表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

148/327

閑話1ー8.

 僕たちはアルデハイル監獄から帰りの途中、行きと同じ町で一泊したのだが、その町で名探偵ホメロスの屋敷の場所を知ることができた。さすが有名人だ。

 ホメロスさんの屋敷の場所はこのままレドムに帰るより直接寄った方が近い場所にあったので、ちょっと慌ただしいけどすぐに行ってみることにした。


 突然の訪問になるけどもう引退しているんだし話くらいは聞けるだろうと思ってのことだ。


 教えられた道を辿っていると、小さな林を抜けた場所に果樹園があり、その先に2階建ての屋敷というよりは少し大きな家と言ったほうがいい佇まいの建物が見えた。果樹園は小規模ながらよく手入れされていて、几帳面に均等に区画分けされ何種類かの果物が栽培されている。


「あれかな?」

「そうみたいね」


 ホメロスさんの屋敷に到着した僕たちはノッカーを鳴らして待つが誰も出てこない。困ったなーと思っていた矢先に屋敷の裏の方で人声がしたので、僕たちは門柱にプニプニと馬の手綱の結んで、裏手に回ってみた。


 そこで僕たちが見たものは・・・。


「これは一体?」

「き、君たちは誰だ」

「僕たちは冒険者です。僕はハル、二人はユイとクレアと言います。ホメロスさんの噂を聞いて話を聞ければと思ってここに・・・」

「そうか」


 裏庭には僕たちのに話しかけてきた男の人、うつ伏せに倒れている男、そして倒れている男に屈み込んで観察している男の人がいた。


 仰向けに倒れている男の胸にはナイフの柄が突き出してる。ナイフは深く刺さっており柄しか見えない。ナイフが刺さった胸からは今も血が流れ出ている。まさについさっきこの男が胸をナイフで刺されたように見える。


「僕がホメロス。君たちに話しかけたのは友人のハドソンだ」


 死体に屈み込んでいる男がこちらを見ないで名乗った。名探偵ホメロスのようだ。僕たちに話しかけてきたのはホメロスの助手として知られている友人で医師のハドソンだ。


「そして」ホメロスは今度は顔を上げると倒れている男を指して「デュパンだ。残念ながらもう手遅れのようだ」と続けた。


 こうして名探偵のホメロスの屋敷の裏庭で胸をナイフで刺され死んだばかりのデュパンが発見された。


「こんなタイミングで現れるなんて、もう一度聞くが君たちは本当にホメロスに話を聞きに来ただけなのか?」


 ハドソンさんは問い詰めるような口調だ。


「はい。実は僕たちアルデハイルからの帰りで」

「アルデハイル?」


 ホメロスさんが立ち上がってこちらを向いた。


「はい。デュパンが脱獄したという噂を聞いて話を聞きに行ってたんです」

「それは、物好きだな」


 ホメロスさんの言葉にむっとしたのか、ユイが「ホメロスさんは興味がないのですか」と聞き返した。


「アルデハイルから脱獄することはできないよ」

「でも、ホメロス様、その死体は・・・デュパンだと」とクレアが尋ねた。

「ああ、間違いない。僕が奴を見間違えることはないからね」

「それじゃあ・・・」


 ホメロスさんはそれ以上の質問には答えず「ハドソン、悪いがレドムへ行って騎士を呼んできてくれ。馬で来たんだろう」と言った。


「で、でも・・・一人で大丈夫なのかい?」


 ハドソンさんは僕たちを警戒している。それはそうだ、庭でデュパンの死体が発見されてすぐに現れた見知らぬ3人組を信用しろというほうが無理だ。


「この人たちなら大丈夫だよ。最近レドムに来たっていうS級の冒険者だろう。そうじゃなきゃ、いきなりアルデハイルへ行って話なんて聞けないだろうからね」

「その通りです」


 僕は冒険者証をホメロスさんに見せた。


 ホメロスさんは冒険者証をちらりと見ると「本物のようだ。そういうわけだから僕は心配ない。ハドソン頼むよ」と言った。


 ハドソンさんは一瞬躊躇したが「分かった。行ってくる」と行って裏庭から消えた。僕たちを信用したというよりホメロスさんを信用しているのだろう。 


「さて、わざわざアルデハイルまで行って何か分かったのかね」

「アルデハイルにデュパンが見当たらないってこと、それでも絶対に脱獄できないって話を聞きました」

「ふむ」

「えっと・・・」

「ハルです」

「それじゃあ、ハルくんに」

「ユイとクレアです」

「ユイさんとクレアさんも、僕の屋敷の招待するよ。中で待とう。さっきも言ったけどデュパンの奴は手遅れだ。聖女様でも蘇らすことはできないだろうね」


 ホメロスさんはユイをチラリと見てそう言うと、ついてこいとでも言うように屋敷に向かった。


 そのあと、屋敷でホメロスさん自ら入れてくれた蜂蜜の入ったお茶を飲みながら話をした。なんとなく僕たちはデュパンの話題を避けていた。


「神聖シズカイ教国では大活躍だったみたいだね」

「なぜそれを?」

「僕はこれでもちょっとした有名人でこの国の偉い人たちにも貸しがあるのさ。それにユイさんの容姿を見ればね」

「なるほど」


 そのあと、僕たちはホメロスさんに促されるままに神聖シズカイ教国での出来事を語った。もちろん話せる範囲でだ。逆に僕たちはホメロスさんからホメロスさんが関わった事件の話を聞いた。それはとても面白かった。


