1-11(クラネス王女の話とヤスヒコの説教).
召喚されてから3ヶ月が経過した。ユウトが出ていってすでに1週間だ。
今日は訓練が終わった後、見学に来ていたクラネス王女と雑談している。クラネス王女は、戦闘には向かないみたいだけど固有魔法である鑑定以外に初級までとはいえ聖属性魔法が使える。これはかなりすごいことらしく頻繁に僕たちの訓練を手伝いに来ている。王族とか貴族とか偉い人には魔力が高い人が多いそうだ。この世界で魔力の多い人が支配者になりやすいのは、なんとなく分かる気がする。
「クラネス王女、冒険者と冒険者ギルドについて教えてもらえませんか?」
ユウトはすでに冒険者になっている。そのこともありラノベとかでもお馴染みの冒険者ギルドと冒険者についてクラネス王女に聞いてみた。一緒に集まっているユイちゃん、ヤスヒコ、アカネちゃんも興味深そうに話を聞いている。
「ええ、私の知っていることで良ければお話します。まず冒険者ギルドは国を跨る大きな組織です。それに優秀な冒険者はとっても尊敬されています」
冒険者ギルドが国を跨る組織であることはユウトのこともあり知っていた。ラノベの設定でもよくあるやつだ。僕もユウトじゃないけど魔王討伐に行くより冒険者になってみたいという気持ちはある。ユイちゃんと一緒に冒険するのもいいかもしれない。
「ハルと一緒に冒険したら楽しそうだねー」
先に言われてしまった。照れる。
クラネス王女によると、魔物が存在するこの世界では魔物と戦ってくれる冒険者はとても尊敬されているらしい。冒険者は、その実力によりE級からSS級に分かれている。このあたりもすでにユウトから聞いていた。いつかすごい冒険者となったユウトと再会できればいいと思う。
「S級の冒険者は滅多にいません。ルヴェリウス王国にも数人しかいませんね。ましてSS級ともなれば、これはもう英雄と呼ばれる存在で、今は世界に二人しかいないはずです」
S級になれば名誉貴族みたいな存在になって貴族と同等に扱われるらしい。じゃあSS級はとの問いには、SS級ともなれば、王族と同じくらい敬意を払われていると説明してくれた。まあ、英雄なら当然かもしれない。勇者と同じような存在にも感じる。ルヴェリウス王国にSS級の冒険者はいないしクラネス王女も会ったことはないそうだ。
「騎士団にも冒険者出身の人は多いですよ」
冒険者として名を上げれば、就職にも有利ってことか・・・
「ギルバードさんやセシェル師匠も、冒険者出身なんですか?」
「いえ、彼らは違います。冒険者の出身は、そうそうクレアさんがそうだと聞いています」
そうか、セイシェル師匠が天才と呼んだ僕たちとそんなに年も変わらなそうに見えるあの銀髪の美少女は冒険者出身なのか。
「剣聖とSS級の冒険者ってどっちが強いですか?」
アカネちゃんがキラキラした目をして質問する。
クラネス王女によると、比べるのは難しいが。S級冒険者は剣聖に、SS級冒険者は剣神に匹敵するイメージだとのことだ。剣神や剣聖の称号は国家が与え、SS級やS級は冒険者ギルドが与えるのだから直接比較はできない。いずれにしても魔族や魔物がいるこの世界では強者はとても尊敬されている。
「そういえば、俺たちって、どのくらい強くなることが求められているんですかね?」
今度はヤスヒコが質問する。
「そうですね。全員が少なくとも剣聖やS級冒険者以上、何人かは剣神やSS級冒険者と同等かそれ以上になるのが目標だと聞いています。魔王の周りには強い配下もいるらしいですし」
なるほど、当然勇者であるコウキは剣神やSS級冒険者を超える存在になることを期待されているのだろう。賢者のユイちゃんやマツリさんもそうかもしれない。じゃあ、僕は・・・。
「それなら、世界中から剣神やSS級冒険者たちを集めて魔王討伐に行けばいいんじゃないですか?」
ヤスヒコの言うことには一理ある。この世界にも英雄と呼ばれる者が複数いるのなら、集めれば魔王に対抗できそうな気がする。
「それは難しいと思います。現状では剣神もSS級冒険者もルヴェリウス王国にはいません。それにSS級の冒険者のことはよく分からないことも多いのです。世界に二人と聞いてはいますが、あまり情報がないんです。一人は南の方の国にいるとか聞いたことがありますけど・・・。とにかく、彼らは一国に集中しているわけではありませんから、今の状態でルヴェリウス王国が彼ら全員を集めて魔王を討伐するのは難しいと思います。人族滅亡の危機ともなれば団結することもあるかもしれませんが・・・」
でも魔王の出現って人族存亡の危機じゃないんだろうか?
