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4-19(魔物の大群).

 寝過ごして投稿するのが遅くなりました。

 聖女はユイだった。


 全体回復魔法が部屋全体を包んだとき、その神々しさは確かに聖女と呼べるものだった。だけどあれはユイで間違いない。ユイはフード付きの白いローブに身を包んでいた。首元は隠されていて隷属の首輪をつけられているのではとの仮説と矛盾しない。


 顔は確認できなかった。それでも背格好や立ち姿、あれはユイで間違いない。


「ハル様」と聖女様の治療が終わり神殿を出た僕にクレアが話しかけてきた。


「これからどうしますか?」


 隷属の首輪に聞いた通りの効果があるとすれば、力ずくでユイを取り返すわけにもいかない。どうするのが最善だろうか。


 ああ、やっとユイの姿を確認できたうれしさと興奮にユイを心配する気持ちがごちゃ混ぜになって考えが纏まらない。


 とりあえず聖女がユイで間違いないことをジークフリートさんたちに伝えて相談するか。なんせジークフリートさんはこの世界の英雄であり王族と同じ扱いを受けられる存在だ。

 

「とりあえず、冒険者ギルドに行ってみようか」

「はい」


 冒険者ギルドに向かって歩いていると、何だか通りが慌ただしい雰囲気なのにすぐ気がついた。


 何かあったのだろうか?


「ハル様」

「うん、とりあえず冒険者ギルドに急ごう。何か情報があるかもしれない」


 冒険者ギルドに駆けつけてみると、そこには多くの冒険者が集まり騒然とした雰囲気になっていた。

 冒険者たちの前に立って何やら説明しているのはギルドマスターのボルガートさんだ。その表情から、何か深刻な事態が起こったことは直ぐに察せられた。


「魔物の大群が南から聖都に近づいているという報告があった」

「どのくらいで聖都に到着するんだ」


 ベテランの冒険者らしい人が質問した。


「あと2時間くらいだ」

「ずいぶん急だな」


 ギルドマスターのボルガートさんの言葉に、その場にいた冒険者たちから驚きの声が上がる。この国はイデラ大樹海に接している。そしてシズカディアは国の比較的南に位置している。それでもシズカディアの南側、イデラ大樹海との間には数は少ないがいくつかの町や村がある。それなのにいきなり聖都に大群と表現されるような数の魔物が現れるだろうか?


「聖都に魔物の大群がいきなりっておかしいだろ」

「大群っていったいどのくらいの数なんだ?」

「今回も魔族が」

「おい、お前ら落ち着け!」


 ボルガートさんが声を張り上げる。


「聖都にどのくらい近づいているんだ?」

「だから、あと2時間だって言ってるだろ」

「大丈夫なのか?」

「なんでそんなに早く」

「火龍に続いて今度は魔物の大群かよ。やっぱり魔族が」

「だから落ち着けっていってんだろ!」


 ボルガートさんが皆を一括する。


「すでに第一陣の冒険者は南門に向かった。第一報が入ったときにここにいた冒険者たちだ。それに当然神殿騎士団や王宮騎士団も対応に向かっているはずだ。今ここにいる者で自信があるものも対応に向かってほしい。ただし、行くかどうかは自己責任だ。俺たちの家族や聖都を守ろうって気持ちがあるやつは自分の判断で行ってくれ!」


「それで魔物の数はどのくらいなんだ?」


 ベテランらしい冒険者のおっさんが質問した。


「すまん。言い忘れてた」


 ボルガートさん自身も見かけよりは慌てている様子だ。


「今のところの情報では千体規模だと聞いている」


 一瞬の沈黙の後、騒然となった。


「せ、千だと!」

 

 千体の魔物、思ったより多い。


 でも・・・聖都の戦力を考えれば・・・。聖都には、ここにいる冒険者たちに加えて神殿騎士団や王宮騎士団が常駐している。その数は少なくとも千人単位にはなるのではないだろうか?


「クレア、とにかく南門の方へ行ってみよう。この間の火龍や魔族とも何か関係があるのかもしれない」

「はい!」


 それに・・・この一連の事件は、ユイが聖女にされていることと何か関係あるのだろうか?

