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Re:Creator――造物主な俺と勇者な彼女――  作者: 金斬 児狐
第五部 終わりの始まり編
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第七十七話 最終話 エピローグ

 不意に、意識が覚醒した。

 ゆっくりと瞼を開けると、まず見えたのは知らない天井だった。

 白く無機質な天井に埋め込まれた照明器具シーリングライトから降り注ぐ淡い光に私は眩しさを感じ、眼を細める。視界はまだボンヤリとしてハッキリとは映らないが、ココが何処なのかを知る為に視覚の他に聴覚や嗅覚も使って現状把握に努める事にした。

 最初に横を向いて、まず目に入ったのはピッ、ピッ、ピッ、と一定のリズムで波打つ小さな機械だった。機械の大きなディスプレイに表示されているのは心拍数や血圧などらしく、機械から伸びる細いケーブルが私の所に向かっている。

 どうやらディスプレイに表示されているのは私の事についてらしい。


 医療器具だ、と思っていると視界がだんだんとハッキリ見えだしたので、今度は微かに身体を動かした。


 すると薄い毛布か何かが私の上に被せられている事に気がつく事ができ、今私はベッドに寝かされた状態であるというのが分かった。それに腕や胸に、何かが張り付いている感覚もする。

 恐らくは医療器具のセンサーか何かなのだろう。何故か重ダルい上半身を何とか起こし、ベッドの上で脚を伸ばした状態で座り、ボンヤリとする頭を左右に振る事で正常に戻そうとしてみる。

 そんなに意味はなかったかもしれないが、頭を振ると少しはスッキリした。


 覚醒してから十数秒程度で集めた情報はかなり少ないけれど、私が寝かされていた場所が何処なのか、ある程度予想する事ができた。


「病院、かな」


 そう、病院だ。

 それも部屋の内装などから見て、かなりランクの高い病院に違いない。

 カナメとの関わりで様々な高級品を数え切れない程見る機会があったから今まで見た事の無いような品でも大雑把な価値を推察できるようになっているのだが、その鑑定眼が病室に設置された品々が高級品であると私に知らせている。

 といっても、そんな確信が持てたのは視界の隅に映った花瓶に入れられて飾られている花が、惑星ベガルタにのみ咲く【閃晶輝華アルタイラ・ベガルタ】という、私でも知っている程希少で高額なモノだったからだ。

 確か【閃晶輝華アルタイラ・ベガルタ】は数百万本の【晶華ベガルタ】の中から一本だけ生まれる、自ら発光する結晶の花だったはずだ。その美しさは大金持ちがプロポーズする時に良く使われるとかなんとか。

 私もカナメにこんな花をプレゼントしてもらえたら、などという考えが過り。


 そこまで考えてから、私は無意識の内に<神の声>を聞く事で詳細な情報を得ようとした。

 だが、


「……ああ、そうか。スキル、無くなってるんだ」


 <神の声>が聞こえない事に、今更ながら気がついた。

 今までアチラの世界に居た頃は聞きたいと思えばいつでも語りかけてくれて、聞きたくないと思えば何も聞こえず、私に危険が迫れば事前に告げてくれていた<神の声>が、聞こえない。


 その事実は、私の心に小さな孔を穿った。

 

 私は私が怖かった。

 アチラの世界に堕とされて、考えられない程強化されてた肉体の力が怖かった。

 私の身体を一本の【剣】へと変革したユニークスキル<旗持ち先駆けるジャンヌ・救国の聖女ダルク>の能力が堪らなく恐ろしかった。

 鋼鉄の塊をゴム玉のように捻り潰せたあの力が、自分が化物になったのだと示していたから。

 しかしその恐怖はカナメと出逢い、リリー達と知り合った事で薄まっていた。

 恐怖は完全に消える事はなかったが、それでも気にはならなくなっていた。


 でも、<神の声>は、ユニークスキル<唯一なる神の声ラ・ピュセル>は最初から最後まで恐ろしいとは思っていなかった。

 むしろ、頼っていた。何よりも信頼していた。カナメと出会う前までは、<神の声>こそが私を支えていてくれたと言ってもいいだろう。

 そりゃ、嫌な事を、知りたくもないような事を知らせてくれた事はあったけれど、嘘だけは私に言わなかったから。

 だから、私は気がつかない内に<神の声>に依存していたのかもしれない。


 ああ、なんて貪欲なんだろう、と思う。


 あんなにも拒絶していたというのに、帰りたいと思っていたのに、いざ帰ってみればカナメと出会えない事が辛く、<神の声>が聞こえない事に不安を抱いているなんて。

 なんて、なんて、嫌な子なんだろうか。なんて、見っとも無いのだろうか。

 

