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4-11(教皇と王).

 王宮へ入る門の前で馬車は一旦停車したが、門番みたいな人とシルヴィアさんがちょっと話をした後、僕たちはすんなりと王宮の敷地の中に入ることができた。


 僕たちは火龍を撃退した英雄ってことで招待されているので、馬車を降りると迎えの騎士らしい出で立ちの人が待機しており、その人に先導されて控室のような部屋に通された。

 シルヴィアさんによると迎えの人は王宮騎士団に所属する騎士のようだ。王宮騎士団は神殿騎士団と違い国王の騎士団だ。身に着けている鎧もシルヴィアさんの白っぽい鎧とは違う。


「教皇様、国王陛下、ドミトリウス王太子殿下が皆様とお会いになります。謁見までもうしばらく時間がありますので、ここでおくつろぎ下さい」


 案内してくれた騎士はそう言うと部屋の外に出ていった。

 侍女だかメイドだかの人たちがお茶だのお菓子だのをかいがいしく用意してくれる。アニメで見るメイドの女の子のような服装ではなかったが特に残念ではない。ルヴェリウス王国でもそんな感じだった。


「シルヴィアさん、聖女は、普段は王宮ではなくて神殿の方にいるんですよね?」

「そうだ。だが、しばしば王宮にも招待されているし、王宮にも聖女様が滞在するための部屋が用意されているはずだ。ただドミトリウス殿下を警戒してか、いつも神殿騎士が護衛している」

「神殿騎士といってもジェイコブス団長の側近たちです」とガリウス隊長が補足してくれた。

「ジェイコブス団長?」

「ああ、いろいろといわく付きの人でな。シルヴィア副団長とはあまり仲がよくない」

「ガリウス!」

「まあ、いいじゃないですか。本当のことだしユイさんのこともありますから、ハルたちにはなるべくこの国の情勢を知ってもらったほうがいいでしょう。ちなみに俺はもちろん副団長派だ」


 もう、といいながらシルヴィアさんはガリウス隊長を睨む。


「国王陛下の前でも聖女はフード付きローブで身を包んでいるんでしょうか?」

「私は聖女様から遠ざけられているから、そのあたりは分からない」


 国王陛下の前で顔立ちも分からないというわけにはいかないと疑問に思って聞いてみたけど。仮に顔がはっきり見えたとしてもユイのことを知らない人には関係ないか。それに首輪は襟の高い服なら隠せる。


「そういえば、今日の謁見はこうして王宮にきてますけど、この国では王より教皇の方が権威は上なのですよね?」

「ああ、でも政治のこと、特に実務的なことは王が行っている。今日は教皇様もこちらにおられるようだな。それだけこの国がハルとクレアに感謝しているってことだ」


 それとも、教皇がなんらかの理由で僕たちに興味があるのか・・・だ。


 シルヴィアさんと話しながら待っていると、謁見の用意が整ったと王宮騎士の人が迎えに来た。 再び王宮騎士の人に案内されて僕とクレア、そしてシルヴィアさんは謁見の間に通された。ガリウス隊長は控室で待つらしい。


 僕たちはシルヴィアさんに続いて謁見の間の赤絨毯の上をしばらく進むと、その場に膝をつく。シルヴィアさんが先頭で、その斜め後ろに僕とクレアが並んだかっこうだ。

 僕たちは王宮のマナーが分からないので、シルヴィアさんの真似をしている。シルヴィアさんには横に並べと言われたんだけど、真似するためにはシルヴィアさんよりやや後ろにいないと難しい。


 正面にいかにも王様然とした人物と豪華な司祭風の服を纏った人物が並んで座っている。王と教皇だろう。事前に王の名はフィデリウス・カラゾフィスで教皇はユスティトフ三世だと教えられた。フィデリウス王の隣の二人より若い男が王太子のドミトリウス殿下、ドミトリウス・カラゾフィスだろう。

 

「シルヴィア、この度の件におけるそなたの働き誠に大義であった。それにハルとクレア、シルヴィアを助けて火龍と魔族を撃退したと聞いた。感謝する」


 最初に口を開いたのは教皇ではなくフィデリウス王だ。


「もったいないお言葉です。火龍と魔族を撃退したのは、ここにいるハルとクレアです。私は多少その手伝いをしたにすぎません」

「シルヴィア、謙虚なのは美徳ですが、行き過ぎるのもどうかと思いますよ」


 そう言ったのは教皇だ。今回の件をできるだけ神殿騎士団の手柄にしておきたいのだろうか。


「教皇様、私では全く魔族や火龍には歯が立たず、魔族と火龍を撃退できたのはハルとクレアのおかげです」


 教皇の思惑を知ってか知らずかシルヴィアさんはそう答えた。


 教皇は、シルヴィアさんの言葉を聞いて、そうですか、とそっけなく言った。シルヴィアさんは真っすぐな良い人だけど、神殿騎士団の副団長なのに、こんな感じで大丈夫だろうか? 他人事ながら心配になってしまった。

 

