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5-32(黒騎士団現る).

 レオナルドと部下たちはすでに戦意を失っている。後は引き返してレオナルドをビダル伯爵のもとに連れ帰るだけだ。僕たちはガルディア帝国の政争には興味がない。クレアの願いを聞き届けてレオナルドを生きて連れ帰ることだけが目的だ。


「皆さんの中でまだ『正しき血への回帰』へ参加するという方がいたら僕たちは止めません。僕たちの目的はレオナルドさんを家族の下へ連れ帰ることだけですから。それと付け加えときますが、皆さんの上司のレオナルドさんは奥さんと息子を人質に取られて『正しき血への回帰』に無理に参加させられていたのです」


 僕は白騎士団員たちにそう言うとクレアが抱えているレオナルドを連れて通路を引き返そうとした。


 そのとき通路の先から複数の足音が聞こえてきた。僕は振り返る。見ると通路の先から騎士たちが広間に入ってきた。


 黒騎士団だ! 30人くらいはいる。これは一体・・・。 


 そのうちの一人、リーダーと思われる男が「お前らなんだ!」と大声で訊いてきた。それはこっちが聞きたいけど、とにかく作戦はバレていたってことだ。

 

「冒険者ですけど」

「その、冒険者がなぜここにいる!」


 黒騎士団のリーダーがますます大声を上げる。耳が痛い。そんなに大声を出さなくても聞こえる。


「失われた文明の遺跡を探索していただけですけど・・・」

「嘘を言うな!」

「嘘ではありません。それとも嘘だという証拠でも?」

「そこにいるのは白騎士団のレオナルドとその部下だろう。ん? そこに倒れているのはゼードルフか?」


 あ、ゼードルフのことを忘れていた。


「ちょっとした誤解がありまして、同じように遺跡を探索していた騎士の方たちと争いになってしまいまして。いやー、冒険者っていうのは手が早くていけませんね。でも、誤解も解けてこれから帰るところです」


 リーダーの男は僕の弁解を聞いても全く納得している素振りはない。まあ、それはそうだ。彼らがここにいるってことは最初から罠だったのだろう。


「お前たち、レオナルドとゼードルフと一緒に皆殺しだ」

「皆殺し? 一体なんの罪で、しかも騎士の方がそんなこと言ってもいいんですか? 冒険者ギルドも黙っていませんよ」


 騎士がいきなり冒険者である民間人を殺すなんてむちゃくちゃだ。


「皆殺しにすれば証拠も何もない。この場所だって分からない。冒険者ギルドも何もできない」


 典型的な悪人のセリフだ。僕とリーダーの男は睨み合う。


「お前たち俺が誰だか知っているのか?」


 お前が誰かなんてどうでもいいんだけど、まあ、せっかくだから答えてみるか。


「そうですね。たぶん、8年前の武闘祭優勝者にして黒騎士団の副団長であるネイガロスさんでは? どうやら隣にいるのは4年前の優勝者のエドガーさんでは? 確か黒騎士団第一大隊の隊長だとか」


 武闘祭で過去の優勝者として紹介されていたのを覚えている。緑がかったくすんだ金髪がネイガロスで茶髪の大柄な男がエドガーだ。


「貴様、馬鹿にしてるのか! 知っているのなら、お前ごときが俺たちに勝てるわけがないことは分かるだろう!」


 だから声が大きいんだって・・・。


 僕はネイガロスの言葉に首を傾げると「いや、分かりませんけど」と答えた。それに続いて「ハル様がお前ごときに負けるわけがありません」と言ったのはクレアだ。


 ユイは、二人ともしょうがないなーとでも言いたそうな顔で僕とクレアを見ている。


「そうだ。この先にヒューたちがいたはずだ。ヒューはどうなったんだ!」


 僕とネイガロスが睨み合う中、突然我に返ったようにレオナルドは立ち上がるとネイガロスに詰め寄った。


「レオナルド様、下がって下さい」


 前のめりになるレオナルドをネイガロスに近寄らせまいとクレアが割り込んだ。


「ヒュー? ああ、今回の反乱の首謀者ヒューバート・メンターか。先に死体になってお前たちを待っているよ」

「ヒューを、ヒューを殺したのか!」

「ネロア様に逆らう者に死が与えられるのは当然だろ。お前、ヒューバートに妻と娘を攫われて脅されているんだろう? それでもまだヒューバートを心配するとは、美しき友情とはこのことだな」

