5-28.
「そうかコウキがそんなことを・・・」
「ああ、それであの日僕はすぐにルヴェンを出たんだ」
コウキはタツヤがいないことや例の校章を見つけたたことで、最初からルヴェリウス王国を疑っていた。だからユウトが出ていくとき、王国に注意するよう忠告をしていたのだ。やっぱりコウキは大したもんだ。
それもあってユウトはユウジロウと名乗っているのだそうだ。仲間の二人は本名もユウトが異世界人であることも知っているとユウトは説明してくれた。仲間のルルさんとシャルカさんもユウトの説明に頷いていた。
僕たち3人とユウトたち3人はジークフリートさんに紹介してもらった貴族向けの高級なレストランの一室でこれまでのお互いのことを話した。僕はユウトたちにコウキがルヴェリウス王国の王になることを目指している話、さらにはエリルのことも話した。
ジークフリートさんにも話してないことまで伝えたのは、やっぱり一緒に日本から転移してきたユウトのことを特別に思っているからだ。
「それにしてもハルたちは大変だったんだな。あれからまた転移してたなんて」
「うん。今も生きているのが不思議なくらいだよ。でもユイともまた会えたしクレアも仲間になったし結果オーライだよ」
「そうみたいだな」
そういえば、クレアはクーシーと名づけられたユウトの従魔を可愛いと言って撫でまくっていた。それをみたシャルカさんというユウトのパーティーの盾役らしい女の人と意気投合していた。
ユウトの仲間のシャルカさんは女性にしては大柄で騎士風の格好をしている。もう一人のユウトの仲間のルルさんは反対に小柄でなんとメイドの格好だ。シャルカさんは騎士ではなく騎士風の格好だ。ルルさんはまさにアニメでよく見るメイド服だ。僕はユウトの趣味の良さに驚いていた。
「やっぱり、ハルはさすがだな。シャルカとルルの服装をそこまで褒めてくれたのはハルだけだよ」
僕が横目でクレアを見ると、クレアは黙って首を横に振った。クレアはどちらの格好も嫌みたいだ。それを見たユイが呆れたように僕を見た。
口に出さなくてよかった・・・。
「ユイさんも、そんな危険な魔道具で聖女にされてたなんて・・・」
「ほんとに大変だったのよ。ハルがなかなか迎えに来てくれなくて」
「お、遅くなってごめんね」
「ユイ様、申し訳ありません」
「違うって、クレアを責めてるんじゃないよ」
慌ててユイが手を振って否定する。
「それより、ユウト、もっと大事な話があるんだ」
僕の口調に何かを察したのか、ユウトは真剣な表情で僕の次の言葉を待っている。僕は深呼吸して心を落ち着ける。
「ヤスヒコとアカネちゃんのことなんだけど・・・」
僕はヤスヒコとアカネちゃんに起こったことをユウトに話した。それまで僕は二人のことを話すのを避けて説明していた。
しばらく、ユウトは黙っていた。俯いて何か考えている。きっと今の話を自分の中で消化しようとしているんだろう。
「そうか・・・。コウキがルヴェリウス王になるって話がいきなり出てきて、タツヤたちのこと以外にも何かあるんじゃないかって思ってた」
「・・・」
「アカネちゃん、もういないんだ。それでヤスヒコが・・・」
僕自身ユウトに話しながらアカネちゃんのことを思い出していた。アカネちゃんは女性陣の中でも一番活発で元気な感じだった。なんでアカネちゃんがって気持ちが抑えられなくて胸が締めつけられる。
「ハル、僕は一緒に転移してきたクラスメイトたちともともとそんなに親しいわけじゃなかった。転移した後も本当に腹を割って話せたのは僕がルヴェリウス王国を出る前の2週間くらいだ。なのに、今ではみんなのことを本当に大切に思っているんだ。もちろんヤスヒコやアカネちゃんもだよ」
「ユウト、ありがとう」
僕とユウトを見たユイが目に涙を浮かべている。クレアは黙って見守ってくれている。ルルさんとシャルカさんはユウトを心配そうに見ている。
ユウト、いい仲間を見つけたみたいだな。
「ハル、まだちょっと自分の気持ちが整理できないけど、話してくれてありがとう」
「当然だろ、ユウト。僕たちはたった9人の仲間だろ」
「ああ、そうだな、ハル」
その後しばらくは、しんみりした感じになった。
でも、僕たちにはやることがある。アカネちゃんのためにも後悔しないように生きよう。今できることをやらなくては。
この場の沈んだ雰囲気を断ち切るように僕は口を開いた。
「クレア、さっきの、えっと『正しき血への回帰』の件、どうする? ビダル伯爵も冒険者ギルドもとりあえずは動きそうにない」
「ハル様・・・」
僕の言葉にクレアは少し考えている。自分の気持ちを確認しているのだろうか。
「ハル様、ユイ様、しばらくお休みをいただいてもよろしいでしょうか?」
「クレア、それはどういう意味なの?」とユイが尋ねた。
「・・・」
今回の件は僕たちには関わる理由がない。でもクレアはおそらくレオナルドという人を助けたいのだろう。ビダル伯爵から聞いた話ではクレアをスパイにしてルヴェリウス王国へ送り込んだのはクレアのためもあったようだ。
「レオナルドっていう人を助けに行くの?」
「・・・」
「クレアは私たちの騎士なんでしょう。だったら質問に答えてほしい」
「ユイ様・・・」
