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4-6(火龍襲来その3).

 火龍は羽を広げて少し浮き上がると、ゆっくり首を持ち上げて空中から僕に向かって口を開いた。


 火龍のブレスは範囲が広く回避は難しい。

 威力も高い。

 今からでは防御魔法も間に合わない。


 控えめに言っても、絶体絶命だ!


 火龍を横目に逃げようとしていた僕は、とっさに向きを変えると、逆に火龍の方に向かって走った。

 

 ゴォォォーーー!!!


 僕は火龍がブレスを放った瞬間にジャンプすると、うねるように下がった火龍の首にしがみ付いた。さすがにここはブレスの範囲外だ。危機一髪だった。それでも背中が熱い。ちょっと焦げたかもしれない。

 僕はさっきつけた傷口辺りに剣を突き立てる。エリルにもらった黒龍剣は、とにかく凄い斬れ味を誇っている。


 予想通り、黒龍剣は火龍の首に深々と突き刺さった。


「グギィィィゥゥゥー!!!!」


 さすがの火龍もかなり痛いみたいで暴れ回っている。 僕は火龍の首に突き刺さった黒龍剣を両手で握って離さない。 火龍は一旦地面に着地すると首を振って僕を振り落とそうとする。

 僕の体が振り子のように大きく揺れる。どっかの遊園地のアトラクションみたいだ。もちろん僕に楽しむ余裕はない。僕は黒龍剣を離さない。


 ここにしがみ付いている限り火龍は僕に攻撃できない。


 その間に僕のできる最大火力の攻撃である黒炎爆発ヘルフレイムバーストに魔力を溜める。


 イデラ大樹海では二段階限界突破した炎爆発フレイムバーストでも火龍を仕留めることはできなかった。エリルの必殺技と思われる黒いオーラの魔法でさえ、かなりのダメージを与えたが、それでも、倒し切ることはできなかった。それにエリルは火龍は炎系には強いと言ってた。

 でも、今ではエリルの加護のおかげで炎爆発フレイムバースト黒炎爆発ヘルフレイムバーストになり威力は上がっている。限界突破は相変わらず二段階までしかできないけど・・・。


 火龍に通用するだろうか?


 いや、通用するしないではなく、二段階限界突破の黒炎爆発ヘルフレイムバースト、これが今の僕ができる最大威力の攻撃だ。選択の余地はない。


 クレアたちの方を見ると、鼠男をだいぶ追い詰めている。


 シルヴィアさんは神殿騎士団副団長だけあってなかなかの腕前にみえる。鼠男も二人を相手にしてはさすがに分が悪いようだ。この調子なら鼠男がこっちにちょっかいを出す余裕はないだろう。ていうか、クレアを含む二人を相手にしてこれって鼠男強すぎだろう。


 いや、そんなことより僕は火龍に集中だ!


 とにかく魔力を溜める。

 火龍は僕を振り落とそうとひたすら首を振って暴れている。

 黒龍剣を握りしめている手が痺れて感覚がない。

 だが、それに気を取られて魔力を溜めるのを中断するわけにはいかない。


 とにかく集中だ!


 どのくらい時間が経ったのだろう。なんとか、今できる最大限まで魔力を溜めた。試してみたけどやっぱり三段階目の限界突破はできない。


 やっぱり二段階限界突破の黒炎爆発ヘルフレイムバースト、これが今の僕にできる最強の魔法みたいだ。


 なんとか火龍にも効いてくれ!

 僕は祈るような気持ちで魔力を解放した。


黒炎爆発ヘルフレイムバースト!」


 僕を中心に巨大な黒い炎が広がる。いつものように相手の頭上に発動させるのではなく自分の周りに黒い炎を出現させた。この辺りコントロールもやってみるといろいろと変化させられることに気がついた。僕も成長しているのだ。まあ、自分を中心に発動したのはエリルの真似だ。


 あ、熱い!

 めちゃくちゃ熱いけど身体能力強化でなんとか耐える。


「なんだ、この魔法は・・・」


 僕と火龍の方を見た鼠男が何かを呟いている。そこにクレアがすぐ斬り掛かかる。


 おい、鼠男よそ見している場合じゃないぞ!


 黒い炎が僕と火龍を包み込む。火龍が逃れようとしてもそれはできない。なんせ首にしがみついている僕の周りに黒い炎は広がっているのだから。


 黒い炎が完全に火龍を包み込む大きさまで広がった瞬間、僕は黒龍剣を思いっきり引き抜くと、火龍から飛び降り、全力で走る。黒い炎の塊はその場に留めて火龍に纏わりつかせたままにしている。


 そして火龍を包み込んでいる黒い炎の塊は・・・大爆発を起こした!


 ゴォォォオオーーーーン!!!


