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5-3(ガルディア帝国).

 僕たちは、ガルディア帝国の中央山脈よりの街道を北に向かっている。


 プニプニにユイとクレアが乗り、僕は普通の馬に乗っている。

 クレアは僕とユイに一緒にプニプニに乗るよう勧めてくれたが、ユイがクレアと一緒にプニプニに乗りたいと言ったからだ。まあ、クレアはプニプニの名付け親でありとても可愛がっているのでこれで良かったのだろう。


 ギネリア王国を出て北に向かったときは大陸の西部を北に向かっていたが、今は大陸の中央寄り、すなわちガルディア帝国の東部を北上している。ずいぶん遠回りになったが、途中ガルディア帝国の中央山脈寄りで魔物の活動が活発化していると聞いた僕たちはこのルートを選択した。


「もうガルディア帝国に入って3日めか・・・」

「魔物が活発化しているとギルドで聞いた地域はもう少し北ですね。この辺りはメンター家の領地で魔物が活発化しているのは北隣りのハヴィランド家の領地だったはずです」


 ガルディア帝国出身で地理に詳しいクレアが説明してくれる。


「ベツレムやシズカディアのときと同じで、やっぱり魔族絡みなのかな?」

「メイヴィスたちが火龍を伴ってゴアギール地域に帰還しようとしているのなら、そうかもしれないね」


 そこには当然タツヤ・・・ほんとうは僕の親友のヤスヒコだ・・・も含まれているが口には出さない。ヤスヒコが魔族の眷属になり、何よりもアカネちゃんが死んでしまったことを忘れることはできない。


「ハル様、魔物です」


 見ると貴族のものらしい馬車が魔物に襲われている。5人の護衛騎士が対応に当たっているが魔物のほうが数が多くて大変そうだ。


 ラノベやアニメでよく見る光景だ。だとしたらあの馬車に乗っているのは・・・。


「行こう」


 5人の護衛騎士が相手にしているのは10体以上の魔物で、そのうち3体が中級のブラッディベアで残りは下級のカラミティフォックスだ。ブラッディベアはあまり群れない魔物なので気になる。やっぱりメイヴィス絡みなのだろうか。


「助けが必要ですか?」

「冒険者か。すまないが頼む」


 返事をしたのは護衛騎士のうち最も年上で、かつ最も体格のいい40歳くらいの男の人だ。


 返事を聞くと同時に、クレアは剣を抜いてブラッディベアに斬り掛かった。


氷弾アイスバレット!」


 ユイも魔法でクレアをフォローする。


 僕も剣を抜いて、一体のブラッディベアを相手にする。


黒炎盾ヘルフレイムシールド!」

「ぎゃう!!」


 黒炎盾ヘルフレイムシールドでブラッディベアの突進を防いだ僕は、すぐに黒炎盾ヘルフレイムシールドに激突して何か叫んでいるブラッディベアに斬り掛かった。


 僕たち3人が戦闘に参加して、間もなく全ての魔物は討伐された。


「若いのに大したものですな。助かりました」

「いえ、お役に立てて良かったです」


 僕と護衛騎士のリーダらしき体格のいい男の人が会話していると、馬車から20歳前後の身なりの良い女性が降りてきた。


「危ないところを助けていただいてありがとうございました。私はメンター家の長女でアリス・メンターと申します」


 あまりにラノベでよく見る展開に僕が戸惑っていると、これまた予想通り僕たちはメンター家に招待されることになった。





★★★





「ようこそ、メンター家へ。娘の危ないところを助けていただいたようで、ありがとうございます。うちの騎士たちから聞きました。若いの大した強さだったとか」


 メンター家に招待された僕たちは、メンター伯爵夫妻に娘の命の恩人だと大げさに感謝された。僕たちがメンター伯爵夫妻の歓待を受けていると、しばらくして屋敷の入り口の方から物音がした。


