4-7(シルヴィア).
なんと、ちょうど100話目となりました。自分でもまさか100話まで毎日投稿できるとは思っていませんでした。依然として人気作とはお世辞にも言えない状態ですが、少しずつではありますが読んで下さる方も増えていると感じています。
これからも読者の反応を励みに頑張りますのでよろしくお願いします。
魔族たちはドラゴンに乗って去った。
広場はあちこちが破壊され、遠くにはまだ黒煙の上がる街並みが見える。
だが、被害がこの程度で済んだのは、目の前の黒髪以外は平凡そうな少年がドラゴンを追い払ったからだ。
伝説級の、いや神話級の化け物であるドラゴンをだ・・・。
それもたった一人で・・・。
この少年は何者なのか?
それに私と一緒におそらく魔族であろうフードの男と戦った少女・・・確かクレアと呼ばれていた・・・も普通ではなかった。
私は、魔族の男やクレアの動きには付いていけてなかった。ちょっとクレアの支援をしただけだ。
私はこれでも神殿騎士団の副団長だ。国から剣聖の称号だって賜っている。その私よりも明らかに強い少女。イデラ大樹海で一緒に戦ったSS級冒険者、英雄ジークフリートにも匹敵するのでは? いや、さすがにそれはないか、それにしても、まだ十代にしか見えない少女が・・・。
私と同じことを考えているのか、広場に集まってきた冒険者や騎士団からも、ドラゴンを追い払ったことに対する安堵やお礼の声とともに、彼らは何者なんだとの声があちこちから聞こえてくる。
「ドラゴンや魔族を追い払うとは」
「え、あいつら魔族だったのか?」
このあたりで魔族を見たことがある者はまずいない。かくいう私もそうだ。でもあいつらが普通の人間ではないことは明らかだ。特に最後に現れた女、髪の色、顔色、何より2本の角、魔族で間違いない。
「たった3人で、英雄だ!」
「さすがシルヴィア副団長だ!」
「あんな少年と少女が・・・」
「信じられない」
「あの魔法の威力はなんだ」
やっと助かったことが実感されてきたのか、賞賛の声が大きくなり、集まった騎士や冒険者が互いに喜び合っている。私に対する賞賛の言葉も聞こえてくるが、だがそれに値するのは私ではない。あの二人だ。
「あなたたちのおかげで、なんとかドラゴンと魔族を撃退できた。ありがとう。あなたたちはこの街の、いやこの国の恩人だ。改めて私は神殿騎士団の副団長のシルヴィアだ」
私は二人に近寄って、改めて名を告げた。
こうして見ても、やっぱり二人とも若い。
「僕はハル、冒険者です。こっちは同じパーティーのクレアです」
ハルとクレア、やはり冒険者なのか。
それにしても凄腕の冒険者だ。S級、まさかSS級の冒険者なのだろうか? 合同討伐隊に参加したときに英雄ジークフリートと一緒にサイクロプスと戦ったが、今日のドラゴンのほうが明らかにサイクロプスより上だった。
そう言えば・・・ハル・・・この名に聞き覚えがあるような。どこで聞いたんだったか?
「副団長、ご無事ですか?」
私に話しかけてきたのは第三部隊の隊長のガリウスだ。私は第三部隊と行動を共にすることが多くガリウス隊長とは騎士団の中でも親しい間柄だ。
「あー、ガリウスか、私は大丈夫だ」
「それより、このことを団長に報告して被害に遭った人の救助や手当てなどの手配も頼む。あとドラゴンと魔族を追い払ってくれたのは、ここにいるハル殿とクレア殿だ。冒険者だそうだ。この国の恩人だから、そのことも報告しておいてくれ」
ガリウスが目で合図するとガリウスの部下数名がすぐに走り去った。
「分かりました。それにしても副団長、よく火龍を追い払うことができましたね」
「あれは火龍か。ガリウスは前にもあのドラゴンを見たことがあるのか?」
「いえ、火龍は初めて見ました。俺がまだ冒険者だった頃、中央山脈から現れた地龍の討伐隊に参加したことがあるんです。B級以上の冒険者や騎士団で構成された討伐隊で30人くらいはいたと思います。ジークフリートさんとエレノアさんが一緒でした」
「ああ、そういえばそんなことを言っていたな」
「ええ、当時ジークフリートさんはガルディア帝国で行われた武闘祭で優勝してすでに有名でした。S級の冒険者でしたが、地龍討伐の後SS級になったんです。ジークフリートさんたちの他にも確か剣聖やS級クラスがいました。ほんとはもっと人手が欲しかったんですが、弱いやつをたくさん連れて行ってもしょうがないですから。討伐はできましたけど、それでもかなりの被害がでました。ジークフリートさんがいなかったら全滅してましたね。とにかく今日のは地龍とは違いましたし、炎のブレスを吐いていたので火龍じゃないかと」
「僕もあれは火龍だと思います。普段アガイデラ山脈に住んでいるやつでしょう」
そう言ってガリウスに同意したのはハルだ。さっきまでハルの隣にいたクレアは、少し離れたところで怪我をしている騎士や冒険者に回復魔法をかけている。
回復魔法も使えるとは・・・。
「ハル殿は前に火龍を見たことがあるのか?」
「え、いや、そうかなって思っただけです」
「ハル殿の言う通りでしょう。ここはイデラ大樹海にも近いですしね。ハル殿があの凄い魔法で撃退してくれなければ聖都は壊滅してたかもしれません」
「あれがアガイデラ山脈の火龍なら、その可能性はあっただろうな」
「ただ気になるのは、魔族が火龍を使役していたことです。魔族といえども神話級の魔物を使役できるものですかね?」
ガリウスの言う通りで高位の魔物ほど使役するのは難しいはずだ・・・。
この辺りは魔族の支配地域ゴアギールからは離れていて普段は魔族とは無縁の地域だ。私もあまり知識がない。それでも、魔族が人間より数が少ない代わり魔物を操るのが得意だということは私でも知っている。
だが、果たして神話級の魔物を操ることができるものなのだろうか?
