5-34(ハル対ネイガロス).
僕は怒りで顔を真っ赤にしたネイガロスと対峙している。
「黒炎弾!」
僕は挨拶代わりに黒炎弾を放つ。
ネイガロスは黒炎弾を剣で逸らすようにして受けた。ザギと同じだ。そして感触を確かめるように自分の剣を見ると「威力の弱いほうか」と言った。当然ネイガロスは僕とザギの戦いを見ている。
ネイガロスは間合いを詰めると素早く剣で攻撃してきた。僕とネイガロスの剣が交わると僕は押されて後退した。ネイガロスは慎重だ。すぐには間合いを詰めて来ない。あれだけ怒っていたのに戦いとなると隙がない。
ネイガロスは僕がザギを倒した限界突破した黒炎弾を警戒しているのだろう。あれに剣を破壊するほどの威力があることはザギとの戦いでネイガロスにバレている。
それならお望み通り見せてやる。
「黒炎弾!」
僕は二段階限界突破した黒炎弾を放った。ドンと音がして床に捲れたような穴が開いた。僕に斬り掛かろうとしていたネイガロスはバックステップをして避けた。
「ザギを倒した魔法だな。確かに凄い威力だ。だがこれだけの威力の魔法を連発はできまい」
ネイガロスが今度こそ間合いを詰めて斬り掛かってきた。僕はさっきと同じように一撃目だけを剣で受けるとすぐに後退する。
「黒炎弾!」
今度の黒炎弾はネイガロスに剣で受けられた。限界突破もしていないから仕方がない。気がついたら目の前にネイガロスがいた。
「死ね!」
物騒な言葉と共にネイガロスが剣を振り下ろす。
「黒炎盾!」
バキ!
僕は最小限の大きさで発生させた黒炎盾でネイガロスの攻撃を防御した。魔法の二重発動を使ってだ。
「黒炎弾!」
僕はネイガロスの剣が黒炎盾に跳ね返されたところに、また黒炎弾を放つ。
ガキ!
ネイガロスはまた剣で黒炎弾を弾いた。大した反射神経だ。限界突破もしていない黒炎弾だから弾き返されたのは仕方がない。
またネイガロスと僕の剣が交錯する。やはり剣技ではネイガロスのほうが上だ。ザギとの戦いのときと同じように防御に徹しながら時間を稼ぐ。
「黒炎弾!」
ネイガロスは今度は剣で受けずに素早く飛びのいた。
今度は二段階限界突破したほうの黒炎弾だったが避けられた。
「そろそろ来る頃だとは思っていたが、それにしても・・・」
ネイガロスは二段階突破した黒炎弾が破壊した壁を見てその威力に驚いている。
その後も似たような攻防が続いた。
いつまた剣で受けることができない高威力の黒炎弾が放たれるかもしれないとネイガロスは警戒している。ネイガロスは限界突破には魔力を溜める時間がかかることを見抜いているようだ。僕が限界突破した黒炎弾を放った直後に攻撃してくる。
剣では明らかにネイガロスが上だが、ザギとの戦いを見ていたネイガロスは僕の限界突破した黒炎弾を警戒しているので一進一退だ。
僕が限界突破した黒炎弾を放ち、それをネイガロスが避ける。そしてここがチャンスとばかりにネイガロスが集中して攻撃してくる。僕は黒炎盾も使いながら防御に徹して時間を稼ぐ。同じパターンが繰り返されている。
少し離れたところでクレアとエドガーが戦っている。エドガーが魔術師に回復魔法を使わせるなとかなんとか指示しているのが聞こえた。
クレア・・・。
そして、また僕が限界突破した黒炎弾を放ち、それを避けたネイガロスが僕に接近してきた。
「岩弾!」
まさか! ネイガロスが魔法を!
「うぐっ!」
「ハルー!」
近距離から放たれた岩弾は僕の額を掠るように命中した。僕は思わず膝をついた。とっさに首を捻ったけど完全には避けられなかった。
まさかネイガロスが属性魔法を使えるとは・・・。使えるとしても剣技と同時に使う者は少ない。身体能力強化も魔法の一種なので強力な身体能力強化と同時に属性魔法を使うことは、異世界人ではないこの世界の人にはとても難しいのだ。だが、できる者が全くいないわけではない。ルビーさんだってできていた。クレアのように風属性魔法を補助に使う剣士もいる。
これは油断だ・・・。
「ハルー!」
ユイの叫び声が聞こえる。黒騎士団員たちと白騎士団員たちが争うような音もする。
くそー、魔法も使える剣士が自分だけのはずはない。8年前の武闘祭優勝者のネイガロスがどんな戦い方をするのか調べることもしていなかった。それに対してネイガロスは僕の戦い方を知っていた。僕は自分に怒りが沸いた。
僕はすぐに立ち上がるが、額から血が流れてきて左目がほとんど見えない。脳にもダメージがあるのかフラフラする。
ここぞとばかりにネイガロスが斬り掛かってくる。
「黒炎盾!」
僕はネイガロスの攻撃を黒炎盾で防ぐとすぐに距離を取る。だがネイガロスもすぐに間合いを詰める。
カーン!