 私の胸に渦巻く自己嫌悪の感情。


 下唇を噛み、眼を瞑り、視界を断った中で繰り返す自問自答。

 それをしばらく続けていると、慌ただしく近づいてくる複数の足音に気がついた。

 瞼を開けず、視覚を断ったままでその音に集中する。バタバタバタ、と病院なのだからもう少し静かに移動するべきではないだろうか、と思っていると一瞬足音が途絶え、静かにドアがスライドする音が聞こえた。

 次いで荒々しい呼吸音が聞こえ、何人もの人が病室に入ってくる気配を感じる。

 そこで私はようやく瞼を開けて気配がする出口の方に視線を向けると、そこに居たのは五人の男女だった。

 全て私の顔見知りであり、とても懐かしい顔ぶれだった。


「刹那ッ」


「お姉さまッ」


「心配かけやがって、このッ」


 懐かしい顔、懐かしい声、懐かしい人達が、笑みや怒りを浮かべた表情で近づいてくる。

 入ってきた五人の男女は、私の両親であり、私の兄であり、私の友人達だった。


「ああ、ああ、心配していたのよ、刹那。よかった、本当に、よかった……」


 そう言って真っ先に私に抱きついてきたのは母――桐嶺静香キリミネシズカだった。

 少々頬がやつれてしまっていたが、艶やかで綺麗な腰まで伸びる黒髪は記憶にあるままで、私とよく似た若々しい貌は変わり無い。二人で買い物に出かければ姉妹に間違われて、その度に嬉しそうにしていたな、と懐かしく思う。

 普段は優しく、気丈で、格好いいし可愛い、自慢の母だ。


「ごめん、ごめんね、母さん。心配させたよね」


 そんな母が、私に抱きついて泣いていた。

 母が泣く姿など私は今まで見た事が無くて、耳元で聞こえる泣き声が、それだけ私が母を心配させていたという事を明確に示していた。

 それに胸が締め付けれられて、キシキシと軋んだ。

 <神の声>が聞こえない事にショックを受けている場合ではないと、それはまた後で気持ちの整理をすればいいと、母の泣き声を聞きながら思い直した。


「全く、お前は、俺達がどれ程心配したか……本当に、よかったぁ。よかったよぉかあちゃぁん」


 一度手を振り上げたが、結局それを私に向けて振り下ろさず、母の後ろで立ったまま滝のような涙を流す父――桐嶺辰巳キリミネタツミの姿が、より強く私の心を絞めつけた。

 父は宇宙にその名を轟かす大企業アヴァロン社の営業部で働く営業戦士サラリーマンだ。時には倫理や常識が異なる異星人達と実際に拳を交わす交渉すら行う事があるらしい。

 契約をとるのも命懸け、と父はよく言っている。

 その為父の身体には傷痕が数え切れない程あるのだが、鍛え抜かれた筋肉の鎧を纏った大男である父は傷痕すら魅力の一つに変えている。

 とはいえ、娘の私から見ても厳つい見た目は裏の世界で生きる人間のようなので初対面の人には恐れられてしまうのだが、曲がった事が大嫌いな真っ直ぐな人なので誤解しないでもらいたい。

