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Re:Creator――造物主な俺と勇者な彼女――  作者: 金斬 児狐
第一部 旅立ちと出会い編
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第八話  外話 とある国のとある文官のとある苦難

 黒い卓上のスペースのほぼ全てに積み上げられているのは、数えるのが馬鹿らしくなる程の物量によって構築された紙の軍勢。軍勢はその物量にものを言わして堅牢な白壁を形成し、卓上だけでなく俺の視界さえも大きく占領していた。

 五人という少数精鋭である俺たちに対して、敵の勢力はあまりにも圧倒的だった。物量的に勝てるはずが無い。分かっているさ、これが初めから勝負が決まったワンサイドゲームであるという事は。

 その結末に俺は一人、心の中で涙した。しかし泣いた所で話は進まないし、俺も無駄な時間は望む所ではない。

 何故なら、敵の最も恐ろしい所が時間と共に増えていく事だったからだ。

 俺達が全力を上げて敵を何枚も何枚も屠っていった所で、敵の数は時が経てば経つほど増大し、強大になっていく。その勢力に限りは見えず、それに対して俺達五人は既に虫の息。殺すならいっそ一思いに殺してくれと頭を地に擦りつけながら懇願するが、敵はジワジワと俺達を攻め立てるだけで一撃では終わらせてくれない。

 正にイジメだ。イジメいくない。紙のイジメに俺の心は折れかける。いや、殆ど折れたといってもいい。現在の俺は薄皮一枚で何とか繋ぎ止められている状態だ。

 どうやればこの状況から抜け出せれるのだろうか――。

 俺は一人思案にふける。しかし考えながらも手を止めるという愚行はしない。

以前はこんな事は出来なかったのだが、俺は半ば自動的に作業をこなしていくという域にまで、この軍勢のせいで達してしまったようだった。

 と、いかんいかん。頭を振ってそれかけた思考を補正する。

 敵は紙だ。紙の軍勢。俺達を忙殺する、圧倒的なまでの紙。

 ふと、脳裏に考えが走った。 


 ――紙は、良く燃える。

 

 なら、燃やしてしまうか――?



 無意識のうちに右手の中に小さな炎を生み出していた。

 右の掌に入れ墨として自ら刻み込んだ魔術刻印に、無意識のうちに魔力を流し込んで炎を発現していたようだ。青く、高温に燃える灯火を手の中で弄ぶ。

 はっとなってそれを左手で押さえつけ、魔炎を完全に消しさる。

 危ない。本当に危なかった。もしヤッテしまっていれば、確実に俺達のトドメとなっていたことだろう。



 ――トドメだと?


 それは、楽になれるという事か――?



 再び持ち上がって来る危険極まりない思考に、俺は炎が書類の山を燃え散らかす寸前で気が付いて、炎を握りしめて近づいていく右手を正常な左手を使って押さえつける。骨が砕けんばかりに握り締めなければ、到底止められなかっただろうという事実が恐ろしい。

 残された最後の理性に、俺は静かに感謝した。


 周囲を見回せば、俺と同じような葛藤を繰り広げているであろう同僚達の様子が窺える。白壁で直接姿は見えないが、時折光っている所を見るに、俺と同じように魔炎を生み出しているのだろう。

 まだどの白壁も燃えていない事から、皆ギリギリで留まっているに違いない。頑張れ、俺も頑張るから皆頑張ってくれ! 