今度はネイガロスの攻撃を剣で受けた。ギリギリだった・・・。
「黒炎盾!」
また黒炎盾でネイガロスの攻撃を防ぐ。魔法の二重発動を使ってできるだけ短時間で次々に黒炎盾発せさせる。それに剣での防御も併せてなんとかネイガロスの攻撃を受け切っている。あれからネイガロスは魔法を使わない。やはり身体能力強化をしながら頻繁に使うのは無理なのだろう。ここぞのときに取っておいたのだ。
でも防戦一方になってしまった。これでは勝つことはできない。
「ぐわー!」
ネイガロスの剣が僕の腹を斬った。腹から血しぶきが舞いあがる。
「キャー!」というユイの悲鳴が聞こえる。
ドタドタと音がして黒騎士団員たちがユイを囲もうとして集まっている。ユイが僕に加勢するのを防ごうとしているようだ。レオナルドや白騎士団員たちは僕の指示通りにユイを守ろとしている。
「ユイ、だ、大丈夫だ」
僕はユイに声を掛けた。ユイにたくさんの人を殺させたりはしない。
「ふん、何が大丈夫なんだ」
ネイガロスが僕を馬鹿にするように言った。
さて、どうするべきだろうか? なんとか戦いを長引かせてクレアが僕に加勢してくれるのを待つか・・・。クレアの方を見るとクレアが押してはいるがクレアとエドガーの二人とも負傷しているようで戦いは長引いている。
武闘祭優勝者だけあってエドガーとかもいう奴も思った以上に強いみたいだ。
「加勢を待っても無駄だ。むしろこっちを先に終わらして俺がエドガーに加勢したほうが良さそうだ」
ネイガロスは自分が有利になったせいか冷静にそう言った。
僕は目に入った血を腕で拭いながら「いやー、魔法を使うとは油断しました。でもそれだけです」と言った。
「ふん、煽っているつもりかもしれないがその手には乗らない」
ネイガロスはあくまで冷静だ。仕方ない。あまりこんなことはしたくなかったんだけど・・・。
「確かに、思ったより冷静ですね。それでも、僕には勝てませんよ」
「ふん、勝手に吠えていろ!」
僕は剣を握り直すとネイガロスを睨みつける。ネイガロスも慎重に僕を観察している。
よし!
僕は突然ネイガロスに突進した。ネイガロスは僕を剣で迎え撃とうとしたが、すぐに思い直したかのように距離を取った。
「その手には乗らない。お前はしばらく威力の高いほうの黒い弾丸を使っていない」
さすがだ。ネイガロスは油断していない。僕とネイガロスは睨み合う。
「それならお望み通り見せてあげますよ」
僕は全力でネイガロスとの間合いを詰めた。
「黒炎弾!」
バンと音がして、ネイガロスが飛びのいた後の床に大きな穴が開いた。
「残念だったな!」
僕は全力で間合いを詰めたが、それでもネイガロスは限界突破した黒炎弾を剣で受けずにバックステップして避けた。確かにネイガロスは強い。その上、冷静だ。
「今度こそ終わりだ」
ネイガロスはすでにボロボロの僕に近づくと剣で攻撃してきた。一撃目は剣で受けたが、二撃目で弾き飛ばされた僕は床をゴロゴロと転がる。僕はすぐに立ち上がる。
ネイガロスはもう目の前に迫っている。
「終わりだ!」
ネイガロスが剣を振り上げた!
「ハルーー!!」
ユイの叫び声が聞こえる。
「黒炎弾!」
僕は目の前に迫ったネイガロスに黒炎弾を放った。
「無駄だ!」
ネイガロスは近距離から発射された黒炎弾を今度は素晴らしい反射神経で剣で受けた。
バキッ!
ネイガロスの剣は黒炎弾に破壊されネイガロスの胸を打ち抜いた。心臓は外れている・・・と思う。
「な、なぜ・・・」
ネイガロスは信じられないと言った顔をしてその場に崩れ落ちた。
ネイガロスは剣を破壊するほど威力の高い黒炎弾は連発できないと思っていた。実際、防御魔法や限界突破していない黒炎弾を交えて戦っていたから二重発動を使っても連発はできなかった。
だけど、僕はネイガロスに腹を斬られた辺りから防御することは諦めて魔法の二重発動で2発の二段階限界突破した黒炎弾を準備していた。ネイガロスが有利を意識して僕との会話に乗ってくれたのもいい時間稼ぎになった。結局、ネイガロスはザギと同じ失敗をしたのだ。
防御魔法を捨てて勝負に出る決断ができたのはこの場にユイがいるからだ。手足くらい失ってもユイなら元に戻せるんだから・・・。
それにしても痛い。お腹も痛いし頭も痛い。なんだかフラフラする。よく集中力が持ったもんだ・・・。
「ユイ・・・。ネイガロスが死なない程度に回復しといて・・・」
「ハル!」
次に僕が気がついたとき、僕の頭は何か柔らかくていい匂いのするものに乗せられていた。僕を覗き込んでいるユイの顔が半分だけ見える。残り半分は二つの丸いものに邪魔されていて見えない。
この態勢には覚えがある・・・。
以前と違うのはユイの横から「ハル様・・・」と言って僕を見ているクレアの顔が見えることだ。
第2章の最後に「第2章までの登場人物紹介」を挿入しました。第3章と第4章の後にも順次挿入する予定です。




