1-13(バラク).
少し、表現にくどい部分があると思い、改稿しました。
異世界人が生活している建物の隣にある魔導技術研究所。その地下の一室に二人の人影があった。
その部屋には魔法陣が設置されており、魔法陣に魔力を送り込むための魔石が魔法陣を囲むように4箇所で魔道具のようなものにはめ込まれている。
魔導技術研究所の地下には、この部屋も含めて魔法陣が設置された部屋が3つある。その中で最も規模の大きな魔法陣が設置されているのは、もちろん異世界召喚に使われる部屋である。その部屋は今は封印されている。ハルたちが最初に目を覚ました部屋である。
二人がいる部屋に設置されている魔法陣は異世界召喚のためのものではなく、この世界の中で離れた場所に転移するためのものだ。離れた場所に設置された2つの魔法陣の間を一瞬で移動するのが転移魔法だ。転移先に対になる魔法陣を設置しておく必要があるので、どこにでも転移できるわけではない。そもそもこの研究用の魔法陣には転移先は登録されていない。この魔法陣は失われた文明の遺物であり、発見された場所から研究のためここに移設されたものである。移設の際に転移先は解除されているはずだ。
この魔法陣に魔力の注入を始めて3か月くらになる。もう少しで起動実験もできるだろう。実験の際には、転移先としてローダリアの近郊に秘密裡に設置された転移魔法陣かアレクの魔導技術研究所支部にある魔法陣のどちらかを登録することになっている。ただ、成功するかどうかはわからない。実際、これまで新たに転移先を設定する実験が成功したことはない。失われた文明の遺物を解析することは容易なことではないのだ。
「バラク様、今回の異世界召喚は大成功でしたね」
「うむ。まさか9人も生きたまま召喚できるとは、予想以上の結果だった」
ルヴェリウス王国魔導技術研究所の所長である大魔導士バラクは、助手の魔導士ルクニールの言葉に、確かに予想以上の結果だったと笑みを浮かべた。
10年前は3人しか生きていなかった。その3人も3ヶ月以内に全員死亡してしまった。
30年前は何人だったか。あのときは生きている者は一人もいなかった。あのときはバラクもまだ若くここで働き始めてすぐの出来事だった。あの2回の失敗で解雇されなかったのは幸いだった。
今回は、14人召喚できたがそのうち4人は召喚された段階で死亡していた。生きていた10人の内、1人は瀕死だった。それでも9人もの健康な異世界人を召喚できた。
死亡していた4人と瀕死の1人はすぐあの場所から排除し、アドニア大森林に捨てた。普通は王都から2日くらいかけて行くアドニア大森林に、寝ずに馬車を走らせて一日でたどり着いた。
異世界召喚魔法に関する事項は最高度の国家機密なのでバラク自身とルクニールの二人でやるしかなかった。あそこは危険な魔物が多く生息しているから、すぐに魔物の餌になったことだろう。
「嫌な仕事だった。まあ、10年前に比べればましだったが・・・」とバラクは呟いた。
ヨルグルンド大陸南部の生まれで若い頃から天才と謳われた大魔道士バラクがこんな北の国にいるのは、魔法陣の研究に関しては、ルヴェリウス王国が一番進んでおり、その研究の責任者を任せるとの王国の誘いが魅力的だったからである。中でも異世界召喚魔法を研究できるという話は魅力的だった。魔法陣の研究はバラクが最も関心を持っている分野だ。
バラクは魔法陣を始めとする魔道具の研究で多くの成果を上げており天才と呼ばれるにふさわしい。ただ少々性格には難があり、研究のためにはなにをやってもいいと考えている。そんなバラクにとって魔法陣を使った秘術中の秘術である異世界召喚魔法の研究ほど魅力的なものはない。
異世界から召喚されてきたものの多くは、召喚された時点で死亡してしまう。原因は不明だが、時空を渡ってくるときに何等かの事故が起こっているとバラクは考えている。
さらに、生きていた者もおよそ3ヶ月以内に死亡してしまう場合が多い。原因不明の高熱に犯され、徐々に体力が失われて死亡してしまう。回復魔法や回復薬などのもまったく役に立たない。はっきりした原因は分っていないが、異世界人が元居た世界には魔力の素である魔素が無いらしいので、あらゆるものに魔素が含まれているこの世界に適応できないのが原因ではないか考えられている。なぜなら、この世界にも自身の過剰な魔素に対応できないことが原因で起こる似たような病気があるからだ。
「10年前は・・・酷かったですな」
ルクニールが顔を顰めて言った。10年前にはルクニールもすでにいたので、バラクと同じくあのときのことを思い出したのだろう。
10年前・・・あれは、ここに来て2度目の召喚だった。バラクの研究により異世界召喚魔法陣が起動できるようになるまでの期間は大幅に短縮された。バラクはさらに改良を加え、いつもより多くの人数を召喚しようとした。
その結果は・・・ルクニールの言う通り酷いものだった。
