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4-21(王の暗殺).

 ゾーマ神父の死を防げずしばらく僕は落ち込んでいた。だけどユイを助けるためには落ち込んでばかりいるわけにもいかないと、今日は冒険者ギルドに向かっている。今のところ他にすることも思いつかない。

 少し焦りもあるが、一方ゾーマ神父のこともありそれまで以上の覚悟が僕の中にはある。今度は絶対に失敗しない! どうしてものときには・・・。


「ハル様あれは」


 クレアに言われて通りの先の方を見ると、今歩いている通りの先で交差している大通りを騎士団と思われる集団に囲まれた一行が通り過ぎていくのが見えた。


「行ってみよう」


 速足で大通りまで出て眺めると、どうやら王家の行列らしい。


「ずいぶん豪華な馬車ですね。もしかしたらあれはフィデリウス王なのでしょうか?」

「ああ、クレアには言ってなかったか。クレアは昨日も王宮騎士団の訓練に参加しに行ってたでしょう」

「この国の剣術にも参考になる部分があると思いまして」

「特にアイスラー副団長のだよね」

「そうですね」

「うん、それはいいんだけど、その間にね、ドミトリウス殿下が訪ねてきて、魔物襲撃の件のお礼とアリウス殿下の様子を伝えてくれたんだ。アリウス殿下はかなり憔悴しているみたいで・・・。それとあとは、まあ、結局は聖女様のことについては何も分からなかったって話だったんだ。そのとき、ドミトリウス殿下が言ってたんだ。フィデリウス王が、王都を離れてどこかに視察に行くとか」

「ハル様、それってもしかして」

「うん、たぶんなんだけど、今回の魔物襲撃の件で怖くなったんだろうね。フィデリウス王は、なんていうか、そう、自分に正直な人らしいからね。火龍だって討伐されたわけじゃないしね。だからね」

「ドミトリウス殿下は、最初からまだシズカディアから危険が去ってないことに気がついてましたよね」

「うん、僕たちをすぐに王宮騎士団に引き入れようとしてたもんね」


 とにかく、聖都シズカディアがまだ危険だと気がついたフィデリウス王が視察と称して聖都を離れるらしいって話だ。確か亡くなった前の王妃様の実家方面とかと聞いた。亡くなった前の王妃様はドミトリウス殿下のお母さんだ。


 一週間後にはゾーマ神父の葬儀だってあるのに・・・。ゾーマ神父は大司祭だから、シズカイ教会での、いやこの国での地位は高い。


 そう・・・僕はゾーマ神父を助けることができなかった。あのときのことを思い出すと・・・。


「でも、こんなときに王様自ら聖都を逃げ出すんなんて」

「うーん、話に聞いたフィデリウス王の性格からするとそうなんだろうね」

「王様としてはどうなんでしょうか?」

「でも、案外憎めないとこがあるっていうか・・・女好きだけど、女性にはやさしくて割合敵も少ない。民からの受けも、まあ、悪くはないらしいよ」

「そんなものなのですか・・・。あ、ハル様、アイスラー副団長がいます」

「ほんとだ」


 王様の護衛なのだから王宮騎士団一の使い手であるアイスラー副団長がいるのは当然だ。結局、フィデリウス王一行を見送る形になった僕とクレアは、今日の目的である情報取集のため冒険者ギルドに向かった。





★★★






 ドミトリウス王を護衛してヴェルレイガ公爵領の領都ヴェルレイクスに向かっているアイスラーは焦っていた。


 それもそのはずで、ほんの数時間前、一行は魔物の群れに襲われ、護衛の3割を失い、さらに2割は負傷により護衛の役にはたたなくなった。

 アイスラーの判断により負傷した2割とその治療に当たる者をその場に残した。更には数人を聖都シズカディアと領都ヴェルレイクスの両方へ報告のため急がせた。


「あ、アイスラー、とにかく急げ」


 魔物の襲撃の間中、馬車の中で震えていたフィデリウス王の指示により、アイスラーは、当初から3割にも満たない残りの騎士たちと共に国王を護衛しヴェルレイクスへの道を急いでいた。


