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5-21(武闘祭8~勇者コウキ対謎の仮面男).

 いよいよ決勝戦だ。


 謎の仮面男ことハルは勇者コウキと握手をすると審判役の騎士に従い一定の距離を取って対峙した。さっきまで周りの声が聞こえないほどの大歓声に包まれていたカラディア闘技場も今は静まり返っている。


「ユイ様、ハル様は勝てるでしょうか?」


 クレアがユイに小声で話しかけた。心配そうだ。


「無理だよ」

「でも、ハル様はとても強いです」

「クレア、ハルは勇者に負けることになっているのよ。聞いてなかったの?」

「そ、そうでした」 


 ユイは自分の実践訓練でのパートナーの座を賭けてハルがコウキと模擬戦をしたときのことを思い出していた。

 あのときのことを、思い出すと今でも体が熱くなる。それまであまり目立つことをしなかったハルが、コウキと模擬戦をすると宣言したあのとき、ユイはその後の二人の戦いを祈るように見守ったものだ。


 あのときより遥かに大きな舞台で二人は対峙している。なのにユイの心はあのときより平静だ。今ではあの二人はお互いを認め合っているように見える。


 そして二人ともあのときより強くなり、そして少し大人になった。





 ★★★




 

 審判の「始め!」の合図で、すぐにコウキが剣で攻撃してきた。


 速い!


黒炎盾ヘルフレイムシールド!」 


 ガキ!


 僕の発動した黒炎盾ヘルフレイムシールドがコウキの剣を防いだが、コウキが再度剣をふるうと黒炎盾ヘルフレイムシールドは切り裂かれて消えた。なんとなく、コウキの攻撃に対して黒炎盾ヘルフレイムシールドの強度が弱いような気がする。


 コウキはすぐに次の攻撃を繰り出してくる。


 僕はバックステップで距離を取ろうとするが、コウキはそれは許さないとばかりに、すぐに間合いを詰めて斬り掛かってきた。


黒炎盾ヘルフレイムシールド!」


 バリン!


 僕は、また黒炎盾ヘルフレイムシールドでコウキの攻撃を防せいだ。でも黒炎盾ヘルフレイムシールドも一撃で破壊された。


 ここまでは、僕の魔法属性が黒炎属性に変わっている以外はあのときの模擬戦と同じだ。あのときを再現するように僕たちは戦っている。


 僕たちは顔を見合わせるとニヤっと笑った。まあ、僕は仮面をかぶっているのでコウキには見えないだろうけど・・・。


 ただ、少し気になるのは思ったより黒炎盾ヘルフレイムシールドの強度が低い気がすることだ。コウキの一撃が強いのか・・・。


 コウキは僕の真上に高くジャンプして、上段に振りかぶった剣を叩きつけようとしてくる。黒炎盾ヘルフレイムシールドもろとも僕を斬り裂くつもりかもしれない。


 これもあのときと同じだ。でも今回は・・・。


黒炎盾ヘルフレイムシールド!」


 コウキの剣と黒炎盾ヘルフレイムシールドが激突する。ガギ!っという音がしてコウキの剣は黒炎盾ヘルフレイムシールドに跳ね返された。


 あのときは、僕の炎盾フレイムシールドはコウキの一撃で破壊され僕はダメージを負った。だが、今回の黒炎盾ヘルフレイムシールドは二段階限界突破されていた。魔法の二重発動で最初から用意されていたものだ。さすがに二段階強化すれば跳ね返せたか・・・。でも、やっぱり・・・。


 コウキは光の聖剣を持つ右手をチラっと見ると「ハル、強くなったな」と僕だけに聞こえるように言った。


「まあね」


 コウキの一撃だってあのときより速くて強かった。何はともあれ、その一撃を僕の二段階限界突破した黒炎盾ヘルフレイムシールドは防いだ。すこし誇らしい。


光弾シャイニングバレット!」


 今度は光の弾が僕に迫る。また、あのときと同じだなと、考えながら、僕は素早く後ろに走って逃げる。逃げながら魔力と溜める。


光弾シャイニングバレット!」


 コウキは、あまり間を置かずに光弾シャイニングバレットを放ってくる。


黒炎弾ヘルフレイムバレット!」


 しばらく逃げに徹した後、僕は一段階限界突破した黒炎弾フレイムバレットを発動した。


 バーン!


 僕の目の前で、光弾シャイニングバレット黒炎弾ヘルフレイムバレットがぶつかり爆発する。だけど、あのときときと違って爆風で大きく飛ばされて地面に叩きつけられたのはコウキのほうだ。


 一段階限界突破した黒炎弾フレイムバレットの威力は光弾シャイニングバレットを上回った。

  

 地面に叩きつけられゴロゴロと転がったコウキを見て観客が悲鳴を上げる。 


 僕はコウキに向かって走り出す。


光弾シャイニングバレット!」


 立ち上がったコウキが光弾シャイニングバレットを放った。コウキの魔法発動速度も相変らず速い。いや、以前よりもっと速くなっている。


黒炎盾ヘルフレイムシールド!」


 僕も黒炎盾ヘルフレイムシールドを発動させる。発動の速さ重視でお互い威力や強度は低いが、僕のほうが魔法コントロールではやはり上だ。必要最小限の範囲で発動させている。

 その結果、光弾シャイニングバレット黒炎盾ヘルフレイムシールドは互角の威力でぶつかり両方とも消えた。これで互角ってことはやっぱり光属性魔法は他の属性に比べて威力が高い。


