1-15(カナ).
別のクラスメイトの視点から書いて見ました。
みんなは単純な攻撃力では私、浅黄加奈が一番だって言う。
すべての種類の属性魔法が使えるマツリさんやユイさんと違って、私が使えるのは火属性と風属性の二つだけだ。その代わり、どちらの属性も最上級魔法まで覚えることができた。火属性の最上級魔法は炎超爆発だ。対象を炎で包んだ上、大爆発する魔法で威力がすごい。風属性の最上級魔法は天雷だ。単純な威力では炎超爆発にはやや劣るが広い範囲に雷を落とす魔法で、親友のサヤちゃんに「まるで神様が天罰を与えているような魔法だね」って言われた。どちらも使えるのは私だけだ。
それにしてもサヤちゃんが一緒で良かった。でもサヤちゃんが一緒に召喚されて良かったなんて思うのは、ほんとは良くないのだろう。それでもサヤちゃんがいなかったらと思うと・・・怖い。
「炎超爆発!」
ゴォォーーーン!!!
「うぉー! カナっちの魔法は相変わらず凄いねー」
自分の背の高さくらいある大きな盾で爆風を防ぎながらサヤちゃんが近づいてきた。攻撃魔法に対する結界が幾重にも張られている魔法の訓練場で私が魔法の練習をしているのを、サヤちゃんは少し離れたところで見学していたのだ。実は最上級魔法にも耐えられるような結界は常時張られているわけじゃないらしい。私にはその仕組みはよく分からないけど、とにかく今日は最上級魔法だって練習してもいい日なのだ。
「これでもまだまだ本来の威力じゃないんでしょ」
「うん、セイシェルさんはそう言ってた」
どんなレベル魔法が使えるのかは魔力適性の高さで決まる。でも使えるようになったからといってすぐに本来の力が100%出せるわけではない。練習が必要なのだ。それも結構長い時間、根気よく練習する必要があると聞いている。私たちが魔王討伐に出発するのはまだだいぶ先の話らしい。正直に言えば私は怖いし行きたくない。
「マツリさんやユイさんもずいぶん上手になってきたね」
「うん」
少し離れたところでマツリさんとユイさんも魔法の練習をしている。マツリさんとユイさんは私と違ってすべての属性魔法が使える。ただ最上級まで使えるのは聖属性魔法、いわゆる回復魔法だけだ。他の属性に関しては、使えるのは上級までだ。それでも十分に強いらしい。
この世界で上級魔法を使える人は滅多にいない。上級どころか中級でも結構凄いのだ。まして最上級ともなると伝説に近い存在だ。特に聖属性を最上級まで使えるのは世界でマツリさんとユイさんだけで間違いないとセイシェルさんが言っていた。
「それにしても魔法って不思議だよね」
サヤちゃんの言う通りだ。何もないところから炎や水や石が出てきたり雷が落ちたり風が吹いたりするのだ。一体どういう仕組みなのだろう。
「本当だよねー」
「そういえばハルくんが言ってた」
「ハルくんが何を?」
「えっと、こんな難しい顔してね」
サヤちゃんが顔を変なふうに歪めている。どうやら真面目なハルくんの真似らしい。
「魔法とは、魔素という通常の元素とは異なる法則のもとで存在する『元素のようなモノ』を消費して生み出される『エネルギーのようなモノ』を使って、現実に干渉して通常の物理法則ではありえない現象を起こすことなんじゃないかな。なーんて言ってた」
「そ、そうなんだ」
「それから、こうも言ってた。少量の魔素が現実に干渉できる物凄いエネルギー、いやエネルギーのようなモノか、に変換されるのは不思議だが、よく考えてみると通常の物理法則でも少量の質量を失うことで莫大なエネルギーを取り出せるのだから、そういうことがあってもおかしくない気もする。質量とエネルギーの関係と同じような関係が魔素と魔法エネルギーの間には成立するのかもしれない。だったかな」
うーん、ハルくんはおとなしそうなんだけどちょっと理屈っぽいとこがある。それにしてもサヤちゃんはハルくんの言ったことをよく覚えてる。サヤちゃんは一見物事を深く考えない楽天的な性格に見えるけど実はすごく頭がいい。
サヤちゃん、もしかしたらハルくんのことが気になってるんだろうか。
