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5-12(武闘祭2~勇者コウキ対S級冒険者マリア).

 いよいよ4日間に亘る予選も終わり今日から本選だ。今日、本選の第一試合と第二試合があり、明日残りの2試合、そして一日置いて準決勝2試合、さらに二日置いた最終日に決勝という流れだ。試合が行われない日も騎士団による演武や、各国の魔導士や魔術師による魔法の披露などのいろいろなイベントが予定されている。マツリも魔法を披露する予定で人気になっていると聞いている。


 2時間くらい前に発表された組み合わせは、勇者コウキ対S級冒険者のマリア、飛心流師範ネイサン対大男の獣人ガロデア、ガルディア帝国黒騎士団ザギ対S級冒険者ルビー、ドロテア共和国軍のケネス・ウィンライト対謎の仮面男となった。この組み合わせの順番だと僕とコウキは勝ち進んでも決勝まで当たらない。


 僕の相手は、ルヴェリウス王国、ガルディア帝国と並ぶ大国のドロテア共和国代表だ。なんでも兄がジークフリートさんと同じSS級の冒険者らしい。シード選手なので、これまで戦っているところを見てないのでどんな人か分からない。


 考えてみると、このやり方って明らかにシード選手が有利だ。疲れもないし相手の特徴も分かる。でもジークフリートさんは予選から勝ち上がって優勝したと言っていた。


 組み合わせの発表の後、場繋ぎに帝国の黒騎士団や白騎士団の魔術師による魔法の演武があった。魔術師の数は黒騎士団のほうが多かったが、帝国一の魔術師で大魔道士と呼ばれている白騎士団のゼードルフは見事な水属性魔法を上級まで披露していた。僕たちにとっては上級魔法はそれほど珍しくもないが観客は大いに沸いていた。セイシェル師匠でさえ上級魔法を使っているのは見たことがなかったから、一般的にはかなり珍しいのだろう。もしカナさんがいたらルヴェリウス王国や異世界人の威信を大いに高めたことだろう。


 さて、それも終わり、いよいよ第一試合、コウキの出番だ。 


 勇者コウキの名が呼ばれると、ドッと闘技場全体が揺れるような歓声が上り、観客の興奮は最高潮に達した。これまで何人もの魔王を葬り人族の危機を救ってきた勇者という存在。今まさに約200年ぶりに現れた勇者を目にしているのだから観衆の興奮するのも当然だ。


 コウキの相手はS級冒険者で剣士のマリアだ。


「あのマリアさんっていう剣士、女性にしてはずいぶん大柄だね」

「ガルディア帝国から中央諸国にかけてはたくさんの民族がいますから」


 なるほど、言われてみれば肌の色もやや褐色に近い。


 予選を見た限りではマリアは純粋な剣士だ。その体格の通り大剣を操っていた。


「クレアはどう思う?」


 同じ大剣使いのクレアに聞いてみた。この世界には魔力による身体能力強化があるから体格が大きいから力があるとは限らない。クレアを見れば分かることだ。


「今のコウキ様の強さが分かりませんから、はっきりとは言えませんが、あれからコウキ様が順調に成長しているとすれば、コウキ様がやや有利な気がします」


 僕も同じ考えだ。そもそもが1対1の対人戦では力よりスピードが大事だから大剣は不利だと思う。まあ、クレアならそれを覆す力があると思うけど・・・。


 一定の距離を保ってコウキとS級冒険者マリアが向かい合う。


「始め!」


 審判の合図で二人が同時に動いた。


 ガキッ!


 両者の剣が交錯した。すごいスピードだ。本選に相応しい。


 力ではマリアが上回ったようでコウキが後退した。そこをマリアがすぐ追撃する。


光盾シャインニングシールド!」


 マリアの大剣がコウキの届く寸前に光の盾に跳ね返された。マリアは「うぐっ!」と呻き声を上げ飛びのいた。


 うぉぉぉーーー!!!!


 観衆は始めてみる光属性魔法に大歓声を上げた。


 光属性魔法、それは勇者にしか使えない伝説の魔法だ!


 今、それが観客の目の前で使われた。これでコウキが紛れもなく勇者であることが証明されたのだ。観客の興奮は頂点に達した。


 マリアは距離を取ったが、コウキはすでに間合いを詰めており剣を横なぎに払った。とっさにマリアは体を捻って避けようとしたが、マリアの腹のあたりをコウキの剣が捉えたように見えた。マリアはゴロゴロと地面を転がって距離を取ろうとするが、コウキがさらに追撃する。

 

 と、コウキが起き上がろうとしているマリアを上から斬りつけようとしたとき、闘技場の地面から砂埃を上げるようにマリアの大剣が下から上に斬り上げられた。片膝をついたあの態勢から・・・力技だ!


 コウキは仰け反るようにそれを避けると、バク転の要領で距離を取った。


 その間にマリアも立ち上がり、両者は再び対峙した。


 二人とも凄い!