「そうそう、ハドソンが1度目の結婚をしたばかりの頃の話なんだ。おや、ハドソンが帰ってきたようだね」


 表から複数の人声が聞こえる。バーンと音がしそうな勢いで玄関の扉が開くとハドソンさんが入ってきた。複数の騎士と一緒だ。


「ホメロス大丈夫か?」

「ハドソン、君は相変わらずだね。見ての通りだよ。今僕のちょっとした冒険譚を聞いてもらってたんだ」


 そのあとは騎士たちによる現場検証だの、ホメロスさんやハドソンさんへの尋問、そしてもちろん僕たちへの尋問と慌ただしい時間が過ぎた。

 結論から言えば、ホメロスさんたちが疑われたが証拠はない。ホメロスさんとハドソンさんは裏庭で何か大きな物音がしたので急いで行ってみたらデュパンの死体があった。それだけだと証言した。二人の証言に矛盾はない。


 結局、騎士たちは数人の監視を残して、デュパンの死体を引き取りレドムへ帰っていった。


 まあ、騎士たちからすれば、状況的にはここにいる誰かが犯人だとするのが一番分かり易いが、ホメロスさんたちやS級冒険者を証拠も無しに拘束もできないって感じだろうか。

 それにこの場所は密室でもなんでもないし監視されていたわけでもないのだから、僕たち以外の犯人が誰にも見咎められずに急いで姿を消したとしても、それを否定することはできない。


 とりあえず、僕たちは屋敷の広間に集められ、入口には監視の騎士が立っている。


 僕は事件のことをもう一度考えみる。


 これは・・・たぶん・・・。 


「ハルくんも僕と同じことを考えているみたいだね」

「ホメロス、どういう意味だい?」

「ハドソン、まだ分からないのかい。君はいつも物事の本質を見ていないね。デュパンの目的はね。僕の家の庭で死ぬことだったのさ」

「それは・・・」

「奴の最後の挑戦、僕との勝負だったんだろう。さあ、君にこの謎が解けるかっていうね」

「ハルも同じ意見なの?」

「うん。デュパンは15年前にホメロスさんに捕まった。ホメロスさんとの勝負に負けたんだ。だから最後にもう一度勝負を挑んだろうね。この勝負の本質は誰がどうやってデュパンを殺したとかじゃない。デュパンがどうやってアルデハイルを脱獄してここで死ぬことができたのかってことだよ。15年間アルデハイルにいたデュパンを殺す理由なんておそらく誰にもない。誰かの知られたくない秘密をデュパンが知っていたとか、そんなことがあったとしても、今更だよ」


 僕はユイではなくホメロスさんを見ながら言った。ホメロスさんは僕の言葉に頷くと「ハルくんの言う通りだね。僕はデュパンは自殺したんじゃないかと思うね。結果として、僕との勝負云々は別としても彼はアルデハイルから初めて脱獄した男という名誉を手に入れた」と言った。


「デュパンはね、アルデハイルで何度か脱獄を試みているんだ」


 なんだって。シュリットさんはそんなことは言ってなかった。聞かなかったからか・・・。


「監獄の物資の搬入に紛れたり、認識阻害の固有魔法で看守に紛れて外に出ようとしたりだ。だがいずれも失敗している。アルデハイルは決して一旦登録した囚人を生きて外に出すことはない」


 そうだろと言うようにホメロスさんは一同を見回した。


「でも、ホメロス現に・・・」

「ハドソン、だから僕は、デュパンが最後にアルデハイルから脱獄した唯一の男という名誉を手に入れたと言ったんだ。今回の事件はそれが目的なんだよ」

「でも君の家の庭で自殺するなんて当てつけが過ぎると思うよ」

「ハドソンさんのいう通りだよ。脱獄してもう1回ホメロスさんと勝負するにしても他の方法でも良かったんじゃないの」

「ユイ様の言う通りです。そもそもデュパンは希代の盗人だったのですから最後の勝負もお宝を盗めるかどうかの勝負でもよかった気がします。確かデュパンの得意技は予告して盗みに入ることだと聞きました」

「ユイ、クレアそうだね。そんな勝負でもよかった。それができるのならね」

「ハル、それってどいう・・・」

「ハルくんはどうやら私と同じことに気がついているみたいだね」


 ホメロスさんは僕に片目をつぶって見せた。なんだか格好いい。


「そういえばハル、シュリット副監獄長がデュパンは病気だったって言ってたよね。もしかしてもう盗みに入るような体力がなかったの?」

「どうかなー。例えそうだったとしても僕が言ったのはそういう意味じゃないよ。それにデュパンが出した問題はどうやってアルデハイルを脱獄できたのか、その一点だよ。そしてこれはそのために必要なことだったんだ」


 ハドソンさんは「必要なこと?」と言って少し考えると「そうか。これまでのデュパンの目撃情報だけでは本当にデュパンがアルデハイルを脱獄したのかどうかについて半信半疑の者もいた。僕もその一人だった。だけど、これで・・・。デュパンの死体を見れば、デュパンの脱獄を疑う者は誰もいない」


「ハドソン、君もデュパンの脱獄を疑っていたのかい。アルデハイル側でもデュパンが消えたって言っていたというのに」

「だってホメロス、あのアルデハイルだよ。あれは失われた文明の遺物そのものなんだ。我々がどうこうできるしろものじゃないんだよ。だいたい、君だってアルデハイルから脱獄することはできないって、たった今そう言ったばかりじゃないか」

「その通りだ。だが」

「ああ、これで疑う者はいない。なんせ君の、名探偵ホメロス邸の裏庭で今死んだばかりのデュパンの死体が発見されたんだからね」

 次話は解決編です。解決編の前に真相を推理してみて下さいね。結構フェアに書いたので、真相が分かった読者の方も多そうですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