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5-41(ハルとユウト).

 僕、ユイ、クレアの3人はユウトとユウトのパーティーの女性二人と、いつかと同じジークフリートさんに紹介してもらった貴族向けの高級なレストランの一室に集まっている。


 僕は今回の出来事を包み隠さずユウトたちに話した。こないだもコウキから聞いた話やエリルのことも含めた僕たちがこれまで経験したことを全てユウトに話した。今回も同じだ。コウキもそうだが日本から転生してきた仲間には基本的に隠し事はしないと決めている。


「なるほど、そういうことだったのか」

「うん。ユウトたちがセシリアさんたち人質を救出したことが解決の切っ掛けだよ。それにギーズとかいう魔族の死体を回収できたのも大きかった。ユウトたちのおかげだよ」

「そうか。役に立ててうれしいよ」


 ユウトは照れ臭そうにしているが、隣に座っているメイドみたいな恰好をした小柄な女性、確かルルさんだ、は胸を張って得意そうにしている。


「ルル、それ以上ない胸を反らすと後ろにひっくり返るから注意しろ」


 そう言ったのはシャルカさんだ。こっちはアニメでよく見る女騎士っていういで立ちだ。


「ふん、いいですかシャルカ、ユウ様の活躍はいくら褒めても褒めすぎと言うことはないのです」


 ユウトはいやーとか言って頭をかいているが満更でもなさそうだ。

 

 そんな3人を見て僕は少しうれしくなった。


「最後に解決に導いたのはハル様です。ネイガロスを倒したのもハル様です。武闘祭ではあのザギも倒しました」


 クレアがルルさんに対抗するように僕のことを褒めた。クレア・・・。


「ザギ・・・」


 ザギの名を呟いたのはシャルカさんだ。シャルカさんは元黒騎士団員だ。黒騎士団を辞めたのにはザギも関わっている。 


「でも、ザギのおかげで黒騎士団を辞めてユウトたちと知り合ったのならよかったですよね」

「ああ、ハルの言う通りだ」


 シャルカさんはその通りと大きく頷くとニコリとした。


「でも今回は一番活躍したのはやっぱりクレアだよね」


 ユイの言う通りだ。


 クレアがレオナルドさんを止めると決心したから僕たちは行動した。それに、あの秘密の通路の入口は・・・。レオナルドさんを力ずくで止めたのもクレアだしエドガーを倒したのもクレアだ。


「特に最後に四天王サリアナとやり合ったのは凄かったよね」

「うん」


 あれは凄い迫力だった。


「でも側室うんぬんはどうかと思ったけどね」

「ユイ様、申し訳ありません」

「ううん、クレアには怒ってないよ。あれがベストの方法だった。あれで伝説級魔物同士の戦いとか大乱戦にならなくて済んだんだもん。そうなったら双方に大きな被害が出てたよ。本当によかった。でも私がちょっと気に入らないのは・・・」


 なんか嫌な予感がする。


「四天王とかいうサリアナにクレアがクレアと私のことをハルの側室だって紹介したとき、ハル、ちょっとうれしそうというか得意そうな顔してたんだよね。ああー、これは調子に乗っているなってすぐ分かったよ」

「いや、調子に乗ってるとか、そんなことは」


 ユイが僕を可愛く睨む。でも目が笑ってないような気もする。


「ごめんなさい」


 とりあえず、僕は日本人らしくこの場を丸く収めるため謝罪した。


「ユウ様、ユウ様も同じで調子に乗ってはいけませんよ」

「はは、調子に乗りやすいのは僕の欠点だからね」


 ユウトはルルさんに苦笑いしながら頷いた。


「ルル、心配しなくても私は男としてのユウジロウにはこれっぽっちも興味がないぞ。仲間としては信頼してるがな」


 シャルカさんはユウトの本名を知ってもユウジロウと呼び続けているんだそうだ。


 それを聞いたユウトは「いや、これっぽっちもとか、そこまで言わなくても・・・」と言った。


 なんだかユウトにちょっと親近感が湧いた。でもシャルカさんはああは言っているけどユウトの希望でアニメでよく見る異世界の女騎士みたいな格好をしてるんだから、少しはユウトのことを・・・。