「おや、もしかするとヒューバートが帰って来たのかな。数日前に知らせがあったんだ」

「アリスの兄で白騎士団の部隊長を任されているんですよ」

「私としては、跡取りとして早くここへ帰ってきて欲しいんですが、どうも騎士団が性に合っているようで」


 玄関のドアが開く音がしてすぐに居間に現れたのは、白い騎士服に身を包んだイケメンだった。


「お兄様!」

「アリス、それに父上、母上、お久しぶりです」

「ああ、ヒューバート元気そうだな」


 メンター伯爵が両手を広げて息子の帰省を歓迎した。


「ええ、おかげさまで。でも今回はあまり長居はできないんです」

「ああ、手紙にも書いてあったな」

「お兄様、そうなのですか?」

「ああ、北のハヴィランド領で、最近魔物が活発化していてね。討伐隊が組織させることになったんだ。俺の部隊も参加するんで、ちょっと一足先に里帰りさせてもらったんだ」

「レオナルド様も一緒なのですか?」

「いや、レオは今回の討伐隊には加わっていない。ところで、こちらの方々は?」


 レオという名にクレアが僅かに眉根を顰めたのに僕は気がついた。


「はい。冒険者のハル様、ユイ様、クレア様です。領地の視察の帰りに魔物に襲われていたところを助けていただいたんです」 

「そんなことが。皆さん、妹を助けていただきありがとうございます。アリスの兄のヒューバートです」


 僕たちは頭を下げて挨拶する。僕たちはS級冒険者なので貴族扱いだけど、こうしたときのマナーとかは全く分からない。


「それにしてもこの辺でも魔物が活発化しているのか」とヒューバートさんは呟くように言った。 


 魔物の活発化は、これまで何度か経験した。ユイもベツレムで経験している。あれらは、おそらくメイヴィスや火龍、そして・・・今はタツヤと名乗っているヤスヒコが関係していたはずだ。


 もしかして今回も・・・。


「どうでしょう。私が襲われたのは偶々かもしれません。この辺りでは他にはそんな事件は報告されてませんし」

「そうかもしれないが、それこそハヴィランド領のこともある、注意するに越したことはない」

「はい。それにしてもハヴィランド領は大変だとこの辺りでも噂になっていましたから、お兄様たちが討伐に来てくれるのあれば皆安心でしょう。でもくれぐれも注意してくださいね。お兄様はこのメンター家の跡取りなのですから」

「ああ、注意する。まあ。白騎士団が300人も投入されるんだから心配はないよ」

「それなら安心ですね」


 帝国白騎士団はクレアをスパイとしてルヴェリウス王国へ送り込んだ組織だ。そしてクレアをスパイとして推薦した人物のことを、クレアはレオと呼んでいた。

 ヒューバートさんはどうやらレオナルドなる人物と同僚らしいが、ヒューバートさんとクレアが面識があるのかどうか分からない。見るとクレアは少し俯いている。


 僕は改めてヒューバートさんを観察する。20代後半くらいだろうか、白騎士団所属というだけあって引き締まった体つきをしている。なんとなくだが神経質そうな雰囲気もある。


「そういえばアリスはどんな魔物に襲われたんだい」

「カラミティフォックにブラッディベアもいました。全部で10体以上もいたんですよ」

「カラミティフォックスはともかくブラッディベアは中級じゃないか。それが街道に?」

「はい。でもハル様たちがあっという間に倒してしまいました。でも護衛の方が一人怪我をしてしまって」


 アリスさんは、悲しそうに目を伏せた。


「中級魔物を含む10体以上を、あっという間に倒すとは、失礼ですがハルさんたちの冒険者ランクは?」


 ヒューバートさんは、アリスさんの魔物たちをあっという間に倒したという言葉をあまり信用していなさそうな口ぶりで僕たちの冒険者ランクを尋ねてきた。


「えっと、一応S級です」


 沈黙が場を支配する。


 しばらくして「まさか、その若さで、ありえない」とヒューバートさんが言った。少し声が掠れたようになっている。


 僕が冒険者証を見せると、やっと納得してくれた。ヒューバートさんはずいぶん長い間僕の冒険者証を見ていた。よっぽど信じられなかったんだろう。同じような反応には慣れているので、別に気にしたりはしない。


 メンター伯爵は「もしかしてハルさんたちは、武闘祭に参加されるためにガルディア帝国を訪れているのでは?」と尋ねてきた。そして「それならS級も納得です」と続けた。


「武闘祭?」

「ええ、4年に1回帝都の闘技場で開催されるんです。腕に自信のある者がこぞって参加する大会です。武闘祭で力を示して良い条件で国や貴族に雇ってもらおうとする者、名誉を求める者、ただ単に強者と戦いたい者、参加する理由は様々ですな」とメンター伯爵が武闘祭について説明してくれた。


 武闘祭・・・ラノベなら絶対にありそうなイベントだ。あとは学園編があれば完璧だ。


「S級冒険者であれば参加資格は満たしています」


 驚きから立ち直ったヒューバートさんが補足する。


「お兄様そういえば、優勝したS級冒険者でその後SS級になった方がいらっしゃるとか」

「ああー、英雄ジークフリートのことだな」

「ハル、そういえば、そんな話をジークから聞いたことがあるわ」と小声でユイが教えてくれた。

「いえ、僕たちは、武闘祭に参加するために来たわけではありません。冒険者をしながらいろんな場所を見て回ってるんです」

「そうですか。でもせっかくなんだから、ハルさんも出場して見たらどうですか?」

「いや、僕なんかじゃ無理ですよ」

「いや、S級冒険者ならいいとこまで行けますよ」


 そう言いながら、絶対にいいとこまでは行けないだろうとヒューバートさんが思っているのは表情で分かる。


 実際、僕には無理だ。話を聞いてみると武闘祭というのは魔導士が出ることもあるが、主には剣士の大会みたいだ。まあ、普通に考えて1対1の対人戦はスピードが命なので剣士が有利だ。発動に時間がかかる魔法は向かないだろう。僕たちの中で一番活躍できそうなのはクレアだ。


