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4-24(シルヴィア).

 今起こっていることは、私がユイのことを教皇に報告したから起こった可能性が高い。そうであるなら、私がその責任を取って行動すべきだ。


 私は音を立てないように大きく伸びをする。狭いところで長時間じっとしていたため、体中が痛い。昼間、教皇に定例の報告を行った後、大神殿の最奥から出ていかずに、魔道具などが仕舞われているこの部屋に隠れていたのだ。大き目の魔道具の後ろでじっとしているのは思った以上に大変だったが、何とかこの時間まで誰にも見つからずに過ごせた。神殿騎士団のほうではガリウスが上手くごまかしてくれているはずだ。それにガリウス以外にも協力者はいる。その中にはジェイコブス団長の部下だっている。ここは私が動くしかない。


 まあ、最近はジークフリートさんやハルたちと会うため出歩いていることも多いので、私の姿が見えなくてもそれほど疑問には思われてないだろう。 


 火龍と魔族それに大量の魔物がシズカディアを襲ってきたと思ったら、今度はフィデリウス王が殺されドミトリウス殿下が逮捕された。聖女が現れて以来、これらの大事件が立て続けに起こった。ジークフリートさんたちと話し合った通りで、とても偶然とは思えない。これらの大事件が本当に聖女と関係があり、ハルの言う通り聖女がユイだとすれば、私に責任があるのは間違いない。


 私がユイのことを教皇に報告しなければ・・・。今更後悔しても遅い。私は今できることをやるまでだ。


 それに、ガリウスから気になる報告を受けた。民衆の間から聖女に対して疑問の声が上がり始めているというのだ。

 聖女から怪我や病気の治療を受けた者は聖女に感謝している。だがガリウスからの報告によれば一部では、聖女が現れてから聖都シズカディアでは不幸な事件が立て続けに起こっている、あれは聖女などではなく魔女ではないのか、そんな声が聞こえ始めていると言うのだ。それに聖女の治療は万能ではなく怪我や病気が治らなかった者もいる。そういった者たちからも疑念の声が上がっている。そしてそうした声が徐々に大きくなっているというのだ。


 この噂には意図的なものを感じる。もしかしてユイに何か悪いことが起こる兆候ではないのか? だとしたら時間がない。


 とにかく何かの陰謀であれば、特に魔族が関わっているのならなんとかその証拠を掴みたい。できれば聖女、ユイに会って話をしたい。ジークフリートさんやハルたちも動いてはいるようだが、やはり私が動くのが一番いいだろう。なんといっても、私は神殿騎士団の副団長なのだ。


 私の自惚れでなければ、騎士団の中には私を慕ってくれている者がそれなりにいる。ある程度の証拠があれば、それらの者の協力を得て私にできることもあるだろう。ただ全く証拠がないのに部下たちを危険に晒すことは躊躇われる。いや、本音を言えば、私自身が確証を得たいのだ。


 とにかく、今何が起こっているのか、真実に少しでも近づく何かをこの手で掴みたい。

 

 人気のない廊下を物音を立てないように歩く。目指すは聖女の部屋だ。大神殿のこの辺りは教皇と聖女、それに教皇の側近の執務室兼住居になっている区域だ。この時間、この区域にはジェイコブス団長が配置した護衛の許可を得なければ副団長の私と言えども入ることができない。以前はそうではなかったが聖女出現以来こうなのだ。

 もちろん大神殿自体は以前から厳重に警備されていた。しかし、それには現在と違い私や私の部下たちも加わっていたのだ。今は、この区域の警備はジェイコブス団長とその直属の部下だけに任されている。    

 それに私が聖女に会いたいと教皇に申し出ても、聖女は忙しいの一点張りで許可が下りない。ユイがジークフリートさんのパーティーからいなくなり、英雄であるジークフリートさんたちがユイを探しに聖都に来ていると、仄めかすというよりはかなり露骨にその話題に触れてみたが駄目だった。


 廊下のところどころは、魔道具が柔らかな光を放っており、真っ暗というわけではないので、できるだけ影になっている場所を選んで素早く移動する。もちろんいつもの鎧はつけていない。なるべく音がせず、かつ動きやすい恰好だ。確か次の角を右に曲がれば聖女の住居になっている区域のはずだ。あたりに物音はしない。聖女の部屋の前に一晩中護衛が立っているわけではなさそうだ。


 魔道具が照らす光の死角で左側の壁に手を当てしゃがみ込む。いよいよ右に曲がろうとしていたそのとき、手を当てていた左側の壁の向こうから、何か物音が聞こえるのに気がついた。


 まずい!


 慌てて目の前のドアに手をかける。びっくりするほど手ごたえもなくドアが開いたので急いで部屋に潜り込んでドア閉める。

 物音がした隣の部屋は教皇の執務室のはずだ。そういえばこの部屋は教皇の護衛などが待機するための部屋だ。


 壁に耳を当ててみると会話が聞こえてきた。


「シル――が―――いろいろ動き回って――――」

「――――に協力する――――――ようです。そろそろ危険かもしれません」

「――ウス殿下は――終わりだ。裁判は――――の予定だ。殿下の有罪は決定事項だ。――――――何もできまい」

「確かに――――ですが、――――――――――のまま――――――いいのですか? それに――――、英雄ジーク――――が王都に――――。聖女は――――――のパーティーに―――――から聖女―――――――時間の問題―――」

「聖女は――――――活躍――くれた。教会――――高めるのにも――――――ウス殿下が――――父殺し―――――理由づく――――役立ってくれた。――――そろそろ潮時――――」



 うーん、どうにかしてもっとはっきりと聞き取れないものだろうか。

 耳を当てる位置をいろいろ試していると、突然さっきよりはっきりした声が聞こえてきた。


「まさかこんなことになるとはな」

「後悔しているのですか?」


 さっきより聞き取りやすい。二人で会話をしているようだ。一人は教皇の声だ。もう一人はおそらく側近の大司祭ベネディックトか・・・。


「魔族に嵌められたんだぞ。聖女を利用してやろうと思っただけなのに、まさか魔族の傀儡だったとは。そうと知っていれば隷属の首輪を預けはしなかった。このまま奴が王になれば、王宮は魔族に支配されてしまう」

「それでは奴を王にする計画は中止して王宮側と協力でもしますか?」

「馬鹿な。聖女の件がある以上、今更引き返せない。教会の権威を盤石にしてから魔族を追い出す方法を考えるしかない。それにしても、まさかこんなことになるとは・・・」 


 魔族の傀儡?

 王になる?

 王宮の支配?


 一体何の話だ。とりあえず誰かに、ジークフリートさんとハルたちに相談しなくては。隷属の首輪のことも話していたから、やっぱりユイは隷属の首輪を着けられている危険な状態で間違いない。


「待て」という鋭い声がした後、その後会話は聞こえなくなった。


 とにかく音を立てないようにして動かない。

 再び会話が聞こえてくることはない。

 私がいることがバレたのだろうか?


 その後二人が執務室を出て行く音がした。


 私は念のため引き続き部屋を動かない。永遠ともいえる時間が経ったような気がした。

 今日のところはユイに会いに行くのは危険だ。そう判断した私は静かに廊下に出ると最初に隠れていた部屋に戻った。


 いろいろと気になる言葉を聞いた。魔族の傀儡、王宮の支配、それに確か・・・そろそろ潮時とも言っていた気がする。もしかしてユイに危険が迫っているのでは・・・。それにドミトリウス殿下のことも話していたような気がする。やはりドミトリウス殿下は嵌められたのだろう。 

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