 聖女と魔物、それとも聖女と魔族・・・よく分からないことばかりだ。


 僕とクレアは冒険者ギルドを出ると南門に向かった。僕たちの他にも討伐に行く判断したのであろう冒険者が何人か付いてきた。


 僕とクレアは南門を抜ける。さらに外街を南に走る。ただしシズカディアの南側には申し訳程度しか外街はないのですぐに街の最南端まで辿り着いた。そこにはジークフリートさんたちがいた。すぐに僕たちに気がついたジークフリートさんが近づいてきた。


「ハルとクレアか・・・」

「千体と聞きました。かなり多いですね」

「ああ、だがここは聖都だ。常駐している騎士も多いし問題はないと思うが・・・。まあ、火龍とがでなければだが」

「ジーク油断は禁物よ」


 エレノアさんは慎重だ。杖を握りしめている手にも力がこもっている。


「分かってる」

「ようやくユイの婚約者とやらの実力が見れるわね」と声をかけてきたのはライラさんだ。


 エルガイアさんは大きな盾を手に相変わらず無言だ。


 しばらくすると、僕の魔力探知でも多くの魔物の気配を察知した。


 いくらイデラ大樹海から比較的近いといっても、聖都にここまで多くの魔物がいきなり現れるのは明らかにおかしい。仮にイデラ大樹海から来たとして、イデラ大樹海と聖都との間にある町や村が魔物の大群に襲われたと言う情報もない。ということは、魔物は途中の町や村を無視して聖都に直接やって来たとしか考えられない。普通であればこれはあり得ない。


 僕がメイヴィスだと疑っている女魔族が無関係と考えることのほうが難しい。


 これとよく似た現象にスタンピートというのがあるそうだ。半年くらい前にギネリア王国でもそれが起こった。伝説級の魔物が大樹海の麓付近くまで降りてきたことが原因だったそうだ。解決したのはジークフリートさんたちで、ユイやシルヴィアさんも手伝ったのだ。

 エリルは、エリル派の四天王サリアなら下級の魔物を100匹単位で使役できると言っていた。使役魔法を得意とする四天王サリアナでそれなら千匹もの魔物を使役するのは高位の魔族でも無理だ。でもメイヴィスが高位の魔物を使役してスタンピートと同じような現象を起こしているとしたらどうだろうか? 使われたのはあの火龍なのだろうか。でも近くに火龍ほどの巨大な魔力は感じられない。 


「ハル様、今回も火龍や魔族がいるのでしょうか?」

「注意したほうがいいね。でも、今のところ近くに火龍のような大きな魔力は感じられない」

「そうですね」


 感じられる魔力の数こそ多いものの、今のところは近くにそれほど巨大な存在はいない・・・と思う。


「ハル、迎え撃つぞ」

「はい」


 ついに魔物が視認できるようになり、ジークフリートさんの指示で戦闘態勢に入る。前方には騎士たちとそれを率いている二人の人影が見える。騎士たちのいで立ちをみるとどうやら神殿騎士団のようだ。率いている一人はシルヴィアさんだ。おそらくもう一人が・・・。


 あれがジェイコブス神殿騎士団長か・・・。


 ニヒルとでもいうのだろうか、ちょっと斜に構えたような表情をしている。なんでもシルヴィアさん以上の実力者だとか。


 冒険者ギルドや王宮で情報収集しているうちに知ったことだが、ジェイコブス団長はどうもフィデリウス王の息子だと噂されている。ジェイコブス団長は貴族の出だが、母親が元はフィデリウス王の愛妾であったことは公然の秘密らしい。フィデリウス王は、まあ・・・そういう方面ではとても有名だ。有能ではないがまったく無能というほどでもない王。そして女好きで憎めないところもあり、それなりに女性にモテる。それがこれまで僕が知り得たフィデリウス王の一般的な評価だ。

 もし噂が本当ならジェイコブス団長はドミトリウス殿下、イヴァノフ殿下、アリウス殿下の兄弟となるわけだ。僕が話したことがない唯一の兄弟であり、兄弟の中で一番の武闘派だ。

 神殿騎士団の団長になったのは家柄のせいだけではなく実力も伴っている。シルヴィアさんと同じで剣聖の称号を得ている。

 王宮騎士団ではなく神殿騎士団に所属しており教皇の覚えもいいらしいのは皮肉と言うべきなのか、それとも自身の本当の父がフィデリウス王だとの噂に思うとこがあるからこそ教会の側にいるのだろうか。


