1-16(カナ).
カナ視点の続きです。
少し短く切りすぎたでしょうか?
それともこのくらいがいいのか、難しいです。
私はサヤちゃんを、魔法の訓練場に入ってきたハルくんの方に引っ張っていった。
「え、カナっち急にどうしたの」とサヤちゃんが驚いている。たまには私がサヤちゃんを驚かすのも悪くない。
近づいてみるとハルくんとユイさんが話をしていた。
「ハルどうしたの?」
「いや、今休憩中なんだけど魔法でちょっと気になることがあって」
「もう、ハルったら何でもコツコツだよ。焦ってもしかたないよ」
「まあ、そうなんだけど」
ハルくんとユイさんは相変わらず仲が良さそうだ。コウキくんとも噂があったけど、どう見てもユイさんが気にしているのはハルくんだろう。ユイさんは美人だし幼馴染だっていうアドバンテージもある。でも、サヤちゃんだって小柄でとても可愛らしい。頭だっていいからハルくんと話が合うはずだ。
「あれ、サヤさんにカナさんどうしたの?」
「今ね、ちょうど魔法のこととかについてサヤちゃんと話してたとこなの。ハルくんっていろいろ考えてるみたいだから意見を聞きたいと思って」
あれ、なんだか自分のことじゃないと言葉がスラスラ出てくる。サヤちゃんが隣で「カナっちたらー」と呟いているのが聞こえた。
「意見? 魔法についての?」
「えっと、えー、そうそう魔道具って不思議だよね」
そう、魔道具は本当に不思議で便利だ。この世界が私たちにとって、思いのほか快適なのは魔道具のおかげだ。なんたってお風呂やトイレだって元の世界と同じとはいえないけど十分我慢できるレベルだ。魔道具は普段の生活に必要なもので、その使い方はこの世界で最初に教えられたことの一つだ。
「えっと、魔道具を作るのには素材と魔石、あとは」
「魔法陣だね。魔道具はその3つでできてる」
「うんうん。素材って魔物の骨とか皮とかなんだよね」
「カナっち、素材はさ、魔鉱石とかも使われてるよ」
そうそう金属っぽい魔道具も多い。
「そうだね。素材は普通の金属とか木材などでもいいみたいだよ。でも魔鉱石と呼ばれる金属や魔物由来の素材を使えばより質のいい魔道具を作ることができる。魔素が多く含まれている物質の方が素材としてよりいいってことみたいだね」
ハルくんはすらすら説明してくれる。
「それじゃあ、魔法陣っていうのは?」
「カナっち、魔法陣の方は特定の魔法現象を引き起こすためのプログラムのようなものだと考えれば理解しやすいと思うよ」
「サヤさんもそう思うんだ」
ハルくんはサヤちゃんの意見を聞いてうれしそうだ。これはいい感じじゃなのかな。
「魔法陣って、もともとは失われた文明の遺物だよね」とユイさんが訊いた。
「うん。今では失われてしまった古代文明では魔導技術がすごく発達していたらしいよ。その古代文明の遺跡から発見された遺物を研究して再現されたものが今の魔道具になってる。魔法を覚えるのに使った魔導書もそうだよ」
「サヤちゃん、魔法陣ってどうやって描かれているんだっけ」私は小声で訊く。その声が聞こえたのかハルくんが答えてくれた。
「魔法陣を魔道具の素材となる魔鉱石とかに文字通り刻むって聞いた。そして刻んだ溝に高熱で溶かした魔石を流し込むんだって。これが魔素の通り道となり魔法陣に魔力が満たされると特定の魔法が発動する。魔法を発動させるには人が魔力を注ぎ込めば良い。人がもう1回魔力を流すと止まる。そうプログラムされているんだ」
確かに普段使っている灯りの魔道具とかも、ちょっと魔力を流すと光るしもう1回流すと消える。でも魔道具には指輪みたいな小さいものもある。それにも複雑な魔法陣が刻んであるとするとなかなかの技術力だと思う。
「ハル、魔法陣って私たちの頭の中にもあるよね。頭の中にあるのも魔力の通り道なのかな?」
ユイさんの言う通りだ。魔法を覚えるってことはそういうことだ。身体能力強化は精神を集中させて発動するって感じなんだけど、属性魔法を発動させるためには頭の中にある魔法陣に魔力を流すのだ。
「うん。僕が魔法を発動するときはこんな感じだ。まず頭の中に特定の魔法に対応した魔法陣をイメージする。次にそのイメージした魔法陣の中に魔力を流し込む。その属性に合わせた魔力だ。残念ながら僕は魔素を火属性の魔力にしか変換できないけど。そして必要な量の魔力を流すと発動可能な状態になる。そうなったら自分の意思でいつでも発動できる。それと、それぞれの魔法には必要な最低限の魔力量と流し込める最大限の魔力量が決まっているんだ。これはセイシェル師匠に教わった。その中で魔法の効果範囲や威力をコントロールすることも可能だ。こんな感じかな」
「私も大体同じかな。私は火属性以外も使えるけど、今では意識しなくてもその魔法に合わせた属性の魔力を自然に流し込める感じかな」
ユイさんはマツリさんと同じで基本4属性すべてと聖属性の属性魔法が使える。それで賢者って呼ばれてる。賢者は勇者とセットで現われる。これまではすべて私たちと同じ異世界人だ。
「そうなんだ」
ハルくんはちょっと羨ましそうだ。
「ハルには剣もあるんだから、それに魔法のコントロールでは一番だよ」
魔法のコントロールとは、魔力を溜める速さや発動するときの威力や範囲を指定するときの正確さなどのことだ。
「プーッ」
「ちょっと、サヤちゃん、何笑ってるの」
「ごめん、ごめん。前にハルくんがさ、魔法を覚えた状態のことを、魂に魔法陣が刻まれた状態だって言ってたのを思い出してさー」
「魂に魔法陣を刻む・・・。ハルそんなこと言ったの? 確かにそれは」そう言ったユイさんの顔は赤い。
「え、何か変だったかな。すごくカッコいい言い回しだと思ったんだけど。魔導書を使って魔法を覚えるってことは魔導書なしでいつでもそれを呼び出せる状態になったってことでしょう。魂に魔法陣が刻まれたっていうのはぴったりな表現だと思うんだけど。まあ、僕は結局限られた魔法陣しか魂に刻むことができなかったわけだけど・・・」
「確かにハルくんの言う通りだね」
サヤちゃんの言葉にみんな分かったかったような顔して頷いた。ハルくんはちょっと中二病的なところがある。
「いつだったかさ、ハルくんが魔素は元素みたいなナニカだっていってたよね」
「うん。言ったね」
「私はさ、魔素や魔力はもっと霊的なものじゃないかと思うんだよ。目に見えない霊的なナニカだから必ずしも魔道具みたいに実際に魔法陣を刻まなくてもいいんだよ。頭の中のイメージでもいい。ハルくんの言うところの魂に刻んでもいいんだよ」
「なるほど、サヤさんの考えは参考になるね」
お、サヤちゃんいいぞ。やっぱりハルくんとサヤちゃんは頭が良くて話が合いそうだ。




