5-30(クレアの涙).
「黒い炎とは、面白い魔法を使う。お前は魔族なのか?」
ゼードルフは興味深そうに僕を見ている。
「そう見えますか?」
「いや、普通とは違うが、魔族には見えんな」
ゼードルフを追って10人くらいの白騎士団員が広間に走りこんできた。
「何か物音と魔力を感じたから戻ってきたんだが。これで、こっちが有利になったな? 黒炎の魔術師!」
僕は走りこんできた騎士たちに向かって、次々と黒炎弾と放って、近寄らせない。
あんまり人殺しはしたくない。大体これは内乱を止めるための戦いだ。手加減して近づけない程度に留めている。もちろんクレアを守るためなら殺すが、それは最後の手段だ。
それなのにゼードルフたちの登場によって乱戦になりそうな気配になってきた。
「ユイは騎士たちを牽制して!」
「分かった。竜巻!」
ユイは竜巻で騎士たちを牽制した。
僕に魔法を放とうとしているゼードルフに向かってクレアが突進する。それを防ごうと、レオナルドがクレアに切り掛かるがクレアは難なくそれを剣で弾き飛ばす。
「氷矢雨!」
だが、その一瞬を捉えて、ゼードルフの氷矢雨が僕とクレアを襲う。
「黒炎盾!」
しかし僕の黒炎盾がそれを防ぐ。
「ほー、発動が早いな。黒い弾をあれほど放って、すぐに黒い炎の盾で味方を守るとは・・・ますます興味深い」
「それだけじゃないぞ! 黒炎爆発!」
僕は黒炎爆発をぜードルフ向かって放った。黒い炎の塊がゼードルフに迫る。
魔法の二重発動だ!
「氷盾!」
ゼードルフが氷盾で黒い炎の塊が近づくのを邪魔しようとする。ゼードルフの前には壁のような氷盾が生成される。僕の魔法を恐れてか、かなり範囲を大きく発動したようだ。
だけど、これじゃあ・・・。
巨大な黒い炎の塊が氷盾に触れた瞬間、水蒸気のような白い煙が吹き上がり黒い炎の塊は爆発した。
ドゴォォォーーーン!!!
氷盾は消滅し、ゼードルフは爆風で5メートル以上も飛ばされ壁に叩きつけられた。限界突破はしていなかったが同じ中級の魔法同士でも僕の黒炎爆発の威力がゼードルフの防御魔法を上回ったようだ。エリルのおかげで黒炎系の魔法は威力が高い。
それに防御魔法の範囲を広く発動し過ぎだぞ、セードルフ!
「うぅー、わしの氷盾が・・・。防御魔法とほぼ同時放って、これほどの威力とは・・・」
僕は剣を抜き壁に叩きつけられて倒れているゼードルフに近づこうとした。
「炎弾!」
「岩石弾!」
「風刃!」
ゼードルフが連れてきた騎士の中には魔術師が数人いたようで僕に向かって次々に魔法で攻撃してきた。
「黒炎盾!」
僕は黒炎盾で防御する。
バリン!
急いで発動した黒炎盾に大した強度はなく、いくつかの魔法を防いだ後、破壊された。そこへ風刃が近づいてくる。風刃は初級魔法の中でもスピードが速い。
ま、まずい! ちょっと油断した。やっぱり数は力だ。
「風盾!」
た、助かった!
「ユイ、ありがとう」
ユイは風属性上級魔法の竜巻で騎士たちを近づけないようにしながら、風盾で僕を守ってくれた。竜巻は発生した後、しばらくその場に残って攻撃し続けるので牽制には向いている。しかもユイは素晴らしい魔法コントロールで竜巻を操作して騎士を近づけないようにしている。
ユイのおかげで態勢を立て直した僕は、なんとか立ち上がろうとしているゼードルフに素早く近づくと杖を持っている腕から肩にかけてを剣で斬った。
「ぐぉー!!」
急所は外したつもりだが、これでゼードルフは、しばらくは起き上がれないだろう。はっきり言って大魔道士だろうが1対1なら僕が負けるはずがない。武闘祭でも言われていた通り対人戦ではスピードが命だ。剣を使えない者に勝ち目はない。
「竜巻!」
見るとユイが再度、竜巻を発生させ騎士たちは吹き飛ばしている。どちらかと言うと殺さないように苦労している感じだ。どうやら騎士たちはユイの竜巻に加えてゼードルフが僕にあっけなくやられたことで戦意を失っている様子だ。
クレアとレオナルドは、まだ剣で打ち合っている。当然クレアが押している。しかし、やはりクレアの剣がいつもより鈍い。
「アディ! どうした? 剣の天才であるお前が、なぜ、俺を殺すのにそんなに手間取っているんだ」
「そんなに死にたいのなら殺してあげます!」
クレアの表情がさっきとは違う。覚悟を決めた者の目をしている。クレアの大剣がレオナルドの剣と交わる。
レオナルドの剣が弾き飛ばされレオナルドは大きく態勢を崩した。そこへクレアが上段から大剣を振り下ろす。
「黒炎盾!」
ガキッ!