「それでね。でもやっぱりすごく不思議な現象だよねって言ったら。だいたい人間に分かっていることなんて本当に限らているんだ。極小の世界の中では運動量と位置は同時に決定されず、量子は粒子でもあり波である。僕たちが常識だと思っている古典的な物理法則が成り立たない世界は身近にだってあるんだよって教えてくれたよ。そうそう波動関数がどうのこうのとも言ってたなー」
「へー」
私にはまったく分からない。私に分かるのは、実際に私たちは異世界に召喚されて現に私が魔法を使えるってことだ。
「ハルくん本人はさ、火属性を中級までしか使えないでしょう」
「うん」
「なんかいろいろ考えて悩んでるみたいだよ。私だって一種類しか使えないんだけどね」
属性魔法は魔導書を使って覚える。魔導書って本なんだけど魔道具だ。もともとは失われた文明とかいう超古代文明みたいなのの遺物だったんだけど、今では複製を作れるようになってるらしい。オリジナルと違って使える回数に制限があるらしいけどよく知らない。それに作るための材料はとても高価で値段も高いと聞いた。あ、最上級魔法の魔導書はオリジナルしかないんだった。国家くらいしか持ってないって話だ。それに、勇者の魔法は神様に与えられたものだから魔導書は必要ない。
とにかく勇者であるコウキくん以外は魔導書を使って属性魔法を覚えた。属性魔法は、生活魔法みたいに属性に適正さえあれば誰でも使えるものを除くと、初級、中級、上級、最上級に分かれている。いくらその属性に適正があっても誰でもすべてを覚えられるわけではない。いくら魔導書を使っても覚えられない魔法もある。
私は適正のある火と風の二つの属性でなんと最上級まで魔法を覚えることができた。それで攻撃力はみんなの中で一番上だなんて言われているのだ。サヤちゃんは土属性魔法を中級まで覚えている。ハルくんが使えるのもサヤちゃんと同じような感じで火属性を中級までだ。
「でもサヤちゃんは防御力と耐久力とかみんなの中で一番だしすごく頼りになるよ」
「へへ、そうかな」
属性魔法とは別に無属性魔法と呼ばれるものがある。代表的なものが身体能力強化で私にもできる。これは覚えるのに特に魔導書などは必要なく精神を集中するって感じで使える。でもその程度には差があるし強化される身体能力は人によって違いがある。
サヤちゃんは中でも防御力とか耐久力では一番だ。ただ、ハルくんとユウトくんは前衛タイプとしてはサヤちゃんなんかと比べると身体能力強化が少し弱いみたいだ。
そういえばユウトくんは元気で冒険者をやっているのかなー。
ユウトくんが最初ここを出て行くって言ったときは私たちのせいかと後ろめたかった。でもよく話を聞いてみると、この世界で自分の力で自由に生きてみたいのが理由だって、ユウトくんは言った。その顔は輝いていた。正直ユウトくんじゃないみたいだった。
「カナっち、なんか顔が赤いよ。どうかしたの?」
「ううん、な、なんでもないよ。それより、属性魔法があんまり使えない人のほうが身体能力強化に優れてる傾向があるよね」
「だね。でも、ハルくんは魔法が火属性の中級までしか使えない割りには身体能力強化が弱いって悩んでいるみたいだね」
「でも、私が攻撃力NO.1だなんてみんな揶揄うけど、私から見るとハルくんの魔法コントロールの技術はすごいよ」
「確かにね。魔法の発動が誰より速いし、こないだなんか、こーんなに小さな炎弾を使ってたよ。それが、なんか小さいわりに威力は結構あったんだよ」
サヤちゃんは右手の親指と人差し指で小さな丸を作ってハルくんの魔法のことを説明してくれた。
やっぱりサヤちゃんはハルくんのことが気になっているんじゃないのかなー。
「サヤちゃん気になるの」
「え、まあ、この世界でたった9人の仲間だからね。1人は今いないけど」
ちなみに、ハルくんが悩んでいる身体能力強化だけど、この世界では意識していないときでもすべての人が無属性魔力の影響を受けていて、意識して身体能力強化を使っていないときでも、以前より身体能力は高くなっている。この世界で生活していればすぐに実感できる。ちょっと力持ちになったり速く走れるようになったりといった感じだ。でも私たちのように意識して身体能力強化を使える人は、属性魔法を使える人と同じで限られている。