「ネイガロス! 貴様!」

「レオナルド様、だめです!」


 レオナルドがクレアを振り切ってネイガロスに近寄ろうとするがクレアがそうはさせない。


「ふん、どうせ死ぬんだから教えてやろう。クリストフは最初から皇帝派だ。お前の友達のヒューバートはクリストフを説得しているつもりだったようだが、その実クリストフに唆されていたんだよ。しかも親友の家族まで人質にして反皇帝派を集めてくれるとは・・・。いい仕事してくれたよ。今頃は本隊とやらを率いて帝都に向かっている。その本隊の運命も言わなくても分かるだろう」


 そうだったのか・・・。


 だだ、ネイガロスがクリストフの名を口にするとき、嫌悪の感情が込められているように感じたのは気のせいだろうか。


「ク、クリストフが最初から皇帝派だった・・・」

「そうだ。そう聞いてヒューバートの奴もずいぶんと驚いていたよ」とネイガロスが吐き捨てた。


 レオナルドが奥さんと息子を人質に脅されていたことまで知っているんだから、ヴァルデマール侯爵が最初から皇帝派だというのは本当なんだろう。


 ユウトによるとサクラ迷宮のヴァルデマール家の別邸を守っていたのは魔族だ。だとすると・・・。ちょっと煽って確認してみるか。


「レオナルドさんの奥さんと息子さんはサクラ迷宮にあるヴァルデマール家の屋敷で監禁されているのを発見され無事助け出されましたよ」

「なんだと!? あそこは・・・」

「魔族の手練れが守っていたのに・・・ですか?」

「・・・」

「どうしたんですか? 今度はダンマリですか? もしかして皇帝ネロアって魔族と繋がってるんですか?」

「貴様・・・」


 魔族は思った以上に人族の中に溶け込んでいる。エリルも言っていた。すでに魔族と人族の血はずいぶん混じっているって。なんだか神聖シズカイ教国での事件を思い出す。


「ギーズはどうなった?」

「ギーズ?」

「ハル、ユウトたちが倒した魔族のことだよ」

「そうか。それなら冒険者に殺されたみたいですよ」

「まさか、ギーズが・・・」


 この反応は、やっぱりギーズって相当な強者だったみたいだ。ユウトやるな!


「レオナルドさん聞いてましたか。反乱なんて無意味なんです。皇帝とヴァルデマール侯爵、クリストフでしたっけ、が無理やり内乱を起こして反皇帝派を一層しようとしてたんですよ。レオナルドさんの友人のヒューバートさんも騙されていたんです。しかも魔族まで絡んでいる」


 最近では人族最強の国家と言われているガルディア帝国、それが実は魔族と繋がっていた。黒幕がエリルのはずはない。なんとなくメイヴィスも違う気がする。もしガルディア帝国にメイヴィスの息がかかっているのなら、南の端の神聖シズカイ教国なんてどうでもよかったような気がする。 


「ねえ、ネイガロスさん。もしかしたらネイガロスさんは、皇帝から一部の魔族が皇帝に忠誠を誓って協力しているくらいに聞いているのかもしれませんけど、多分逆ですよ」

「逆だと?」

「ええ、支配されているのは皇帝の方ですよ」

「馬鹿な!」

「いえ、あなたも内心疑っているのでは? もしかしたら皇帝ネロア自身が魔族だったりして」 

「き、貴様、生かしておくわけには・・・」


 ネイガロスは、まさに悪人らしいセリフを吐いた。しかし言葉とは裏腹にネイガロスにも動揺が見える。 自分たちが忠誠を誓っている皇帝が魔族の傀儡か魔族そのものではないかと指摘され、それは内心自分も疑っていたことだからじゃないのか? 

 反対にエドガーは無表情だ。他の黒騎士団員たちも何を考えているのかは分からない。彼らはネイガロスと違い盲目的に皇帝に従っているのか・・・。いや、よく観察するとさすがに一部の黒騎士団員たちの目には・・・。


「僕たちをここで殺しても、サクラ迷宮で殺された魔族のことは冒険者ギルドがもう知っています。幸い今は英雄ジークフリートさんもいます」

「なるほどな。少しは知恵が回るらしい。それでもお前たちを生きてここから出すわけにはいかないな。後のことは、まあ、なんとかなる」


 ネイガロスはさっきの動揺からすでに立ち直っているようだ。少なくとも見かけ上は。


「でも、魔族の件はどうするのです」

「ふん、どうとでもなる」


 これ以上、動揺させるのも無理か・・・。まあ、確かに皇帝なら魔族の件だってどうとでも処理できそうではある。それだけで皇帝を失脚させるなんて無理だ。だけどレオナルドさんやビダル家を助けることには使えるかもしれない。

 