魔王が伝説級の魔物を操ったなんて言う話は本で読んだことがある。だが、それでも伝説級だ。神話級ともなると・・・。それにあれはおとぎ話のようなものだ。
「それじゃあ副団長、俺も怪我人の救助に加わります。それとジェイコブス団長が到着したようです」
見ると数人の側近を連れたジェイコブス神殿騎士団長の姿が見えた。私は副団長にもかかわらずジェイコブス団長とはそれほど親しくない。本音を言えばちょっと何を考えているか分からない団長だ苦手だ。
ガリウスがその場を立ち去った後、再びハルの方をみると、何か考え込んでいる様子だ。
さっきのが火龍だとするとガリウスがジークフリートさんを含む30人で討伐したという地龍と同等の魔物をほとんどハル一人で追い払ったことになる。倒せはしなかったが最後の魔法は凄いの一言だった。ハルの固有魔法だろうか。それにあの黒い剣での攻撃は確かに火龍にダメージを与えていた。
「ハル殿、後ほど国からも二人の今回の働きに礼があると思う。連絡先を教えておいてくれ」
「それはいいんですけど、シルヴィア副団長、できれば殿はやめて頂ければ・・・」
「いや、しかし、ハル殿は火龍を退けたこの国の恩人だし、そういうわけには・・・それじゃあハル・・・さんでは?」
「うーん、それもなんか、副団長からさん付で呼ばれるのはなんか違うような・・・。できたら呼び捨てでお願いします」
私より、だいぶ年下みたいだし、気になるのだろうか?
あの強さなのにすいぶん謙虚だ。
「そこまで言うのなら、それではハル、改めて今回の件、ハルとクレアには感謝する。とりあえずまた連絡するので今日のところは連絡先を教えてくれ。それと私もできれば副団長はやめてほしいかな」
「わかりました。それじゃあシルヴィアさんで。それとシルヴィアさん、あの人たちは一体何をしているのですか?」
ハルの視線の先には、破壊された王宮広場を結構の数の人がウロウロして瓦礫の間を覗き込んだりしている。
「ああー。あれはおそらく火龍の鱗の欠片でも落ちてないかと探しているんだろう。もし見つければ値がつけられないほどの価値がある」
「なるほど」
こんな大事件があったばかりなのに、人はたくましい。
「でも、もし見つかっても、ハルのものだと思う。その辺の権利関係はよく分からないが」
「いえ、もしそんなものが見つかっても権利を主張する気はありませんよ。そもそも討伐したわけじゃないですしね。それに・・・」
「ああ、鱗の欠片一つ見当たらないな」
ハルの魔法の威力からすれば鱗の欠片くらいはあってもおかしくないのに、辺りにそんなものは見当たらない。ちょっと不思議だ。
私は、とりあえずハルとクレアと名乗った冒険者から連絡先として泊っている宿を聞き出すと、しばらくはそこに留まるように依頼して彼らと別れた
★★★
「火龍にダメージを与えた魔法がちょっと気になるわね」
メイヴィスによれば、火龍は個としてはこの世界で最も強い魔物の一体だ。
「あの少年、タツヤと同じ黒髪だったけど・・・もしかして」
「ええ、俺と同じ日本人です」
「異世界人だとすれば、タツヤと同じときに召喚されたんでしょうね」
「そうですね」
「だとしたら、まだこの世界に来て2年も経ってないくらい・・・。それにしては強すぎるわ。あそこまで火龍と戦えるなんて。それにルヴェリウス王国から遠く離れたこんな場所にいるのも気になる。まあ、イデラ大樹海で修業したタツヤのほうが上だとは思うけど。タツヤは同郷の異世界人と本気で戦えるの?」
本音としては戦いたくない。当たり前だ。俺が復讐したいのはこの世界の人族に対してだ。特にルヴェリウス王国は許せない。
「大丈夫です。メイヴィスには感謝してるし、相手が誰であろうと俺の決心が変わることはありません」
俺が彼女の復讐を諦めることはない。例え、どんな理由があったとしてもだ。
「そう、ならいいわ」
メイヴィスは少しだけ微笑んだように見えた。
「今日だって、クレアがいなければもう少しなんとかなった」
「クレア? ああ、あの銀髪の女剣士ですか。確かそう呼ばれてましたね。やはり異世界人ですか?」
「いや、彼女は違います」
クレア・・・思った以上に強かった。今日は騎士の女に邪魔されたが・・・。復讐とは別に、次は1対1で戦って見たい。
「まあ、今回はこれで良しとしましょうか。人族の街に多少の被害は与えたし。それに今日はちょっとおもしろいことを思いついたの」
「おもしろいこと?」
「ええ、後でタツヤにも教えてあげるわ」
人族を憎んでいるメイヴィスのことだがら人族を混乱させるいいアイデアでも浮かんだのだろう。まあ、俺としてはこの世界の人族に復讐できるのなら文句はない。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
100話目はいかがでしたでしょうか?
少しは進歩しているといいのですが。




