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閑話3-2

 僕たちは狩りを終えてエイダン街の冒険者ギルドに帰ってきた。受けた依頼の完了を報告すると買い取り窓口に場所を移した。


 エイダンの冒険者ギルドで大型魔物の査定と解体を頼める買い取り窓口は一つだけだ。奥に解体場所を併設しているその窓口に今日の成果であるブラッディベアを3体を持ち込んだ。

 依頼の目的はブラッディベアの毛皮だったんだけど、肉も食用になるため解体せず死体を丸ごと持ち帰った。3体のブラッディベアの死体をギルドで借りた荷車に載せプニプニに牽かせた。クレアは狩りにプニプニを連れていけるのを喜んでいた。プニプニは思ったより大胆で魔物をそれほど怖がらなかった。実はクレアが狩りにプニプニを連れていきたがっていると察した僕とユイがこの依頼を選んだのだ。


「エイダンで一度に中級魔物3体の解体を依頼されるのは久しぶりだ」

「依頼は2体だったんですけど、運よく3体目と遭遇することができました」

「そうか、まあ、それでも見つけたからって全部討伐できるとは限らないけどな」


 担当のベルナルドさんはニカっと笑うと「やっぱり若いといってもS級とは大したもんだぜ」と付け加えた。

 大型魔物の買い取り窓口は一つなので、すでにベルナルドさんとは顔見知りだ。エイダンにS級冒険者が訪れることは滅多にないのでベルナルドさんのほうも僕たちに興味津々という感じだ。


「ベルナルドさん、その肩にとまっている鳥は魔物でしょうか?」


 クレアの言う通りベルナルドさんの肩には小さな鳥のようなものがとまっている。僕も気にはなっていたんだけど、可愛いものが好きなクレアが僕より先に質問した。


「ああ、これか。クレアさんの言う通り魔物だ」

「ベルナルドさんは使役魔法を?」とクレアが訊いた。

「いや、これは俺の従魔じゃないんだ。サリーのやつが今日の獲物をあらかじめ伝えてきたのさ」


 そう言ってベルナルドさんが見せてくれたのは小さなメモのようなもので、どうやらこれから買い取りに持ってくる魔物が書いてあるらしい。

 その後、ベルナルドさんが目で示したこの建物の高い場所には小さな窓のようなものが開いていた。なるほど、あそこからこの鳥型の魔物が入ってきたのか。


「そのサリーさんって人、使役魔法が使えるなんて優秀なんですね」


 ユイの言う通りで人族で使役魔法を使える人は少ない。僕はユウトが連れていたクーシーを思い出した。


「うーん、これがジャターとかならそうなんだろうけど、このジメルって魔物は、あまり遠くまでは飛べないんだ。サリーが使役しているのはこいつだけだしなー。それでも便利なのは確かだけどな」


 ジャターは国家間の連絡にも使われるなど情報伝達で使われる代表的な魔物だ。ジャターを使役していれば国家のお抱えの魔導士になれるほど貴重な魔物だと聞いている。


「おい、さっさと運べよ」


 声がした方を振り返ると、高価そうな冒険者用の装備を纏った剣士が3人のパーティーメンバーを従えて建物に入ってきた。


 リカルドたちだ。


「チッ」


 僕たちと話していたベルナルドさんが舌打ちをしたのが聞こえた。


「お、すまねえ。あいつを見るとついな。リカルドの連れている冒険者の一人がこのジメルの主のサリーだ」


 リカルドは正に顎でこき使うと言った感じで3人のメンバーにあれこれ指示して獲物を運ばせている。3人のうち一人が女性で魔導士だ。あれがサリーさんだろう。

 