 恥ずかしいので声には出さず、俺は心の中でエールを送った。


 そんな色々と限界な俺達が現在居るのは、世界最強にして、世界で唯一の人間界と魔界に根を生やす独立国家<アヴァロン>の城の一室。

 部屋の中には余計な装飾が一切なく、あるのは五つの黒い机と椅子と、ささやかな本棚だけの、一辺が十六メートル程度の四角い部屋。俺達アレクセイ第一班が仕事に使う専用の部屋なのだが、今の所紙がこの部屋の主といえようか。


「誰か~……生きてるか~……」


 白壁という国境の向こう側から、弱々しくも野太い声が聞こえた。

 声から察するに、人狼族のウーフェンだろう。文官の癖に一般兵と遜色なく戦える体力馬鹿だが、流石にこの圧倒的戦力の前では無力だったか。

 無理も無いと一人思う。

 そしてしばらく誰かが答えるのを期待して待っていたが、誰も答える事は無かった。再度ウーフェンが声を上げたので、俺は仕方なく返事を返す。

 正直な所、返事に使う体力さえ惜しかったのだが、これ以上五月蠅くされても敵わない。


「なんだ……。話すぐらいなら手を動かせ……」


「おお……その声はアレクセイだな~……。よかった、生きてたか~……」


「何とかな……」


「そうか~……」


「んで、なんだよ……」


「なんでさ~……俺達がこんな目にあってんだ~……」


 今更なにを言ってやがると思った。どうしてこうなったかなんて分かり切っているだろうに。


「カナメ様が旅行に行かれたから……だろ……」


「いや~……それは分かってんだけどさ~……なんで本来の仕事に加えて大臣の爺さんズのモノまで俺らがやらなきゃなんね~んダ~……。しかもこれ、殆どが爺さんズの分だぜ~……」


「んなもん……俺達が馬鹿だっただけだろ……」


 そう、この俺達を過労死させようと迫ってきている紙の軍勢は、本当だったらこんなにも多くは無いはずだったのだ。ここまで増えたのも全ては大臣――つまりは昔からこの国を支えてきたご老人達の職務放棄というか、俺達に対しての嫌がらせというか、まあ、押し付けられたからである。 

 いや、それも言い訳だろう。全ては俺達の浅はかな考えのせいだった。


 俺達アレクセイ第一班――未熟ながら、俺が班長を務めさせてもらっている――は、自分で言うのも何だが若く有能な人材を集め、次代の担い手として教育されている特務文官育成機関の中でも抜きん出た、筆頭三班の一角だ。

 政治の基礎を知り、交渉術や人間心理学、裏交渉やある程度の護身術まで幅広く体得する事を目標に日々勉学に励んでいる。

 そして今回、カナメ様が久しぶりに――以前が何時だったのか俺は知らないが、とりあえず、俺が此処に配属されてからの三年の間には無かった――旅行に行かれるという事で、俺たちが<アヴァロン>の政治等の一端を任されることになった。筆頭三班の残り二つであるリードリュード第二班やアナキス第三班は、それぞれ人間界、魔界の傭兵業斡旋施設(ギルドホーム)の仕事を分担して行っている。

 実際、初めての実戦となるのがこのような重要な仕事で、認められているような気がして嬉しくなかったと言えば嘘だし、やる気に漲っていたといえば本当だ。

 開始当初は悪戦苦闘しながらも何とかその日処理しなければならない案件等を消化できていたのだが、カナメ様が居なくなって二日後、それは来た。


『うむ、頑張っているようじゃな。しかしまだ余裕もあるようじゃし、ちとワシの分も処理してくれんかの。最近はちと腰が悪くてのう、老体には厳しいのじゃて』


 初めにそう言ってきたのは、現アヴァロンのナンバーツーである右大臣ギルベルト・コンスタンチュ様だった。ギルベルト様は俺達と違ってアヴァロンの生まれではないが、カナメ様の方針である「国民はみな平等。しかし、有能な者は皆を護るために力を使うべきだ。有能なれば、身分も生まれも関係ない!」という考えの元、アヴァロンでこの地位まで上り詰めた努力者だった。この地に移り住んで長く、現在かなりの高齢であるギルベルト様は、最近は特に身体にガタがきていると聞く。

 ならば仕方なし。ここは若い俺達が担うのが正道だろう、という事で俺達は全員快く引き受けた。

 引き受けたのだが、問題はそこからだ。

 その話を聞き付けた他の大臣集がちょこちょこ集まってきて、俺達に仕事を分けていった。分けていったというよりも、押し付けられたという方が正しい。いや、まあ、流石にギルベルト様の事で一度引き受けてしまった手前、断わるに断われなくなってしまった訳だが、ここまでするか普通。 

