯人は見つからなかったね?」
「うん」
プニプニの上からユイが僕の顔をじっと見ている。
「ハル様が謎を解かずにエイダンの街を後にするのは何かおかしいです」
クレアの言葉にユイが、そうだよねーっていう顔をしている。
「ハル、教えてくれるんでしょう?」
「僕にもはっきり分かっているわけじゃないよ」
確かに僕にはある考えがある。でも証拠はない。それに誰にとっても裏稼業のトラブルに巻き込まれてリカルドが死んだというのが一番いい結論だ。ゼノスさんもそれをよく分かっている。
まだユイとクレアがプニプニの上から僕を見ている。
「二人とも凄く可愛いね」
「もうハルったら何言ってんの」
思っていることが口に出てしまった。文句を言いながらユイは照れて赤くなっている。黙っているクレアの顔も赤い。やっぱり二人とも可愛いなー。
「もうハル、もったいぶってないで話しなさい!」
「ユイ様、大丈夫です。ハル様は結局得意そうな顔をして話してくれます。思いついたことを黙ってられる性格ではありません」
いや、ちょっとクレア、得意そうなって・・・。まあ、その通りなんだけど。
「さすがクレア、ハルのことを分かってるね。さあハル、話しなさい」
ここまで言われては仕方がない。それにクレアの言う通りで、僕も最初から二人には話すつもりだった。
「結論からいうと、犯人はサリーたちだと思う」
「え!」
二人は凄く驚いている。当然だ。サリーたちのアリバイを証言したのは僕たちなんだから。
「でも、たぶん事故だと思う」
ユイとクレアは僕の話の続きを黙って待っている。
「あの日の朝、曖昧だけど目撃証言があったようにサリーたち3人はリカルドと一緒に狩りに出かけたんだと思う」
「でも私たちが会った昼頃には3人しかいなかった。リカルドはいなかったよね」
「ユイ様の言う通りです」
「うん。だからその段階ではリカルドはすでに死んでいたんだ」
ユイとクレアは僕の言ったことを考えている。
「ハル様、サリーさんたち3人があのときどこかにリカルドの死体を隠していたとしても、サリーさんたちがエイダンの街に戻ったのは、リカルドの家の裏庭でリカルドのバラバラ死体が発見された後です」
「そうだよハル、やっぱりサリーたちには不可能じゃないの」
「うん、だから共犯者がいる。リカルドの死体を街まで運び死体をリカルドの家の裏庭に置いた者がいるんだ」
「そっか、リカルドは嫌われていたから共犯者がいてもおかしくないのかー」
「ハル様はさっきたぶん事故だと。それならあらかじめ共犯者を準備することなんてできないのではないでしょうか?」
「クレアの言う通りだよ。それに、あのとき周りにサリーたち以外に人の気配なんてなかったよ。私、魔力探知で周囲を警戒してたから間違いないよ。共犯者なんていなかったよ」
ユイは魔力探知で辺りを警戒していた。だからブラッディベアの気配にもいち早く気がつくことができた。
「いや、あの場に共犯者はいたんだ」
「だから、人の気配は・・・」
「共犯者は僕たちだよ」
ユイとクレアはびっくりして言葉を失っている。
うん、ここはいい場面だ。自分でも少し得意そうな顔しているのが分かる。
「私たちが共犯者?」
驚きから立ち直ったユイが訊く。
「うん、順番に説明するね。リカルドと一緒に狩りに出かけたサリーたちは、目的のワイルドボアじゃなくてグレートボアを狩ることなった。リカルドはC級だし4人にいれば問題ないはずだった。でもグレートボアは思ったより強敵でリカルドが殺された。もしかしたら助けようと思ったら助けられたかもしれないけど、サリーたちはそうはしなかった」
この辺は、はっきりとは分からない。だがなんにせよリカルドは死ぬことになった。
「サリーたち3人は困ったと思う。事故だったとしてもなんでリカルドだけが死んだんだと責められそうだ。そうでなくてもサリーたちにはリカルドを殺す動機がある。4人で狩りに出たのを門衛に見られた気もする。焦った3人はとりあえずリカルドの死体を隠すことにした」
「どこに隠したの?」
「倒したグレートボアのお腹の中だと思う。隠しやすいようにバラバラにしたんだ」
「た、たしかにグレートボアは思ったより大きかった。人なんて一飲みにできそうなほどだったけど・・・」
