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ありふれたクラス転移  作者: たまふひ
閑話1(シャイロック・ホメロスへの最後の挨拶)
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閑話1ー4.

「とにかくデリカさんは、デュパンを追いかけた。だけど追いつけなかった」

「ええ、私は一応B級の冒険者です」


 今日は、セトさんと同じく冒険者ギルドの仲介でB級冒険者デリカさんの話を聞いている。僕たちがデリカさんから話を聞いているのは、冒険者ギルド内にある冒険者がちょっとした打ち合わせなどに使うための場所で簡易な椅子とテーブルが複数設置されている。

 デリカさんは僕たちほどではないが若い。それでいてB級だ。僕やユイと違って異世界人チートもないのだからデリカさんはその才能と努力を称賛されるべきだろう。デリカさんはこれから魔物討伐に出かけるという忙しい時間にわざわざ僕たちと話をしてくれている。

 

「それに私の長所は素早さです」


 剣士とは身体能力強化に優れた者だ。デリカさんは中でも素早さが優れているようだ。


「でも追いつけませんでした。最初気がついたときは追いつける距離だと思ったんですけど。速さで負けるなんてちょっと悔しいです」


 B級の中でも速さに自信を持っているデリカさんより速い。デュパンの身体能力強化はかなり高いようだ。

 デリカさんはセトさんなど同じく夕暮れ時にデュパンをと思しき人物を目撃し追いかけた。デリカさんによるとやはり手足に黒い防具を付け赤いマントを纏っていたのですぐにデュパンだと判断したようだ。


「とにかく西門の手前辺りで見失ったそう言うことですね」

「ええ、あの辺りは人通りが少ないんです。でも他にも見た人はいると思います」


 それはすでに確認済だ。デリカさんとデュパンの追いかけっこを目撃した人はいる。というかその一人から話を聞いたから冒険者ギルドに仲介してもらったのだ。


「ハル、やっぱりデュパンって脱獄してるみたいだね。目撃者は多いし、話を聞いたデグラムさん、それにセトさんやロデリコさんも顔をはっきり見たって言ってたし。それに素早さに自信のあるB級冒険者のデリカさんから逃げ切るなんて一般人とは思えないよ」

「ユイ様の言う通りですね」

「そうだね」

「あとは、やっぱりどうやってアルデハイルを脱獄したのかって謎が残るのかなー。あ、目の前で忽然と消えたって証言もあったから、その謎もあるのかな」

「ハル様なら、どちらの謎も解けますよ」

「そうね。ハルなら」

「神聖シズカイ教国のときの謎解きも素晴らしかったです」


 僕の推理力に対する二人の評価が無駄に高い。ちょっとプレッシャーと感じる。でもまた二人に凄いって言ってもらいたいというミーハーな気持ちもある。


 うん、ちょっと頑張ってみるか。


「そういうわけで、私も追いつけなくって、それ以上話せることもないんです」


 デリカさんが話を締めくくるようにそう言ったとき、僕たちに近づく人の気配を感じた。


「デリカ待たせたな」

「あ、サイラスさん。ちょうどこの人たちにデュパンのことを話していたんです」

「ほうー、デュパンのことを?」

「ええ、私が目撃したときのことを聞きたいと言われて。えっとハルさん、こちらはサイラスさん、A級冒険者なんですよ。私の師匠みたいな人です。今日も一緒に討伐に行く約束なんです。この辺りの他の街にはA級以上の冒険者は少なくて、サイラスさんは頼まれてよく遠征しているので、サイラスさんと一緒に討伐に行く機会は貴重なんです」


 レドムは帝都だがS級冒険者はおらず数人いるA級冒険者が最高だと聞いた。ブリガンド帝国は中央諸国の中では最も力のある国ではあるがルヴェリウス王国やガルディア帝国ような大国ではないし帝都レドムの周辺はそれほど魔物の多い地域ではない。バセスカ迷宮は貴重な魔石の供給源にして観光資源だが、S級以上の冒険者を必要とはしていない。したがってA級冒険者であるサイラスさんはレドム最高の冒険者の一人だ。サイラスさんは痩身で鋭い目付きをした人で両腰に小ぶりの剣を差している。二刀流のようだ。両手利きなのだろうか。

 サイラスさんは目を細めて僕たちのことを観察している。どう見ても疑われているっぽい。まあ、それはそうだろう。サイラスさんは目撃者ではないが、デュパンとは縁のある人だ。

 そう、この街に来てすぐに冒険者ギルドで聞いた噂、子供の頃デュパンに施しを受け、そのあと努力してA級なった冒険者、それがサイラスと言う名前だったことを僕は覚えていた。