 死ねばいいのに、とは思っていない。全然全く思ってないよ? 死んだら俺達の分が間違いなく増加するからね。

 ほら、若い時の無茶は買ってでもしろと言われた事があったし、今がその無茶な事で間違いないだろう。そう思って俺はじっと耐え忍ぶ。ただ、当然ながら二度と御免被る。


「流石にさ~……もう無理じゃね~……」


 ウーフェンがぽつりとそう洩らした。

 それが呼び水となって、今までペンを走らせる音だけが響いていた部屋に人の声が混じる。


「はいはいは~い! アレクセイ班長! わたくしシキはこれ以上お風呂に入れない生活を続ければ死んでしまいま~す!」


 勢いよく立ちあがった為に椅子が倒れる音が聞こえたような気がしたが、その音はこの犬っころ元気爆裂女の大声によってかき消された。少量の赤が混じったような銀色に輝くウェーブヘア、その両脇から垂れ下がった丸みのある大きな犬耳はコイツがウーフェンと同じく人狼族であるという証だ。小麦色の肌を大胆に晒し、身に纏うのは水着のビキニに似た彼女達人狼族の女性が着る露出度の高い伝統服。服のお尻の穴から伸びて、ぶんぶんと左右に高速で揺れている髪と同じ色の尻尾が鬱陶しい。


「黙ってろシキ。寝不足の頭にお前の声は音響兵器に匹敵する破壊力があるんだよ……」


「そうね……流石にこれ以上寝れない……」


「おい、ちょっと待てこら! テトラ少し顔を見せろ! ――なに頬に涎の痕つけてんだお前ッ!」


 次いで聞こえた問題発言には流石に疲れを忘れてしまった。俺はシキと同じように椅子を倒しながら立ち上がり、すぐ隣の机で作業をしていたはずのテトラの元に急いだ。急いだといっても数歩で着く距離なのだが、これが急がずに居られるか!

 俺は机に突っ伏す様に半眼になっていたテトラの肩を掴んで強引に自分の真正面に向かせる。


「うん……乱暴は……しないで……初めてだから……」


「なに頬染めてんだお前! しかも潤んだ上目使いを此処で使ってくるか!! だが騙されないからな! 騙せると思ってんならその浅はかな考えを今すぐ変えろ!」


「……ちぇ」


「可愛らしく唇を尖らせても無駄だ! お前マジで寝てただろ!」


「寝てないよ……んと、八時間しか……」


「俺は徹夜だってんだ~~~~~~~~ッ!!!!!!」


 普段の俺ならざる雄叫びを上げた。これが叫ばずに居られるというのなら張り手を一発プレゼントしたい。俺等が真面目に作業していたというのに、コイツはッ!!


「落ちつけよ~……アレクセイよ~、そんなにストレス溜めるとすぐに禿げるぞ~……」


「五月蠅いぞウーフェン! 少し黙ってろ!」

 

 振り返り、苦笑いを浮かべていたウーフェンを睨みつける。睨んだのは八つ当たりに近かった――いや、八つ当たりである――のだが、そのせいで灰色の短髪の両脇から見える、シキよりも鋭さのある耳がペタリと垂れ下がった。

 どうやら軽く落ち込んだらしい。それを見て悪い事をしたとは思うのだが、謝るのは後だ。

 気持ちを切り替えてテトラを向こうとして――。


「まったく、そんなに仲間に当たり散らすものじゃないぞアレクセイ。そして言っておくが、テトラは私のモノ――にする予定――なのだから、乱暴に扱わないで欲しいものだぞ」


「シャラップ! フェリオンは今は黙っててくれ!」


「だが断る! テトラの小さな身体も、新雪を思わせる白い肌も、イエローアッシュなショートヘアも、いつも眠たそうな可愛らしい顔もアレクセイにくれてやる訳にはいかんのだ!」