「前も言ったと思うけど私とクレアはあんな格好はしないよ」


 僕がシャルカさんの服装を見ていることに気がついたのかユイが念を押してきた。


「あんな格好って、ユイさん、私たちの格好はおかしいのか? ユウジロウがユウジロウたちがいた世界では普通だって言うから」

「え、うん。なんて言うか・・・。よく見ると言えば見るかな」


 ユイが言葉を濁す。


「そうだよ、シャルカ。これはとても普通で、その上由緒ある格好なんだよ。ハルそうだよね」


 僕は大きく頷いた。


「そうか。ならいいんだが」


 横目で見ると、ユイが呆れたと言った顔で僕とユウトを見ていた。


「それでハル、ハルたちはこれからどうするんだ。コウキがルヴェリウス王になるっていっても、すぐには無理だろう?」

「うん。武闘祭で優勝してコウキは勇者として名声を上げた。これは一歩前進だ。でもこれですぐに王になれるわけじゃない。王国内で味方を増やす必要がある。コウキの話ではグノイス王は敵も多いみたいだから満更不可能じゃないのかもしれない。でも時間がかかる。それに今回の帝国の件を見ても分かる通り、政変を起こすには何か切っ掛けが必要だ。コウキは頭がいい。拙速なことはしないと思う。今は力を溜めるときだろう」

「そうだな。じゃあ、その間どうするんだ?」


 僕はサリアナが言っていたことを思い出す。


「ドロテア共和国へ行ってみようと思う」


 これはすでにユイとクレアにも話してある。


「ルヴェリウス王国、ガルディア帝国と並ぶ東の大国だね」

「うん、さっき言ったサリアナがドロテア共和国のジリギル公国に行ってみろとか仄めかしてたんだ」

「ふーん、不思議な話だね」


 ユウトは僕の言葉に考え込むと「ギーズの件といい。あとハルはイズマイルとかいう黒騎士団の団長だっけ。そのイズマイルにも魔族の気配を感じたんだよね?」と言った。


「うん。それにあれだけの魔物を使役できるケルカとかいう獣騎士団の隊長も怪しい」

「僕もクーシーのことがあるから獣騎士団にはちょっと興味があったんだけど。魔族だっていうんなら納得できるね。ハルの言った通りでこの世界の人族の中には思った以上に魔族が紛れ込んでいるのかも。千年単位で争っていれば当たり前なのかな」

「僕もそう思う」


 それに・・・。


「そういえば、ユウトはルヴェリウス王国を出て最初にエニマ王国のエラス大迷宮へ行ったんだよね?」


 ユウトは頷くと「そこでルルに会ったんだ。思い出の場所だよ。とにかく大きな迷宮なんだ。一つの階層が小国くらいの広さがある」と説明してくれた。

「小国くらいの広さが・・・。それは凄いね。迷宮って失われた文明によって造られた人工的な施設だと思うんだ。だとするとエラス大迷宮ってさ、この世界最大の失われた文明の遺物っていうか遺跡ってことになる。えっと、ガラティア闘技場とかアルデハイル監獄とかより大きいよね」

「アルデハイル監獄?」

「ユウジロウ、中央諸国の一つであるブリガンド帝国にある監獄で、ガラティア闘技場と同じで失われた文明の遺物をそのまま利用しているんだ」


 そういえばシャルカさんは中央諸国の出身だと言っていた。


「シャルカさんの言った通りだよ。僕たちはここに来る前にブリガンド帝国に寄ったんだ。小国だけど魔導技術先進国なんだ」

「へえー」

「とにかくさ。帝都ガディスはもともと失われた文明の遺跡の上に建設されているらしいけど、エニマ大迷宮って帝都全体と比べても大きいんだよね。やっぱり世界最大の失われた文明の遺物か遺跡だよ。それに、どのくらい前に発見されたのか知らないけど、これまで数多くの冒険者が挑戦して攻略されていない。興味深いよ」