「そういうことですか。そのためにここにいる全員を殺して口封じをすると。そうでないとネイガロスさん、あなたも皇帝から切り捨てられるかもしれませんもんね。でも、あなた程度では僕たち全員を殺すなんて無理だから止めたほうがいいですよ。それどころか、たぶん一人も殺せないと思いますよ」


 ユイが僕に小声で「ハル、ちょっと煽りすぎじゃない」と言ってきた。


 確かに熱くなりすぎたかも。でも自分たちの都合で無理に内乱を起こして多くの人の命を奪おうとする奴らが許せなかった。しかも僕たちを皆殺しにすると言ったのだ。


 ネイガロスは僕を睨みつけると剣を抜いた。相当に怒っている。僕も剣を抜く。どうやら話し合いは決裂したようだ。

 まあ、元からそのつもりだ。相手は僕たちを皆殺しにして口を封じなければ皇帝に自分たちが切り捨てられるかもしれない。ユウトのおかげで冒険者ギルドがすでに関わってるのだ。皇帝なら部下が勝手にやったなんていくらでも言える。最初から話し合いの余地なんて無かったのだ。


 ガキッ!


 突然ネイガロスが間合いを詰めて僕に斬り掛かってきた。僕はネイガロスの剣を黒龍剣で受けるとすぐに距離を取った。


黒炎弾ヘルフレイムバレット!」


 ネイガロスは黒炎弾ヘルフレイムバレットを剣で逸らすようにして防ごうとしたが、完全には逸らすことができず黒炎弾ヘルフレイムバレットが脇腹を掠って血が滲んでいる。


「この魔法は・・・。そうか貴様・・・謎の仮面男なのか」


 僕はネイガロスの剣を受けた感触を確認するように黒龍剣を握り直すと「うん、ザギとかいう奴のほうが強かったな」とネイガロスをさらに煽った。その実かなり危なかった。ネイガロスの剣は速くギリギリだった。だけどザギよりは遅いというのは事実でもある。でなければ僕が剣で受けることはできなかったはずだ。


「ふーん、ネイガロスだっけ。8年前の武闘祭で優勝したんだよね? でも8年前でよかったよね。今年出てたらベスト4も危なかったね」


 ユイ・・・。さっきは僕に煽りすぎだっていったのに・・・。


「き、貴様ら!」


 ネイガロスの顔は怒りで赤く染まっている。ネイガロスの後ろの黒騎士団員たちも戦闘態勢だ。


「ユイ!」


 僕は短くユイに声を掛ける。


炎竜巻フレイムトルネード!」


 当然現れたの炎の竜巻はゴォーと音を立てて黒騎士団員たちに迫る。


 ユイ得意の炎属性と風属性の上級魔法同士の混合魔法でその威力は最上級に迫る。但し、今はユイが竜巻の進路を巧にコントロールして黒騎士団員たちを牽制している。炎の竜巻が音を立てて動き回る。凄い迫力だ。

 ユイは、黒騎士団員たちを殺さないよう、巧みに炎竜巻フレイムトルネードを誘導して僕とネイガロスに近づけさせない。


「やっぱり、多人数を相手にするなら範囲魔法だね」

「はい。ユイ様のコントロールもすばらしいです」

「いやー、それほどでも、あるのかな?」


 レオナルドたち白騎士団員も唖然としてユイの魔法を見ている。上級同士の混合魔法なんて始めて目にしただろう。はっきり言って武闘祭の演武でもこれほどの魔法は披露されなかった。


「さて、ネイガロスさん、どうしますか?」

「お前を殺して、魔術師を殺せば同じことだ。エドガー、お前は隣の大剣使いをやれ!」

「分かりました。謎の仮面男はザギを倒しています。ネイガロス様も注意して下さい」

「そんなことは分かっている。だが手の内を知っていれば俺が負けることはない」


 どうやら、僕はネイガロスと、クレアはエドガーと戦わなくてはならないようだ。二人とも過去の武闘祭の優勝者だ。煽ってみたもののこれは大変だ。


「えっと黒騎士団員の皆さん。見ての通り、ユイはあなたたちを直撃しないように魔法をコントロールしています。でも僕たちの戦いに手を出そうとしたら分かりますね」


 一応、残りの黒騎士団員たちに釘を刺す。


「えっとレオナルドさんと白騎士団の方々はユイの、魔術師の守りをお願いします」


 ユイはあくまで後衛なのでレオナルドと白騎士団員にユイの守りを依頼する。ユイが守られていれば残りの黒騎士団員たちは、ユイの魔法を恐れて戦いに手は出せないはずだ。


「それじゃあ、クレア行くよ」

「はい。ハル様!」

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