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ありふれたクラス転移  作者: たまふひ
第4章(カラゾフィスの兄弟)
122/181

4-27(教皇サイド).

少し短いです。

 その部屋には3人の男がいた。


「聖女が偽物だという噂はかなり広がっています」


 ベネディクトの言葉に教皇が頷く。教皇が指示して噂を流しているのだから当然だ。これで聖女を排除する準備はできた。


「予定通り聖女とシルヴィアを排除する」

「今更だが、シズカイ教の頂点に君臨する教皇の言葉とも思えないな」 


 教皇は、英雄のパーティーから攫ってきて聖女に仕立て上げるなんて計画がそんなに長続きするとは、最初から思っていなかった。ドミトリウスの、王宮側の権力拡大をちょっと抑えられればと思っただけだ。そもそも教会が隷属の首輪を所有していなければ計画自体思いつくこともなかっただろう。


「どこかで聖女が排除されることは最初から決まっていたことだ」

「利用するだけして排除する。それも聖女をだ。教会の権力を盤石なものにするためとはいえ、いやー、見上げたもんだ。さすが教皇というべきか、それとも教皇のくせにというべきかな」


 なんと言われようと教皇が気にすることはない。どっちにしても王宮のほうは魔族が支配するのだ。その前に教会の権威をちょっとくらい上げたっていいだろう。


「まあ、ジークフリートがいかに英雄だとしても、この国で教会の権力に対抗できるはずがないし、聖女が死んで隷属の首輪を回収すれば証拠は何もない。生きているほうが問題だ。いやはや、魔族も顔負けだ」 

「もともと聖女は偽物なのだ。噂は嘘ではない。そんなことより王宮を支配した後のことは・・・」

「ああ、当面教会の権力はそのままでいいとメイヴィスは言っている」


 当面か・・・。


 魔族を引き入れてしまったのは教皇としても想定外だった。聖女の件を知られ隷属の首輪という証拠まで押さえられている以上、臆病な教皇に逆らうという選択肢はなかった。まして、やつらは火龍さえ操れるのだ。 


「ベネディックト、最悪の事態になったときの手筈については大丈夫なんだろうな」


 教皇はベネディクトに確認する。教皇の言う最悪の事態とは今回の計画が上手く行かず内戦になった場合のことだ。教皇としても内戦になることまで考慮する必要に迫られるとは本当に想定外だ。


「はい。おそらく一部の神殿騎士たちはシルヴィアやガリウスに従うでしょう。いやシルヴィアはその前に始末するんでしたな。まあ、いずれにしても大した数ではありません。それにあの忌々しいゾーマはもういませんし」

「お前なんかとは比べものにならないくらい民衆に慕われていた」

「・・・」


 ゾーマはベネディックトと同じ大司祭だった。4人いる大司祭の筆頭はベネディックトだが、ゾーマは民衆に絶大な人気があった。そう、教皇ですらその存在を無視できないほどに。だがそのゾーマはもういない。大司祭も今は3人だ。ベネディックトは筆頭である自分より人気のあったゾーマを心の底から嫌っていた。


 ガリウスを始めとしたシルヴィア派の一部の神殿騎士が教皇に反旗を翻したとしても、例えそれに王宮騎士団の一部が呼応したとしても、ジェイコブス率いる神殿騎士団にかなうはずがない。数が違いすぎる。しかも王宮騎士団にはあのアイスラーもいない。気になるのはジークフリートだが、さすがに国の内戦で大したことができるとも思えない。


 教皇はそこまで考えを進めると「とにかく計画は予定通りに実行する。計画に齟齬が生じるなど最悪の場合には神殿騎士団を動かして王宮を占拠する」と宣言した。

「メイヴィスは内戦になったら協力してくれるのか。あ、あの火龍だっているんだから」


 ベネディックスが縋るように尋ねた。


「さあ、どうだろう」

「そ、そんな」

「そもそも計画が成功して聖女とシルヴィアをまとめて始末できれば内戦にはならないんだろ」


 教皇も大司祭筆頭のベネディックトも臆病で慎重な性格だ。だからこそ最悪の事態、そう内戦になった場合も想定して準備している。もちろん、そんなことが起こらないに越したことはない。


「それより、その後の王の擁立のことは分かっているな」 

「ああ、私が後ろ盾になれば、なんの問題もない。カラゾフィスの血を引いてさえいればなんとでも理屈は付けられる」 


 やるしかない! 教皇とベネディックトは臆病ながらも最低限の覚悟を決めた。


 それにしても教皇は思う。一体どうしてここまで追い込まれる事態になったのか?   

 最初は、ちょっと偽聖女を使ってドミトリウスの馬鹿から教会の権威を取り戻そうと思っただけだった。教皇は民衆に人気のあるドミトリウスが羨ましかったのだ。それだけのことだったのに。そこまで悪感情を抱いてたわけでもないフィデリウス王を殺し王宮を魔族に明け渡すなど・・・。ずるずると魔族の言うままにここまで深みに嵌ってしまった。もう後戻りはできない。


「一応、覚悟は決まったようだな」


 覚悟決めるしかない事態になったのは誰のせいだ。


「ベネディックトもいいな」


 教皇は、その覚悟を確かめるようにベネディックトを見た。


「はい」


 ベネディックトは教皇に恭しく頷いた。

 

 魔族の支配地域ゴアギールから遠く離れているこの国でこんなことが起きるとは、教皇にとっても、全く、そう全く予想外のことだった。とにかく、まずは計画通りことを進めることだ。そうすれば内戦になることもなくすべては上手く行くのだから。


 ・・・聖女とシルヴィアとはこれでおさらばだ。

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