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4-36(神殿騎士団対神殿騎士団).

 王宮を取り囲むように押し寄せているのは神殿騎士団だ。その先頭に立つのはジェイコブス神殿騎士団長その人だ。

 そしてそれよりも数は少ないが、王宮を守るようにジェイコブス神殿騎士団長たちに対峙する一団があった。


「我々が拘束していた父親殺しのドミトリウス第一王子が国外の者たちの手を借り逃げ出した。そして我ら教会に歯向かう反逆者となった!」


 ジェイコブス団長が叫ぶ。


「逃げたドミトリウス第一王子が王宮に帰還する前に王宮を我らで占拠する」

「反逆者共を許すな!」


 ジェイコブス神殿騎士団長の声に呼応するように神殿騎士団員たちのどよめきがあたりを包む。それなりに士気は高まったようだ。

 しかし、その神殿騎士団に対峙するのも、また神殿騎士団だ。もっとも数はかなり少ない。


「反逆者は、ジェイコブス神殿騎士団長のほうだ。騙されるな!」


 ジェイコブス神殿騎士団長と対峙する一団を率いているのはガリウス第三部隊長だ。第三部隊は最もシルヴィア副団長に近い部隊だ。それに王宮騎士団も含まれている。彼らはアイスラー副団長の仇は魔族と繋がっている教皇派だと聞かされガリウスに味方している。英雄ジークフリートのパーティーメンバーであるデルガイヤやライラがガリウスの言葉を肯定したことも大きかった。二人は事前の打ち合わせ通りガリウスに合流している。

 英雄ジークフリート自身はシルヴィア副団長救出に王宮騎士団や神殿騎士団の一部を率いて奔走していると聞かされている。


 ジェイコブス神殿騎士団長が突然「今から王宮の占拠する」と言って出陣の準備を命じたとき、ガリウスの行動は早かった。

 ガリウスは、あらかじめ真実を伝えていた第三部隊の幹部たちに命じて王宮騎士団へ連絡し、ジェイコブス団長の命に従い出陣の準備をしているフリをして、実際にはこうしてジェイコブス団長たちと対峙している。


 ただ残念ならが城門を閉じてジェイコブスたちの王宮の敷地への侵入を拒むことはできなかった。ガリウスたちは一足先に王宮に到着することはできたものの城門を閉め籠城するには時間が足りなかった。直ぐに追ってきた教皇派の数騎に城門を抜けられたのを見たガリウスは止む無しと判断し城門から後退した。そして今両軍が対峙しているのは王宮の敷地内にある王城を前にした広場だ。


「ジェイコブス神殿騎士団長は魔族と繋がっていたのだ。この聖都シズカディアに火龍が現れ、さらには魔物の大群が襲来したのがその証拠だ!」


 ガリウスはあらん限りの大声で叫ぶ。


 そのとき、20人ほどの護衛騎士を連れて、ジェイコブス騎士団長率いる神殿騎士団のさらに後方からこの場に近づいてくる者があった。


「反逆者ガリウスよ。偽りを申すな!」


 拡声器のような魔道具でも使っているのであろうその声はその場の全員に良く聞こえた。


 白い馬に騎乗しているのは教皇、ユスティトフ三世その人だ。


「教皇様だ!」

「この場に教皇様が」

「ベネディクト大司祭様もいらしゃるぞ」


 普段、戦闘とは無縁の教皇が自らこの場に現れたことはこの場にいる全員を驚かせた。

 ガリウスもその一人で、驚くと同時に馬に乗れたのかなどと考えていた。


 教皇も必死なのだ。


 教皇にはこれが最後のチャンスだと分かっていた。ここで力ずくで決着させなければ、自分たちは終わりだ。

 ジェイコブスから聖女とシルヴィアを排除する試みは失敗したと報告を受けた。その上、教皇が王にすることを約束させられていた魔族の傀儡アリウスも滅ぼされたと聞いた。

 もう魔族の協力もあまり期待できないだろう。自力でなんとかしなくては。それができる力が自分にはある。ジークフリートたちやハルとやらは所詮この国にとっては部外者だ。できれば聖女やシルヴィアがこの場に駆けつける前に決着を付けるのだ。