 ドドドドーーーーン! と効果音が聞こえた気がした。

 俺と現在言い争っている紅い髪の女――フェリオン・イクリプスは俺達と同じ文官の癖に、何故だか白と赤を基調としたアヴァロンで使われている騎士の正装を着ている変わり者だ。まあ、彼女は元は騎士だったから服装だけではそれほど変わり者ではないとも言えなくもないが、俺が今も肩を掴んでいる少女、テトラ・シュバインに一目惚れしたとか何とか言って文官になった奴なので、変わり者といって間違いは無いだろう。いや、遠回しな言い方は止めよう。

 先ほどの俺の説明で何となく分かったと思うが、彼女はレズビアンである。


「さあアレクセイ! テトラの柔肌をそれ以上なでまわして堪能する事は許さんぞッ! 寧ろ私と代わってくれ!!!!」


 フェリオンは服の胸部を下から押し上げている、その豊満な二つの膨らみを見せつけるかのように突き出して俺の視線を釘付けにした。

 更に自分の右腕を使ってただでさえ豊満な胸を下から支えるという強化――支えるのは彼女の癖で、負荷が軽くなるのだそうだ。無論癖なので、無自覚で行っている――を行い、残った左手の人差し指でもって俺の鼻先を押しつぶさんと圧迫してくる。

 ふと胸から視線を上げると、ニ十センチ程しか離れていない至近距離で、フェリオンの薄緑色をした瞳が威嚇するように鋭い眼光を放ってきている。

 フェリオンはレズだが、誰もが口を揃えて美人だと言うし、その事は俺も認めているれっきとした事実だった。

 元騎士だっただけに。鍛えこまれた無駄のないしなやかな肉体には男を惑わす色香が放出されているし、少々鋭さがある顔は測ったかのように綺麗に配置されている。

 フェリオンが年下の女の子にはお姉さまと慕われ、同じく年下の男共には姉御と呼ばれているのは周知の事実である。女性としては大きな体躯に満ち満ちる漢気を纏うフェリオンには、実に似合った呼び名だと思う。

 そんな美人なフェリオンがこんなに間近にいて、鼓動が速くならないのは男としてどうかと思う。現に、不覚ながら俺もドキドキしてしまった。


 だが今はそんな事は関係ない。

 激しくなりそうな鼓動を意思の力で強制的に抑え込み、テトラに班長として説教をしなければならないのだ。班長として、きっちり仕切らねばならない!

 だから今は、フェリオンを一刻も早く遠退かせねば……。

 色々な手段が一瞬で思い浮かんだが、面倒なので、手っ取り早く行かせてもらう事にする。


「はむ……」


 すぐ傍で俺を差していた指を、傷つけないように唇でコーティングした歯で挟みこみつつ、俺の口腔内に捕えた。


「な! 何をするか!」


 一瞬で真っ赤に染まったフェリオンを尻目に、俺は舌を使ってフェリオンの指を舐めまわす。棒付きキャンディーを舐めるような感覚だ。最近皆不眠不休だったので、うっすらとフェリオンの汗の味がしないでもない。

 

「は、離さないか! や……やめろ!」


 俺の口からフェリオンの指が解放される様は、チュプンという効果音が似合いそうだった。

 俺の唾液に塗れて僅かに光を反射させている指を真っ赤にした顔のまま、ズボンのポケットから取り出したハンカチで素早く拭う。拭いながらも、フェリオンが俺を恨めしそうに睨んでくるのを止めない。だが真っ赤に染まった顔では怖くもなんともないのである。寧ろ和むというもの。