 一方、シルヴィアさんの言葉を聞いたフィデリウス王は、改めて僕とクレアの方に目を向ける。


「そうか。それにしても聞いていた以上に若いな。ハル、クレア、そなたたちは冒険者と聞いたが?」

「はい、僕とクレアは冒険者です。修行の旅をしていて、たまたま神聖シズカイ教国を訪れたばかりでした」


 クレアと打ち合わして僕たちは修行中の冒険者ということにした。もし出身を聞かれたらガルディア帝国と答えるつもりだ。ガルディア帝国ならクレアの出身国なので、ある程度質問にも答えられるだろう。


「修行の旅か。我が国としてはそなたたちがいてくれて運が良かったという事か。それにしてもシルヴィアを入れてたった3人で火龍と魔族を追い払ってしまうとは、これまで名前を聞いたことはないがS級かSS級の冒険者なのか? だとしたら貴族として応対するべきだが・・・」


 僕たちの素性はすでに調べているはずだが・・・。改めて確認してるのだろうか? それとも思ったことを口に出してるだけなのか?


「いいえ、僕たちはB級の冒険者です」

「うむ。年からしてB級でも大したものだが、実力はそれ以上のようだな」

「なにか褒美として望みのものはあるか?」


 褒美かー。なんと答えたらいいのかな? いや、望みのものを尋ねてきたのは形式のような気がする。


「いえ、特にはございません」

「クレアとやらもそれで良いのか?」

「はい」

「そうか。ふむ、その年で火龍と戦える実力を持ちながら謙虚なのだな。特に希望がないと言うことであれば、褒美としてそなたたちに金貨100枚を与えるとしよう」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」


 僕とクレアはお礼を言って、その場で頭を下げる。

 金貨100枚。1千万円相当かー。なんかお金だけは増えていく。この世界では力ある者が優遇されている。


 その後、フィデリウス王は、僕やシルヴィアさんに火龍や魔族との戦闘について尋ねたりしていたが、すぐに興味を失ったようだ。まあ、もともとそれほど興味もなかったのだろう。魔族も火龍も追い払いはしたが、まだ討伐されたわけではない。また王都が襲われる可能性だってあるのに大丈夫なのだろうか? フィデリウス王は悪い人には見えないけど正直有能そうにも見えない。


 まあ、謁見は無事済みそうだけど・・・。


「陛下、ハルとクレアがしばらく我が国に滞在するのであれば、聖都にいる間は王宮に部屋を提供するというのはいかがでしょうか?」


 そう言ったのはドミトリウス殿下だ。おそらく火龍をも追い払う凄腕の冒険者を囲い込んでおきたいのだろう。しかも教会に取り込まれる前に・・・。案の定、教皇が苦々しそうな表情を浮かべた。

 

「それはいい。ハル、クレア、是非王宮に滞在するが良い。客人としてもてなそう。なんせ我が国の恩人だ」


 ドミトリウス殿下と教皇とのやり取りには気付いていないのかフィデリウス王は鷹揚にそう言うと笑みを浮かべた。やけにクレアの方を見ている気もする。まあクレアは美人だから、何かよからぬことでも思いついたのかもしれない。


「ありがとうございます。しばらくはこの国に滞在する予定でしたのでそうして頂けると助かります」


 ルヴェリウス王国での経験からもあまり王族とか貴族とかとは関わりたくはない。普段なら断るところだけど、ユイの可能性がある聖女様のことを探るのは一般人にはなかなか難しそうなので、王の客人という立場はありがたい。ここは申し出に応じておこう。


「我が国としても凄腕の冒険者の滞在は大歓迎だ。魔族たちが再び襲ってこないともかぎらないしな」


 フィデリウス王は、魔族たちの脅威がまだ去ったとは限らないことに、やっと気がついたのかそう付け加えた。 


「ハル、クレア、時間があれば是非教会にもお越しください。歓迎しますよ」


 そうだ、教皇に聖女のことを頼んでみるか。シルヴィアさんですら会わせてもらえないらしいから、直接の面談は難しいかもだがダメもとだ。今の僕たちはこの国の恩人なんだから。


「教皇様、図々しくも一つお願いしてもよろしいでしょうか?」

「なんですかな?」

「はい、聖女様に会って見たいのですが、難しいでしょうか」

「ほう、聖女様に。何か理由があるのですか?」

「特別な理由があるわけではありません。ですが、神の使いである聖女様がいらっしゃるのであれば、この国にいる間に、一目お会いできればと思いまして」

「そうですか。聖女様は大変お忙しいので、個別の面会は難しいですが、聖女様が治療を行っている場を見学ということではいかがでしょう」

「是非、お願いします」

「それでは、次回の聖女様の治療は5日後を予定しています。ハルとクレアのことは話を通しておきましょう」

「ありがとうございます」


 僕は教皇に礼を言い頭を下げた。そのとき僕はなぜか教皇の強い視線を感じていた。


 気のせいだろうか?


 まあ、とりあえず一歩前進だ。遠目でも僕がユイを見間違えることはない。それに遠目で見るだけならユイが隷属の首輪を着けられているとしても害はないだろう。

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