「ああ、生きて召喚できた者が3人。その3人も3ヶ月以内に死亡だったからな」
あのときは20人以上もの召喚に成功した。ただし、そのほとんどは死体だった。バラクの研究に基づき改良された異世界召喚魔法陣が起動された結果起こったことだ。
バラクとて異世界召喚魔法陣のすべてを理解できているわけではない。すべてどころかほとんど理解できてないというのが正しい。
特に肝心の召喚の仕組みはブッラクボックスのままだ。バラクに理解できている、もしくは理解できている気がしている僅かな部分の一つが召喚の規模を司る部分だ。そこでバラクは自分なりに異世界召喚魔法陣を改良し、これまでより多くの異世界人を召喚することを試みた。
そしてそれは、10年前の大惨事を引き起こした。
しかし、その失敗があったからこその今回の結果だ。生きたまま9人も召喚できたのは、これまでで最高の結果だ。まあ、そのうち1人は出て行ってしまったが、それはバラクのせいではない。
それにしてもとバラクは思う。
クラネス王女は100年か200年に1回くらいしか異世界召喚魔法が使えないとの話を本気で信じている。王族とはいっても、正妃の子ではないクラネス王女に本当のことは教えるなと言われている。まだ子供だし、あの王女は潔癖すぎるとこもあるから妥当な判断だろう。
実際バラクが改良するまではもっと長い間隔が必要だった。それに成功率も低かった。結果的に成功した異世界召喚は平均すれば100年、200年に一度だからまんざら嘘ではない。
これからは、バラクの研究の成果でもっと頻繁にもっと多くの者を召喚できるだろう。やっぱり自分は天才だとバラクは一人納得した。この秘密を知っているのは、王国でもバラクを含むごく僅かの者だけだ。
この秘密は守らなければならない。特に異世界人たちには・・・。
出ていった1人を除いたあの8人の異世界人に、異世界召喚魔法が多くの異世界人の犠牲のもとになりたっていると知られれば王国に協力しなくなる可能性がある。それはバラクにとっても困る。
そもそも、今は魔族との関係は比較的安定している。確かに新たな魔王が現れたとの情報はある。しかし今のところ魔族との争いは特に活発化はしていない。異世界人に期待されているのは王国の戦力強化であり、これは魔族だけでなく人間同士の戦闘も含むものだ。今は、むしろそっちのほうが優先度が高い。
ルヴェリウス王国は、他国に侵略され徐々に国土を狭めている。特にガルディア帝国は脅威だ。王国の戦力強化に異世界人は、そしてバラクの研究は大いに貢献するだろう
異世界人を王国の協力させるためには、異世界召喚魔法の秘密を守ることだけでは足りないかもしれない。もっと彼らをこの国に縛り付ける枷が必要だ。
そのために、この国の者を伴侶に与えるのもいいだろう。それがクラネス王女であってもだ。バラクは、むしろ王はそれを期待しているのだろうと思っている。でなければ異世界人にあれほど王女を関わらせるとも思えない。あの容姿だからその役目にはうってつけだ。
9人の存在は、もう少し彼らが力をつけるまで、他国はもちろん王国内でもしばらくは秘密にしておく予定だ。彼らの訓練にかかわっている者も少数の選ばれた者だけだ。
ただ、勇者召喚自体は世界的に知られているので、いつかは公表することになる。だがそれは今ではないと判断されている。
「それと例の件ですが、今回の9人、ああ今は8人ですか、もう召喚されてから4ヶ月経過してますから、大丈夫でしょうね」
「おそらくはな。だが油断はできない」
過去の事例では、召喚されてから3ヶ月を経過してもこの世界との不適合の病状が現れない場合は、ほぼ適応できたと考えられるが絶対ではない。僅かだが3ヶ月経過後、中には数年も経ってから病状が現れた事例も存在する。
だが今回の召喚が大成功だったことは間違いない。9人も生きて召喚できた上、4ヵ月経ってもだれも不適合の病状が現れない。それに召喚までにかかった10年という期間もこれまでで最短だ。奇跡的な大成功だ。
いや、これは奇跡ではない、バラクの研究の成果だ!
異世界召喚魔法に限らず、魔法陣のことについては、バラクの研究によって分かってきたことも多い。魔法陣についての知識でバラクにかなう者などいない。いずれにしても、これで10年前の汚名を返上できた。バラクのこの国での地位も安泰だ。研究予算の増額希望も通るだろう。バラクは魔法陣について研究できるのなら別にこの国に拘るつもりもはないが、今のところバラクにとってここ以上の環境はない。
それにしても今回が大成功で良かったとバラクは思う。今回も失敗していたら・・・。あの王の性格を考えるとぞっとする。まさか殺されはしなかっただろうが・・・。いや・・・。
バラクは、安堵のため息をついた。
三人称で書いてみたら難しかったです。苦労して書きましたができはどうでしょうか? 次話も三人称の予定です。