 大音響に耳が痛い。


「グギギギギィィィィイイイー!!!!」


 火龍の叫び声にものが破壊されるような鈍い音も混じっている。


 爆発の余波で僕は大きく飛ばされる。飛ばされた後、地面に叩きつけられた僕はゴロゴロと転がった。


 い、痛い・・・。


 見るとクレアやシルヴィアさんに加えて鼠男も吹き飛ばされている。丁度火龍を包みこむくらいの大きさに留めたつもりだったんだけど、我ながら二段階限界突破した黒炎爆発ヘルフレイムバーストの威力は凄い!


 火龍は?


 大爆発でめくれ上がった広場の石畳の上に火龍がその巨体を埋めるように倒れている。なんとか首を持ち上げようとしているが、上手く行かず石畳に伏せている。

 

 二段階限界突破の黒炎爆発ヘルフレイムバーストは魔力を溜めるのに最上級魔法以上に時間がかかるが、威力だけみれば最上級魔法をも上回る最強の魔法だ。だが、火龍は、まだなんとか首を持ち上げ立ち上がろうとしている。さすが世界最強の一体である火龍だ。

 

 やはり倒すことはできなかったか・・・。


 いや、よく考えたら、個としては世界最強の一体とされている火龍を魔法一発で倒せるはずがない。むしろよくここまでダメージを与えた。


 上出来だ!


 今止めを刺しに行けば、なんとかなる。あのときと同じだ。今はエリルにもらった黒龍剣もある。

 黒炎爆発ヘルフレイムバーストの衝撃から我に返った騎士や冒険者の人たちが、僕と同じことを考えたのだろう石畳の上で藻掻いている火龍に近づいていくのが見える。


 勝った! 


 いくら火龍とはいえ、今の内に大勢で掛かればいける!


 ドォォオオーーン!!!


 な、何が起こった? 僕は再び瓦礫の上を転がっていた。


 何か竜巻のような魔法で吹き飛ばされたのだ。風属性の上級魔法だろうか? それにしても威力が高い。

 火龍に近づこうとした騎士や冒険者たちも僕と同じように次々に吹き飛ばされている。中には広場の端まで飛ばされた者もいる。


 蹲った火龍のそばに人が立っているのが見える。


 いつの間に・・・?

 

 僕はもっとよく確かめようと、よろよろと火龍の方に近づいた。


 青い髪に二本の角・・・青白い肌、人ではない魔族だ。すごい美人の魔族の女だ。

 僕とその女魔族はしばらくお互いを観察していた。

 なぜかその場を動くことができない。


 女魔族が火龍に片手で触れると、火龍のボロボロになっていた鱗や僕がつけた首の傷がゆっくりと再生されていく。


 再生の魔女メイヴィス・・・。


 間違いない。エリルの言っていた四天王の一人、メイヴィスだ。この火龍は蘇生されメイヴィスの眷属となった。やっぱりあの場所にメイヴィスもいたんだ。そしてメイヴィスは今度はその傷を癒やしている。瀕死に見えた火龍は今はしっかりと4本の脚で立ち上がっている。再生の魔女と呼ぶにふさわしい能力だ。


「うーん、思ったより、酷いダメージを受けてるわね」


 メイヴィスは火龍の傷を治しながらそう呟くと、僕の方を観察するように見た。


「ハル様、大丈夫ですか?」


 クレアが僕に肩を貸すようにして支えてくれた。自分でもよく生き延びたを思うほどボロボロだ。異世界人のチートような身体能力強化が無ければ大火傷と打撲で瀕死になっていただろう。


「だ、大丈夫だけど、さすがにあちこちが痛いよ。クレアは平気?」

「私は大丈夫です。まだまだ戦えます」


 クレアと僕はメイヴィスと対峙する。鼠男もいつの間にかメイヴィスの隣に立って僕を睨んでいる。


 しばらく2対2でお互いを観察するように睨み合った。


 しばらくすると「まあ、いいわ」と女魔族は本当にどうでもいいというように言うと「タツヤ行くわよ」と鼠男に声をかけた。メイヴィス、鼠男と続けて火龍の背に乗ると、火龍はすぐに舞い上がりすごいスピードで去って行った。


 広場にいる誰もが、それを唖然として見送ることしかできなかった。


「ハル様、もしかしてあの女魔族が・・・」

「うん、エリルが注意しろって言ってた再生の魔女メイヴィスだろうね」


 だが、僕には他にも気になることがあった。メイヴィスが鼠男を呼んだ名前、それに鼠男が使っていた魔法・・・。


 サカグチさんからの手紙で知った異世界召喚魔法の秘密・・・。 

 

「ハル様、どうかされたのですか?」

「なんでもないよクレア」

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― 新着の感想 ―
今までの戦闘場面の中で一番迫力ありました。読んで想像しやすいのと、ハルの魔法が好きなので活躍すると嬉しいからですね。そして、お互いに気付いた……?
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