「それでさー。カナっちは魔王討伐とかに行くの?」
「正直ちょっと怖い。ううん、かなり怖いかな」
「そうだよねー。でもコウキくんは行くって。カナっちコウキくんのことが好きなんでしょ」
「うん。まあ、そうなんだけど」
私はコウキくんに憧れていた。私にないものをすべて持っているコウキくんに。そんな私の気持ちを知っているサヤちゃんが、引っ込み思案な私を引っ張ってコウキくんのそばに連れて行って話しかけたりしてた。周りからは私もサヤちゃんもコウキくんの取り巻きみたいに見えていたかもしれない。
「今は違うの?」
思いの外真面目そうな顔でサヤちゃんが聞いてきた。
「よく分からない」
コウキくんにはマツリさんがいる。勇者と賢者で絵に書いたようにお似合いだ。ユイさんも賢者だけど、この世界に来てからよく観察してみると、ユイさんは明らかにハルくんのことが好きだ。そしてヤスヒコくんとアカネさんはもともとお似合いのカップルだ。
いろんなことがありすぎて今は自分の気持が分からない。そう感じるってことは、私のコウキくんへの気持ちは恋ではなく、物語の中の主人公に対する憧れのようなものだったのかもしれない。
でも私にはサヤちゃんがいる。本当に良かった。
「セイシェルさんって独身なんだって」
「サヤちゃん何言ってるの」
「別にー、イケメンだなーって思ってさ」
「こんな世界に勝手に連れてこられて、そういうこととかあんまり考えられないよ」
実際に私たちに起こったことはトンデモないことだ。最初の頃に比べれば落ち着いてきたとはいえ日本に帰りたいし家族に会いたい。でもどうやらそれは不可能そうだということも分かってきた。それが今の私たちの置かれている状況だ。
「でもさー、日本に帰れそうにないし。だとしたらこの世界に頼れる人がいた方がいいよね」
「私にはサヤちゃんがいるよ。頼りになる」
「おー、嬉しいこと言ってくれるね。じゃあ、カナっちは私が守るよ。安心して。守ることに関しては私が一番なんだから」
「うん。頼りにしてるよ」
ほんとに頼りにしてるよ。サヤちゃん。
「私も攻撃に関してはカナっちを頼りにしているよ。なんたって攻撃力NO.1だからね。魔族か魔物か知らないけどカナっちなら一度に100人だって100匹だってやれるよ」
「一度に100人って」
そんなことが私にできるのだろうか。
「いやいや、100人くらいなら余裕でしょ。まだ練習段階でこれなんだから。それよりさ。アニメなんかで見たことのある天候を変えるだの天変地異を起こすだの、一度に何千人とか何万人もの兵士を焼き払うような魔法ってないんだよね」
「サヤちゃん・・・」
あったら怖いよ
「そうそう、いつだったかこれもハルくんが言ってたんだけど」
サヤちゃんは顔をしかめている。どうやらまたハルくんの真似をしているらしい。
「そんな馬鹿げた威力を持つものがもしあれば、それはもはや神の御業だろう。そんなものがあれば他の魔導士も剣士も騎士だって必要ない。核戦争になれば戦車なんか必要ないのと同じだ。なーんて言ってたよ」
言われてみればその通りだ。でも100人単位で殺せるとしたら、それでも十分恐ろしい。風属性最上級魔法の天雷なんかは味方を巻き込まないか心配なくらいだ。それに私には使えないけど土属性の最上級魔法は地割れを起こす魔法だと聞いた。これなんか天変地異を起こしてると言えるんじゃないだろうか。
「あれ、噂をすればハルくんだ」
サヤちゃんの声に練習場の入り口を方を見るとハルくんが入ってくるのが見えた。ハルくんは剣と魔法を均等に訓練している感じだけど今日は剣の方の訓練をしていたはずだ。ユイさんのことを見に来たんだろうか?
「私たちも行ってみよー」
私はサヤちゃんの手を引っ張ってハルくんたちの方へ向かった。私の勘ではサヤちゃんはハルくんのことが気になっている。
「ええ、カナっち急にどうしたの」
サヤちゃんは、急に行動的なった私に戸惑っているみたいだ。
後2話、カナ視点が続きます。