 帰せずして会場からも大きな拍手が沸き起こった。


 ふーっ、僕は思わずため息をついた。


「凄いね」


 やっぱりコウキは強い。大剣を使っているのに思った以上にスピードもあるマリアに対して5分以上に戦っている。これならもうギルバートさんより上だろう。


「コウキくん、ずいぶん強くなってるよね」


 マリアが大きく息を吐いたと思ったら、凄いスピードでコウキに接近した。


光弾シャイニングバレット!」


 ビシッ!


 突進したマリアの前の地面に光弾シャイニングバレットが撃ち込まれた。急に突進を止めたマリアがバランスを崩したところに、今度はコウキが間合いを詰めて斬り掛かった。マリアは辛うじてコウキの剣を大剣で受け流したが、コウキはすでに2撃目を用意していた。受け流された剣をすぐに斜め上に切り上げたのだ。


 速い!


 バシュ!


 コウキの剣がマリアの胸から左肩にかけてを切り裂いた。マリアはスピードを重視するためか金属性の鎧ではなく冒険者によくある革製の軽鎧を装備している。おそらく高位の魔物の素材でできた高価なものだろうが、それがすでに2か所も斬り裂かれて血が滲んでいる。


 明らかにコウキが押している。やはり剣技もさることながら光属性魔法を組み合わせて使える分コウキに分がある。


 この戦い方は・・・。


「ハル様の戦い方を参考にしてますね」

「それに光属性魔法って初級でも結構威力が高いよね」

「うん」


 確かに光属性魔法は全体的に威力や効果が高い。限界突破もしてないのに、ちょっとずるい。


 その後も似たような攻防が続く。


 だけど、勝負の行方は見えてきた。剣と魔法を組み合わせて戦っているコウキが押している時間が長くなっている。


 最後はコウキがマリアの首元で剣を止めたところでマリアが「参った!」と敗北を宣言し試合は終了した。


 剣の腕はお互い素晴らしかった。だが、やはり対人戦では大剣が有利とはいえなかったこと、何よりコウキが光属性魔法を剣と組み合わせて使ったことが勝負を分けた形となった。 


 コウキがマリアの首元で剣を止めたこと、その後、マリアの手を取って立ち上がるのを手助けしたことで、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。


「紙一重の勝負でした。今日は僕のほうが運が良かったようです」


 コウキに手を取られたままマリアは顔を赤らめている。これこそがコウキの必殺技だ! いつもは俺って言ってるくせに・・・。


「ハル、なんか怒ってない?」

「そんなことないよ」


 僕は本気でコウキを倒したくなってきた。


「ハル様・・・」


 コウキの試合の後に行われた飛心流師範ネイサン対大男の獣人ガロデアの試合はガロデアの勝利に終わった。これもいい勝負だった。スピード対パワーの対決となったが、常識に反してパワーが勝利した。ガロデアのパワーが桁違いで相手の剣ごと吹き飛ばすほどだったからだ。これには飛心流師範といえども負けを認めざる得なかった。ネイサンも潔かったが、僕は巨人ガロテアの紳士的な態度に驚いていた。


 試合の最後をほうはネイサンを剣ごと吹き飛ばしながら致命傷は与えずネイサンの降参を待っているようだった。

 ガロテアの見た目だけで魔物みたいだとか粗暴な男なんじゃないかとのイメージを持っていた僕は恥ずかしくなった。


「いい試合だったね。ハル」

「うん」

「コウキくんの試合もね」

「そうかな」




★★★





「シャルカ、同郷のマリアさんは負けちゃたね」


 第一試合でコウキと戦ったマリアはシャルカと同じ中央諸国のタタロニア出身で同じタタロア人だ。地元では名の知られた冒険者でシャルカとも面識があるらしい。


「そうだな。でもいい勝負だった。それに相手は勇者だからマリアも納得してるだろう」

「ユウ様、ユウ様と同郷の勇者様はやっぱりカッコよかったですね。光る魔法も勇者様らしくて素敵でした」

「そうだね」


 やっぱりルルやシャルカをコウキに会わせないようにしよう。

 

 それにしてもやっぱりコウキは強い。以前に比べても段違いに強くなっていた。僕も冒険者としてずいぶん経験を積んだつもりだったんだけど・・・。まあ、僕にはルル、シャルカ、そしてクーシーという仲間がいる。個人ではコウキより弱くても仲間と一緒に戦うのが僕のスタイルだ。


 コウキに会いたいけど、勇者は大人気で警備も厳重だ。ルヴェリウス王国に内緒で会うのは難しそうだなー。そういえばコウキは剣と魔法を組み合わせて戦っていた。あれはハルの戦い方を参考にしたんだと思う。そういえば、マツリさんは来てるって聞いたけど、ハルやヤスヒコ、ほかの仲間たちはガルディア帝国に来てないんだろうか? 

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― 新着の感想 ―
ユウトはまだ知らないって事忘れてました。ユウトの、のほほんとした所が好きだけど再会したら色々知ることになるんですよね……
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