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4-35(カナ).

 久しぶりのカナ視点です。

 少し長いです。

 夕食後、コウキくんの呼びかけで、私たちは全員コウキくんの部屋に集まっている。コウキくんの部屋に全員集合しても狭いとは感じない。だって、私たちは全員でコウキくん、マツリさん、サヤちゃん、そして私の4人しかいない。


 私たちがこの国に転移してきた一年前には9人だったのに・・・。


「みんな、今日集まってもらったのは他でもない、俺たちのこれからのことについて俺の話を聴いてもらいたかったからだ」


 これからのこと・・・。


 でも、ルヴェリウス王国の言う通りにする以外に、たった4人の私たちに何かできることがあるのだろうか・・・。

 そう、もともと気の弱い私は以前に比べて一層弱気になっている。


「カナっち」


 隣に座ったサヤちゃんが、私を安心させるように私の手にそっと触れてきた。


「サヤちゃん・・・」


 そんな私たちを見てコウキくんは話し始めた。


「最初にユウトが出ていった。これは自分の意志だ。次にハルとユイが消えた。これは転移魔法陣の事故だと考えられている。そしてアカネが・・・」


 コウキくんは絞り出すような声でアカネさんの名を口にした。


「アカネが死んだ・・・」


 そう、コウキくんの言う通りでアカネさんは死んだ。あれはハルくんとユイさんがいなくなって3ヶ月くらい後のことだ。全員でアカネさんの死を看取ったのだから間違いない。


 ハルくんとユイさんがいなくなって、アカネさんは目立って元気がなかった。体調も悪そうだった。早く立ち直ってほしいって、みんな思ってた。でも、アカネさんの体調が悪かったのは、ハルくんとユイさんのことだけが原因じゃなかった。


 アカネさんは病気だったのだ!


 高熱が続き、アカネさんはどんどん衰弱していった。マツリさんの最上級回復魔法も効かなかった。回復魔法は病気には効かないことも少なくない。王国のお医者さんが入れ替わり立ち替わりアカネさんを診察した。でも結局、ギルバートさんが私たちに告げたのは、アカネさんが原因不明の病に罹ったということだけだった。


 アカネさんが罹ったのは、この国の医療技術では分からない病気だったのだろうか? 私には判断できない。


 アカネさんの最後は立派だった。


 アカネさんは亡くなる前、それまでずっと意識がなかったのに、急に眼を開けて「ヤスヒコ、ハルとユイはきっと生きてる。だからヤスヒコも元気出してね。それから、コウキ・・・みんなのこと頼んだよ。でも危ないことはやめてね」と言うと、また目を閉じた。そして二度と目を開けることはなかった。


「アカネが死んで、ヤスヒコまでいなくなった!」


 コウキくんが声を張り上げた。それは涙のない慟哭だった。


 アカネさんが亡くなった後、ヤスヒコくんは不気味なほどいつもと変わらなかった。だけど、私はヤスヒコくんの目が、そう目がそれまでと全然違うと気がついていた。


 ヤスヒコくんの目には何も写ってない。私にはそうとしか思えなかった。


 コウキくんがヤスヒコくんに何か王国のことで相談したらしいけど、ヤスヒコくんは全く興味を示さなかったって、マツリさんから聞いた。


 アカネちゃんが亡くなって一カ月くらい過ぎた頃だろうか、王国は一見落ち着きを取り戻したように見えた私たちを再び実践訓練に連れ出した。気分転換させようとでも思ったのかもしれない。


 そして、その実践訓練中にヤスヒコくんは消えた。


 あのときは、5人全員で魔物を討伐していた。ヤスヒコくんも何も言わずにみんなについてきて参加していた。

 そうしたら、突然ヤスヒコくんが森の奥に駆け出した。ヤスヒコくんはもともと私たちの中で一番足が速い。誰も追いつくことはできなかった。しかも森の中だから、私たちはすぐにヤスヒコくんを見失った。その後数週間、王国はギルバートさんを始めとした騎士を投入して、ヤスヒコくんを探した。


