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5-19(武闘祭7~勇者コウキ対巨人ガロデア).

 僕にガルディア帝国代表のザギが敗れた後、なかなか観客の興奮は収まらなかった。正直僕はほっとしている。実際よく勝てたものだ。ザギが僕の魔法の特徴を最初から知っていたら勝ち目はなかった。至近距離からの魔法でさえ躱す身体能力は異常だった。もしザギが攻撃を諦めて最後の黒炎弾ヘルフレイムバレットを剣で受けずに躱していれば僕は負けていた。


 僕とザギの試合の後、帝国黒騎士団の魔術師による魔法の披露が行われた。最後のほうに、なんとマツリさんが登場し観客は大に湧いた。マツリさんは基本四属性の攻撃魔法を次々と操って見せた。その技術はすばらしい。ユイも個々の魔法の威力はマツリさんのほうが上だと言っていた。特にマツリさんの雰囲気にぴったりな巨大な氷の槍の魔法や氷の矢を降らせる魔法を披露したときには恍惚とした表情を浮かべて見入っている一部の観客がいた。


 そしていよいよ勇者の登場だ!


 やっぱりコウキは人気がある。勇者、それは何百年単位でこの世界に現れ魔王を討伐して人族の危機を救ってきた存在だ。それが今目の前にいるのだ。


「ハル様、コウキ様は勝てるでしょうか?」

「うーん、どうだろう?」


 勇者コウキの相手は巨人といってもいい大男ガロデアだ。


「準決勝第2試合は勇者コウキ対巨人ガロデアです!」と二人が紹介された。


 ガロデアはいつの間にか巨人という二つ名が付けられている。コウキは観客席に向かって軽く片手を上げた。いちいち様になっているのが、なぜか悔しい。


「コウキってなんか格好いいね。いかにも勇者って感じだし」

「そうですね」

「・・・」


 まあ、もしコウキが負けてもガロデアは前の試合を見た限り外見に似合わず紳士的な男だった。安全という面では大丈夫だろう。


 ふっと貴賓席の方を見ると、ジークフリートさんたちがいる席の近くにマツリさんの顔が見えた。コウキの試合はマツリさんも観戦するみたいだ。僕とザギの試合のときは復活の魔法陣のある部屋で待機していたみたいだけど、この試合は安全だと思っているのか、どうしてもコウキの試合が見たいのか、どっちかだろう。まあ、コウキが大怪我でもしたらすぐに飛び出して行きそうだけど・・・。


 闘技場では両者が対戦前の握手をしている。ガロデアはその大きな手でコウキの右手を包み込むように握手している。その顔にはまるで子供が憧れの人にあったような興奮が浮かんでいた。勇者を見たこの世界の人の当たり前の反応かもしれない。


 両者が一定の距離を取って対峙する。


「始め!」


 両者はそれぞれ相手の出方を伺い仕掛けない。

 ガロデアは、巨人とはいってもサイクロプスやキングオーガなどの人型の魔物に比べれば小さい。当たり前だ。サイクロプスなどは個体差はあるがたぶん5メートルくらいはある。だけど、ガロデアは魔物にはない剣技を持っている。油断できる相手ではない。


 先に仕掛けたのはガロデアだ。間合いを詰めると、その巨体にふさわしい巨大な剣をぶんっと横薙ぎにした。それをコウキはバックステップで躱す。


光弾シャイニングバレット!」


 一方、ガロテアも巨体に似合わない身のこなしで光弾シャイニングバレットを躱した。


 両者は再び距離を取って対峙する。


光弾シャイニングバレット!」


 今度は、コウキのほうが先に光弾シャイニングバレットを放つと同時にガロテアに突進した。コウキの剣がガロデアに届いたかに見えたが、ぎりぎりでガロデアがコウキの剣を剣で防いだ。


 ガギ!


 剣の交錯する音がして後方に吹き飛ばされたのはコウキのほうだ。光弾シャイニングバレットをかろうじて避けたガロデアの方が体勢を崩していたにもかかわらず吹き飛ばされたのはコウキのほうだ。ガロデアのパワーは凄い。


 その後も同じような攻防が続いた。


 観客は息をするのも忘れたように静まり返って両者の戦いを見ている。


 ガキ!

 カーン!