ユイの言葉に心を動かされたのかクレアは自分のしたいことを話してくれた。
「レオを、レオナルド様を殴ってでもビダル家へセシリア様の下へ連れて帰ろうと思います。私は『正しき血への回帰』にもこの国の政治にも関心がありません。ただビダル伯爵家には多少の恩義もあります。でもこれはハル様やユイ様には関係のないことです」
クレアが僕やユイの意向とは関係なく何かを決断したのは初めてのような気がする。
「分かった。僕も協力するよ」
「もちろん私もね」
「ハル様、ユイ様・・・。でもこれはお二人には無関係の」
「クレアは、クレアと関係が無くても、僕たち異世界人とルヴェリウス王国の件に協力してくれるんでしょう?」
「それは、もちろん」
「じゃあ、僕たちも同じだよ」
クレアは大きな目を見開いた後、「ありがとうございます」と言った。
「それと、これは確認なんだけど、もしかすると『正しき血への回帰』は成功するかもしれないよ」
秘密の通路の件がある。成功する可能性がないとは言えない。
「言われてみればそうですね。ビダル家のためには止めないほうがいいのでしょうか?」
おそらくビダル伯爵も同じことを考えている。
「いや、どちらかといえば失敗する可能性のほうが高そうだし、どっちにしても内乱が起これば多くの人が死ぬことになる」
クレアはしばらく考え込んでいた。
「やっぱり、たくさんの人が犠牲になることにレオ、レオナルド様が関わるのは嫌ですね。セシリア様たちが救出されたことも伝えたいですし」
「分かった。クレアの言う通りにしよう」
さて、これで僕たちはレオナルドと言う人が、クレアが言うには殴ってでも『正しき血への回帰』へ参加することを止めることになったわけだけど・・・。
「今一話が見えてないんだけど、要するにクレアさんに縁のあるレオナルドっていう白騎士団の人が皇帝への反乱に参加するのを止めるんだよね」
「うん」
「私もそれが正解だと思うぞ。白騎士団がいくら集まっても黒騎士団に勝てるわけがない」
「シャルカは黒騎士団にいたんだ」
ユウトの仲間の騎士風の格好をした女性は元黒騎士団員らしい。
「まあ、ザギが謎の仮面男とかいう変なやつにやられたのはすっとしたけどな」
「ザギとシャルカはちょっと因縁があるんだ。僕も以前ザギを見たことがあって・・・。正直、ザギがやられたのはシャルカが言ったようにちょっと気分がよかったよ」
「ユウ様、あの謎の仮面男って趣味は悪いですけど強かったですね」
「うん。ルルの言う通りだ」
ユイが笑いをこらえている。そういえばユウトには謎の仮面男が僕だと言う話をしてなかった。仕方ない。ユウトに隠し事はできない。僕は「実は・・・」と僕が謎の仮面男だとユウトたちに説明した。
「そうだったんだ。ってことは、優勝がコウキで準優勝がハルってことか。これは凄いことだよね」
「まあ、そう言うことになるね」
僕は、なるべく平静を装って答えたけど、ちょっと得意になっている自分を感じていた。それに気がついたユイが調子に乗るなと可愛く睨んでいる。クレアはなぜか得意顔だ。
「なんだか、お互いに縁があるよね。ハルがザギに勝ってよかったよ」
シャルカさんも頷いている。
「ただ、僕もあの仮面はさすがに擁護できないかなー」
ユウトにもあの仮面はダメ出しされた。ジークフリートさんに嵌められた・・・。
「それで、そのレオナルドっていう人を連れ戻すのに僕たちの協力は必要かな?」
「いや、とりあえず僕たちだけでなんとかしてみるよ」
「そうか。でも、なんか手伝えることがあったらいつでも言ってよ。一応僕たちの宿も伝えておくよ。それとお互い冒険者なんだから、連絡には冒険者ギルドを利用しよう。ハルたちはS級なんだしね。今回の件だけじゃなくてコウキの計画のこともある。コウキには恩もあるしできれば僕も外から協力したい。そのためには時期をみてルヴェリウス王国に戻ることも考えなくっちゃね」
僕はユウトの言葉に頷いた。ユウトは前よりよく喋るようになったし生き生きしている。
「分かった。ユウトありがとう」
「何言ってんだ。この世界でたった9人の仲間だ。そうだろう?」
「ユウト・・・」
ユウトが元気そうで本当によかった。
そのユウトたちがクレアと縁のあるレオナルドの奥さんであるセシリアさんを救い出した。そして僕はシャルカさんと縁のあるザギに武闘祭で勝った。なんだか不思議な縁だ。
その後もずいぶん長い間ユウトたちと話した。まだまだ話し足りないことがたくさんある。
「そうか、やっぱりハルは凄いな」と僕の話にユウトは関心してれた。でもユウトも凄い。僕たち9人の中で最初に自由に生きるって決断して、それでこんないい仲間に囲まれて「いや、ほんとに凄いのはユウトだよ」と僕は心の底からそう言った。
「そうなんです。ユウ様は凄いのです」
「まあ、見かけよりは頼りになるのは確かだな」
ユウトは本当にいい仲間に恵まれたようだ。これなら安心だ。話しは尽きないが、僕たちにもやることができた。
「それじゃあ、ハル、ユイさん、またね」
「ああ、ユウトまた」
「ユウトくん、またね」
「ユウト様、お元気で」
ルルさんやシャルカさんとも挨拶を交わして僕たちは別れた。
また会おう、ユウト。