 でもヤスヒコくんが見つかることはなかった。


 訓練を行っていたアドニア大森林は、ギディア山脈の麓に広がる大森林で奥にいくほど危険だ。ギディア山脈を越えると魔族の住むゴアギールだ。一人でギディア山脈を越えることは誰にも、そう魔族にだってできない。それくらいアドニア大森林の奥は危険な場所なのだ。魔族との戦争もギディア山脈が途切れている辺りで行われている。


 結局、ヤスヒコくんも死んだと判断され、私たちは4人になった。そして今日、コウキくんが残った4人を集めて話をしている。


「みんな辛いだろう。俺もそうだ。でも残った4人で団結しなくてはならない」


 コウキくんの声で私は我に返った。


「みんなショックかもしれないが、これを見てくれ」


 コウキくんが机の引き出しから取り出したのは小さな金属片のようなものだ。


「これは?」と聞いたサヤちゃんに、コウキくんはその金属片を手渡した。


 サヤちゃんは、その金属片を観察している。


「まさか、30年前の?」

「そうだ」

「サヤちゃんどういうこと?」

「カナっち、30年くらい前に修学旅行中の高校生がバスの中から消えた事件って知っている?」

「よくは知らないけど、聞いたことはあるよ」

「これは、あの高校の校章だと思うよ。山崎一高だっけ。ほらここに山一って」


 サヤちゃんの掌に乗っている校章だという金属片をみると、確かに4つの葉っぱの真ん中に山一って漢字がデザインされている。


「サヤの言う通り、これはあの事件の高校のものだと思う」


 その後コウキくんから聞いた話は衝撃的だった。


 コウキくんはこの世界に召喚された初日にこの校章を見つけていた。それにより、ルヴェリウス王国の説明よりもっと頻繁に異世界召喚が行われていて、それにもかかわらず私たち以外に異世界人が見当たらないことから、考えている以上に異世界召喚は危険なのではないかと疑っていたのだ。


 確かにこの校章はどう見ても100年以上前のものには見えない。むしろ30年前より新しいように見える。


「だいたい最初からタツヤがいなかった。あのとき俺の隣にはタツヤがいた」

「タツヤって?」

「カナっち、あの背の高いゴールキーパーの男の子だよ」


 そうだ。なんで忘れてたんだろう。いつもコウキくんの隣にいたのに。思えばあのときタツヤくんだけでなく、教室には他にも生徒がいた。


「私もタツヤとユキがいないのには気がついていたわ。コウキが何も言わないから黙ってただけ」


 マツリさん・・・。気がついてたんだ。


「私は最初からコウキの言う通りにすべきだって言ってたでしょう。校章のことは私も初めて聞いたけど・・・」


 私だけがなんにも気付いてなかったのだろうか?


「カナっち私も気付かなかったよ。カナっちだけじゃない」


 私の表情から私が考えてることが分かったのか、サヤちゃんがそう言って私を慰めてくれた。


「その校章の件以外にも情報がある。ルクニールを脅して手に入れた」


 ルクニール?


「魔導技術研究所の助手だ。あの研究所の責任者は大魔導士のバラクっていうやつだが、その助手がルクニールだ。研究所のNO.2らしいから、当然異世界召喚魔法のことにも詳しいだろうと目をつけた。気の弱そうなやつだと思ったので、ちょっと脅したらべらべら喋ってくれたよ。ずいぶん勇者の力を恐れている。この国の者ならそうじゃないかと思っていた。なんせ勇者は魔王も倒せる存在だからな」