 両者の剣が交錯する音がやけに響く。


 ガロデアと飛心流師範ネイサンの試合のときはネイサンのほうが剣技は上だったがガロデアのパワーに終始押されていた。ガロデアは剣技も一流だし意外と身のこなしは素速い。両者の剣がぶつかればネイサンの方が押し負けて体力を削られた結果、勝負はそのまま決着したのだ。


 だが、コウキにはネイサンと違い光属性魔法がある。


「ここまでは互角・・・だよね?」

「うん」

「コウキ様はハル様の戦い方を参考にしてますね。それに魔法を使う間隔も短いです。ですが、ハル様のように魔法の二重発動や限界突破まではできません」


 なぜかクレアは得意そうだ。


「もう、クレアったら、相変わらずね。でも確かにクレアの言う通りね、だからコウキも勝つまでには至ってない。そんなとこかな」


 思い返せば、ルヴァリウス王国でコウキと模擬戦をしたときから、コウキは剣で戦いながら光属性魔法を使っていた。魔法の発動速度も速かった。コウキはどうだとでも言いたそうな顔して僕を見たものだ。


 懐かしい・・・。


 ガロデアはコウキの光弾シャイニングバレットを警戒して迂闊に飛び込めない。だが、ガロデアは頭がいい。いくらコウキの魔法発動速度が早いとはいっても僕のように二重発動は使えないから、一度使った後にどうしてもある程度間隔は必要だ。それを見抜いたガロデアは光弾シャイニングバレットを躱すと同時にコウキに攻撃を仕掛けている。


 互角と思われた戦いも徐々にガロテアが押してきている。やはりガロデアのパワーが凄すぎてコウキのほうが体力を削られてきている。このままでネイサンと同じになる。


 コウキは左手を前に出して光弾シャイニングバレットを打とうとした。それを見たガロデアは警戒しその場を飛び退いた。


光弾シャイニングバレット!」


 コウキは一瞬遅れて光弾シャイニングバレットを放った。フェイントだ!


「また、ハル様のマネですね」


 カーン!


 ガロテアは光弾シャイニングバレットを大きな剣で防いだ。ギリギリだったが防いでみせた。もともとガロテアがザギとは違い距離を取っていたのも良かった。コウキの光属性魔法は他の属性より威力が高いが限界突破はされていない。


 コウキ、フェイントも通用しなかったぞ。どうするつもりだ?


 その後はガロデアは一層、コウキの魔法に慎重になり、確実に魔法を防いでからコウキに攻撃している。コウキが魔法を温存して近づいてきたら、ガロテアは相手にせず距離を取っている。


 うーん、ガロデアは慎重だし剣技もなかなか、しかも頭もよくパワーもある。やりにくい相手だ。


 慎重なガロデアに苛立った様子のコウキがガロデアに近づく。ガロデアはコウキの魔法を警戒してさっきまでのように距離を取ろうとした。


光盾シャイニングシールド!」


 コウキが使った魔法は光弾シャイニングバレットではなく光盾シャイニングシールドだ!


 光の盾を見たガロテアは一瞬躊躇したが、距離を取るのを止めて思いっきりコウキに向かって剣を振り下ろした。光の盾ごとコウキを斬ることを選択したようだ。


 バリン!


 光盾シャイニングシールドはガロテア渾身の一撃で粉々に破壊され、ガロデアの剣がコウキの左肩辺りを捉えた。


「凄い!」


 隣でユイはガロデアのパワーに驚いている。でも僕はむしろ光盾シャイニングシールドの強靭さに驚いていた。コウキは比較的大きく光盾シャイニングシールドを発動していた。しかも僕のように限界突破することはさすがのコウキにもできないはずだ。なのに、コウキの左肩を捉えたガロテアの一撃は勢いを失っていた、やっぱり光属性魔法は威力が高い。チートだ・・・。


 その証拠にコウキは大したダメージを受けていない。


 そしてコウキは光盾シャイニングシールドが破壊された瞬間、光盾シャイニングシールドを破壊したことで剣速を失っただけでなく、少し仰け反って態勢を崩したガロテアの両足を横薙ぎに斬った。