「僕はハル、こっちは」

「ユイです」

「クレアといいます」


 僕たちはサイラスさんに名乗る。


「君たちがS級冒険者・・・」

「そうなんですよ。私、初めてS級の人とこんなに長く喋りました」


 サイラスさんはまだ僕たちを観察している。


「思った以上に若いですよね。私、正直びっくりしました」

「そうだな」

「よっぽど才能に恵まれ努力もされたんでしょうね」


 いえ、異世界人チートです。クレアは違うけど。この世界では生まれたときからの魔力量や魔法適性が努力を上回ってしまうことが多い。これはときどき僕を複雑な気持ちにさせる。

 でもよく考えてみると日本でだって生まれつきの才能は平等ではない。僕が毎日10時間ピアノを練習し続けたとしてもショパンコンクールで優勝することはできないだろう。複雑なというか居心地が悪い感じを持つこと自体がむしろ奢りなのだろうか。


 分からない・・・。


 与えられた才能をどう使うのか、そっちのほうが重要だ。これは優等生すぎる答えだろうか。


「それにしてもデリカが追いつけないとは、やっぱりデュパンはさすがだな」


 サイラスさんの口調はどことなくうれしそうだ。 


「やっぱりデュパンは人気があるみたいですね」

「そりゃあな。デュパンに助けられたものは大勢いるからな。俺もその一人だ。逮捕したホメロスさんを悪く言う者も多かった。まあ、ホメロスさんも辛かったかもしれないな」


 シャイロック・ホメロス・・・名探偵だ。ホメロスさんは今回の脱獄の件をどう思っているのだろうか。しかし、その前にやっぱりアルデハイル監獄をこの目で見てみたい。


「デリカさん、今日はありがとうございました。サイラスさんとの討伐の機会を邪魔してもいけませんし、僕たちはこの辺で失礼します」

「こちらこそ、S級の冒険者の方と話ができて光栄でした。本当に私より若いのにはびっくりしましたけど」


 デリカさんとサイラスさんは連れだって冒険に出発した。レドムから北東にいくと下級魔物が生息する森林地帯があるがそれを抜けると、背の低い植物しか生えない草原というか荒れ地になる。そこには中級の岩トカゲやデビルフロッグなどが生息していて稀に上級のバジリスクに遭遇することもあるらしい。二人はその荒れ地に向かうらしい。そして、さらにその先にはアルデハイル監獄がある。


「ハル様、まだ目撃者の話を聞かれるのですか?」

「いや、できればアルデハイルに行ってみたい」

「でも、行ってすぐ話が聞けるのかな?」

「どうだろう」


 僕たちは3人ともS級冒険者で、原則貴族扱いされる。なので、いきなりアルデハイル監獄に押し掛けても話が聞ける可能性はある。S級冒険者は本当に数少ない特別な存在だ。確かにジークフリートさんのようにSS級というのも存在はする。しかしそれは世界中で一人とか二人とかしかいない英雄だ。

 S級冒険者だって相当に特別な存在だ。ここレドムには一人もいない。本当は少し前まで一人いたらしいけど、レドム周辺では活躍する機会が少ないため、大きいほうの帝国へ出て行ったらしい。まあ、とにかくS級冒険者はそれだけ特別な存在だってことだ。

 僕とクレアは神聖シズカイ教国で火龍を退け魔族の王宮支配の陰謀を防いだ。これらは特別な実績だと評価されたのだ。ユイの場合は神聖シズカイ教国で聖女として一度に多くの人を治療したり四肢の欠損すら治療したことを多くの人が目撃している。ギルドマスターのボルガートさんやジークフリートさんの口添えもあったと想像している。


「僕たちはS級だから、いきなり行っても話を聞ける可能性はある。でも一応冒険者ギルドに聞いてみるよ」


 僕は受付でアルデハイル監獄を見学してみたいが可能だろうかと相談してみた。アルデハイル監獄はあたりまえだが冒険者ギルドの施設ではない。でも他に相談するところも思いつかなかった。


「すみません。ちょっとギルドマスターに相談してみます。ただ、見ての通り・・・」


 朝の冒険者ギルドは忙しい。これから皆依頼を受け冒険に出発するのだから当然だ。しかしS級冒険者の頼みも無碍にはできず困っている様子だ。悪いことをしてしまった。


「ああ、すみません。今でなくてもいいです」


 見ると5つある受付はどれもそこそこ混んでいる。


「助かります」


 僕はユイとクレアのところに戻ると事情を説明した。


「じゃあ、今日のところは冒険だね」

「どの辺りで討伐しますか?」


 そうだなーと僕が考え込んでいると「もし魔物の討伐に行かれるのなら僕たちを荷物運びに雇ってくれませんか」と声を掛けられた。見ると僕たちと同年齢くらいの冒険者らしき3人組が立っていた。男二人と女一人だ。

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