 私にとって、大切な父だから。


「よかったよぉぉ~」


 そんな父の無精髭などは生えていないけどゴツゴツとした厳つい顔が、怒ったり笑ったりする事は今まで何度も見てきたけれど、こんなに号泣する所なんて見た事が無かった。

 ポンポン、と泣く母の肩を小さく叩く父の姿が、今まで見た事が無い位小さく見えた。


 あの大きくて頼もしい父が、あの気丈で密かな目標としていた母が、こんなに小さく見えるなんて。

 そうさせたのが自分であるという事実に、私の心は嫌な音を発した。


「ごめんなさい、父さん。心配、したよね?」


「たり前じゃい、この愚妹がッ」


「――ッッツツウ!!」


 母を抱き締め返し、その後ろに居る父に謝罪すると、罵声と共に頭頂部に鈍痛が走った。

 拳で殴られた、と感覚で理解する。

 殴ったのは母ではないし、父でもない。

 この場面で殴れる人なんて、この場には一人しかいなかった。


「おめーが消えてたこの半年、俺達がどれだけ心配して体重減らしたと思ってんでいッ!!」


 父母とは反対側に立って怒り心頭、とった感じで私を見下ろしている桐嶺将条キリミネショウジョウ――三人いる兄の中で一番強く偉い長兄――は、右手で作った拳を震わせていた。

 私と違って父に幼少の頃から鍛えられた結果、熊のような父に勝るとも劣らない屈強な肉体の持ち主で、やっている仕事が仕事だけに兄の拳はとても痛い。

 今もジンジンと頭頂部に鈍痛が居座り、暫く消えそうになかった。

 ただこれでも手加減してもらったのは分かっている。手加減抜きで兄に殴られたりしたら、私の頭蓋骨は砕かれていたに違いない。


「残念な事に琥弓コクウ理徳リットクは仕事でここにゃこれてねぇーが、その分俺が叱ってやるから覚悟しろいッ」


「しょ、将兄、仕事の方は忙しいんじゃないの?」


「今はオフシーズンだからよ、気にすんじゃねぇ。さて、キッチリ話を聞かせて貰おうかッ」


 兄の職業は幼少の頃から鍛え抜いた身体を生かした結果、プロスポーツ格闘家となっている。

 兄が行っているスポーツは【ARB】という銀河でも屈指の人気を誇るモノで、簡単に言えば父が勤めているアヴァロン社の一部門が開発した【ARアストラルリング】と呼ばれる特殊装置を使い、様々な企業が独自の設定を組みこんだそれを使ってプレイヤーと呼ばれる格闘家達が戦う格闘技である。


 要するに、企業と企業の面子をかけた豪華な遊戯だ。


 ただ遊戯といっても、【ARB】で命を落とすプレイヤーは数多い。

 死ななくても打撲捻挫など当たり前、骨折だって日常茶飯事のスポーツで、腕の一本や二本は再生治療で治せるので時が経つにつれてルールは過激になっていったからだ。

 一応出力などが抑制されたアストラルリングを使用しているが、アストラルリングから発生するアストラルエフェクトは通常兵器を越えた威力を発揮する。

 設定によってアストラルエフェクトは無数の光弾になったり、実剣になったり、飛行装置になったりと様々で、アストラルエフェクトによって発生した盾は銃弾を容易く弾けるし、造った剣は鋼鉄を容易く切り裂き、本来飛行能力の無い生物を自在に飛翔させる事ができる。


 あり得ない光景が、あり得ない戦いが見れる事から【ARB】は開始から半世紀が経過しても人気が衰えず、とても刺激的で兄と同じくプロのトッププレイヤー達が繰り広げる一試合一試合で巨額の金が動いている、らしい。


 実際、見ているとワクワクするのは間違いない。

 空を飛び、エネルギー弾が飛び交い、優れた技の応酬は他にない派手さがある。

 危険なスポーツだが見返りは大きく、プロプレイヤーである兄の収入はかなりの金額となっている。


「今までお前はどこに……」


「邪魔ですお兄さんッ」


「どわッ!」


 説教を続けようとした兄が、その背後に居た私の親友である木暮キグレ・アスリア・夕日ユウヒによって押し退けられた。

 夕日は地球人と天雲メラクトゥ星人とのハーフで、ふわふわと波打つ銀色の髪と額にある三つ目の瞳が特徴的な外見をしている。

 普段は子犬のように活発な夕日の姿は懐かしく、苦笑を浮かべると溜まっていた涙が溢れそうになった。


「ごめん、ごめんね刹那。あの時私が一緒に居れば、こんな事にならなかったかもしれないのに、ごめんね」


 母が抱きついたままなので夕日が抱きついてくる事はなかったが、私の手を握って何度も何度も謝罪するその姿には申し訳なさが込み上げてくる。


「……心配した」


 夕日の背後に立って、淡々とした口調でそう言ったのは私のもう一人の親友であるメディリア・クドゥラァトゥスだった。

 メディリアは生粋のクゥルト星人で、皮膚は緑色でうにょうにょと動く数十本の触手でできた下半身に地球人のような上半身がくっ付いているという見た目をしている。四つある黄色い目は綺麗で、淡々とした口調はクゥルト星人の特徴でもある。