 とにかく今は魔物の討伐だ。視認できる魔物は、ホーンウルフ、ブッラッディベア、カラミティーフォックス、人型のオークなどだ。


 僕たちはできるだけ開けた場所で魔物たちを待ち受ける。


 魔物が千匹と言えば一大事ではあるが、ここは聖都である。多くの騎士や冒険者たちがいる。突然の事態であり、現状、シルヴィアさんとジェイコブス団長が率いているのは数百人規模の騎士だが、時間が経てばどんどん増えるだろう。

 騎士は冒険者と比べれば対人で戦うことが多いが、それでも魔物から国を守るのも仕事のうちである。一般に騎士は職業軍人であり、平均すれば冒険者より強いと言われている。あくまで平均なので冒険者でいうところのA級以上ともなればかなり数が少なくなり、S級相当以上なら剣聖の称号を得たりする。


 とにかく、聖都の騎士や冒険者の数からいえば、下級や中級の魔物が千匹いようともいずれは鎮圧できるはずである。これが魔族の、メイヴィスの仕業であるなら、メイヴィスにもそれは分かっているはずだ。ある程度被害を与えればいいと思っているのか? それともこの後、火龍とかを投入してくるつもりなのか?


 いや、考えるのは後だ!

 今は目の前の魔物に集中しなくては!

 現状では、まだ魔物ほうが圧倒的に数が多い。


「クレア、ジークフリートさんたちもいる。僕たちは手薄なところを援護しよう」

「分かりました」


 そう言っている間に魔物たちはみるみる迫って来て、たちまち乱戦となった。


 騎士たちは急いで集まってきたためか最初は混乱気味であったものの、直ぐにシルヴィアさんとジェイコブス団長の指示で立て直して一匹の魔物を複数で囲んで着実に討伐し始めた。さすがに騎士団であり統制がとれている。それにシルヴィアさんもジェイコブス団長も強い。とくにジェイコブス団長の剣裁きには驚かされた。僕の目にはギルバートさんに劣らないくらいの強さに見えた。


 僕とクレアは全体を見回しながら手薄なところの戦闘に参加する。魔物の数が多く、どうしても外街の中に入ってしまう魔物もいる。街に被害が出始めている。


 僕たちはなんとか、魔物を街に入れないように立ち回るが数が多すぎて大変だ。クレアが素早い動きでオークの群れを舞うように次々と斬り捨てていく。周りの冒険者や騎士がクレアの動きに思わず見とれている。


 うん、クレアならジェイコブス団長にだって負けてない!


黒炎弾ヘルフレイムバレット!」

黒炎弾ヘルフレイムバレット!」

黒炎弾ヘルフレイムバレット!」


 僕は黒炎弾ヘルフレイムバレットを連発する。黒炎爆発ヘルフレイムバーストでまとめて討伐したいとこだけど乱戦なので使いずらい。


 くそー! 数が多すぎる。街に入るのを完全に防ぐのは難しい。街に入ろうとする魔物に僕も剣を抜いて攻撃する。


 ジークフリートさんたちの方を見ると、ジークフリートさんとライラさんが巧に魔物を誘導したところにエレノアさんが広範囲魔法でダメージを与えている。そして生き残った魔物をジークフリートさんとライラさんが凄いスピードで止めを刺すという感じで大量の魔物を始末している。


 は、速い!


 僕は英雄と呼ばれているSS級冒険者であるジークフリートさんの実力を思い知らされた。とにかく速くて僕の目ではその剣の動きを捉えることができない。数が多い場合は剣より魔法が有利というのはジークフリートさんには当てはまらないようだ。

 一方、魔力を溜めているエレノアさんへの攻撃は、エルガイアさんがしっかりとガードしている。理想的なコンビネーションだが、魔術師がエレノアさん一人なので、ここにユイが加わっていればさらに破壊力が増しただろう。


 戦闘が続くにつれ騎士たちの数が増えてきた。ただ思ったより騎士が増えるのが遅い気もする。


「ハル様、あれは」


 クレアの指差した方を見ると翼竜にしか見えない魔物が10匹以上空を舞っている。


「ワイバーンか」


 上級魔物の登場だ。

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