 それにしてもまさかキングオーガが現れるとは。何かがおかしい。聖都シズカディアとヴェルレイガ公爵領を結ぶ街道は安全で普通は魔物など現れない。そもそも安全な場所だからこそフィデリウス王はヴェルレイガ公爵領を視察する場所に選んだのだ。本来の目的は視察ではなく聖都からの避難なのだから。


「副団長、後方より何者かが近づいてくる気配がします」


 報告したのは魔力探知に優れる斥候役の部下だ。


「また魔物か?」

「はっきりとはわかりませんが、人の気配じゃないかと」

「人?」


 アイスラーの命令で3人の部下が後方の確認に向かった。ほどなくして彼ら3人は数人の騎兵を思われる人影を確認した。20人以上はいる。聖都やヴェルレイクスからの救援ではない。早すぎる。


「貴公らは何者か? 我らは王宮き・・・」


 ズサッ!


 王宮騎士団員は最後まで言い終わることなく、その生を終えた。騎馬の歩を加速させた黒ずくめの騎士がすれ違いざまに王宮騎士団員を一刀両断に斬り捨てたのである。通常の腕前ではない。王の護衛をしている王宮騎士団員は決して弱くはない。この国でこんなことができるのは、神殿騎士団か王宮騎士団のかなり上位の実力者のみであろう。


 一瞬何が起こったのか分からなかった残り二人の王宮騎士団員だが、すぐ我にかえり「貴様なんということを」、「うわぁー」とそれぞれ叫びながら剣を抜くと、その男と対峙した。しかし二人が黒騎士と剣を交えることはなかった。

 彼らの頭上が赤く染まると、ほぼ時間を置かずに2名の王宮騎士団員を包んだ炎の塊が爆発した。


 中級火属性魔法の炎爆発フレイムバーストだ。


「た、助けてくれー!」

「熱い! 熱い!」


 炎に包まれた2名の王宮騎士団員は馬から転がり落ち地面を転げまわるが、最初に王宮騎士団員を斬り捨てた黒い鎧の男が下馬すると二人に剣で止め刺した。


「ふん。行くぞ」


 黒騎士の指示でその一団は、前方のフィデリウス王の一行を追いかける。


 後方の確認に向かわせた部下が帰ってくるのが遅い。

 アイスラーは周りの騎士たちに油断しないよう指示をしながら、何があったのかと考える。しかし自分が確認に行くしかないかと決断しかかったとき、近づく数人の騎士と思われる者たちの姿を捉えた。


 その一団が近づいてくると、アイスラーはそこに3人の部下の姿がないことにすぐに気付いた。

 先頭の黒騎士が一団のリーダー格と判断したアイスラーは、その行く手を塞ぐように対峙する。全身を覆う鎧により顔は確認できない。只者ではない。


 しばらくの沈黙の後、先に口を開いたのはアイスラーだった。


「貴公らは何者か?」


 黒騎士は答えない。

 アイスラーは剣に手をかけもう一度問う。


「何者か?」


 アイスラーの頭上に赤い球体が現れ、間もなくその高度を下げ爆発した。しかし、すでにアイスラーはそこにはいない。アイスラーの部下数名がすでに魔術師の元へ向かっている。相手の騎士も数名が魔術師を庇うように立ち回り、アイスラーの部下たちと対峙する。


「魔法に注意しろ。まだ伏兵がいるかもしれない」


 アイスラーは部下に指示をしながらも黒騎士から目を離すことはなかった。


 アイスラーは黒騎士を観察する。相手が強いことは分かった。全く隙のない構えに落ち着いた態度。アイスラーは王族や王宮を守る王宮騎士団の副団長である。アイスラーの上司である団長は代々の騎士団長を輩出している子爵家の出だ。決してお飾りというわけではないが、実力はアイスラーのほうが上である。つまりアイスラーは王宮騎士団一の使い手だ。だがアイスラーは目の前の黒い鎧の男が自分と同等、いや自分より強そうだと感じていた。


