表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/327

4-5(火龍襲来その2).

「クレアとにかく広い場所に誘導しよう。ここで戦ったら被害が・・・」

「はい。でもいったいどこへ・・・」

「それなら、あっちに広場がある」 


 声のした方を見ると、いつの間にか僕たちの近くに20代後半くらいの女性が立っていた。女性にしては背が高い。


「えっとあなたは?」

「私は神殿騎士団のシルヴィアだ」

「神殿騎士団?」


 ごく普通の恰好をした女性に見えたが手に剣を持っている。でも騎士団の鎧のようなものは身に着けていない。


「今日は非番なんだ」


 シルヴィアと名乗った女性は、僕の疑問を読み取ったようにそう答えると、「もう少し先に広場がある。そこへ誘導しよう。時間を稼げば神殿騎士団や王宮騎士団も駆けつけるだろう」


「分かりました。シルヴィアさん先導をお願いします。クレア、行こう!」

「はい」


 僕とクレアは低空を飛行している火龍に一気に近づいた。

 近づいてくる僕たちを視認したらしい火龍はさらに高度を下げ口を開いた。火龍の口が目の前に迫る。


 ブレスだ!


 火龍がブレスを吐いた瞬間、僕は転がるようにそれを避ける。

 火龍のブレスは攻撃範囲が広いので、なかなか避けるのが難しいが街中であることが幸いした。僕は瓦礫の影に転がり込んでなんとか助かった。


 僕は破壊された建物の瓦礫の間を縫うようにして再び火龍に近づく。


 一方、風属性魔法の補助も使って空高くジャンプしてブレスを避けたクレアは、火龍めがけて剣を突き出した。おそらく目を狙ったのだろうクレア渾身の一突きは、僅かに逸れて火龍の眉間あたりを突いた。


「ギャァァー!」


 イデラ大樹海ではクレアの剣は硬い鱗に阻まれた。だけど、今クレアが手にしているのはタイラ村製の赤龍剣だ。皮肉にも自身の硬い鱗で作られた剣で火龍はダメージを受けた。


 火龍はクレアにダメージを与えられたことに驚いたのか、地面に着地したクレアめがけて再びブレスを吐いた。

 今度は距離的にいくらクレアでもジャンプして避けるの難しそうだ。火龍のブレスは攻撃範囲が広い。クレアの周りに障壁になるようなものもない。


黒炎盾ヘルフレイムシールド!」


 よかった! 間一髪で僕の黒炎盾ヘルフレイムシールドが間に合った。


「ハル様、ありがとうございます」

「クレア、あっちだ!」

「はい」

 

 クレアと一緒にシルヴィアさんがこっちこっちと先導してくれている方向に走る。

 僕たちを敵と認識した火龍も追ってきている。

 いつの間にか隣をシルヴィアさんも走っている。


「こっちだ」 


 しばらく火龍の攻撃を避けたり、黒炎盾ヘルフレイムシールドで防御したりしながら移動すると、シルヴィアさんの言った通り広場のようなところに辿り着いた。


「凄いな」

「ですね」

「いや、二人がだ」


 シルヴィアさんは、僕たちのような若い冒険者が火龍と渡り合っているのを見て驚いたようだ。


「確かに、ここなら少しはましか」


 振り返ると、目の前に火龍が降りて来た。火龍が着陸したことで辺りの埃が舞い上がる。


 クレアとシルヴィアさんの髪が揺れている。


 火龍に乗っていた鼠色の人影は、まるでそこだけが重力から解き放たれているかのように、ふわりと火龍の横に降り立った。何と言うか洗練された動きだ。


「・・・お前・・・なぜこんなとこにいる?」


 そう尋ねた声は、わざと声色を変えているのかちょっと不自然な感じだったが、明らかに男性のものだった。鼠色のローブを目深にかぶっている上、何か仮面のようなもので顔を隠している。


 これからは、お前を鼠男と呼ぼう!


「お前こそ何者なんだ? 魔族なのか?」


 質問に質問で返す。 


 僕の隣から小さな影が弾丸のように飛び出した。クレアだ!