「教皇様、この場に聖女が現れることは」とベネディクトが小声で聞く。

「分からん! だから急いでいる。あの魔族の男が足止めしているとは聞いているが」

「でも英雄ジークフリートもいるのでしょう? 時間の問題なのでは」

「ベネディクト! もう我らに選択肢はないのだ。奴らが現れる前に反対勢力を一層して王宮を占拠する」

「本当にそんなことが上手くいくのでしょうか。いっそ火龍に味方してもらえば」

「馬鹿な! そんなことをすれば我らが魔族と繋がっていることがバレれるだけだ!」


 教皇はベネディクトを叱責すると、再び拡声器のような魔道具を使いこの場の全員の呼び掛ける。


「反逆者ガリウスに従う者たちよ。今投降すればその罪は問わない。お前たちは反逆者に騙されているだけなのだからな」 


 教皇が現れたことで、場の雰囲気は教皇側に傾いている。なんと言ってもこの国の最高責任者であり神の代弁者だ。教皇を前にして動揺するのは無理はない。この国の人々は子供のころからシズカイ教の信者として育てられている。


「まずいな」とガリウスが呟く。せめて籠城できれば良かったのだが。こうなってしまっては数がものをいってしまう。城門の外にも多くの神殿騎士が詰めている。


「反逆者たちを捕縛しろ! 抵抗するものは斬り捨ててもかまわん。行け!」


 教皇の号令で神殿騎士団が攻め掛かる。

 

「お前ら守りに徹しろ。時間を稼ぐんだ。副団長たちが必ず来てくれる」

「ジークも絶対に来る!」


 ライラもガリウスに同調し、エルガイアは黙って頷いた。


 この国はここ数百年、他国との戦争はおろか内乱も経験してない。騎士団員たちも街の治安維持や盗賊相手くらいしか対人戦の経験がない。その意味では冒険者とたいして変わらない。

 同じ騎士団員同士、お互いどうも士気が上がらない不思議な戦闘が始まった。ライラやエルガイヤも魔物相手とは違い、できるだけ死者を出さないような戦い方をしている。


 とはいえ戦いが始まれば、人と言うのは段々興奮してくるもので、徐々にその戦いは激しくなってきた。あちこちで「このやろ!」とか「やられた」、「捕縛しろ!」などの声が飛び交っている。


「隊長、かなり押されてます」

「怪我人も増えているな」


 まだ死者こそ出ていないが、防衛側は怪我で離脱する者や捕縛される者がいて確実に数を減らしている。


 ズサッ!


 ガリウスの一刀が教皇派の騎士を捉えた。


「大丈夫か」

「隊長、すみません」


 ガリウスに危ういところを助けられた騎士が肩で息をして礼を言う。ガリウスに斬られた教皇派の騎士は肩を抑えて蹲っている。


「さっさと退場しろ!」


 蹲っている騎士にそう言い残すとガリウスは、別の押されている場所に向かった。


 ガリウスの顔に焦りの色が濃くなってきた。人数の差はいかんともしがたい。こちらは守りに徹しているからこそまだ持っているが時間の問題だ。


 あれは・・・。


 一度に数人の騎士を吹き飛ばすように剣を振るっているのはジェイコブス神殿騎士団長だ。ガリウスは急いでその場に駆けつける。


「裏切者のガリウスか」

「・・・」

「お前では俺には勝て・・・」


 ジェイコブスの話を最後まで聞かずにガリウスは斬り掛かった。


 ガギィーン!

 カーン!

 お互いの剣が交わる。


 強い。やはり団長は強い。

 ガリウスの奇襲は通じず、そのあとは防戦一方だ。


「くそー!」

「終わりだガリウス!」


 その後もガリウスは防御に徹して粘ったが限界が近い。すでにガリウスは傷だらけで、額から血が流れている。


 ガキン!


 上段から振り下ろされた剣をなんとか受け止めたガリウスだが、ジェイコブスは返す刀で横なぎに剣を振るった。


 これまでか・・・。ガリウスは斬られそうな腹に力を入れて覚悟した。


 グハッ!


