4-40(騒動の後).
この話も入れてエピローグ的な話が2話。そして恒例のユウト編が2話で第4章も終わりです。
神聖シズカイ教国での騒動も収まり、僕とクレアを王宮を出た。
今は、以前利用した宿に、ユイも入れて3人で泊まっている。部屋は全員一人部屋だが、今は僕の部屋に集まっている。
「アカネちゃん、死んじゃったんだ」
ユイが呟くように僕の説明したことを繰り返す。僕は、鼠男・・・ヤスヒコ・・・から聞いたことを、改めてユイに説明している。
「うん」
「嘘ってことは・・・」
「ヤスヒコが魔族側についている。ヤスヒコがそんなことをするなんて、原因はアカネちゃんのことだとしか考えられないよ」
「うん。あのヤスヒコくんが魔族の眷属になってるんだから・・・。そうだよね。アカネちゃんは・・・。やっぱり・・・本当なんだ」
ユイは黙り込んでしまった。
身体能力強化がちょっとみんなより劣っていた僕の訓練に付き合ってくれたアカネちゃん・・・。
「ヤスヒコがスピートタイプで私がパワータイプなのはなんか納得できない」なんて言って頬を膨らませていたアカネちゃん・・・。
今でも耳元でアカネちゃんの声が聞こえたような気して、思わず辺りを見回してしまうことがある。
アカネちゃん・・・なんで・・・。召喚されて3ヶ月経てば安全だって・・・サカグチさんの手紙にはそう書いてあったのに・・・。
アカネちゃんの死、それにヤスヒコの死とメイヴィスによる蘇生・・・僕の中では、まだ消化しきれていない。その悲しみは、ときどき思い出したように僕の心を冷たくする。
「アカネちゃん!」
ユイが突然大声でアカネちゃんの名を呼ぶと声を上げて泣き出した。それを見た僕も涙が溢れるのを止めることができなかった。
クレアはそんな二人を黙って見つめていた。
★★★
ジークフリートさんたちとの別はあっさりしたものだった。
「ユイ、またどこかでな」
「ユイとパーティーを組めて良かったわ」
「ユイがいて助かってたよ」
「うむ」
ユイはみんなの別れの言葉を聞くと大きな目に涙を溜めて「ジークたちのおかげでハルに会えた。この世界で生き延びてハル会えました。本当に感謝しています。ありがとう」と言ってずいぶん長い間頭を下げていた。
「ハルにクレアもまたどこかでな」
「はい。ジークフリートさん、エレノアさん、ライラさん、エルガイアさん、またどこかで」
クレアも僕の隣で頭を下げる。
「ジーク・・・」
ジークフリートさんはユイに頷く。
「まあ、ジークには私たちがいるんだから」
ライラさんが明るくそう言ってジークフリートさんの肩をポンっと叩き、それにジークフリートさんが苦笑いを浮かべたのを合図に、ジークフリートさんたちは聖都シズカディアを去っていった。
僕たちもジークフリートさんたちも、とりあえずはギネリア王国へ向かうことになるのだが出立は別々だ。僕はそこにむしろジークフリートさんのユイへの未練を感じ取ったが、もちろん口には出さなかった。
その後、再会したユイと聖都を観光しながらシルヴィアさんを始めとした神聖シズカイ教国の人たちにも挨拶を済ませた僕、ユイ、クレアの3人は、ジークフリートさんたちから遅れること数日、聖都シズカディアを立ちギネリア王国との国境へ向かった。
ユイとクレアがプニプニに、僕は新たに買った馬に乗っての旅立ちだ。
ギネリア王国、中央諸国、ガルディア帝国と抜けてルヴェリウス王国を目指す予定だ。
「ハル、ギネリア王国でちょっと寄りたいところがあるの」
「うん」
「最初にね。私を拾ってくれたパーティーの人たちにお礼を言いたいの。それにハルに会えたら報告するって約束なの」
「ああー、オスカーさんたちだね。えっと、『聖なる血の絆』だっけ。いい名前だよね」
「ふふ、やっぱりそう思う?」
僕の隣に笑っているユイがいる・・・。