 武闘祭の話で盛り上がった後、是非泊まっていけというメンター伯爵の誘いを固持した僕たちは、再び帝都ガディスを目指す旅に出た。





★★★





「ハル、大きいね」

「うん」


 遠くにガルディア帝国の帝都ガディスが見えてきた。まるで霧の中から浮かび上がるようにその威容が徐々にはっきりしてきた。

 最初の印象はとにかく大きいだ。僕の知っている一番大きな街はルヴェリウス王国の王都ルヴェンだが、それより遥かに大きい。


「ルヴェンより大きいよね?」


 ユイが僕が思っていたのと同じことを口に出した。


「そうですね。でもそれは城壁の外に街が大きく広がっているせいでそう見えるところもあります」

「そういえばハル、城壁が見えないよ。無いのかな?」

「いえ、城壁はありますが、古いものが・・・一つだけですね。あまり高さがないので目立たないのです」


 一つ、一重ってことか。ルヴェンは巨大な二重の城壁に囲まれていた。


 この辺りはヨルグルンド大陸北西部に広大な領地を持つガルディア帝国の丁度中心に位置している。近くに大きな森林などもなく中央山脈からも離れてるから魔物が少ないのかもしれない。


「やっぱり地理的に魔物が少ないのかな?」と僕はクレアに訊いた。

「近くにジャール砂漠のように魔物が多い場所もあります」

「じゃあ、他に理由が?」

「はい。帝都には帝国の誇る黒騎士団が常駐しています。黒騎士団は第一から第五大隊まであるんですが、そのうち最も強力な第一大隊が帝都や皇宮の守護にあたっています。それに・・・第三大隊も」

「第三大隊がどうかしたの?」


 クレアが第三大隊と言ったとき、すこし間があったような気がして訊いてみた。


「ハル様、ユイ様、あれが見えますか」


 クレアは帝都の上空を指さしている。僕とユイは空を見上げた。


「ハル、空に何か飛んでる・・・」


 帝都の上空を黒い影のようなものが動いているのが見える。あれは・・・魔物なのか?


「ワイバーンです」

「ワイバーンって、あの?」

「はい。あのワイバーンです」


 クレアは僕の言葉に頷いた。

 よく見れば、確かにワイバーンだ。3体のワイバーンが帝都ガディスの空を旋回している。


「ハルとクレアはワイバーンと戦ったことがあるんだよね?」

「うん」


 ワイバーンとは何度か戦った。イデラ大樹海から脱出するとき、タイラ村の戦士タゲガロさんたちと一緒に戦ったし、神聖シズカイ教国では、ジークフリートさんたちと・・・そしてあのときジークフリートさんの師匠でもあったゾーマ神父が亡くなった。胸に苦い思いが蘇ってきた。


 アリウスの悲痛な叫び声が耳に残っている。

 僕が殺したアリウスは魔族の眷属になっていた。でも、あの悲痛な叫びは本物だった・・・と思う。


 未だに、あのときのアリウスの気持ちが分からない。

 まあ、考えてもしょうがない。世の中には僕の分かることのほうが少ないのだから・・・。


「帝国黒騎士団の第三大隊は獣騎士団とも呼ばれています。大隊とは呼ばれていますが小隊くらいの人数しかいません」

「もしかして、あのワイバーンは使役されているの?」


 僕はクレアに質問した。


「はい。獣騎士団は使役魔術師と魔物で構成されています。人は少ないですけど、帝国の大きな戦力となっている部隊です」


 シズカディアのときは、おそらくメイヴィスがワイバーンを使役していたはずだ。 ちなみにルヴェリウス王国以外のほとんどの地域では魔導士のことを魔術師と呼ぶ。


 人族にも使役魔法を使う者は少数だがいる。だが、四天王であるメイヴィスと同じように上級でも上位のワイバーンの使役できる者が人族にもいるとは・・・。


 僕は改めて帝都の上空をゆうゆうと飛行しているワイバーンを見た。

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― 新着の感想 ―
 五章になっても主人公はまだラノベのようだと俯瞰しているのか――冷静やな。
そのつもりはなくても再会しちゃいそう!?
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