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4-12(第一王子ドミトリウスの話).

 少し短いです。

 謁見を終えるとシルヴィアさんとガリウス隊長は、ユイのことを引き続き調べると言って王宮を去った。残された僕たちは王宮に一室を用意された。クレアが僕の騎士だと主張したので使用人用の部屋が付属している一室だ。


 僕はアイテムボックスを持っているが、多少の荷物を宿に置いたままだし王宮でプニプニを預かってくれると言うので、宿を引き払うため出かけようとしていたら、ドアをノックする音が聞こえた。ドアを開けると、そこにいたのはドミトリウス王太子だった。後ろには護衛なのか王宮騎士の姿も見える。


 ドミトリウス王太子は部屋に入ると開口一番に「ハル、クレア、お前たち王宮騎士団に入る気はないか? そうすればお前たちに騎士団での相応の地位と騎士爵位を与える用意がある」と言った。 


 どうやらドミトリウス殿下は、神殿騎士団に対抗して王宮騎士団を強化するのに加えて、僕たちをこの国に取り込もうとしているようだ。 フィデリウス王はそういったことに興味がなさそうだった。教皇や王がいる謁見の場であまり口を挟む訳にもいかず、こうしてすぐに訪ねて来たのだろう。

 僕たちを取り込もうとすることは、ドミトリウス殿下の立場なら正しい判断だと思う。正しい判断だとしても僕たちが火龍や魔族と戦ったところを直接見ていないにも関わらず決断が早い。


 それに、まだB級冒険者の僕たちにいきなり爵位を与えると提案してくるとは・・・。


「殿下、ありがたいお言葉ですが、この国に長く留まる気はないのです。申し訳ありません」

「そうか。そうだろうとは思ったが、それでは仕方がないな」


 ドミトリウス殿下はそう言うと、あっさり引き下がってくれた。神殿騎士団のほうにも入る気がないことを確認したからかもしれない。


「だが、勝手な願いだが、もうしばらくはここにいてくれるとありがたい。魔族や火龍の襲撃があれで終わりとは限らないからな。もしまた奴らが現れたら討伐に協力してほしい。もちろん礼はする」


 魔族たちの襲撃があれで終わりかどうかは、僕も気にかかっている。それにあの襲撃とユイの件が無関係かどうかにも・・・。


「この国に滞在している間でしたら構いませんが・・・」

「そうか。それは助かる」

「それで・・・ドミトリウス殿下、一つお伺いしたいことがあるのですが」

「なんだ。遠慮なく言ってみよ」


 ドミトリウス殿下が僕たちを取り込みたいと思っているのなら、ここは利用させてもらおう。


「ありがとうございます。この国では最近聖女様が現れて大変な評判になっていると聞きました」

「その通りだ」


 聖女のことと聞いてドミトリウス殿下の表情が一瞬曇った。

 シルヴィアさんから、聖女の出現がドミトリウス殿下にとってあまり歓迎すべきことではないことを聞いていなければ、見逃してしまったかもしれないくらいの僅かな表情の変化だ。


「今のこの国に聖女様が顕現しなければならないような理由があるのでしょうか?」

「私は、現在のこの国はよりよき方向へ向かっていると思っている」

「それなら、なぜ」

「もしかしたら、火龍の出現を予知した神が聖女様を遣わして下さったのかもしれないな、だが・・・」


 僕はドミトリウス殿下の次の言葉を待った。


「だが、私が進めているこの国をもう少し開かれたものにしようとする施策、それがこの国の危機だなどと噂する者もいるようだな」


 ドミトリウス殿下は少し迷った末、そう言った。ドミトリウス殿下・・・正直な人だ。


 だとすると、火龍が現れたのはむしろドミトリウス殿下には都合がよかったのだろうか? そういえば最近聖都近辺で魔物が活発化しているという話も聞いた。火龍や魔物のことが聖女出現の理由だと民衆が考えれば、聖女の出現とドミトリウス殿下の施策は無関係ということになる。


「ハルはずいぶん聖女様に興味があるのだな」

「はい。とても失礼な質問かもしれませんが、シズカイ教の信者でない僕には、やはり聖女様が神の使いだというのが信じられなくて」

「いや、他国の者がそう思うのは無理もない」

「殿下は聖女様をどう思われているのでしょうか? 失礼な質問でしたら申し訳ありません」

「聖女様を? 私は聖女様は神の使いだと思っているよ。神殿での聖女様の治療の様子も報告を受けている。王宮で聖女様とも会った。容姿といい能力といい間違いない」


 ドミトリウス殿下は少し不思議そうな表情で答えてくれた。


「殿下は敬虔なシズカイ教の信者なんですね」

「そうか、ハルは私が王宮の権威を高め開かれた国にしようとしているから、はっきり言えば反教会だなどと噂を聞いてシズカイ教を信じていないと思っていたんだな。そんなことはない。私がこの国の方向性について少し教会と意見が違う部分があるのは確かだ。だが、それとシズカイ教を信仰しないこととは違う。この国にとってシズカイ教は必要だと思っているし聖女様のことも信じている。ただ私が不思議に思っていたのは、なぜ今聖女様が顕現したのかということだ。だが、それも火龍の出現で納得できたといったところかな」


 ドミトリウス殿下、やっぱりずいぶん正直な人だ。でもなんだか少し危うい気がするのは僕の心配しすぎだろうか?


 その後は僕たちの冒険者としての活動など当たり障りない話をした後、「それではハル、クレア、改めて魔族と火龍の件、二人には心から感謝する。今日のところはこれで失礼するが、何かあったら遠慮なく言ってくれ。二人のそばにいる王宮騎士団の者に伝えてくれればいい」


 ドミトリウス殿下はそう言い残すと部屋を出て行った。


 王太子ドミトリウス、僕たちを王宮騎士団に誘ったとこから見ても行動も早いし決断力もある。噂通り優秀な人みたいだ。それに、正直に聖女の出現が自分のせいだという噂があると教えてくれた。


 確かに優秀な人なんだけど為政者としては少し裏表がなさすぎる。好い人すぎると感じた僕は少し意地が悪いのだろうか?

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