「さっさとどけよ!」


 ベルナルドさんと話している僕にそう命令した。


「おい、リカルドこの人たちは」

「ベルナルドさん、大丈夫です。それじゃあ明日、解体料を引いた査定額を取りに来ますよ」

「いや、査定額だけでも聞かなくていいのか?」

「ベルナルドさんを信用してますから」


 僕たち3人はベルナルドさんに挨拶して窓口を離れた。


「パーティーの3人も大変そうだよね」

「うん」

「ハル様、でもなぜあの3人はあんな奴・・・リカルドと一緒にいるのでしょうか?」

「それは、確かに気になるね。今日の夕食は冒険者ギルドで食べることにしようか」


 冒険者ギルドに隣接している食堂で夕食を取るのはもちろん情報収集のためだ。


「そうね。そうしましょうか」

「はい」


 というわけで、その日僕たちは冒険者ギルドで夕食を取った。S級冒険者で美人のユイとクレアがいるので、リカルドたちのパーティーについての情報はすぐに手に入った。


 それによるとあの3人はサリー、コール、アデルという名前だ。3人はもともとこのエイダンの街で育った幼馴染だ。3人は2年くらいに前に冒険者パーティーを結成して現在はD級だそうだ。リーダーは紅一点のサリーさんでしっかり者と評判だ。僕たちより少し年上みたいだが、D級というのは結構優秀だ。ブリガンド帝国で会った3人組の冒険者も若くてD級だった。僕が魔法コントロールのコツを伝授したイルティーカは元気だろうか。少しはアドヴァイスが役に立っているといいんだけど。

 多くの冒険者がC級で冒険者生活を終える。C級パーティーは中級でも中位くらいの魔物までなら対応できるので安定した冒険者生活を送れる。冒険者になって2年のサリーさんたちがD級なら順調といっていい。どうも異世界人である僕は、周りのクラスメイトやクレアを知っているので、その辺りのことを忘れがちになるが、むしろ僕たちのほうが特別なのである。


「まあ、そういうわけでサリーのお袋さんは領主館に勤めているしアデルの親父は領主の騎士の一人だ。だからリカルドのやつに付き合わされてるのさ。特にサリーのとこはお袋さんが一人でサリーを一人前にしてくれたからな」


 サリーさんのお父さんは冒険者だったんだけど、サリーさんが小さい頃、魔物に殺されてしまったようだ。冒険者は危険な仕事なのでよくある話だ。そっとクレアを見ると冷静に話を聞いている。


「確かにサリーさんたちは年齢にしたら優秀だと思うけど、領主の三男のリカルドならもっと上位の冒険者を仲間にできそうな気もするけど・・・」とユイが言った。

「たぶんだけど・・・」

「うん?」

「自分が偉そうにできるくらいの冒険者がいいんじゃないかな。リカルドの性格なら」

「ああー、ハルさんの言う通りだと思うぜ」


 僕たちにサリーさんたちのことを教えてくれた冒険者はそう言って心底嫌そうな顔した。


「俺たちがなんとかしてやれればいいんだが。相手は領主の息子だしなー。まあ、リカルドは毎日冒険者をやっているわけじゃないからそれが救いだな。そのくせ一応C級ってんだから神様は不公平だぜ」


 この世界では貴族のほうが魔力量が多かったり魔法適性が高かったりする。リカルドはあまり真面目に冒険者をやっているわけではないようだがC級にはなっているらしい。それでD級のサリーたちを引き連れて偉そうにしてるってわけだ。


「それにな」


 その冒険者は少し声を潜めると「リカルドはどうやらサリーに目をつけているらしい」と言った。


「サリーさんに?」

「ああ、困ったもんだ。サリーは絶対アデルのことが好きだと思う。見てれば分かるさ」

「アデル?」

「髪が短くて目が青いほうさ」


 確かにさっき見たサリーさんは真面目そうで素朴だけど可愛らしかった。貴重な魔導士、ルヴェリウス王国以外では魔術師か、でもある。今の話を聞いてユイとクレアが隣で怒っている気配を感じる。


「ハル、一回ガツンって言ってやってよ! S級でしょう」

「え、でもそれならユイとクレアもそうなんじゃあ」


 僕は典型的な日本人で平和主義者だ。とはいえ、宿での出来事のこともある・・・。

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