「案外ハルたちならなんとかなるかもしれないね」

「ユウトくん、何か根拠でもあるの?」


 ユイにそう聞かれたユウトは「うーん、僕の勘みたいなものかな。でも、しいて言うと、まず3人ともS級でしょう。パーティー全員がS級っていうのはこの世界でもなかなか無い。それとハルとユイさんは、まあ、僕もなんだけど、異世界人だ。特にユイさんは賢者でもある。何かそこに鍵があるような気もするんだ」と言った。


 ユウトの言う通りだ。この世界は異世界召喚と密接な関係がある。魔王がいるときに勇者が現れ、勇者は必ず異世界人だ。そして人族と魔族は千年単位で争っている・・・。そこには何か秘密がありそうだ。


 まあ、今はいくら考えても結論はでないだろう。でもいつかはこの世界の秘密を解き明かしてみたい。


「それでユウトたちはどうするんだ?」

「僕たちは中央諸国に行ってみる。シャルカの故郷もあるんだ。さらに南に下ってハルたちが訪問したっていう南の国々にも行ってみたい。その後、大陸の南を経由して東側の国へ行ってみるよ」


 ヨルグルンド大陸は中央山脈で東西に分断されている。通行できるのは北と南だけだ。ユウトは南周りで東側を目指すと言う。僕たちはここガルディア帝国経由だから北回りだ。


「それなら、ドロテア共和国でまた会えるかもしれないね」


 ドロテア共和国はヨルグルンド大陸東の大国だ。


「ああ」

「こないだ打ち合わせた通りで、緊急の連絡には冒険者ギルドを利用しよう」

「ハルたちはS級だし冒険者ギルドもそれなりに配慮してくれるだろう。確かコウキともそういう話をしたんだよね」

「うん」


 コウキたちは武闘祭が終わってすぐにルヴェリウス王国への帰路についた。そうだ、冒険者ギルドを通じてコウキたちにも今回の件の顛末を伝えよう。帝国が魔族と繋がっているっていう情報はコウキたちの役に立つかもしれない。


 その後、ユウトたちが持っているエニマ王国の情報、僕たちが持っているヨルグルンド大陸南の国々の情報をお互いに交換した。


「ハル、ハルたちと違って僕たちはまだB級の冒険者だ」


 僕は頷く。B級でも僕たちの年齢からすれば十分すぎるレベルだ。


「僕たちは、僕たちなりのやり方で頑張ってみるよ。クーシーもいるしね」


 そうユウトは使役魔法が使える。クーシーはホーンウルフだが特殊個体で冒険者ギルドで中級魔物に認定されている。だが僕の目にはそれ以上に見える。ユウトもクーシーは従魔になってからも成長していると言っていた。


 もしかしたら、、クーシーだけでなく・・・。


 僕たちと比較するからおかしくなるけど、ルルさんやシャルカさんも若い。普通はこの若さでB級なんてほとんどいないはずだ。


 その後も、ユウトといろんな話をした。こないだと同じで話は尽きなかった。クレアもユウトたちがセシリアさんたちを助けたことに対して改めてお礼を言っていた。それで僕はユウトたちにちょっとした感謝の気持ちを手渡した。


 最後に僕たちとユウトたちはお互いの健闘と成長を誓ってそれぞれ次の冒険に旅立つことになった。


 ユウト! またな!

 これで第5章も終わりです。それまでの伏線が多く回収されミステリー要素も多めだった第4章に比べると成長した主人公たちの活躍を中心にした第5章はどうだったでしょうか? 

 もし少しでも面白かったと思っていただけたら、ブックマークへの追加と下記の「☆☆☆☆☆」から評価をお願いします。何とか一度くらいは総合ランキングは無理でもジャンル別の日間ランキングに載ってみたいものだと図々しくも思っています。よろしくお願いします。

 この後、第4章の後と同様に短編ミステリー仕立ての8話程度の閑話を挟んでから第6章「迷宮編」に入る予定ですまた、お楽しみに。

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