「ぐっ!」


 小さく呻いたガロテアが膝をついた瞬間、コウキの剣がガロテアの喉元に突きつけられていた。


「参った!」


 突然勝負は終わりを告げた。


「ガロデアは光盾シャイニングシールドごとコウキを斬れると思ったみたいだよね」


 ユイの言う通りだ。ガロデアはこれまでも防御魔法ごと斬った経験があるのかもしれない。だがガロデア渾身の一撃は光盾シャイニングシールドを破壊はしたもののコウキに大したダメージを与えることができなかった。その上、ガロデアはコウキの目の前で態勢を崩してしまった。


「やっぱりコウキって格好いいね」

「でも、ユイ様・・・」

「ハルのほうがもっと格好いい・・・でしょう?」

「はい!」


 コウキの苛立ったような態度は多分、ガロテアを油断させるためだ。ガロテアはこのままではだめだと思ったコウキがさっきまでとは違う魔法を一か八かで使ったと思ったのだろう。だから、一瞬躊躇はしたが、そのまま攻撃するほうを選んだ。


「ガロテアさん、いい勝負でした。僕も勉強になりました。最後の誘いにガロテアさんが乗ってくれなかったら僕の負けだったでしょう。それに、ガロデアさんがどんなに力持ちであったとしても、僕の防御魔法は力任せの一撃で破壊できるようなものではありません。ガロデアさんの剣技があってこそのものでしょう。正直驚きました」


 コウキが勇者モードの口調でガロテアのことを称えると、会場は大きな歓声に包まれた。マリアさんのときと同じだ。 


 コウキにそう言われたガロテアが顔を赤らめているのもマリアさんと同じだ。ガロテアはマリアさんとは見ても似つかない厳つい容貌で、しかも男なのに・・・。


「ハル、なんか怒ってない?」

「そんなことないよ」


 このやり取りもマリアさんのときと同じだ。

 マリアさんのときと同じで、僕は本気でコウキを倒したくなった。


 やってやる!





★★★





「勇者の勝利か・・・」


 くそー、今日はなんて日だ。ネイガロスは心の中で悪態を吐いた。帝国代表のザギは謎の仮面男に再起不能にされ、ルヴェリウス王国代表の勇者は勝った。観客は大喜びだ。


「ネイガロス様、我々も剣と同時に魔法を使える者をほかにも育てたほうがいいのでしょうか?」


 エドガーの言う通りだ。これまでも剣で戦いながら魔法を使う者は少数だがいた。だが、ここまで高レベルで両者を使いこなす者をネイガロスは初めて見た。剣を使いながら魔法も使えれば有利には決まっている。だが、それをほとんどの者がしてこなかったのは、それが極めて難しいからだ。それはネイガロスが一番よく知っている。

 一般的は身体強化能力に優れた者は属性魔法には劣る傾向がある。しかもどちらも集中力を要するので同時に使うのは難しい。簡単にできるのであれば遠に皆そうしている。


「勇者が剣技にすぐれ、光属性魔法も使うことは常識だ」

「そうですね」


 ネイガロスの言う通り、それは物語の中で何度も語られてきた。光属性魔法、勇者しか使えない強力な魔法だ。


「だが、問題は、あの謎の仮面男だ」


 ネイガロスは謎の仮面男の戦いぶりを思い出す。


 そう、勇者でもなんでもないあの男は、剣で戦いながら、おそらく固有魔法であろうバレット系の魔法に加えて何等かの防御魔法を使っていた。しかも、ほとんど同時に発動していた。これは勇者もやっていなかった技だ。勇者はあくまで剣で戦う合間に、短いが一定の間隔は空けて魔法を使っていた。それだって普通はほとんどの者ができないのだ。実際、それでマリアもガロテアも勇者に敗れたのだ。


「まあ、今回の結果を見れば我々もそういった方面に才能あるものを見出す努力はしたほうがいいだろう」


 次回は帝国の代表が優勝できるように、次回があればだが・・・。


 ネイガロスは、ガルディア帝国とルヴェリウス王国が戦争になればガルディア帝国の勝利は揺るがないと考えている。例え相手に勇者がいたとしてもだ。実際の戦争は大量の剣士と魔術師を投入して戦うものだ。

 だから、大規模な魔法を使う魔術師がたくさんいればいいのだ。実際『帝国の子供たち』は剣士ばかりではない。多くの優秀な魔術師も排出している。その何人かは、武闘祭で対戦の合間に魔術を披露して観客を沸かせていた。結局、優秀な剣士と優秀な魔術師、その質と量が戦争の行方を分けるのだ。別に一人が同時に両方使える必要はない。

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