 だが次の瞬間、地面に転がったのはジェイコブスのほうだった。

 ガリウスの前に立っている男に蹴飛ばされたのだ。どうやらガリウスはこの男に助けられたらしい。


「ジークフリート、貴様ー!」

「お前ら争いを止めろ!」


 ジークフリートはジェイコブスを無視して叫んだ。


 ジークフリートのそばにはエレノアもいる。ジークフリートの声を聞いてライラとエルガイアもジークフリートのところへ集まってきた。

 よく見るとジークフリートの後ろにはボルガートと数人の冒険者の姿も見える。英雄ジークフリートとギルドマスターのボルガートの呼びかけに応えた上級冒険者たちだ。


「すまん。助かった」


 ガリウスは礼をいう。


 それにしても、これだけの神殿騎士の間を抜けてここまで辿り着くとは・・・。さすがは英雄ジークフリートだ。やはり英雄の名は伊達じゃないとガリウスは感心した。


「皆さん、争いを止めてください」

「全員戦いを止めよ!」


 その声はガリウスの後方から聞こえた。ガリウスが振り返ると、王城のバルコニーに四つの人影がある。

 一人は白いローブ、その隣に女性の騎士、そして反対側の隣にはドミトリウス第一王子とイヴァノフ第二王子の姿がある。


「おい、あれは・・・」

「聖女様とシルヴィア副団長だ! それにドミトリウス殿下とイヴァノフ殿下までいるぞ!」


 ガリウスは体の力が抜けるのを感じた。

 間に合ったのか・・・。これで流れが変わる。


 この場にいる全員が戦いの手を止めて、4人に注目している。


「教皇は魔族と繋がっていた。ガリウス隊長の言ったことは本当だ!」 


 シルヴィアが叫ぶ。


「シルヴィア副団長は魔族に攫われたんじゃなかったのか?」

「俺は、シルヴィア副団長は聖女様に襲われたって聞いたぞ。聖女様は偽物だったとか・・・」

「でもシルヴィア副団長は教皇様のほうが魔族と繋がってるって言ってるぞ」

「副団長と聖女様は一緒だし」

「どうなってるんだ」


 騎士たちのほとんどは、何を信じて良いのかわからず戸惑っている。


「シルヴィア副団長の言っていることは本当だ。教皇らは魔族と繋がり我が父フィデリウス王を暗殺し私を犯人に仕立て上げた。教皇たちこそが神をも恐れぬ反逆者だ!」


 ドミトリウスもシルヴィアに続く。


「騙されるな!」

「聖女は偽物だ。聖女こそ魔族と繋がっていたのだ。聖女が現れてから、ドラゴンや魔物の大群が聖都を襲ったのを忘れたのか!」


 ここで引いたら終わりだと知っている教皇は、必死の形相で言い返す。


「誇り高き神殿騎士たちよ。国を守るために剣を取れ!」


 ベネディクト大司祭も教皇に続く。二人とも必死だ。


 この場の多くの者が、教皇の言葉を聞いて確かにそうだと思った。聖女が現れてから火龍の襲来を始め不幸な事件が立て続けに起こったのは事実だ。これは以前から多くの者の胸の内に疑問として燻っていた。


 教皇の言う通りだ!

 多くの神殿騎士たちがもう一度剣を持つ手に力を籠める。


 だが迷っている者もいる。

 いや、待て・・・本当にこの剣を聖女に向けてもいいのか・・・。

 聖女やドミトリウス殿下、それにシルヴィア副団長を信じるのか?

 それとも教皇やベネディクト大司祭を信じるのか?


「お前ら命令に従え!」とジェイコブス騎士団長が号令する。


 ジェイコブス神殿騎士団長が再び戦闘を始めたことをきっかけに、再び乱戦が始まる。しかしどこか戦いに身が入らない。そんな不思議な状態に陥った。


 膠着状態だ。王城のバルコニーから乱戦を見てユイは考える。


 私にできることは何か?


 ハルはユイにジークフリートと一緒に行けと言った。再会したばかりだというのに・・・。ハルは、こうなることを予想していたのだ。


 ならば、私はハルの期待に応えよう! 

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