ユイと再会できた今でも、ユイが隣にいることをときどき確認してしまう。
「ハル、どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ」
ユイの笑顔を見るとうれしいというより安心する。
最初にイデラ大樹海に転移したときのことを思い出す。本当によく再会できたもんだ。神様、心から感謝します。
もちろんエリルにも。
それから・・・。
「クレア、ありがとう」
「はい?」
クレアがいなければ、間違いなく僕は死んでいた。ここまで来ることはできなかった。そもそもこうなったのはクレアのせいだ。それは分かっている。それでもクレアには感謝しかない。いや、僕はクレアに感謝以上の気持ちを抱いている。なんといっても、クレアはあのイデラ大樹海を二人で脱出した同志なのだから。
それから、こうしてユイと再会できたからにはエリルとの約束を果たさなければならない。人族と魔族の融和を図ることに協力するという約束だ。とりあえず、ルヴェリウス王国に戻っていろいろとみんなに伝えたい。
だけど、ルヴェリウス王国へ戻ってもそこにヤスヒコとアカネちゃんはいない・・・。
★★★
ユイと再会し聖都シズカディアを出立して2日、僕たちはギネリア王国との国境に近い街で宿を取り夕食の後、僕の部屋に集まっていた。ちなみに部屋は全員個室だ。
「まさかいきなりS級になるだなんて思ってもみなかったよ」
今日、この街の冒険者ギルドで僕たち3人がS級になったと伝えられたのだ。
「そもそもB級からは試験があるって聞いていたしね」
「でもハル様、そもそもこれまでも試験なんて一度も受けたことはありませんがA級になりました」
クレアの言う通りで、トドスでもシズカディアでもギルドマスターの判断で昇級した。
「私はジークのパーティーにいるとき受けたよ。試験官のギルド職員が討伐についてきて査定された」
「そうなんだ」
「もともとS級以上にははっきりした基準はありませんし、それに冒険者ギルド内のことは一般人には分からないことも多いです。ハル様やユイ様の実力なら当然だと思います」
僕はともかくユイは伝説の聖女と同等の力を持っている。それにクレアの強さはジークフリートさんと比較しても遜色ないと僕は思っている。
「まあ、ボルガートさんや、もしかするとジークフリートさんも口添えしてくれたのかもしれないね」
「今回の件への貢献から考えればハル様がS級になるのは当然です。むしろSS級でも」
「ま、まあクレアS級でも十分だよ。それより」
「そうね。お互いのこれまでのことを話しましょう」
「うん」
僕とユイは再会の興奮もだいぶ落ち着いてきた今、そろそろ転移した後のお互いのことをもう少し詳しく話そうと僕の部屋に集まったのだ。僕は大樹海での過酷な経験を、ユイはオスカーさんのパーティーやジークフリートさんのパーティーでのことを。
最初にユイの話を聞いた。聞きながらよく一人で頑張ったものだと感心した。転移したとき、僕には少なくともクレアがいた。僕たちは二人で転移したがユイは一人だったのだ。僕は6ヶ月くらいで心が折れそうになったけどクレアのおかげで立ち直ることができた。その後、エリルからユイに関する情報を得たのも大きかった。でも、ユイはずっと一人だった。もちろん、オスカーさんやジークフリートさんたちの支えはあったと思うけど・・・。
それでも、ユイがジークフリートさんのことをジークと呼ぶとき少し心がざわつく。もし、ユイを見つけるのがもう少し遅かったら・・・。
「さあ、次はハルの番ね。私と離れ離れになってたときのこといろいろ教えてよね。魔法のこととか、その凄そうな剣のこととか・・・あとクレアさんとのこともね」
ユイの言葉に微かな棘が感じられたのに気がついた僕は慎重に話し始めた。