「でも、コウキ危険では?」

「もちろんリスクはある。だが、今のところは王国に協力すると言ってあるし、このことをバラせばどうなるか。勇者や異世界人を甘く見るなと脅してあるから当面は大丈夫だと思う。まあ、バレた場合は俺の単独行動ってことにする。心配ない。俺は勇者だ。この世界の人から見れば神に選ばれた者なんだ。ちょっと情報収集しただけで簡単に殺されるとは思えない。それにあいつはずいぶん王のことを恐れている。むしろ、あいつのほうが俺よりバレることを恐れているんだ。まあ、王に人望がないのが今のところ俺に味方してるってわけだ」

「コウキ・・・。あまり勝手なことをしないでよね」

「ああ、これからはみんなに相談する」


 マツリさんの言う通りだ。コウキくんにはあまり危ないことをしてほしくない。これ以上減ったら・・・。


「それで、ルクニールから得た情報なんだが」と言ってこれまでに分かったことをコウキくんは話してくれた。


 コウキくんの説明によると、異世界召喚魔法は魔導技術研究所での研究により使えるまでの期間がどんどん短くなっている。私たちの前の召喚はたった10年前のことらしい。でも生きて召喚するのは難しいらしく、10年前は20人以上が死んで召喚されたんだとか。


「20人以上が死んで・・・」


 私の隣でサヤちゃんが呟く。


「その前の召喚は?」


 マツリさんが聞いた。


「今から30年前らしい」

「間隔としては、20年、10年と短くなってるってことね」

「ああ」

「じゃあ、校章は30年前のものってこと」

「たぶんな」

「でも、召喚されたとき時間がどうなっているのか分からないよ」とサヤちゃんが指摘する。

「俺もそれは考えた。でも考えても分からない。少なくともこの校章は何百年も前のものには見えない。それと俺たちが召喚されたとき、俺たち以外に5人が死体で召喚されてたらしい」

「じゃあ、やっぱりタツヤやユキは・・・」

「ああ、そういうことだろう」と言ってコウキくんは目を伏せた。


 あのとき、私たち以外に5人もの生徒が召喚されていて、その人たちは召喚のせいで・・・死んだ。私は思わず顔を手で覆っていた。


「しかもだ。アカネが罹った病気なんだが・・・」


 コウキくんの話によると、私たち異世界人の中にはこの世界に満ちている魔素が合わない体質の人がいるらしく、生きて召喚されても病気で半分以上の人が死んでしまう。アカネちゃんが罹った病気がそれだ。


「じゃあ、私たちも」

「ルクニールによると魔素が合わない者は3ヶ月くらいであの病気を発症するらしい。俺たちはすでに1年以上経っているから、たぶん大丈夫だ」

「でも、アカネさんが病気になったのは・・・召喚されてから、えっと、ハルくんたちがいなくなったのが、7ヶ月か8ヶ月後くらいで、その後3ヶ月くらいだから・・・。アカネちゃんが病気になったときだって1年近くは経ってたんじゃあ・・・」


 サヤちゃんが指摘した。


「ああ、サヤの言う通りだ。3ヶ月過ぎて発症する例もたまにあるらしい。だがほとんどの場合3ヶ月過ぎれば大丈夫なんだ。それに今それを気にしてもしょうがない」


 それにしても、召喚のとき大半の人が死んで、その後も半分以上が病気になるなんて・・・。


 最初に一人で出て行ったユウトくん・・・あれは、召喚されてから、3ヶ月くらいだった。ユウトくんは病気なったりしてないよね。とても心配だ。


「そういうわけで、俺たちの前に召喚された異世界人で生きている者はいない。俺たちのときは、14人中9人が生きて召喚され病気になったのはアカネ一人だ。これは大成功だそうだ。笑えるだろ」