 私がアチラに堕ちたのは、夕日とメディリアと一緒に旅行へ行っていた時の事だった。

 旅行中に一緒に行っていた友達が消えてしまった、という状況を味わった彼女達にも申し訳ない事をしたと思う。

 本当に、私のせいではないとは言え、皆にココまで心配させてしまったのが申し訳なかった。


 その後やってきたドクターが私に簡単な検査を行い、問題無し、と診断してくれた。

 ただ様子見、という事でもう一泊してから退院とする事が決まった。

 病院に支払う金額――この個室はかなり高額そうだし――が非常に気になったが、父が大丈夫だからと言うので、それなら仕方ないかな、と今すぐ退院する事は諦めた。

 そして五人に何度も何度も謝罪をしつつ、私が居なくなっていた半年間の事情をどうやって説明しようかと思っている時、父の携帯端末が震動した。

 何やら慌てて通信に出た父はペコペコと相手が居ないのに何度も頭を下げながら何かを報告しだした。

 熊のような体躯をした父がするその行動には大きな違和感があったが、上司が相手ならばそれも仕方ないと思う。

 私達の生活を支える為に、父は頑張っているのだから、見っとも無い姿を見たとしても幻滅するのは理不尽だし、そんな権利は私にはない。ありがとう、と思っていると、父は通信を切った。


 その後また事情を説明できないまま皆で談笑していると、不意に出口のドアがノックされた。


 それに真っ先に反応したのは父だった。

 シュタッ、と大きさに不釣り合いなほど機敏な動きで出口に向かった父は丁寧にドアを開け、外に居るのだろう人物に何度も何度も頭を下げた。

 外の人物が誰なのかは私の角度からは見えなかったが、父の上司が態々見舞いにでもきてくれたのだろうか? と小首を傾げていると、外に居た人物が入ってきた。

 そして私は、言葉を失った。


「刹那、この方が気絶していたお前をこの病院に運んでくれた御方だ。挨拶しなさい」


「え、えと……え?」


「あはは、辰巳さん、刹那さんが困ってますから、ゆっくりと説明していきましょうか」


 入ってきたのは、一人の男性だった。

 短い黒髪で、活発そうな顔をした二十代前半くらいだろうの好青年だ。着ているのは高級そうな礼装で、身長は百八十センチほどだろうか。

 彼に私は今まで出逢った事は無いのだが、しかしよく知っている人物でもある。


「なんで、ココに?」


 もっと正確に言えば、数歳ほど成長させた、カナメだった。

 アチラの世界から移動できないはずのカナメが、今私の目の前で苦笑を浮かべていた。


「こら、刹那。そんな事を」


「いいんですよ辰巳さん。刹那さんの混乱も仕方がないですしね」


 カナメ(に酷似した人)が、笑っている。

 目の前で、もう二度と出会えないと思っていたというのに。

 なぜ? という疑問しか浮かばず、私は混乱の極みにあった。


「ま、簡単に説明しますと」


 混乱しながらカナメ(に酷似した人)が語った内容を纏めるとこうなった。


 父が働き、兄が使用しているアストラルリングを製造した銀河的大企業アヴァロン社の次期社長という肩書を持つカナメ(に酷似した人)が、先日私が行方不明になった惑星コダールにバカンスに出かけた。

