5-33(クレア対エドガー).
私は、ハル様の指示でエドカーとかいう黒騎士団の大隊長と対峙した。私と同じ騎士養成所出身で『皇帝の子供たち』の一人だ。4年前の武闘祭優勝者でもある。年が離れているせいもあり面識はない。
ハル様はネイガロスと対峙している。ハル様がネイガロスに負けるはずがない。ハル様は私が恐れていたザギに勝ったのだから。他の黒騎士団員たちはユイ様が炎の竜巻の魔法で牽制している。火属性と風属性の混合魔法というものらしい。ユイ様以外には使えない最上級魔法にも負けない凄い魔法だ。ユイ様はレオたちが守っている。
私はエドガーに集中すればいい。武闘祭の優勝者と手合わせできるのはちょっとうれしい。
私は素早く間合いを詰めるとエドガーに斬り掛かった。とりあえず挨拶代わりだ!
私の剣とエドガーの剣が交わって、カーンと音を立てた瞬間、赤龍剣が跳ね上げられるような感触を感じた私は、とっさに後ろに飛びのいた。
危なかった・・・。
エドガーは剣が交差した瞬間巻き上げるように剣を斬り上げていた。神聖シズカイ教国の王宮騎士団のアイスラーさんが似たような技を使っていた。アイスラーさんは亡くなってしまった。でもアイスラーさんとの訓練が役に立った。アイスラーさん、ありがとうございます。
「避けられたか。まあ、いい」
私はまた距離を詰めると今度は高くジャンプをした。エドガーは再び距離を取ろうとするが、私は風属性魔法を補助に使って空中からエドガーに近づき剣を振り下ろした。
「逃さない!」
「おっと」
エドガーはゴロゴロと地面を転がって私の一撃を避けた。
私は、ダンと地面に着地すると赤龍剣を横なぎに払った。エドガーは剣で受け流すようにしてそれを防いだ。
エドガーは武闘祭の優勝者だけある。私とエドガーは再び睨み合った。
エドガーは私の空中からの一撃を剣で受けずに地面を転がって避けた。剣が交わっていれば私の力任せの攻撃でエドガーはダメージを受けただろう。私の使っている赤龍剣は大剣だ。エドガーの外見はいかにも力のありそうな大男だ。それでも力勝負なら大剣を持つ私がほうが上だと思う。そして次の横なぎも受け流された。まともに剣が交われば大剣のパワーに押されると分かっているのだ。
「ふん、力任せの攻撃が俺に通用すると思ったのか。風属性魔法を使う大剣使いとはこれまで何度か戦ったことがある。その中には武闘祭で戦った剣聖だっていた。俺が負けるはずがない。お前ら大剣使いはスピード勝負には弱い。そして対人戦でもっとも重要なのはスピードだ」
こいつは馬鹿なのだろうか? わざわざ解説してくれるとは・・・。
今度はエドガーのほうから間合いを詰める。カン、カン、カンと3度剣が交わった。エドガーはその外見と違ってスピードに自信があるようだ。
「馬鹿な・・・」
私はエドガーの3連撃をすべて赤龍剣で受けた。あえて避けなかった。エドガーがスピード勝負をしたがっているみたいだったから全部受けてみたのだ。確かに速かったが、全て目で追うことができたし赤龍剣で受けることもできた。これならハル様の友人のヤスヒコ様のほうが速かった。ヤスヒコ様は今ではメイヴィスの眷属になっている。シズカディアではハル様と二人がかりで戦った。
「大剣で俺の剣をすべて受け切るなど・・・」
エドガーはまだ何か呟いているが、私は容赦なく斬り掛かった。今度は力を抑えて素早く4回斬った。エドガーが3連撃を仕掛けてきたので、1回多く攻撃してみた。
「うあっ!」
エドガーは4連撃を剣で受けたが4撃目で態勢を崩し後退してよろめいた。
「な、なんだこいつは、化け物か。大剣で俺より速いのか!」
人を化け物とか失礼にもほどがある。やっぱりこいつは馬鹿だ。
私は再び攻撃を仕掛ける。今度は5回攻撃してみよう。
カン、カン、カン、カンと剣が4回交わった音がした。エドガーも今度は少し慣れたのか全てを剣で受けた。流石ではある。馬鹿だけど剣の腕はなかなかだ。しかしパワーの差はいかんともしがたくエドガーは態勢を崩して後退する。大男のくせに非力なやつだ。私は風属性魔法を使ってジャンプすると、最後の5回目を空中から斬り下ろした。エドガーは態勢を崩しているから今度は剣で受けるしかないだろう。
ガギッ!!
