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閑話3-7.

 マティルダさんの容疑が無事晴れた翌日になって今度はサリーたちが取り調べを受けているという話が聞こえてきた。


「ハル、あの日は」


 リカルドが殺害されたのは僕たちがグレートボアの狩りの途中でサリーたちに出会った日だ。


「ハル様」

「うん。ゼノスさんのとこに行こう」


 僕たち3人は昨日と同じく領主の騎士団の詰め所に向かった。そして昨日と同じく詰め所の一室に通され、昨日と同じくゼノスさんが部屋に入ってきた。


 昨日はうんざりしたような顔をしていたゼノスさんだけど、今日は呆れたような顔をしていた。無理もない。 


「さっそくなんですけど、あの日、私たちは街の外でサリーさんたちに会ったんです」 


 ユイがサリーたちの容疑を晴らそうと勢い込んで言った。


「それは本当ですか?」

「ええ、ユイの言う通りです。昼頃3人に会いました」


 クレアもユイと僕に同意して頷く。


「3人に?」

「はい」


 僕はゼノスさんにあの日サリーたちに会った場所やそのときの会話などを説明した。


「そうですか。実は、あの日の朝リカルド様を含めた4人が、街の外に出ていくのを見たという証言がありましてね」

「そんな証言が?」

「まあ、ハルさんたちだから言いますけど、証言といっても曖昧です。証言したのは門衛の騎士ですがこの街から出ていく者をそんなに注意しているわけではありませんから」


 門衛の役目はこの街に入る者をチェックすることだから頷ける話だ。それに朝は多くの冒険者が狩りに出かける。


「少なくとも僕たちが会ったときには3人だけでリカルドはいませんでした」

「ハルの言う通りです」

「ハルさんたちがサリーたちに会ったのは昼頃なんですよね」


 あの日の午前中にリカルドは殺されたと推定されている。


「ええ、確か昼過ぎくらいの時刻で、僕たちはサリーたちに会った後、街に引き上げました」

「ずいぶん早いですね」

「そうなんですけど、そのときすでに目的の狩りは終わっていましたので」

「なるほど。さすがS級冒険者ですね。あの辺りにはせいぜい中級魔物くらいしか出ませんからS級冒険者3人には物足りないでしょうね。といっても私もS級冒険者の狩りの様子など見たことはありませんけどね」


 ゼノスさんは少年のような目をして言った。ゼノスさんの年齢でもS級冒険者に憧れる気持ちがあるのだろうか。S級冒険者は英雄と呼ばれるSS級冒険者に次ぐ存在であり、実力で貴族と同等の地位を手に入れた者だ。


「ハルさんたちの話は分かりました。もともとサリーたちも解放しようと思ってました」


 僕たちが来なくても容疑は晴れそうだったのか?


「正直、サリーたちが本命だと思っていたのですが、サリーたちはどうやらその日は街の外で野営したらしく、次の日の昼頃、街に戻って来たのです」


 次の日といえばリカルドの死体が発見されゼノスさんたちが宿の主フィルポッドさんに話を聞きに来た日だ。もうリカルドの死体は発見されていた。


 あの日、僕たちとの別れ際に、サリーたちはまだ時間も早いしもう少し狩りをすると言っていた。結局野営したのか・・・。


「サリーたちは街に戻るところを目撃されています。こっちは門衛と話しまでしていて、かなり確かな裏付けが取れています。グレートボアを始めたくさんの魔物を荷車に乗せていたらしいですね。これが昼頃ですから、すでにリカルド様の家の裏庭でリカルド様のバラバラ死体が発見されていました」

「夜中にこっそり街に忍び込んで死体を捨てたってことは?」

「ハル、サリーさんたちを疑ってるの?」


 ユイの口調がちょっと怖い。


「違うよ。念のため確認しようと思っただけだよ」

「そうなの」


 ユイはまだ疑わしそうな表情だ。ちょっと可愛い。


「ユイ様、ハル様はそこに謎があれば解かなければ気がすまない性格ですから許して上げてください」


 ユイは「クレアがそう言うのなら・・・」とぶつぶつ言っている。助かった。


 ゼノスさんは、そんな僕たちの様子を知ってか知らずか「夜中の警備は案外昼より厳重ですし門も閉じられています」と説明してくれた。


「そうですか。どうやら僕たちは余計なことを言いに来たようですね」


 あの3人の身体能力では城壁を乗り越えるのは無理そうだ。警備も厳重らしいしそこは間違いないだろう。


「いえいえ、ハルさんたちが犯行時刻前後にサリーたちと会ったと証言してくれたことでより無実がはっきりしました。近くにリカルド様がいる気配はなかったのですよね」

「ええ、それは間違いありません」

「それに死体も」

「はい」

「それなら、間違いありませんね。まあ、死体を何処かに隠していた可能性はありますが、それでも前の日から森にいたのが間違いないとすれば、やはりリカルド様の家の裏庭に死体を置くことができません。サリーたちが街に戻ってきたのは死体が発見された後なんですからね。私としてもその辺りがはっきりして助かりました。前途ある若者を捕まえたくはありませんから」


 ゼノスさんは思ったよりいい人みたいだ。


「それでゼノスさん。僕たちの知っている限りフィルポッドさん夫婦、マティルダさん、サリーたち、この3組が動機の面ではもっとも怪しいと思うのですが、3組とも無実ということになるとゼノスさんも困るのでは?」

「大きな声では言えませんが、といっても街の人は皆知っていることですが、リカルド様は街の裏稼業の者たちと親しくしていました。まあ悪い奴らとよくつるんでいたってことです。ですから仲間内のトラブルで殺されたとしてもおかしくありません。実際リカルド様のバラバラ死体が発見されたと聞いた多くの人がそう思ったはずです。死体がバラバラなのもそういった奴らの見せしめだとすればおかしくありません」


 なるほど、死体がバラバラにされていた理由は見せしめか。ありそうなことではある。リカルドの日頃の行いからそう思われてるってことか。それに・・・。


「この街の多くの人がリカルド様が殺されて喜ぶか、少なくともホッとしています」


 ゼノスさんは小声でそう付け加えた。どうやらゼノスさんもそう思っている一人のようだ。


「でもゼノスさんの立場からすれば犯人を見つけなければ困るのでは?」

「確かにそうなんですが・・・。領主様もリカルド様が発見されたときの様子を聞いて裏の世界のトラブルに巻き込まれたんじゃないかと思っているでしょう。そうなると犯人を見つけるのが難しいことも分かっています。まあ、犯人が見つからなければ私は叱責されるでしょうが、首にまではならないと思っています。リカルド様の死は自業自得ってことですからね。まあ、しばらくは裏稼業の奴らを洗ってはみますが、難しいでしょうね」


 エジル子爵もあまりいい人には思えなかった。ゼノスさんがあまり叱られたりしないといいんだけど・・・。


「結局、フィルポッドさんたちもマティルダさんも、もちろんサリーさんたちも無実ってことが証明されたんだからよかったんだよね」


 そう言いながらユイはちょっと納得がいっていない様子だ。


「そうだね。And then there were no suspects. ってとこかな?」

「それって?」

「そして容疑者は誰もいなくなった、って意味」


 ユイは呆れたと言った顔で僕を見た。うーん、ちょっと格好つけ過ぎだったみたいだ。


「ハル様、なんか格好いいです」


 お、クレアには分かるのか!


「クレア、ハルの言った意味が分かるの?」

「いえ、全然」


 ユイがまた呆れたような顔をした。

 次話が解決編です。

 証拠はすべて揃っています。読者の方も真相を推理してみて下さいね。

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