 今度は、ガキンと二人の剣が交錯する。3度剣で撃ち合ったあと再び距離を取る。


光弾シャイニングバレット!」


 コウキがシャイニングバレットを放つ。だけど僕だって黒炎盾ヘルフレイムシールドの準備は完了している。


 その後も一進一退の攻防が続く。これまでの戦いはあのときの模擬戦をなぞるように行われている。


 だけど、あのときと違うことがある。


 それは、僕のほうがやや押しているってことだ。やはり、エリルの加護に加えて魔法の二重発動ができるようになったのが大きい。いくらコウキの魔法発動速度が速くても二重に発動している僕を上回ることはできない。むしろ、ここまでコウキが対応してくるのに僕は驚いている。


 さすがだよコウキ・・・。


 それなら、最後は同じやり方で・・・。


 最小限の大きさで発動させた黒炎盾ヘルフレイムシールド光弾シャイニングバレットを防ぎながら僕はコウキに迫る。


 もうコウキは目の前だ!


光弾シャイニングバレット!」


 コウキが続けて光弾シャイニングバレットを放つ。


黒炎弾ヘルフレイムバレット!」


 コウキに近づいた僕は今度は黒炎盾ヘルフレイムシールドではなく黒炎弾ヘルフレイムバレットをコウキに向かって放った。そしてコウキに向かってジャンプする。


 あのときを同じでコウキの放った最後の光弾シャイニングバレットが僕の左足を捕らえた。


 痛い!


 僕は、あのときと同じで左足を犠牲にしてコウキに斬り掛かった。同時に僕が最後に放った黒炎弾ヘルフレイムバレットがコウキに迫っている。


 両方を受けることはコウキにはできないはずだ。あのときコウキは僕の炎弾フレイムバレットを剣で受けずに、剣で僕を斬った。僕の炎弾フレイムバレットは創生の神イリスの加護のあるコウキに大したダメージを与えることはできず僕は負けた。


 だけど、今回は違う。僕が最後に放ったのは魔法の二重発動を使って準備していた一段階限界突破した黒炎弾ヘルフレイムバレットだ。


 いくらコウキでもこれを受けて無傷では・・・。


 え!?


 ガキ!


 何事もなかったようにコウキは僕の剣を受け止めたコウキは、あのときと同じで返す刀で僕の胴を払った。僕は素早くバックステップで距離を取った。


「うっ!」


 痛みに腹を見ると血が滲んでいる。それに光弾シャイニングバレットを受けた左足も痛い。一転して僕のほうが不利になった。


「ハル、やっぱり強いな」


 そう言ったコウキの左肩からも血が流れている。黒炎弾ヘルフレイムバレットが付けた傷だろう。だがその程度で済むはずが・・・。あれは一段階とはいえ限界突破していた・・・。やせ我慢しているか。それとも・・・。


「ハル、楽しかった。だけど、予定通りそろそろ終わりにしよう」


 コウキが囁くように言った。


「少し派手に光属性魔法を使うからそれで終わりってことにしてくれ。すまないな」


 僕は頷いた。


 あのときの模擬戦をなぞるように行われたコウキとの戦いは楽しかった。終わるのが惜しい。だけど、僕たちにはもっと大きな目的がある。


「そうそう、ルヴェリウス王国で習ったことで、伝え忘れていたことがあった」


 伝え忘れたこと?


「勇者と魔王の光属性魔法と闇属性魔法、その最上級魔法、まあ必殺技のようなもんだな、それは個々の勇者や魔王によって違う。個性があるんだ」


 個々の勇者や魔王によって違う。だとするとエリルの必殺技である黒いオーラのような魔法は必ずしも過去の魔王の魔法と同じではないってことか。だとするとコウキ最強の光属性魔法ってどんな魔法なんだろう?


「ふふ、それは秘密だ。ちなみにこれから使うのはそれじゃない」


 コウキは僕の考えを読んだようにそう言った。


「じゃあ、行くぞ! 光矢雨シャイニングアローレイン!」


 闘技場の上空から無数の光の矢が降って来た。見たところ他の属性でいえば上級に相当する魔法だろう。


 観客のどよめきが地鳴りのようにカラディア闘技場を揺らす。無理もない正に神の御業のように光に包まれた無数の矢が闘技場に降り注いでいるのだ。

 僕がシズカディアで使った空一面を黒く染めた黒炎爆発ヘルフレイムバーストが神の怒りか地獄の業火だとすれば、これは、神が勇者を祝福し力を貸してくれているような魔法だ。


 だけど・・・。


 これはあのときの黒炎爆発ヘルフレイムバーストと同じで見掛け倒しだ。こんなに広く空一面から無数の光の矢を降らしたら大した威力はないはずだ。


 コウキの意図を察した僕は、転げまわって光の矢を避けると「参った!」と口にした。実際、思ったより威力もあった。


 その瞬間、うおーっという歓声に闘技場は包まれた。無理もない。こんなに派手な光属性魔法を見たのだ。


 こうして謎の仮面男、僕は勇者コウキに敗れた。


 勇者コウキが片手を上げると光の矢は消え去り、謎の仮面男はゆっくりと立ち上がった。お腹と左足が痛い。その後、勇者コウキは左肩の傷をまるで気にしていないように両手を上げて観客の歓声に答えた。


 それは物語の中の勇者そのものだった。


「まさか、この魔法を使うことになるとは・・・。謎の仮面男くん、君は強いな。いい勝負だった」


 観客の興奮は最高潮に達した。僕は歓声に包まれてコウキと握手をしながら、やっぱり僕も決めポーズとか決め台詞にもっと磨をかけるべきだなと考えていた。

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