僕が発動させた黒炎盾が、クレアの大剣を防いだ。
レオナルドは死ぬ覚悟していたのか、とっさに何が起こったのかわからず呆然としていた。ようやく、僕に助けられたのに気がついて、僕の方を睨みつけてくる。
むー、助けたのに感じが悪いやつだ。
「ハル・・・様」
クレアが僕の方を見ている。
「クレアに彼を傷つけさせたくない。やるなら僕がやるよ」
だいたい、レオナルドを傷つけることになんの意味もない。反乱を止めてレオナルドを始め多くの人が死ぬを防ぐのが目的だ。
レオナルドは剣も持たずに床に尻もちをついたような格好のままクレアを見上げた。
「やっぱり俺はこの程度か・・・。セシリアとエドワルドは無事に救出されたんだな?」
「はい。今はサイモン様のところにいるはずです」
「そうか・・・」
クレアは大剣を下げじっとレオナルド見ている。
「ハル様。すみません。私はハル様が止めてくれてほっとしています」
「うん」
「帝国で一人だったとき、レオが私を支えてくれたのは本当のことです」
「うん」
「あの頃の私は、レオの言う通りに行動していました。自分で考えることを止めてレオに依存していたのです。レオは、私を利用しようとしていたのかもしれません。それでも、やっぱり私は・・・」
「うん」
僕はレオナルドがクレアを利用しようして近づいたんだと確信していた。そうでなければ、スパイなんかに推薦するはずがないと思っていた。でもビダル伯爵の話を聞いてどうやらそれだけではないらしいと知った。ビダル伯爵の態度もそれを裏付けていた。これは数学の問題ではない。答えは一つとは限らない。
レオナルドはクレアのことが好きだったんじゃないだろうか? もしかするとクレアも・・・。
さっきも、わざとクレアを、いや、僕とクレアを挑発して、悪者ぶっているように見えた。クレアが自分を殺しても罪悪感を持たないようにそうしてたのかもしれない。それとも、僕に嫉妬してたのか・・・。その両方だったのか・・・。
「でもさっきレオが言ったこと・・・」
「ん? なに?」
「わ、私がレオに、い、いつでも、ま、股を開いてたとか言うあれです。あれは嘘ですから」
やっぱり嘘だったのか! そうだよな。
「うん、分かってるよ。たぶん僕を挑発しようとして言ったんだろう。そんなことで、僕は動揺したりしないよ」
「それならよかったです。ハル様が動揺しまくりのように見えたので・・・」
「私にもそう見えたなー」
ユイが口を挟む。
「いや、気のせいじゃないかな」
「そ、それに、ハル様のは、そこまで、ち、小さくはないと・・・思います。大樹海でハル様の裸はよく見てましたので・・・。い、いえ、別に観察していたわけじゃあ・・・」
「クレア、こんなときに何言ってるのよ!」
ユイは顔を赤くしている。言ったクレアはもっと赤くなっている。
クレアはもの凄く純情だ。レオナルドが言ったことが嘘だなんて、直ぐ分かることだ。だけど、ユイと同じで、そこまでは・・・はいらないと思う。
「でも、もしレオがそう望んだらあの頃の私はそうしていたかも・・・。でも当時からレオはセシリア様を愛していました」
クレア・・・。
「結局レオは任務を果たして帰って来たら妻の一人にしてやるって言って、それで私を送りだしたんです」
「結果的には、それでよかったんだよ。おかげで僕はクレアと会えたんだからね」
「そうだよクレア、私もそう思うよ、クレア」
「ありがとうございます。ハル様、ユイ様」
僕は、泣いているクレアの肩をそっと抱いた。ユイは何も言わず僕に抱かれてるクレアを見ていた。
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