 それにこれは自業自得だと思ってもらいたい。

 班長の邪魔をするという事はこういう事なのだ。

 フン、と鼻を鳴らすとともに嘲りの視線をプレゼントした。

 そして俺はフェリオンから視線を離し、捉えたままの問題児に向き直す。


「さて、テトラ。反省をする時間だぞ」


「…………」


 そう言って邪魔者フェリオンを退治した俺がテトラを見降ろしたのだが、見上げてくるテトラの姿に思わず圧倒された。圧倒されて、ジリジリと二歩ほど後ずさる。

 現在のテトラは普段の小動物を彷彿とさせる雰囲気ではなく、鋭牙をむき出しにして今にも喰いかかってきそうな魔物と全く同じ雰囲気を纏い、獲物を狙う猛禽類に酷似した眼光を俺に向けてきている。


 タラリ……と冷や汗が頬を伝って行くのが分かる。

  

 簡単に言って、テトラは凄く不機嫌だった。


「あの……テトラさん?」


 思わずさん付けで呼んでしまった。


「……なに?」


「何か気に喰わない事でも、あったのか?」


「別……に……」


 訳が分からん。明らかに数瞬前までよりも確実に機嫌が悪い。何か気に障る事をしてしまったのだろうか? 今も肩を掴んだままだが、この程度で不機嫌になった事は今まで無かったのだが……。


「見て見てウー君。また鈍感鈍男が馬鹿やってるよ~! なんでわっかんないかな~?」


「そうだね~……テトラが不憫だよね~……」


「だよね~」


 こらそこの人狼族二人組! 何を楽しそうにウッフキャキャキャと楽しそうに会話してやがる。お前達には俺を助けようという気が無いのか!

 

「ふ、ふん! このような真似をしてただで済むと思うなよアレクセイ! そ、それからテトラは絶対に譲らないからな! というか、もし私と同じ事をテトラにして、生きてられると思うなよッ!!」


 顔をリンゴのように真っ赤のままで、目にはいまだに涙を浮かべたフェリオンが何かを言ってきている。そして俺は、脅しの言葉と共にフェリオンが懐に隠していた短剣を鞘から抜き放つのを見た。

 フェリオンは元騎士だけに、五人の中では戦闘能力が抜群に高い。無駄に高い。俺程度なら瞬きの間に殺されることだろう。それに俺を睨んでくるフェリオンの視線が本気だぞ、と言っている。俺がヘマをすれば、間違いなくコイツは俺の命を取りに来る。

 だが、俺の意識は殺気立つフェリオンよりもテトラのこの、あまりの不機嫌オーラに圧倒されているわけで――。


「あ~~もぉ~~~訳が分から~~~~~~んッ!!!!」 


 混沌と化していく場の空気に、俺は絶叫を上げたのだった。脳の許容量イッパイイッパイもう無理だ。

 徹夜の続いた頭はなかなか上手く稼働しなくて、俺は悩みの渦に呑みこまれていく。考えが纏まらず、疑問が浮かんでは消えていく。まるでシャボン玉のように出ては消え、消えては出てくる懸念事項に俺は絶叫した。


「あ~も~今日はみんな風呂に入って三時間の仮眠を許すッ! だけどテトラは風呂に入るだけにするように! これは班長命令だからなッ! しっかりと寝た罰だ。以上、解散!」


 駄目だ。これ以上こいつ等四人にペースを乱されれば駄目になる。そう悟った俺は今解決しておかなければならないだろう問題を放棄して、逃げる事を選択した。三十六計逃げるに如かず、である。

 身を素早く翻して、走る勢いを乗せたまま右肩から体当たりするように部屋のドアを開け放ち、幅広の廊下に逃走した。

 背後で何かいっているようだが、それには耳を貸さずにただ走った。

 運動する事にこれほどの喜びを感じたのは何時振りだろうか――とくだらない考えが脳裏を過る。



 ああ、しかし本当にこの積りに積った仕事、終わるのかな?

 大臣達に、もう無理だと返却するしかないのかもしれない。というかもう無理です。あれは俺達の能力を超越してしまっている。


 はあ、とため息が漏れた。

 これから待ち受けるだろう小言の嵐に、俺は一人立ち向かわねばいけないのか。

 俺は一人未来に待ち受ける現実に絶望した。



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