鈍い音がした後、エドガーの左耳がそぎ落とされた。エドガーは耳だけでなく左肩からも血を流して膝をついた。
「エ、エドガー大隊長!」
黒騎士団員がエドガーに呼び掛けている。まさか、大隊長がなどの声が聞こえる。チラっとエドガーが黒騎士団員たちを見た。
「炎竜巻!」
ユイ様の声が聞こえて、また炎の竜巻が生成された。ユイ様は定期的に炎の竜巻を発生させて黒騎士団員たちを牽制していくれている。そのユイ様はレオたちに守られている。
「まだ、降参しないのですか?」
私はエドガーに尋ねた。ハル様は敵といえどもあまり人を殺すことを好んでいない。まして今回の件はレオを止めるためここまで私について来てくれたのであって、ガルディア帝国の政争に積極的に関わりたいとは思っていないはずだ。ハル様は優しい人だ。ユイ様も同じ考えだと思う。
「するわけないだろう」
エドガーは顔を半分を血に染めながら立ち上がった。ハル様が言っていた。私たちを皆殺しにしないとエドガーたちは切り捨てられるんじゃないかと。エドガーも必死な様子だ。だとしたら一番悪いのは皇帝だ。
再び私とエドガーの剣が交錯するが明らかに私が押している。もう時間の問題だ。それでもエドガーは諦めない。私はどうやってエドガーを殺さずに勝負を終わらせるのかを考えていた。
利き腕を斬り落とすか・・・。ユイ様がいるし・・・。
「氷弾!」
「岩弾!」
そのとき二人の黒騎士団員が魔法を放った。しまった! さっきのは合図だったのだ。エドガーの部下の中にも魔術師がいてもおかしくない。
油断していた自分に腹が立った。戦いで一番いけないのは油断することだ。これまでの経験で分かっていたはずなのに・・・。
私は氷弾を躱し岩弾を赤龍剣で防ごうとしたが、そこにエドガーが猛然と斬り掛かってきた。エドガーは冷静にあくまで自分の得意なスピードで勝負してきた。
「ぐっ!」
私はとっさに右に避けたが、左肩から胸にかけてを斬られた。
「アディ!」
「クレア!」
レオとユイ様の叫び声が聞こえた。すぐにユイ様が魔法を使う声と同時に「貴様ら! アディを!」とレオの声がして黒騎士団の魔術師二人が斬り倒される音がした。でも、私も傷を負ってしまった。
「魔術師が回復魔法を使えるかもしれん。お前ら魔術師に注意しとけ!」
エドガーは冷静に指示した。ユイ様がいるといっても黒騎士団30人とレオたちでは黒騎士団のほうが実力も人数も上だ。しかもユイ様は黒騎士団員たちを殺さないように牽制している。私との距離もある。この状況でユイ様が私に回復魔法を使うのは難しそうだ。
「これで互角になったな」
「ふん、互角なわけがありません。もともと同じ条件なら私のほうが強い」
私らしくなく言い返してしまった。ハル様の影響だろうか。それとも油断していた自分に怒っているからかもしれない。
「ユイ様、大丈夫です」
ユイ様が私を助けようと魔法で黒騎士団員たちを殺してしまうことがないように、ユイ様に声を掛けた。ユイ様も人殺しはしたくないはずだ。
お互いにダメージを受けている私とエドガーは、再び剣で斬り合った。エドガーはあくまで冷静に得意なスピード重視の3連撃や最初に使ったアイスラーさんに似た技で攻撃してくる。この辺りはエドガーもさすがだ。力任せに大剣に対抗しようとはしていない。私はそれを冷静に防ぐ。
何度か剣が交わる。お互いに負傷しているので戦いが長引いてしまった。でも、これ以上の隠し玉がないのならいずれ私が勝つ!
それでも私は油断しない。ハル様の言葉を借りるなら私だって学習している。
私の攻撃にエドガーが慣れてきているように私もエドガーの攻撃に慣れた。しかもお互いに傷を負ったためスピードは落ちて技も雑になっている。でもスピードが互角ならパワーに優る私のほうが有利だ。打ち合うにつれ私の優勢は揺るぎないものになってきた。
最後は押されたエドガーの腹を私が赤龍剣が斬ったところでエドガーは戦闘不能になった。
ズサッ!
私は念のためエドガーの右腕を斬り落とした。ユイ様がいれば後でどうとでもなる。
「ぐわーー!!」
「エドガー様!」
エドガーは無くなった腕を抑えて床に俯せるように倒れた。
「ユイ様」
「回復魔法を使うからそこをどいて!」
黒騎士たちがユイ様の勢いに押されて道を開ける。
「大回復!」
ユイ様はエドガーに駆け寄ると回復魔法をかけて止血した。利き腕はとりあえず元に戻さない。部下らしい黒騎士団員もそれをみて大人しくしている。
「とりあえず命に別状はないわ。次はクレアね」
「アディ・・・大丈夫か?」
私はユイ様に回復魔法をかけてもらいながら、レオに「レオナルド様、何度も言っているように、私はハル様とユイ様の騎士クレアです」と言った。
私はエドガーの剣を拾い上げるとエドガーを見て「やっぱり、私が勝ちましたね」と言った。
格好いいハル様の真似をしてみた。
そのハル様は・・・。
第1章の最後に「第1章までの登場人物紹介」を挿入しました。今後も各章の最後に登場人物紹介を挿入していく予定です。