 そこで気絶し倒れている私を発見。即座にこの病院に運び、この部屋を用意してくれたとの事。

 そして私がココに運ばれて三日が経過していた。三日間私はずっと眠りっぱなしだったらしい。

 病院のお金は全てカナメ(に酷似した人)持ちらしく、それを気にする必要は無いそうだ。


 なんだろう、この状況は。

 訳も分からず、疑問符ばかり浮かべていると、カナメ(に酷似した人)が私と二人きりになりたいと言った。

 それに反論したのは兄だった。父は会社の上司の上司のそのまた上司と続く位の上の地位に居る相手なのだから反論できるはずはない。


 カナメ(に酷似した人)が言った。


「すぐに終わるからちょっと席を外してくれませんか?」


 兄が言った。


「俺に命令できるのは俺より強い奴だけだ」


 短気な兄は既に臨戦態勢で、このままでは病室で血が流れる、とピリピリとした空気が漂いだした瞬間、既に決着はついていた。

 肩を竦めるカナメ(に酷似した人)、膝から崩れ落ちる兄。

 何が起きたのか分からなかったが、どうやらカナメ(に酷似した人)が何かをしたらしい。

 【ARB】のトッププレイヤーの一人である兄が、こんなに呆気なく無力化されたのなど初めて見た。カナメ(に酷似した人)は一体兄に何をしたのだろうか。

 それは分からないが、兄に何もさせずに一方的な勝利を収めたカナメ(に酷似した人)の勝利は明白で、父が気絶した兄を抱え、他の皆も一緒に出て行ってしまった。

 残ったのは、私とカナメ(に酷似した人)の二人だけである。


「久しぶり、セツナ」


「やっぱり、カナメ……なのか?」


 二人になったからこそ聞ける問いだった。

 セツナ、と呼んでくれた事で半ば確信が持てたが、まだ不安はあった。

 なぜ、カナメがこの世界に戻ってきているのか。


「正確に言えば、俺は“カナメ”じゃない。俺の正式名は“アイアンオーダー”、機玩具人形二十番目の存在にして、造物主模倣型として造られた存在だ」


 カナメであって、カナメじゃない?

 ええと、つまり。どういう事?


 冷静になればすぐに理解できる事なんだろうけれど、混乱している私には上手く情報を整頓できていなかった。


「はい、まずは深呼吸して落ちつこうか」


 それを見て、カナメ(に酷似した人)は私に深呼吸をして冷静さを取り戻す事を促した。

 言われた通りに深呼吸を数度繰り返すと、多少は冷静さを取り戻す事ができ、先ほど教えられた情報を整頓していく。

 その結果、答えが出た。


「お前は、カナメではないんだな?」


「半分正解で、半分外れ。俺は“カナメ”であり、“カナメ”ではない存在だ。そうだな、俺は“カナメ(本体)”が悪ふざけで製造した“肉弾戦もできちゃう理想的な自分カナメ”、と考えればいい。

 完成してから、やっぱりこれはないな、って事でかなり前に封印されてたんだけどさ」


 あはははは、と笑うその姿は思い出の中のカナメと重なり、胸が不可思議な熱を発した。


「そうか……いやまて、それならばなぜ、お前はコチラの世界に戻ってこれている?」


「繰り返すけど、俺は“カナメ”であって“カナメ”じゃない。一応素材に【魂】の一部を使ってるから本体との繋がりはあるけど、この肉体は生体金属製だ。

 だから“カナメ”と同じく両掌の口や無数のスキルは今も機能の一つとして持っているし、不得手だった接近戦もさっきみたいにこなせるし、体内に【堕天の楔】は最初から存在していない。

 つまり自分であって自分とちょっと異なる存在を造り、世界移動を可能とした存在――それが俺だ」


 掌の口を私に見せつける様に突き出したカナメ(分体)は、何度も見た合掌の動作を行う。

 合わさった掌、その隙間から洩れる光。再び離れた掌の間には、【閃晶輝華アルタイラ・ベガルタ】の花束があった。

 どうやら飾られている【閃晶輝華アルタイラ・ベガルタ】はカナメ(分体)が造ったモノらしい。


「分体を造って元の世界に帰還する、って考えは、大昔からあったんだ。でも俺は、“カナメ(本体)”は、分身が帰る事をよしとしなかった。自分自身が帰る事に拘った、両親から貰った肉の身体で、【魂】の一部だけが帰還するのを良しとしなかった。