「貴様何者だ」


 黒騎士はアイスラーの3度目の呼びかけにも答えない。

 周りでは部下たちが戦っている音が聞こえる。残念ながら優勢とは言えないようだ。

 アイスラーの部下とてそれなりの手練れである。


「なぜ神殿騎士団がこんなことをする?」


 太刀筋や振る舞いから見て冒険者ではない。これは騎士の戦い方だ。そして我々より強いとなると神殿騎士団のそれも精鋭部隊としか考えられない。


「ジェイコブス団長なのか?」


 やはり何も答えない。

 だが、目の前にいるのは男。男なのだからシルヴィア副団長ではない。だとしたらこれだけの精鋭部隊を率いているのはジェイコブス団長ではないかとカマをかけてみた。大隊長クラスの可能性もあるが、なぜかそれは違うとアイスラーの勘が伝えていた。


「な、なんだ。今度は何があったんだ」


 アイスラーは馬車の中から聞こえたフィデリウス王の質問には答えず「陛下を逃がすことを優先せよ!」と部下に指示すると、自身は黒騎士を睨みつけて剣を構えた。


「ここは俺が時間稼ぎをする」

「ふん、お前ごときに時間稼ぎができるとでも・・・」


 初めて聞いた黒騎士の声は思ったより若いような気がした。アイスラーにはジェイコブス団長だとも違うとも判断できなかった。


「そうだな。やってみないと分からない」


 アイスラーは覚悟を決めた。


 いずれにしても自分は王宮騎士、やるべきことをやる。それだけだ。







★★★







 僕は、その知らせを王宮で聞いた。フィデリウス王が何者かに暗殺されたというのだ。

 当初王宮では様々の情報が錯綜し混乱していた。

 

「本当に間違いなのですか?」


 最初にその話を、王宮で僕たちの世話をしてくれている侍女から聞いたとき、僕は思わず聞き返した。そんな話が僕たちの耳に入ること自体相当混乱しているということだろう。

 

「そういう話です」


 もう少し詳しく話を聞いてみると、国王が暗殺されたのは視察先のヴェルレイガ公爵領だと言う。ヴェルレイガ公爵は亡くなった王妃でありドミトリウス殿下の母の兄にあたる人物である。僕とクレアはつい3日前にヴェルレイガ侯爵領へ向かうフィデリウス王一行を見送ったばかりだ。護衛をしていたアイスラーさんも殺されたという。その話を聞いたクレアの顔が強張った。


 そしてその後起こったことも、驚きだった。


 王が暗殺されるという大事件の後、それでもゾーマ神父の葬儀が行われた。もちろん僕とクレアも参列した。ジークフリートさんやアリウス殿下の顔を見るのは辛かった。

 そして今度はフィデリウス王の葬儀のスケジュールが発表される中、なんとドミトリウス殿下が神殿騎士団によって拘束されたのだ! フィデリウス王暗殺の黒幕がドミトリウス殿下だというのがその理由だ。


 当初王宮騎士団は抵抗しようとしたらしいが、ジェイコブス団長を含む神殿騎士団を連れた教皇が直接王宮に乗り込み指示したことで、ドミトリウス殿下は拘束された。

 神殿騎士団と王宮騎士団との戦闘という最悪の事態にはならなかった。この国の最高権力者は教皇だし、そもそも神殿騎士団と王宮騎士団とでは個人の技量はともかく数の上で全く相手にはならない。


 それにしても、これは一体何が起こっているのか・・・。


 聖女はユイだ。ユイの件には教皇一派が関わっているのは間違いない。

 火龍や魔物の襲撃の件はメイヴィスが関わっている。これも間違いない。

 それじゃあ、フィデリウス王暗殺の件は誰が・・・?

 本当にドミトリウス殿下が犯人なのか?


 それぞれの事件に関係があるのだろうか?

 関係があるとすれば、教皇一派とメイヴィスは繋がっているってことになるのか?

 それとも偶々同時期に起こっているだけで、個々の事件に関係はないのか?

 

 分からないことが多すぎる・・・。

 事態が大きく動きました。

 ちなみに、蛇足ですがロシアの文豪の名作でも長男が父親殺しとされています。

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この作品の好きな所は召喚されたクラスメイトは誰一人特別な人間がいない所。利用されていると分かっていてもすぐには動けないし解決策は見つからない。成長したと思っていたら騙されてしまう。召喚前には無かった能…
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