まあ、各国が英雄といわれるような強者を自分の国に留めて置きたいのは分からないでもないけど・・・。
「俺たちが、魔王討伐に行けるくらい強くなるには、どのくらいの期間訓練する必要があるのかなー」
ヤスヒコが自らにも問うように質問する。
「私は、少なくとも3年くらいは、訓練する予定って聞いていますけど、どうなんでしょう?」
3年、長いような気がするが案外あっという間のような気もする。でもクラネス王女にもはっきりとは分からないみたいだ。人によって強くなる速度に違いもあるだろうしなー。僕なんか人一倍時間がかかりそうだ。王国は、これまでの勇者召喚の経験からその辺のノウハウを持っているんだろうか。
僕はすぐに魔王討伐に出発するのではないと聞いてどことほっとしている自分がいるのを感じていた。
「魔王が現れたからといってすぐに人族が絶滅の危機に瀕するわけではないのです。魔王も成長するのに時間がかかると聞いています。まだ十分訓練する時間はありますよ」
クラネス王女は僕たちを安心させるように言った。でもそれなら魔王が成長する前に討伐したほうがいい気もするけど、どうなんだろう。
「私、魔王を討伐して剣神になる! そのときは、ヤスヒコも剣聖くらいにはしてもらえるように頼んであげるよ」
「いや、アカネのコネで剣聖になってもなー」
「私は、ハルと一緒に冒険できるんならなんでもいいよ」
ユイちゃんが、僕の顔を覗き込んで言う。
か、可愛い過ぎる・・・。
「み、みんなで冒険したら、楽しそうだよね」
二人で一緒に冒険しようって言えなかった。情けない・・・。
でも、真面目な話、ユウトがこの世界での自分の未来を、ルヴェリウス王国から言われるままではなく、自身で選んだことは多かれ少なかれ僕たちに影響を与えていると思う。
話題を変えよう。
「そういえば、魔導技術研究所って、異世界召喚魔法以外にも何か研究してるんですか?」
僕は前から気になっていた隣の建物、魔導技術研究所について質問してみた。地下に僕たちが最初に召喚された部屋のある建物だ。
「私も、詳しくは知らないのですけど、主に魔法陣の研究していると聞いています」
魔法陣の研究? 魔法陣って異世界召喚以外にどんなのがあるんだろう?
僕が考え込んでいると「ごめんなさい。私も研究内容については、よくは知らないのですけど、離れた場所に転移するとか、結界を張るとかの研究じゃないかと・・・」とクラネス王女が申し訳なさそうに答えてくれた。
「それって、魔法陣じゃなく普通の魔法ではできないのですか?」
「召喚や転移、結界などは、人が使う魔法や一般的な魔道具では不可能かできてもすごく制限があります。魔導技術研究所で研究しているのは、そんな大規模な魔法を使うための魔法陣です。でも大規模な魔法を使うための魔法陣を一から作ることはできなくて失われた文明の遺物を研究していると聞いています。異世界召喚魔法と同じで長い間魔力を溜める必要があったりとかで使うのはなかなか大変らしいですよ」
失われた文明・・・その遺物は現在の魔導技術の発展に貢献している。ぶっちゃけ何でもありの文明だ。僕たちを召喚した魔法陣も失われた文明の遺物だし毎日便利に使っている魔道具も失われた文明の技術をもとに研究して生み出されたものだ。
「なるほど大規模な魔法を使うための魔法陣を研究しているのですね。今日はとても勉強になりました。クラネス王女、ありがとうございます」
「いえ、私で分かることなら、また何でも聞いてくださいね」
★★★
僕は目が覚めてすぐに部屋に押し掛けてきたヤスヒコからなぜか説教されている。
「ハル、お前、いい加減ユイちゃんのこと、はっきりさせたほうがいいんじゃないのか?」
ぼんやりした頭で考える。
確かに、この世界に来てから、ユイちゃんは前より積極的に僕に好意を示してくれている。さすがに僕にも分かる。僕はラノベの鈍感系主人公とは違う。家族とも離れてこんな世界に来て、誰だって不安だ。僕がユイちゃんの支えになれるのならって思う。そもそも僕はユイちゃんが好きだし、いや大好きだし・・・。
でも、こんな状況で、ユイちゃんが心細くなっているのにつけ込むみたいなのはどうなんだろう?