 そして結局帰れないまま、アチラで五百年以上の年月を経験した。今もアッチで生きている。今頃は異世界関係に取り組んで、暇つぶししてる可能性が高いだろうな。

 で、結局使わないだろうと思っていた分体を帰還させるって案を採用したのは、セツナが居るからだ。セツナが居るから、本体であるカナメは【魂】を分けた分体であるアイアンオーダーをこの世界に送る事に決めた、って事だ。

 ま、そこら辺の詳しい事情は全部手紙に書いてたんだけどな」

 

「……え?」


「読む前にネタばらししちまったけど、リリーに帰還直前に手紙貰ったろ? アレに書いてんだよね。それと、本題はコレ」


「……いや、え?」


 差し出された【閃晶輝華アルタイラ・ベガルタ】の花束。その中に、小さな箱が入っていた。


「アッチじゃしてなかったからな、プロポーズ。愛してます、セツナ。俺と結婚してくれませんか?」


「……ええ!? こ、これって、まさか……」


 恐る恐る差し出された花束の中にあった小さな箱を手に取り、蓋を開ける。

 小箱の中に入っていたのは、銀色に輝く指輪だった。

 まるでアチラの世界の月光の光りを凝縮したような美しい指輪で、【閃晶輝華アルタイラ・ベガルタ】が仄かに発する光に照らされたそれは幻想的な輝きを発していた。


「えと、あの、カナ、メ。その、さ……ありがとう」


 胸から思いが溢れ出るようだった。

 一度流した涙が再び溢れ出て、頬を伝って流れた涙が雫となって流れ落ちて行く。


「嬉しい、です」


「それから?」


「指輪、大切にします」


「それだけ?」


「……これからも、よろしくお願いします」


「コチラこそ。これからも一緒にいよう、セツナ」


 カナメはそう言って、私を抱きしめてきた。私も力を込めて、カナメを抱きしめる。

 もう二度と放さない様に。

 それにドクンドクンと聞こえる鼓動が、コレが現実なんだと私に教えてくれている。それが何とも言えない安心感を抱かせた。


「と言っても、結婚するのはセツナが卒業してからだけどな。それまでは、俺の彼女って事で、どうぞよろしく」


「……それはもっと後で言ってくれた方がよかったぞ、雰囲気的に」


「あ、やっぱり?」


 ぶすっとした表情でカナメの顔を見上げると、カナメは苦笑を浮かべた。

 それにつられて、私も笑みを零す。


 まあ、私達はこんな感じが一番いいんだろうな、とも思う。


 しかしさてさて、アチラの事に加えて、カナメの事も説明しなければならないのか。


 どうやって説明したら納得してくれるのか、私はカナメに抱きしめられたままで考える。

 薬指に指輪を嵌めたままで、考える。カナメに向けて、私ができる最高の笑顔を見せながら。

 

 















 Re:Creator――造物主な俺と勇者な彼女――



 最終章 第五部 終わりの始まり編




     ――END――





 えー、二年と数ヶ月続いた本作、Re:Creator――造物主な俺と勇者な彼女――もコレにて完結です。最後だから、って事で二夜連続で更新してみました。

 造物主は色々と思い出のある作品で、もっともっと面白く書けたのではないか、と思う事は多々あります。最後もこんな終わりでよかったのかな、と不安ですし。

 他にも色々と書きたい事とか言い訳したい事――意図せず『続くと思った? 詐欺』のようになった事とか、異世界編うんぬん――はありますが、でも、終わりが七十七話目って、なんかいいやん? と誤魔化します。

 それとヒロイン最強? カナメの方が強いんじゃ、などについての回答ですが、カナメは最強じゃなくて無敵(勝てる敵が居ないから)です。

 そしてコレ以上ダラダラと続けるよりも簡単に言わせてもらいます。




 ココまで読んで頂いて、ありがとうございました。

 沢山の感想や評価を頂いた事がココまで書く原動力になったのは間違いありません。読んで下さった人達全てに感謝しています。


 本当に、今までありがとございました。

 では、また何処かで。




 P.S

 番外編などは気分次第で書くかもしれませんし、書かないかもしれません。

 ご了承ください。


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[良い点] 初めは、んー?あんまりかなって思ったんですけど、読み進めるうちにどんどんのめり込んで徹夜までして読み切らせていただきました。この作品に出会えてよかったと思います。ただ、わたし個人の意見とし…
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