 笑えるどころか、これ以上ない怒りを込めた目でコウキくんは言った。


 大成功・・・。5人も死んで召喚されて、アカネさんが病気になって・・・私はアカネさんの最後を忘れることなんてできない。それで大成功って。


 私の体は震えている。それが怒りのためなのか、それとも恐怖のためなのか自分でも分からない。


「カナっち」


 私の手を握ってくれているサヤちゃんの手も少し震えている。


「それでコウキ、これからどうするの?」


 マツリさんがコウキくんに聞いた。


「まずは俺たち四人は今まで以上に団結する必要がある。それと俺は必ずルヴェリウス王国には罪を償わせようと思っている。ルヴェリウス王国は犯罪国家だ。多くの異世界人が、たぶん日本人がこれまで犠牲になっている。その中にはアカネやタツヤもいる。俺は絶対に許さない。だから関係している者には必ず罪を償わせる。だが、みんなが俺に協力するかどうかは自由だ。それは危険なことだからだ」

「私は協力するわ」


 マツリさんは即答した。


「私も協力します」

「カナっち・・・」


 思わず協力すると言った私を、サヤちゃんがびっくりしたような顔して見た。


 でも、私だって許せない!


「私も協力する。いつだってカナっちと一緒だよ」

「サヤちゃん、ありがとう」


 みんなの答えを聞いたコウキくんは「分かった。みんなありがとう。だけど危険だと思ったらいつでも協力するのを止めても構わない。ユウトが言っていたように自由に生きていいんだ」と言った。


「分かったわ。コウキそれで私たちはどうしたらいいの?」

「ああ、それなんだが、しばらくは今まで通りだ。幸い俺たち異世界人には特別な力がある。だが、俺たちの力がフルに発揮されるのには3年くらいの訓練が必要だって聞いた。もちろん3年っていうのは目安だからもっと早く強くなるのに越したことはない。そのための努力を当面は続ける。少なくともギルバートやセイシェルには余裕で勝てるようにならないとだめだ。特に俺は勇者としての実績を上げて名声を高める必要がある」


 そこでコウキくんはいったん言葉を切った。 


「そして、最終的には、俺はこの国の王になる!」


 え、今なんって!


「それがいいわ。コウキが王になれば異世界召喚の危険性を知った上でそれを行った者が誰か、それに関わっているのが誰かが分かる。そしてその人たちに罪を償わせることもできるわ」

「マツリの言う通りだ」

「でもコウキくん私たち4人でできるの?」


 サヤちゃんが訊く。


「異世界人は過去には魔王を倒して何度も世界を救っている。俺たちはそれくらいの力を持っている。初代勇者アレクは3人で魔王を倒したんだ。俺は勇者だ。勇者が国の王になる。そんなにおかしな話じゃないだろう」


 確かに、この世界での強者は魔力のおかげで文字通り一騎当千だ。ハルくんがそう言ってた。私たち4人なら何とかなるんだろうか?

 もし、王国と戦争になんてなったら、攻撃力NO.1だなんて言われている私は何百、何千もの人をこの手にかけることになるのだろうか。


 私にその覚悟があるのだろうか?


「それに俺たちは4人だけじゃない。俺はユウトもハルやユイも、そしてヤスヒコだって生きていると信じている」


 私だってみんなの無事を信じたい。でも、コウキくんの思い通りになるだろうか?


 違う! そうじゃない! 私が、ううん、私たちが必ずコウキくんをこの国の王様にするんだ!

 

 ユウトくんが出ていったとき、私は自分の道は自分で選択するべきだと学んだ。ハルくんは自分が考えるこの世界の仕組みや疑問を話してくれた。そしてコウキくんのおかげで、私は前より少しだけこの世界で生き抜く覚悟ができた。


 それに私には今日の話の間中、私を安心させるように手を握ってくれていたサヤちゃんがいる。


「サヤちゃん、私、これ以上誰も死なせたりしない」

「カナっち・・・」

「私は大丈夫。私だってサヤちゃんやみんなを守るよ。だって攻撃力NO.1なんだから」


 そのときマツリさんが小さな声で「王か・・・それでクラネスと・・・」と囁いたのが聞こえた。周りを見回したけど聞こえたのは私だけのようだった。

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 

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マツリに台詞がある!!嬉しい!!
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