「ハル様、あのとき荷車に乗っていたグレートボアの死体の中にはリカルドの死体があったのですね」
「そうじゃないかと思う」
「最初サリーたちと会ったとき、コールとアデルの二人は心ここにあらずといった感じで黙っていた。それに装備もずいぶん汚れていた。3人がいたのは河原のそばだ。死体をバラバラにしたりグレートボアのお腹の中に隠したりしたときの血糊でも洗い流していたのかもしれないね。あとグレートボアの内臓とかも・・・」
ユイとクレアはあのときことを思い出している様子だ。
「ハル様、私たちが共犯者だっていうのは?」
「うん、僕たちがブラッディベアを倒すのに付いてきたのはコールだけだ。その間、サリーとアデルは待っていた」
「うん、そうだったよね」
あのとき僕はコールだけが僕たちに付いてきたのを少し不思議に思った。S級冒険者の戦いぶりを見たいのなら全員で来るのが自然じゃないだろうか。見張りを残すとしても二人はついてきそうだと思ったのだ。サリーとアデルが恋仲でコールが気を使ったのかと思ったけど、あの場面ではちょっと不自然だった。
「待っていたサリーとアデルはプニプニが牽いていた荷車の上のグレートボアの死体の一つとお腹にリカルドの死体がある自分たちが討伐したグレートボアの死体をすり替えたんだ」
「そうか、それで私たちが共犯者ってことか。私たちがリカルドの死体を街まで持って帰ったのね」
「たぶんバレないように一番下になっていたグレートボアの死体がそれだったんじゃないかな」
ユイがやられたーといった顔をしてる。
「そして僕たち以外にも共犯者がいる。その共犯者がグレートボアの死体からリカルドの死体を取り出してリカルドの家の裏庭に置いたんだ」
「ハル様、分かりました。その共犯者はベルナルドさんですね」
「クレア、その通りだよ」
「ハル、またよくできましたって言う先生の顔になっているよ」
「ご、ごめん」
クレアの言う通りでこの街の冒険者ギルドで大型魔物の査定や解体ができるのはベルナルドさんだけだ。当然僕たちもグレートボアの死体3つをベルナルドさんのところへ持ち込んだ。
「なんでベルナルドさんがグレートボアの死体の中にリカルドの死体があるって知ってたかっていうと」
「待ってハル、それは私にも分かる」
「クルリですね」
「もうー、クレアったら先に言ったらダメでしょう」
「す、すみませんユイ様」
ユイがクレアを睨んでいる。もちろん本気ではない。ここまでくれば真相は分かりやすい。サリーの従魔であるクルリと名付けられた小鳥のような魔物ジメルは普段からベルナルドさんとの連絡に使われていた。クルリを通じて事情を知ったベルナルドさんは普段からサリーたちに同情的でリカルドを嫌っていた。その様子を僕たちも目撃している。
「ベルナルドさんならサリーたちのために人肌脱ぐよね」
「ハル様、相変わらず素晴らしい推理です」
「悔しいけど、クレアの言う通りね」
なんだかんだでユイとクレアに褒められて喜んでいる自分がいる。
「ハルがこの推理をゼノスさんに言わなくて正解だね」
実際ゼノスさんが言ったように裏世界のトラブルで殺されたのかもしれない。それに、もし僕の推理が正解だとしても魔物の狩りでの事故の可能性が高い。もう証拠も残ってないだろう。嫌われ者のリカルドがいなくなって多くの人が喜んでいる。
リカルドはカイゲル・ホロウの息子と付き合いがあったらしい。もしかしたエジル子爵とホロウ男爵も何らかの付き合いが・・・。エイダンは国境に近い街でありホロウ男爵は違法なものも含めて東側諸国との交易で財をなした新興貴族だ。
さて、僕たちの次の目的地は・・・。
僕の気持ちはすでにこの先の旅のことに移っている。
探偵自身が知らない間に犯行の手伝いをしていたというのは古典ミステリーの名作を始め、いくつか作例があります。それを異世界に応用してみたのですが。どうだったでしょうか?
ミステリーの作法に則り、証拠はすべて開示していたと思うのですが、真相を見破れたでしょうか?
次からは「第6章(迷宮編)」に入ります。お楽しみに!
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