 クレアが鼠男に迫る。


 鼠男が左手を払うように動かすと、光の弾がクレアに迫る。


 光の弾! この魔法は・・・。 


 クレアは光の弾を間一髪で避けながら鼠男に斬り掛かる。

 鼠男は、腰の剣を抜いてクレアの大剣を受け止めると、逆にクレアの胴を払った。

 流れるような動きだ。クレアはバックステップしてそれを避けたが、お腹のあたりに血が滲んでいる。


 強い! クレアが一瞬で傷を負った。


 今のクレアはギルバートさんと同等かそれ以上だと、僕は思っている。それは、僕がこの世界で見た剣士の中で一番強いという意味だ。光の弾でクレアを牽制していたとはいえ、クレアの一太刀を何でもないように受け止めてクレアが次の攻撃をするより先に攻撃してきた。


「へー、避けたか。強いねー。でも魔物相手ならともかく俺相手に大剣は不利かな」


 確かに魔物相手ならともかく対人戦では重たい大剣は有利とは言えない。そうでなくても鼠男の剣は速い。


「そのくらいのハンデは差し上げます」


 クレアが鼠男を睨みつける。

 そして必ず守るというように僕を見て頷いた。

 

「クレア、鼠男は任せた」


 僕としては隣の火龍も気になる。


 シルヴィアさんも追いついてきて、剣を抜いてクレアの隣に立ち鼠男を睨みつける。

 とりあえず鼠男は、クレアとシルヴィアさんに任せよう。


 僕は火龍の動きに神経を集中する。


 再びクレアが鼠男に斬り掛かる。それを見たシルヴィアさんも動き出した。

 鼠男はクレアの攻撃を巧みに捌いているが、今度はクレアの動きに合わせてすかさずシルヴィアさんが剣を打ち込むので、さすがの鼠男もさっきみたいにすぐに反撃に移れない。シルヴィアさんはかなりの腕前のように見える。鼠男は強いが二人がかりなら何とかなりそうだ。


 そのとき、火龍がフワッと羽を動かしたかと思うとその首をクレアとシルヴィアさんの方に向けた。


 ブレスがくる!


黒炎弾ヘルフレイムバレット!」


 僕の黒炎弾ヘルフレイムバレットはブレスを放とうとした火龍の首に命中した。首のど真ん中とはいかなかったけど鱗を貫いた。


 グルゥゥゥウウーーー!!

 

 口からブレスになり損ねた炎を漏らしながら、火龍が絶叫した。


「鱗を貫いただと!」


 火龍の鱗を貫いた黒炎弾ヘルフレイムバレットを見て、鼠男が一瞬驚いたような顔してこっちを見た。そこへクレアがまた斬り掛かる。


 僕はクレアたちが鼠男と戦っている間も魔力を溜めていた。僕が放ったのは二段階の限界突破した黒炎弾ヘルフレイムバレットだ。


 そう、特殊個体のフェンリルを仕留めた魔法だ!


 以前エリルと一緒に戦ったときは鱗が硬くて、エリルの攻撃以外ではなかなかダメージを与えられなかった。でも、今回はクレアの剣も僕の魔法も火龍に効いている。


 あのときの僕たちとは違うぞ!

 成長しているんだ!


 怒り狂った火龍は僕に飛び掛かってきた。とりあえず逃げる。

 鼠男対クレアとシルヴィアさんも一進一退ってとこだ。


 これでしばらく時間を稼げば、さっきシルヴィアさんが言ったように騎士たちが駆けつける。いくら火龍と魔族とはいえ聖都中の騎士たちが駆けつければ・・・。数は力だ。


黒炎弾ヘルフレイムバレット!」


 僕は次々と黒炎弾を放つ。さっきと違って大して魔力を溜めていないので火龍の鱗を傷つけるのは無理だ。なので、さっき付けた傷の辺りをめがけて放つ。何発かは首の傷を直撃している。


「ガルゥゥゥウウーー!」


 火龍も傷口を攻撃されて痛そうだ。僕は広場を回るように逃げながら攻撃する。


 そうこうしているうちに騎士と思われる人たちに加えて冒険者らしき人たちが広場に集まってきた。口々に、なんでドラゴンがとか、あれは魔族かとか、叫んでいる。そのうちの一人が「シルヴィア副団長!」と口にした。シルヴィアさんは神殿騎士団の副団長らしい。強いはずだ。


 そのときだった。火龍が、僕に向かって前にも見た動作をした。

 まずい! あれはブレスを吐く前兆だ!


 火龍のブレスはかなり広範囲にダメージを与える上に高威力だ。このままでは攻撃範囲が広いブレスを回避するのは難しい。今すぐ黒炎盾ヘルフレイムシールド発動しても大して魔力を溜めてない状態で火龍のブレスを防ぐのは無理だろう。広場には遮蔽物もない。


 くそー! 魔法の二重発動で黒炎盾ヘルフレイムシールドのほうにも魔力を溜めながら戦うべきだった。そこまで頭が回っていなかった。そもそもそれどころじゃなかった。いや、少しは強くなったと油断があった。


 これは詰んだのか?


 考えるんだ。何か生き延びる方法を・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ハルの活躍にニマニマしながら親のような気持ちで読んでしまう。どうするんだろう、どうなるんだろう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