それに僕はコウキやヤスヒコに比べて弱い。この世界は日本に比べれば魔物や魔族、それに人間同士の戦いだって多くとても危険だ。
僕はユイちゃんを守っていけるのだろうか?
それに、賢者と呼ばれる優秀なユイちゃんにふさわしいんだろうか?
「ふん、どうせハルのことだから、こんな状況でとか、自分で釣り合うのかとか、そんなくだらないことを考えてるんだろ?」
「え、な、なんで?」
「ハルは分かりやすいんだよー」
僕って分かりやすいのか? 結構ごまかすのは上手なつもりだったんだけど・・・。
さすが親友だ。
「でもな、俺たちは、今この世界でたった9人の日本人、いや地球人だ。ユウトを除いても年頃の男女が8人だ。元の世界に帰れるあてもない。いずれ、この8人の中で支えになる人を見つけるような、そんな流れになる可能性が高いと、俺は思う」
ヤスヒコの言うことは分かる。みんな不安で心細い。僕だってそうだ。でも、だからって、無理やり支えになる相手を、8人の中からお互いに選ぶみたいな、そんな・・・。それに男は3人で女の子は5人だ。
「ハル、お前ほんと分かりやすいな」ヤスヒコはそう言うと、「そこが、お前のいいとこだけどな」と話を続けた。
「ハルの思ってることは、大体分かる。俺だって人を物みたいに思いたくもない。でも、みんなそんなに強くないんだよ。ここは異世界だぞ! みんな不安なんだよ。支えが欲しいとなるのは当然だ。それと、お前おかしいと思わないか?」
「おかしいって?」
「俺たちの訓練を手伝ってくれている王国の人たち、イケメンや美人ばっかりだぞ。ギルバートさんはさすがに妻子持ちみたいだが、それ以外はセイシェルさんも含めてみんな独身だ。ギルバートさんだって妻子持ちだが貴族だから奥さんは何人も持てるらしいぞ」
ヤスヒコ知らない間にそんなことを調べていたのか・・・。
「ここからは、俺の想像だが、王国としては、俺たちが、早くこの世界に馴染んでくれることを望んでいる。いきなり違う世界につれてこられて精神的に不安定なのは困る。伴侶でも見つけて落ち着くのは大歓迎だ。もしその伴侶に王国の人がなれば、王国を絶対に裏切らないだろうから一石二鳥だ」
「それって?」
「ああー、そうだ。俺たちの訓練を手伝ってくれている人たち、その辺まで言いくるめられている可能性もあると、俺は考えている」
ヤスヒコの言うことは一理ある。
でも、セイシェル師匠もそうなんだろうか? そうは思いたくはない・・・。
それに、クラネス王女はどうなのだろうか? クラネス王女の場合、王女自身は知らなくても、王様とかはそうなってもいいと思ってるかもしれない。いや、むしろそうなったらいい・・・と。あの美貌だからその可能性は低くはないと考えているかも。
それとコウキはどうなんだろうか? ヤスヒコと同じことに気が付いていそうだ。コウキは、なんだかんだで優秀だ。
「とにかくだ、俺の想像が当たっているかどうかはともかく、みんな不安なのは事実だ。ユイちゃんだってそうだ。ユイちゃんを、コウキや俺、ましてや王国の誰かに取られたくなかったら、はっきりしたほうがいい」
「ヤスヒコには、アカネちゃんがいるだろ?」
ヤスヒコは僕を見ると、すっと目を逸らした。まさかヤスヒコ、ラノベなんかによくあるハーレム展開とかを考えてるんじゃないだろうな。それとも・・・。
「まあ、それだけユイちゃんは可愛いってことだ。今日のところはこの話は終わりだ」
もしかしてヤスヒコも、アカネちゃんがコウキのことを気にしてるって気付いてるのか? いや、僕が気がつくんだからヤスヒコが気がつくのは、むしろ当たり前か。
僕のことより、お前のことの方が心配だよ。ヤスヒコ・・・。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
本作は決して展開が早いとか、あっという間に主人公が最強になるとかいう物語ではありませんが、読み進めてもらえれば必ず面白くなると作者が保証(作者自身に保証されてもなーっていうあなた! その通りです!)します。まずはブックマークして頂き、少なくとも作者としても自信のある第4章(第4章の開始は3月、第4章の完結は4月中頃を予定。長い!)までは物語を追ってみて下さるとうれしいです。
また、もし少しでも面白い、今後の展開が気になると思っていただけたら下記の「☆☆☆☆☆」から評価してもらえるとうれしいです。忌憚のないご意見、感想などもお待ちしています、読者の反応が一番の励みです。よろしくお願いします。




